第一話 最高指導者会議①
フォーカスは私の部屋で、偉そうに腕を組んで私を見ている。
よし、言うぞー。
言うぞー。
「あ、あのね!今日ある最高――」
「最高指導者会議で平民差別をなくしたいから力を貸してくれ」
「おぉうっふ」
え?
なんで分かってんの?
怖っ。
え?
怖っ。
フォーカスは笑顔で私を見た。
よかった、怒ってない。
「お前バカなの?」
嘘だった。
怒ってた。
「異端児差別の次は平民差別か?」
「ほんっとうに申し訳ないとは思ってるよ。とりあえず会議出ろやボケ」
「申し訳ないと思ってる態度じゃない」
フォーカスは腕を組んだまま、ため息をつく。
「本当に申し訳ないよ。でも、フォーカスならわかってくれると思ったの。君、今は平民寄りの考え持ってるでしょ?」
「そりゃあ、勘当されて平民になってるからな」
私は机の書類を畳み、フォーカスに近づく。
友達として、対等に。
敬語なしで、手を差し伸べる。
フォーカスは一瞬目を逸らし、クシャクシャの髪を直す。
「わかってるよ、リディール。君がこの国を変えたいのは、建国祭の演説で痛いほどわかってる。僕の父みたいに、名誉と地位しか考えない貴族をぶっ飛ばすような行動だ」
「そうだね」
「分かってる?王族はともかく、上位貴族の考えは硬い。王女の君が平民の肩を持つのをよく思わない奴もいると思う。そんな奴らを敵に回す覚悟はあるのか?」
「もちろんだよ。私は決めたの。この世界の、この国の人を笑顔にするって」
フォーカスは私の手をとって、不敵に笑った。
「……君、ほんとに変わったね。昔の僕なら、そんな覚悟の言葉、ただの理想論だろって鼻で笑ってたよ。婚約破棄されて、父上にボコられて、ようやくわかった。名誉や地位なんて、ただのゴミだ。本当に大切なのは人を想う気持ちなんだって。この話、乗った」
フォーカスの握り返す手が温かい。
フォーカスの言葉が胸に響く。
偽物の愛じゃなく、本物を求める気持ち……。
私と同じだ。
◇◆◇
「――以上が我が領地の状況です」
「結構だ。下がれ」
最後の状況報告をした人が座った。
この会議には上位貴族の当主と、その家の第一子の参加が絶対だ。
第一子がいない場合は、当主だけの参加になる。
普通ならば、最高指導者会議はこれで終わりだ。
しかし、今日は違う。
「今日は領地の現状報告以外にも議題がある。リディール」
お父様の声が会議室に響く。
全員の視線が、私に集中する。
空気がピリピリしてる。
私は立ち上がり、書類を広げる。
「まず、異端児差別の現状報告をいたします。異端児保護法の成果はご存じの通りです。魔力制御の寮で、子供達の笑顔が増えました。しかし、魔力の大量放出による魔法師団の塔爆破事件が発生しています。防止のために、意見をいただきたく存じます」
私の言葉に、会議室がざわつく。
円卓の周りで上位貴族たちが書類をめくり、顔を見合わせる。
オレサイキョー公爵は眉をひそめた。
一部の貴族は私を鋭い目つきで睨んでいる。
異端児保護法の成功で、私の権力が本物だって認めたくない連中もいるからな。
「リディールの報告通りだ。異端児の魔力暴走で、塔の部屋が破壊された事件が二件。寮の結界強化は進んでいるが、放出の制御が不十分だ。皆の意見を聞こう」
サカムケキニナル侯爵が、まず口を開く。
「王女殿下の保護法は、確かに成果を出しているが、魔力の暴走は異端児の性質です。塔の破壊など想定内でしょう?結界を強化する金は、我が領地から出しません」
こいつ、もしかしなくてもアズルクの父親なんじゃ……。
だとしたら、結構厄介だよ。
シリルさんを殺したのもこの人だったはずだし。
「サカムケキニナル侯爵、私は集金しようとしているのでないのです。意見を出せと言っているのです」
サカムケキニナル侯爵はリディールの記憶にはいないけど、アズルクの過去話から、侯爵の冷徹さが想像できる。
名誉と血統に執着し、平民を虫けら扱いする典型。
「暴走防止なら、異端児を隔離した方が手っ取り早いでしょう。寮で甘やかすから、そういう事件が増えるのでは?結界強化など、金がかかるだけ」
私は冷静に言うサカムケキニナル侯爵を嘲笑った。
「何がおかしい?」
「異端児に関するデータを一切確認していないようで。隔離は還って異端児を刺激し、魔力量によっては一国が吹き飛んだ例があるらしいですよ?」
「…………」
「それすら調べていないようならば、口出しは遠慮して下さい」
サカムケキニナル侯爵の顔がみるみる赤くなる。
すごい形相で私を睨むけど、データは嘘をつかない。
過去の隔離事故の記録は、王宮の図書館に山ほどある。
魔力量の多い異端児が、刺激されて暴走したら、一国どころか大陸が吹き飛ぶ可能性すらあるんだよ。
侯爵の冷徹な目が、初めて動揺を浮かべる。
「侯爵家として、そんな下賎な記録など知らん!異端児は危険だ。隔離が正義だ!」
侯爵の声が、会議室に響く。
コロスーゾ侯爵がはじめて口を開いた
「サカムケキニナル侯爵、落ち着け。王女殿下のデータは正しい。リディール様、腕のいい魔術師を紹介いたします」
コロスーゾ公爵の声が、会議室に穏やかに響く。
アルデーヌが隣で小さく頷き、公爵の目には過去の幽閉の悔恨がちらりと浮かぶ。
「コロスーゾ公爵……あなたまでか!!異端児の親だからと甘いことを言うな!」
公爵は静かに首を振る。
アルデーヌの肩に手を置き、淡々と続ける。
「甘い?俺は過去の過ちを悔いて、俺達親子を救ってくださったリディール様に恩返しをしているだけだ。王女殿下の提案に賛同し、コロスーゾ家の敏腕魔術師を10名を派遣しよう。結界の強化に、役立ててくれ」
アルデーヌが、私に視線を送る。
力強く頷く彼は、もうただの異端児ではない。
「コロスーゾ公爵の言う通りだ。カエルコワイ家も、資金を援助しよう。異端児の未来が、王国の未来だ。王女殿下の情熱に応えねば」
「ならば、オレサイキョー公爵も協力しよう。工学師を、結界の設計に貸す」
「では我家も……」
「私も支援いたします」
今まで会った人達が手を貸してくれたお陰で、沢山の人達が支援してくれることとなった。
ありがたいなぁ。
「皆の協力に感謝しよう」
お父様と一緒に私も頭を下げた。
私は異端児差別の資料をまとめた。
「それでは、本題に入りたいと思います」
さぁ、始めよう。
本気の会議を。




