第52話 補給線は、剣より強い
戦争は、前線で起きる。
だが――
決まるのは、後方だ。
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グレイシア軍の陣営。
「兵は足りている」
「装備も十分」
「だが――」
参謀が、地図を指す。
「補給が、重い」
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カリクスを通らない補給路は、
三日遠い。
山を越え、
河を渡り、
街を避ける。
その分、兵が減る。
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「カリクス経由なら?」
「一日短縮」
「損耗率、三割減」
数字は、冷酷だった。
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ベルグラント側も同じだ。
「封鎖を続ければ」
「自国商人が先に干上がる」
「解除すれば」
「体面が崩れる」
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将軍は、机を叩いた。
「……戦争をしているのに」
「なぜ、計算ばかり増える」
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一方。
ハブリス。
倉庫は、忙しい。
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「遠回り便、到着!」
「医療物資、優先で回せ!」
「食料は北回り!」
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兵器は、ない。
だが、食料と薬はある。
それが――
戦場を長引かせも、終わらせもする。
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リリアが、報告を読む。
「各国とも」
「カリクス経由の物資は」
「止めていません」
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「武器は?」
「扱っていません」
「いつも通りです」
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ノアは、頷いた。
「なら」
「普通ですね」
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「普通、ですか?」
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「はい」
「戦争中でも」
「腹は減ります」
「怪我は治さないと」
「困ります」
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その“普通”が、
戦争の温度を下げていた。
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前線。
兵士たちが、噂する。
「補給が安定してるらしい」
「どこから?」
「……カリクス経由だ」
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「敵も同じらしいぞ」
「……は?」
笑いが漏れる。
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「じゃあ、何のために戦ってるんだ」
その言葉は、
冗談のようで、
本音だった。
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世界会議の控室。
「補給が安定しすぎている」
「兵の士気が上がらない」
「決定打が出ない」
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「……戦争が」
「長引く前に」
「意味を失い始めている」
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夜。
ハブリス。
ノアは、宿の机に地図を広げる。
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「……線が」
戦線が伸びる。
だが、補給線は、
カリクスを中心に交差している。
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「剣より」
「線の方が、強いですね」
誰に言うでもなく。
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この日。
世界は、気づき始めた。
勝敗を決めるのは、
兵の数ではない。
怒りの大きさでもない。
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**止まらない補給線だった。**
そしてその中心に、
空席の国があった。
(つづく)
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