第50話 国として扱わないと、話が進まない
会議は、最初からおかしかった。
議題は戦争。
だが――
主語が、決まらない。
---
「ベルグラントの動きについて」
「それに対する対応を――」
発言は、途中で止まる。
「……対応を、誰が?」
沈黙が落ちた。
---
円卓には、国名が並んでいる。
王国。
公国。
連合都市。
だが、一つだけ――
**空席**があった。
---
「……カリクスは?」
誰かが、ようやく口にした。
---
「正式な代表が、いない」
「国家ではない、という立場だ」
「だが――」
文官が、資料をめくる。
---
「物流の四割が、あそこを通っている」
「補給路の三割が、依存している」
「中立を保ったまま、戦況に影響を与えている」
数字は、正直だった。
---
「……つまり」
年配の外交官が、低く言う。
「**関係者だ**」
---
「だが国ではない」
「同盟もない」
「命令も、要請も、できない」
会議は、行き詰まる。
---
「……待て」
別の国の代表が、手を上げた。
「扱いを、逆にすればいい」
---
「逆?」
「こちらが」
「**国として扱う**」
ざわめきが、広がる。
---
「正式な承認は?」
「代表は?」
「条約は?」
質問が飛ぶ。
---
「不要だ」
最初に言い出した外交官は、淡々と続けた。
「我々が、そう扱うだけでいい」
「事実上、もうそうだ」
---
「……空席でも?」
「空席だからこそだ」
誰も、反論できなかった。
---
その決定は、静かだった。
宣言もない。
拍手もない。
ただ、議事録に一行、書き加えられる。
---
> 「カリクス経済圏を
> 本会議における
> 国家相当主体として扱う」
---
同じ頃。
ハブリス。
ノアは、市場で買い物をしていた。
---
「……これ、安いですね」
「遠回り増えた分、工夫してます」
「なるほど」
会話は、平和だ。
---
リリアが、急ぎ足で近づく。
「……外で」
「決まりました」
---
「何が?」
ノアは、果物を受け取りながら聞く。
---
「カリクスが」
「国として、扱われることに」
少し、間が空く。
---
「……こちらの了承は?」
「ありません」
「……ですよね」
予想通りだった。
---
「代表を」
「立てる必要は?」
リリアが、慎重に聞く。
---
ノアは、即答した。
「ありません」
---
「理由は?」
---
「立てると」
「面倒が、集中します」
それだけだ。
---
その夜。
国際会議の席。
空席は、空席のままだ。
だが――
議論は、進む。
---
「カリクスを通さない補給は?」
「非現実的だ」
「では、中立を前提に組み直す」
誰も、異を唱えない。
---
この日。
カリクスは、
宣言せず、
署名せず、
命令も出さずに――
**国になった。**
---
ノアは、そのことを、
深く考えていない。
考える必要が、
ないからだ。
---
「……扱われ方って」
宿の部屋で、独り言。
「自分で決められないと、
一番、面倒ですね」
それでも。
世界は、もう戻れなかった。
国として扱わないと、
話が進まない存在が、
そこにあったからだ。
(つづく)
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




