第三話 過去と向き合った私は今と向き合います
「まさか、私のストーk――」
「ぶっ飛ばすぞ。俺にロリコン趣味はない」
え?
そうだったんだ。
幼女誘拐事件の話とかもアズルクたちの仕業だと思ってたけど、違うのかな?
「知らないのか?王宮の廊下は音が響くんだよ。王妃の部屋の外でお前がでてくるの待ってたら聞こえた」
「逆に訊くけど、そんな嘘が私に通じると思ったの?王宮は防音性が高いんだよ?扉にへばりついてなければ聞こえないはずだよ?」
私は書類から目を逸らし、アズルクを睨む。
顔が少し引きつってる。
やっぱり盗み聞きか。
気配消して忍び寄るのは得意でも、王宮の構造までは知らないんだろうな。
「ちっ、バレたか……。でも、お前のトラウマ解消は俺も嬉しいんだよ」
「そうなの?」
私が訊くと、アズルクはニカッと笑った。
「りりあ、いい名前じゃねえか。シリルみたいに優しい響きだ」
「あ、ありがとう。でも、盗み聞きは良くないね。罰として、今日の夕飯はデザート抜き!」
「そんなぁぁあああ!!」
アズルクの叫びが部屋に響く。
いつもの荒っぽい声が子供みたいに拗ねてて、思わず笑いが込み上げる。
革命派の元リーダーだった男が、王女から下されたしょぼい罰でこんな顔するなんて……。
この世界も随分変わったなぁ。
私は窓の外を眺めて、少し微笑んだ。
◇◆◇
私はお父様の執務室に来ていた。
訊きたいことがあったのだ。
「お父様、質問があります」
「何だ?リディール」
私は横に立っているアズルクを指さした。
お父様は私が言いたいことがわからないと言う顔をしている。
「なんでアズルクやその他の革命派の人達が王宮勤めになってるんですか!!」
「え?尋問が済んだから」
「だからってなぜ……」
「彼らは訊けば人を殺した悪徳貴族の名前を口に出してくれてね。手荒なことをせずに済んだんだよ」
「穏便に済ませてくれたから刑を軽くしたのですか?」
「いや?彼らが革命派に入ったのは、私達王族の監督不行届が原因だ。しかし、王女を誘拐した罪は重い。だから刑を与えないことなんてできない」
おっけー、分かった。
要は自分達のせいでもあるから、刑を与えない。
でも、刑を与えないと示しがつかないから王宮で衣食住を保証して給金なしで働かせると。
これならまだ革命を起こそうと考えたらすぐに分かる。
監視もしやすいし、革命派の不満を吸い上げて是正に活かせる。
お父様の政治的手腕、侮れないな。
お父様は机の書類をめくりながら、穏やかに続ける。
「リディール。お前がアズルク達を説得したおかげで、無血で済んだ。彼らは、貴族の腐敗に傷ついた被害者だ。私達の失態を償う機会を与えただけさ。お前も、王女として国を変えたいんだろ?彼らを味方に引き入れるのは、悪くない選択だ」
アズルクは私の横で、腕を組んで頷く。
「王様の言う通りだぜ、王女様。俺達革命派は、貴族のクズどもをぶっ潰したくて燃えてたけど、お前の言葉でそんな気はなくなった。シリルの仇は取れねえけど、この王宮で働いて、平民の声を届けられるなら悪くねぇよ」
私の努力が報われていくような気がした。
私が未完成なまま小説を終わらせたせいで、欠陥を埋めるために働いた修正力。
これと向き合わなければ、不幸な人がいない世界なんて作れない。
よし、頑張るぞ。
「平民差別は異端児差別よりも厄介だ。貴族は平民なんて虫けらとしか思っていない。上位貴族ですらその価値観を持っている。つまりは……」
「異端児差別ほど甘くない。ということですね?」
「ああ。この国は上位貴族が政治などのお手本として動いている。だから、まずは上位貴族の考え方を変えるところから始めなければならない」
上位貴族か……。
まず、コロスーゾ公爵は懐柔済みだからいいかな。
それに、オレサイキョー公爵家もフォーカスの件で王家に忠誠を誓ってるけど、平民差別はしているだろう。
――父は公爵の立場や名誉のことしか考えていません。魅了にかかっていたとバレても勘当されていたでしょう
フォーカスの話からして、説得は大変だろう。
カエルコワイ侯爵はお父様への忠誠心が半端ないから多分大丈夫。
「上位貴族の価値観を変えるのは、異端児の時より骨が折れる。異端児は『恐れ』から差別が生まれたが、平民差別は『優位性』の幻想だ。貴族の血統が優れてると思い込む連中を、論破するだけじゃ変わらん。実感させる必要がある」
「つまり、貴族よりも優れた能力を持つ平民を見つけないといけないんですね?」
そんな有能で貴族を黙らせられるような平民いるのかな?
「鋭いな。確かにそうだ。論破だけじゃ、貴族の『血統優位』の幻想は崩れん。実例が必要だ」
「ですが、平民はしっかりとした教育はされていません。かろうじて読み書きはできますが、魔力があっても実用はできません。そんな優秀な人材がいるのでしょうか?」
お父様は机の書類を机に置き、椅子に深くもたれかかる。
夕陽が執務室の窓から差し込む。
「それを探すのが、お前がやるべきことだろう?最悪平民じゃなくても、お前なら考え方を変えることができるはずだ」
「そんな無茶な……」
「無茶だと思うか?」
お父様が不敵な笑みを浮かべた。
考えがあるのか?
……もしかして、今の会話の中に重要なヒントが隠されているのか?
――最悪平民じゃなくても、お前なら考え方を変えることができるはずだ
あ、そういうことか。
◇◆◇
今日、国の最高指導者達、つまり上位貴族や王族が国について話し合う場が設けられる。
これは二ヶ月に一度行われるもので、よほどのことがない限り欠席できない。
今回の会議には私も参加することを許可された。
「で、なんで僕はここに呼ばれたのかな?友人殿?」




