第七話 精霊王と姉の仲直りを見届けました
「い゙や゙ぁ゙、仲直り゙でぎだみ゙だい゙でよ゙がっ゙だよ゙ぉ゙!!」
「わ゙がり゙ま゙ずぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙!!」
「……泣き過ぎじゃない?」
私は大号泣する玲奈とアルデーヌを冷めた目で見ていた。
目の前には、仲直りを果たした姉弟の姿がある。
本当に仲直りできてよかった。
「リュメルト」
私はリュメルトに声をかけた。
リュメルトの目は潤んでいて、先程よりも生き生きしている。
私はリュメルトに優しく微笑んだ。
「訊くんでしょ?リュミエールに」
『……どうして、あの日……俺が花冠を作った日から避けたの?』
『……あの王配はかなり性格が捻くれていたのを、あなたも知っているでしょう?』
リュメルトは苦い顔をしてうなずいた。
あ、認めるんだ。
ていうか、そんな人が王配でいいの?
『彼があなたの作った花冠を叩き落とした時、すごく腹が立ったの。でも、精霊が喧嘩するなんてご法度。でも、あのままあそこにあなたを留めていれば、あなたはもっと傷ついた。だから、私はあなたを突き放したの』
リュミエールの言葉が花畑の風に優しく溶けていく。
姉である彼女の瞳は、過去の痛みを映しながらも、今は穏やかな光を宿している。
リュメルトの肩がわずかに震える。
『私が王位継承のタイミングで消えたのにも理由があるの。聞いてくれる?』
リュメルトは少し考えてからうなずいた。
リュミエールはそれを見て、安心したような顔をした。
『王位継承の日はあなたの誕生日だったでしょう?だから、誕生日プレゼントを買おうと人間界に行ったの。そこで精霊を捕らえて、奴隷にする商人達に捕まった』
『奴隷……』
あ、その集団知ってる。
確か、精霊伝説で妃様が襲われたのは魔物だけじゃなく、精霊奴隷商人もいた気がする。
微精霊は当然見えないし、下位精霊は力が弱くて売れない。
しかし、上位精霊は力が強く姿も自由自在だから価値があった。
『無事なんですよね……?』
『もちろんよ』
リュミエールはリュメルトを安心させるように言った。
『すぐに精霊界に戻りたかったのだけど、あなたが王位を継ぐことになったと聞かされて、私は人間界にしばらくいることにしたの。邪魔になってはいけないと思ったから』
『……』
『でも、やっぱり帰ってくるべきだったわね。あなたがこんなに苦しい思いをしていたのなら、もっと早く帰ってこればよかった。ごめんなさい』
リュミエールは悲しそうな顔をして、リュメルトに頭を下げた。
リュメルトはリュミエールの肩に手を置いて、リュミエールの顔を覗き込んだ。
『姉さん、俺はごめんねよりも、ただいまが聞きたいよ』
『…………っ!ただいま、リュメルト!』
涙を浮かべて微笑み合う二人を、私達は邪魔をしないようにそっと見守っていた。
◇◆◇
私達はあの後、リュメルトとリュミエールに見送られて人間界に戻った。
妃様の件に私達が介入するのは筋違いだし、リュミエールとリュメルトの再会に首を突っ込みたくなかったからね。
一応、命の宿木の葉はもらえたから、呪いは解けるらしい。
本当に人生って何が起こるか分からないいよね。
「…………」
本当にね。
私の目の前で精霊王が土下座するとか誰も予想してなかったよね。
『この度は多大なご迷惑をかけた!』
「謝るのはいいけど、普通に謝ってくれないかな」
『いや、90度で謝罪をしても誠意は伝わらないと思ってな』
「だからと言って床に頭擦り付けて謝罪されても……」
リュメルトの傍らには、リュミエールと妃様らしき人がいる。
仲直りできたのかな。
「要件は謝罪だけ?」
『いや、人間界との断絶をなくそうと思って』
「つまり、また行き来が可能になるってこと?」
『ああ』
なんてこった。
私スパダリすぎない?
精霊界との断絶解消までやっちゃったよ。
いやぁ、できる女は違いますなぁ。
そんなこと考えてる場合じゃないな。
「あの、妃様とは仲直りされたのですか?」
『もちろんだ。リディールの言う通りに話し合ったら、確かに誤解があった』
「誤解?」
『ルミナスは人間界に降り立って、この国の王太子に助けられた。ここまでは伝説通りだ。しかし、王太子はルミナスに一目惚れして、自分から離れていかないように、禁呪である魅了魔法と服従魔法を使った。だから、ルミナスは王太子を愛しているように振る舞っていたんだ』
おっっっっも!
なに?
この世界の人は全員愛が重いの?
「ところでリュメルト、その話を聞いて、さらに人間が憎くなったりしなかったの?」
『ならなかった。確かに人間は醜くて、卑しい。しかし、お前のように心が綺麗な人間がいると知ったからには、そいつらを見離したくないと思ったんだ』
照れること言うなよ。
照れるだろ。
でも、人間不信を克服したんだね。
よかったよかった。
『ルミナスもお前に感謝したいと言っていた。ほら、ルミナス』
妃様がリュメルトに言われるがまま、私の前に来た。
うわぁ、さすが精霊王の妃。
美形やわぁ。
下手したらリュミエールよりも美人かも。
『リディール、ありがとう。私と旦那様に話し合いの機会をくれて』
「い、いえ。話そうと決心してくれたのはリュメルトですから」
妃様は私を見て、優しく笑った。
『よかった。私の残した子の子孫がまだ生きていて』
声可愛っ!
いや、そんなことはどうでもいいか。
鎮まれ、オタクの心。
心なしか天井付近から玲奈が過呼吸になっている音が聞こえるけど無視しよう。
『……先祖返りをしているね』
「先祖返り?」
『精霊の魔力が人間の魔力を上回ってる』
「危ないですか?」
『危なくはない。ただ、人間の魔力測定水晶を使うと困ったことになるかも』
え?
爆発するとか?
『無駄口を叩いていていいのか?とっとと呪いを解きたいんだろ?』
あ、そうだった。
もらって帰ってきたはいいけど、どうやったら呪いが解けるのか分からない命の宿木の葉の使い方をリュミエールに訊こうと思ってたんだ。
「リュミエール、命の宿木の葉ってどうやって使ったら呪いが解けるの?」
『そのまま食べる』
「あー、そのまま……えっ?」




