第17話 治安が悪くなると、楽じゃなくなる
最近、夜がうるさい。
昼の喧騒とは違う。
嫌な音だ。
怒鳴り声。
物が倒れる音。
泣き声。
(……治安、
来たな)
宿の主人が、
小声で言った。
「昨日、
喧嘩がありまして」
「……怪我人は?」
「軽いですが」
ノアは、
それを聞いてため息をついた。
(軽い、
が増え始めると
重くなる)
街の外れ。
酒場の前で、
冒険者が揉めている。
「先に飲んでたのは俺だ!」
「だから何だ!」
周囲の人間は、
止めない。
止める役が、
いないからだ。
(……面倒)
ノアは、
歩きながら考えた。
考えたくはない。
だが、
放置するともっと面倒になる。
その夜。
事件が起きた。
仮設住宅で、
窃盗。
犯人は、
逃げた。
被害者は、
泣いた。
これが、
決定打だった。
「ノアさん!」
リリアが、
明らかに焦っている。
「治安、
このままでは」
「……ですね」
否定しない。
「どうします?」
またその質問だ。
ノアは、
少しだけ考えた。
ほんの少しだ。
「……冒険者、
余ってますよね」
「え?」
「仕事がない人」
「……います」
「じゃあ」
ノアは、
淡々と言った。
「見回りさせましょう」
「治安隊?」
「そんな大層じゃなくて」
「夜に歩くだけ」
「揉めたら?」
「止める」
「止まらなかったら?」
ノアは、
肩をすくめた。
「……その時は、
俺が行きます」
リリアは、
目を丸くした。
「ノアさんが?」
「一回でいいです」
「……?」
「見せれば、
それで終わります」
翌日。
即席の張り紙が、
街中に貼られた。
【夜間見回り開始】
【冒険者協力依頼】
【報酬あり】
集まるのは、
早かった。
その夜。
見回り初日。
問題は、
案の定起きた。
酒場前。
昨日と同じ場所。
酔った冒険者が、
商人に絡んでいる。
「金持ってんだろ!」
「……やめろ」
見回りが、
止めに入る。
「やめ――」
「うるせえ!」
次の瞬間。
空気が歪んだ。
ノアは、
そこにいた。
転移。
背後。
軽く、
肩に手を置く。
「……やめてください」
鑑定。
【状態:酩酊】
【危険度:低】
ノアは、
考えなかった。
考えるのは、
面倒だ。
気絶。
男は、
その場に崩れ落ちた。
沈黙。
見回りの冒険者たちが、
固まっている。
「……これで」
ノアは言った。
「終わりです」
それだけだ。
翌朝。
噂は、
街を一周していた。
「夜に暴れると、
ノアが来る」
「一瞬で終わる」
「痛くないけど、
逆らえない」
それで、
十分だった。
数日後。
夜は、
静かになった。
完璧ではない。
だが、
殴り合いは消えた。
宿の部屋。
ノアは、
ベッドに倒れ込む。
「……一回で済んで、
良かった」
毎晩来いと言われたら、
本気で引っ越しを
考えたところだ。
この日。
ハブリスに、
最低限の治安が生まれた。
法でも、
権威でもない。
ただ――
「面倒な存在がいる」
という事実だけで。
ノアは、
それで十分だと思っていた。
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