第一話 国を変えたい私ですが問題が多いです
私は王宮魔術師団の塔に入った。
すると、小さな子供が私に抱きついてきた。
「リディール様!!」
「かっ!」
可愛いっ!!
昔から子供には弱いんだよなぁ……。
「こんにちは、魔力制御は学べていますか?」
「はい!」
「あ、リディール様だ!」
「こんにちはー!」
私に気づいた魔法制御を覚えている子供達が私に笑顔で挨拶してきた。
魔法師団長が私の所まで来て、お辞儀をした。
「ご機嫌よう、リディール王女殿下」
「ご機嫌よう。お勤めご苦労さまです」
「とんでもない。リディール王女殿下のおかげで、優秀な人材を育てられるようになったのですから」
「そう言っていただけて嬉しいです。……正直、異端児保護のお願いは反対されると思っていたので、引き受けていただけて嬉しかったです」
魔法師団長は照れたように微笑んだ。
女の子が走って近づいてきた。
「リディール様!見てみて!魔力制御だいぶ上手になったよ!」
キラキラした目で光の玉を浮かべて見せてくれる。
私は女の子の頭を撫でた。
「鍛錬の成果が出ていますね」
周りの子供たちも「リディール様!見て見て!」「私もできた!」と次々に集まってきて、塔の中が一気に賑やかになる。
めっちゃ癒される。
異端児保護の政策がこんな風に子供達の笑顔に繋がってるのはすごく嬉しい。
魔術師団長が穏やかな笑顔で近づいてきた。
「子供達にこれほど慕われるとは。異端児保護の政策をご提案いただいたおかげで、彼らの未来が開けたのです。本当に感謝しております」
「それにしても、師団長も異端児差別を疎ましく思っているとは思っていませんでした」
「風習は消えないと思っていたので、諦めていただけですよ」
団長の「風習は消えないと諦めていた」という言葉が、頭に残る。
異端児差別を疎ましく思ってたなんて意外だった。
魔術師団長はめっちゃ厳格で伝統を重んじるタイプだと思ってたけど、実は心の奥で変化を望んでたんだ。
「ところで、アルデーヌ様はいますか?」
「アルデーヌですか?彼なら今頃、王宮魔法師団入団試験を受けているはずですよ。そのうち帰ってくるかと」
ああ、魔法師団には魔力がたくさんあれば入れるから、アルデーヌも対象だったな。
そんな事を考えていると、塔の扉が乱暴に開かれた。
入ってきたのはアルデーヌだった。
「ただいま戻りました!!入団試験!合格です!!」
アルデーヌはドヤ顔だ。
めっちゃテンション高いな。
でも、私の姿を見るなり、アルデーヌの顔が一瞬で固まる。
次の瞬間、ものすごい勢いで後ずさった。
「リっ、リリリリリっ!リディール王女殿下!!」
「お久しぶりです」
「リ、リディール王女殿下……どうしてここに……?」
アルデーヌは後ずさりながら、必死に言葉を絞り出す。
塔の扉に背中をぶつけて、ビクッと肩を震わせる姿が、なんだか子犬みたいで可愛い。
父親に突き放された過去を背負ってる彼が、こんなに無防備な表情を見せるなんて、最近の成長の証拠だね。
「どうしてって、みんなの様子を見に来ただけですよ。それより、入団試験合格おめでとうございます、アルデーヌ様」
私はにっこり笑って手を差し出す。
アルデーヌはゆっくりと私の手を取って、軽く握り返す。
「あ、ありがとうございます。あの演説がなければ、僕みたいな異端児が魔法師団に入れるなんて、夢のまた夢でした。全部全部殿下のおかげです」
彼の声は少し震えてるけど、目はキラキラしてる。
合格の興奮と、私への感謝が混ざった表情が、なんだかまぶしい。
塔の中が一気に明るくなった気がする。
魔術師団長が後ろから穏やかに笑いながら、アルデーヌの肩を叩く。
「アルデーヌ、よくやったな。君の魔力制御は完璧だ。異端児だろうがなんだろうが、才能は才能だよ。これからは本格的に訓練を積んでくれ」
「はい! 団長、殿下、みんな……本当にありがとうございます!」
「あっ、そうだ。リディール殿下、婚約解消されたというのは事実ですか?」
こんなところまで噂が広がっているとは。
貴族社会は恐ろしいな。
「事実です。お父様から新しい婚約者を探すように言われていますが、どこの令息がいいのかわからなくて……」
婚約者候補の令息には何人か会ったけど、全員権力財産目当てだった。
律と同じで、誰かに愛されたい願望がある私としては、心から愛し合えそうな人と婚約したい。
魔法師団長はニヤニヤしながら私を見た。
なんだ?
「では、新しい婚約者にアルデーヌを推薦します」
「うぇえええ!?」
あの、魔法師団長の言葉聞いて、明らかにすごい声を出した人いますけど?
アルデーヌは魔法師団長を部屋のすみに強引に連れていき、何かをコソコソ話し始めた。
「団長!ちゃっかり何言っちゃってるんですか!(※小声です)
「俺は知ってるぞ。お前がリディール王女殿下を好きなことを。背中を押してやったんだ、感謝しろ」
「できるかー!!ふざけんな!!(※小声ですよ?)」
「この間黄昏ながら『俺が婚約者になれたらいいのに……』って言てたこと知ってるぞ」
「なんで知ってんだこのストーカー!!(※小声だからね?)」
「まぁ、当たって砕けろ。ヘタレでもそれくらいはしろ」
何を話しているのか一切聞こえない。
目の前でコソコソされるのってなんか微妙な気分にならない?
そんなことを考えていると、アルデーヌと魔法師団長が私の元へ戻ってきた。
「結論を言いますと、アルデーヌがピッタリかと」
「はぁ……」
「アルデーヌは今や魔法師団長候補も夢ではありませんよ?」
「へぇ……」
「どうですか!?」
いや、どうですかって言っても、最終的に決めるのはお父様だし、アルデーヌの気持ちも考えないとだろ。
なんでこんなテンション高いんだこの人。
私は小さくため息をついて言った。
「検討します」
◇◆◇
「と、言うことがありました」
私は国王の執務室で、昼のことを報告した。
国王は眉間を押さえて、なんとも言えぬ顔をしている。
コロスーゾ公爵家は有力貴族ではあるが、王家の後ろ盾としては不十分だ。
それに、この先アルカや他の兄弟達との王位継承権争いが起こる可能性がある。
アルデーヌをそれに巻き込む覚悟は私にはない。
「リディール、お前はどうしたい?」
「私……ですか?」
アルデーヌを王位継承権争いに巻き込みたくない。
だけど、権力目当てのクソ貴族との婚約は絶対に無理だ。
国のためにも、婚約する価値のある人と婚約をしたい。
「リディール。先に言っておくが、国のことも、王家の立場も気にしなくていい。お前達には恋愛結婚をしてほしいと思っているからな」
心も読まれた気分だ。
でも、私は誰かを好きになったことがない。
愛せたことがない。
「急がなくていい。ゆっくりでもいいから、自分の気持ちを優先しなさい」
◇◆◇
「リディール王女殿下が城を抜け出し、城下へ向かいました。お止めしますか?」
リディールにつけていた影が報告をしてきた。
どこへ行くのか、何をするのか、父である私には大体わかる。
「放っておけ。あの子にもあの子の葛藤があるのだ」
「しかし、最近は少女の拉致事件も多発しております。十分気をつけるべきでは?」
「護衛は外さなくていい。……あの子は特別な子だ。拉致されるようなことがあれば、貴様ら影は全員クビだ。それが嫌なら励め」
「はっ」
◇◆◇
「だからさ、これって君のせいでもあるよね?」
「分かった、僕のせいってことでいい。だから早く帰ってくれ」
元婚約者のフォーカスがすごく嫌そうな顔で言った。




