第51話 戦争は、広がると重くなる
戦争は、広がるのが早い。
始まるときは、静かだったのに。
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ベルグラントの国境侵攻から、二週間。
最初は局地的だった。
関所。
街道。
補給路。
だが――
別の国が動いた。
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「ベルグラントが動くなら」
「こちらも軍を配置する」
大国グレイシアが、
国境に兵を集める。
名目は、防衛。
だが、実質は牽制。
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さらにもう一国。
「今のうちに影響圏を広げる」
別の方面で、小競り合い。
火種は、飛ぶ。
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戦争は、
一箇所で燃えるより、
**複数で燻る方が危険**だ。
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ハブリス。
市場は、いつも通りだった。
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「最近、兵士さん多いですね」
「遠回りしてるらしい」
「でも荷は届いてる」
会話は、軽い。
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リリアが、報告を持ってくる。
「グレイシアが軍を動かしました」
「他国も」
「……広がってます」
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ノアは、地図を見る。
線が増えている。
国境線の上に、
軍の動きが重なる。
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「……重いですね」
怒りではない。
ただの、感想。
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「どうしますか?」
リリアが聞く。
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「何もしません」
即答だった。
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「……世界規模になりますよ?」
「はい」
「それでも?」
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「広がると」
ノアは、ゆっくり言う。
「**動きづらくなります**」
リリアは、一瞬理解できなかった。
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「小さい戦争は」
「勢いがあります」
「大きい戦争は」
「計算が必要です」
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「計算が増えると」
「……面倒が増えます」
それが、結論だった。
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一方。
ベルグラント本営。
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「グレイシアが動いた?」
「はい」
「こちらの侵攻を口実に」
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将軍は、歯噛みする。
「……想定外だ」
最初は、カリクスへの圧力だった。
だが今は、
**大国同士の均衡**が絡み始めている。
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「戦線を広げるか?」
「維持するか?」
「引くか?」
選択肢は増える。
だが――
決断は重くなる。
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同じ頃。
世界会議の準備が、急がれていた。
議題は一つ。
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**「戦争の拡大をどう扱うか」**
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席は、並ぶ。
国名の札が置かれる。
そして――
一つだけ、
何も書かれていない札。
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空席。
だが誰も、
そこを無視できない。
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夜。
ハブリス。
ノアは、城壁の上に立っていた。
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「……広がりましたね」
遠くで、灯が増えている。
軍の野営だ。
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「怖く、ありませんか?」
リリアが聞く。
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ノアは、少し考える。
本当に、少しだけ。
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「怖いより」
「……遠回りが増えそうで、嫌ですね」
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この日。
戦争は、広がった。
だが――
勢いは、失われ始めていた。
広がるほど、
重くなる。
重くなるほど、
止まりやすくなる。
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カリクスは、動かない。
動かないからこそ、
世界は、重さを自分で引き受け始める。
(つづく)
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