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第十話  精霊王が直々に断絶を終わらせに来ました

――翌日


今、私の目の前にはお父様とお母さん、お兄様がいる。

そして、彼らは私の隣に座る精霊王とその妃様を見て、かなり渋い顔をしている。


「リディール……お前はどれだけ面倒事を持ち込めば気が済むのだ!!」

「まだなにも言ってないじゃないですか!それに、これに関しては面倒ごとではないじゃないですか!!」

「これに関してはー??じゃあ、三日前の騒ぎ!あれはなんだ!」


三日前?

ああ、クソカスが私を襲った件か。

あれは……。


「時効ですよね?」

「早いわ!!……まあ、他に被害がなくて本当によかったが……」

「玲奈が犠牲になったのに、これを被害とは言わないんですか!?酷いですお父様!見損ないましたよ!」

「どうしたリディール。今日なんだかテンションがおかしいぞ」


お父様が遠い目でツッコミを入れてくる。

まあ、病み上がりだしね。

多少テンションがバグることくらいあるよね。


「玲奈の怪我はリュミエールのおかげで怪我も治ったみたいだし。本当によかったわ」


お母さんが私の傍らにいる玲奈に微笑みながら言った。

お父様は「そうだな」と少し微笑んでから、私の隣にいるリュメルトとルミナス様を指差した。


「で、そこの精霊のお二方は誰だ?まさかまた精霊契約をしたんじゃないだろうな」

「やだなぁ、違いますよ」

「じゃあなんだ?」


お父様が少し呆れた顔で私に訊く。

私はまんべんの笑みを浮かべて、二人の方に片手を伸ばした。


「こちらは精霊王様とお妃様でーす♡」


部屋の時間が止まり、お父様が意識を飛ばしかけた。


「あなたー!!」

「父上ー!!」


お父様は震える手でリュメルト達を指差して、「え?」を連呼している。

その顔は真っ青だ。


「せっ、精霊……王……?」

『ああ、私は精霊王のリュメルトだ』

『精霊王の妃のルミナスです』


お父様の頬がどんどん引きつっていく。

私はれーなの隣にいるリュミエールを指差した。


「ちなみにリュミエールはリュメルトのお姉さんだよ」

「「「………………は?はぁぁああああ!?」」」


お父様たちが声を上げた。

余程驚いたようだ。

しばらくワチャワチャしてから、深呼吸をして、お父様は私を見た。


「落ち着きました?」

「少しだけどな……」

「で、精霊王様が一体なんのご用件で……?妃様が残した子の子孫だからって一族郎党皆殺しなんて言いませんよね?」


恐る恐る訊くお父様に、リュメルトは声を上げて笑った。

私ですらそんな思想なかったのに、お父様ってば大袈裟なー。


――あのクソ野郎とルミナスの血が流れてる子……。今すぐに殺してやりたい……


おっと、大袈裟ではないかもしれない。


「今回、精霊王家は貴殿の娘、リディール・セア・メッチャツオイによってこじれていた関係を修復してもらった」

「は?」


お父様、視線が痛いです。


「それにより我ら精霊は、断絶関係にあった人間界と精霊界の行き来を可能にしたいと考えている」


それを聞いて、お父様が勢いよく立ち上がる。

お母さんもお兄様も驚いたように目を見開いている。


「あの、精霊王様。それは、閉ざされていた扉を解放するということですか?」


お兄様が恐る恐る訊く。


『いや、この国の扉の封じを解放する必要はない』


え?

どっちなの?

まだこの国の王族に恨みでも……。


『貴殿の娘が封じを解いたからな』


あっ。

もしかして、巻き付いてた薔薇の話?

あれ封じだったの?

本当にこの世界は色々とザルだな。

お父様が訝しげな表情をしてリュメルトに訊いた。


「……なんでリディールが誰にも解けなかった封じを解けたんですか?」

『それに関しては魔力測定水晶を使ったほうが話が早い』


◇◆◇


しばらくして、神殿の神官さんが魔力測定水晶を持ってきた。

薄い水色の水晶だ。


「私これ使ったことないんですけど……」

「そりゃそうだ。だってそれは魔力が開花してから測定するものだし」


思わず口にしたら、お兄様が答えてくれた。

へー。

じゃあアルデーヌも、スパールも、エステリーゼも、みんなやってるんだ。


「どうやるんですか?」

「水晶に手をかざして魔力を少しずつ流していくんだよ」

「へー」


私は三脚みたいなのの上に置いてある水晶に手をかざした。

次の瞬間、水晶が「パァン!!」という音を立てて爆発した。

薄い水色の欠片が床に飛び散り、キラキラと光を反射する。

部屋にいた全員が一瞬、息を止める。


「え?壊しちゃった……?」


誰も何も答えてくれないの?

怖いんですけど。


「あ、もしかして爆発の大きさで分かるとか?」

「そんな訳あるか!!なんっだ今のは!!」

「爆発」

「分かっとるわそんなもん!」


お父様、いつもに増してツッコミのキレがすごい。

リュメルトがソファーから立ち上がって、破片を拾う。


『やっぱりこうなるのね』


ルミナス様が呆れたように言う。

それを聞いて、恐る恐るお兄様が訊く。


「あの、今のは一体……」

『精霊伝説として今でも人間界で語り継がれている精霊伝説は大まか事実だ。それは分かっているか?』

「はい」

『リディールは先祖返りを起こしている。精霊の血は濃く、簡単に薄れない。力が弱い精霊であれば人間の血によって薄められるが、ルミナスは力が他よりも強い。だから、王家の中にあるルミナスの血は薄れることなく存在し続けた』


へぇ、精霊の魔力にも個体差みたいなのがあるんだ。

意外ー。


『薄れることはないが、やはり人間の個体には人間の魔力のほうが適している。だから、人間には精霊の魔力を使うことはできない』

『でも、私が見てきた中で何人かが精霊の魔力に適した体ではあったけど、リディールは特に特別。リディールの体は精霊の体に近いの』


初耳ー。


「それは知っていた」


初耳ー。

ってえぇ!?

知ってたの!?

お母さんも目を見開いている。

じゃあ、お父様しか知らなかったのか。


「なるほど。リディールが意図的に水晶を爆破したのかと思ったが、魔力の違いが大きかったのか」

「私のイメージ酷すぎません?」


お父様ひどーい。

さいてー。


『人間の魔力測定水晶で、リディールの魔力を図るのは不可能だ。かと言って、精霊の魔力測定水晶を使っても測れないだろう。リディールは特別すぎて、世界の法則が通用しない』


思ったより自分がスパダリ過ぎて笑える。

ていうか、私はなにで魔力測定をすればいいんだろう。


『リディール、これから大変なこともあるだろうけど、あなたならきっとなんとかできる。あなたにはその力がある』


ルミナス様が私の方を見て、真剣な顔で言った。

大変なこと……?


『話はそれだけだ。では、我々は精霊界に戻るとしよう』


リュメルトがそう言って立ち上がった。

そして、部屋から出ていった。

お見送りくらいはしたほうがいいよね。

私は立ち上がった。


――精霊や竜は魂を見ることができる


なぜか今、精霊界に行く途中でクソカスが言っていた言葉を思い出した。

リュミエールやクソカスには私がリディールじゃないことがバレてた。

なら、リュメルトとルミナス様は……?

ルミナスのあの言葉、もしリディールの話をしているなら……。

私は勢いよく扉を開けた。


「待って!リディールは……リディールはいるんですか!?」


私が叫ぶと、歩いていた二人は足を止めて振り向いた。

そして、二人は同時に私を指差して、微笑みながら同時に言った。


『『あなたの中に』』


その言葉に心の底から安心した。

やっぱり、リディールはいたんだ。

死んでなかったんだ。

よかった……。

本当によかった。

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