第三話 婚約者の浮気相手の想いを聞きます
みなさんこんにちは春咲菜花です。この度、婚約者編第二話を飛ばし、第三話の内容を誤って投稿してしまいした。大変申し訳ありません。今後はこういったことがないように努めていきますので、これからもどうかよろしくお願いします。
リリアーナの愛称はリリアなの?
雛田りりあとリリアーナ・ルア・アタマカユイ。
もしかしたらだけど、りりあさんがモデルだったりしない?
いや、流石にないか。
りりあさんはこんな自己中な性格じゃないはずだ。
じゃあいいか。
容赦なく潰せる。
「男爵、リリアーナ様は私の婚約者と浮気したんですよ?本来ならば極刑レベルの罪を犯しています」
「だからなんだと言うのです?彼らは真実の愛を見つけたんでしょう?ならば邪魔はしてはいけません」
あー、こりゃ完全にリリアーナの魅了にかかってるな。
リリアーナを溺愛しているようにも見えるが、その目は虚ろだ。
私は魔術師に男爵の魅了を解くように指示した。
次の瞬間、男爵の目に光が戻った。
「……え?あれ……?私は一体何を……」
「…………は?お、お父様?」
「リリアーナ、私は今何をしていた?」
「リリアを庇ってくれないの……?」
「何を言って……あっ……。国王陛下、アルカ殿下、リディール王女殿下……」
男爵が頭を抑え、混乱した表情で私たちを見上げる中、リリアーナは一瞬だけ動揺した顔を見せた。
だが、すぐにその表情を隠し、涙目でぶりっ子モード全開に切り替える。
いや、マジでこの子、乙女ゲームの悪役令嬢テンプレすぎるだろ。
魅了魔法まで使って、父親を操ってたなんて相当タチが悪い。
「リリアーナ嬢、そろそろその演技やめたら?」
私は冷ややかに言う。
「男爵が魅了魔法で操られてたって、今バレちゃったよね。フォーカスとの手紙のやり取りも、あなたが仕組んだんでしょ?」
リリアーナは一瞬目を泳がせたけど、すぐにニコッと笑った。
「リディール王女殿下、ひどい誤解ですわ!私はただ、フォーカス様と心を通わせただけで……。魅了魔法だなんて、そんな恐ろしいこと、私にできるはずありません!」
わざとらしい声で訴える。
うわ、めっちゃ腹立つな、この子。
国王が低く、厳かな声で口を開く。
「リリアーナ・ルア・アタマカユイ、証拠は揃っている。国家魔術師が確認したところ、男爵にかけられた魅了魔法は明らかに君の魔力と一致する。弁明があるなら、今ここで述べなさい」
リリアーナの父親、男爵が慌てて立ち上がった。
「陛下! 私の娘がそんなことをするはずが……!リリアーナは純粋な子です!どうか、どうかお許しを!」
必死に庇うけど、その声はまだ少し震えてる。
魅了魔法の影響が完全に消えてないみたいだ。
私は男爵を無視して、一歩前に出る。
「リリアーナ、フォーカスに近づいたのも、男爵を操ったのも、全部あなたが仕組んだ計画ですよね?目的は何?王家の信頼を落として、革命派に利するつもり?」
「それは愛が招いた結果であって、私は革命派に所属していません!!」
「へぇ、愛ね。愛って、魅了魔法で人を操って、人の婚約者を誘惑して、王家の名誉を傷つけるもののことを言うの?あなたのその『愛』、めっちゃ歪んでますよ?偽りの愛で、あなたは満足できているんですか?」
「…………」
リリアーナの目が揺れた。
今まで魅了の力で愛されてきたはずのリリアーナが、私の挑発一つで動揺した。
つまり、彼女には愛されたことがない過去が存在しているということ。
「おかしいだろ……」
リリアーナが呟いた。
声のトーンも、口調も全部変わってる。
「こんなのおかしいだろ!なんで悪役のリディールが正義のヒーローヅラしてるんだよ!この世界は僕が愛されて幸せになるためにあるんだろ?だって、リリアーナ・ルア・アタマカユイはこの世界の主人公なんだから!!」
ああ、やっぱりそうなんだね。
君も転生者なんだ。
恐らくりりあの知り合いの。
彼女の声には今までのぶりっ子演技とはまるで違う、剥き出しの感情が込められていた。
瞳には怒りと悔しさ、そしてどこか深い悲しみが混ざってる。
私は彼女をじっと見つめる。
『リリアーナ、あなた、転生者なんだね』
私は日本語で言った。
転生者であることを迂闊に人に言ってはいけない。
小百合さんがそう言っていた。
『りりあさんの知り合い?』
『りりあ?お前、りりあのことを知ってるのか?』
『知り合いがりりあさんのことを知っていて、物語のことも教えてもらったの』
リリアーナは辛そうに顔をしかめた。
ここからは二人で話したい。
「お父様、リリアーナと二人で話をさせてください」
「しかし……」
「父上、リディもなにか考えがあるのですよ」
渋った国王にアルカが言った。
そうして、部屋にいた人達全員が出ていった。
「それで、どうしてそこまで愛を求めるの?」
「…………お前に話す必要があるのか?建国祭の演説といい、お前はよほどお人好しと見た」
「お人好し?それは違うよ。私は、この世界にいるかも知れない雛田りりあやアルデーヌを幸せにしたい。あとは、そうだな……贖罪かな」
「贖罪?お人好しが償うことなんてないでしょ?」
彼女は私をお人好しだと思っているようだ。
でも、違う。
私はお人好しじゃない。
「あるんだよ……。大切な人を傷つけた過去が……。それで?リリアーナはどうして愛を求めるの?」
「前世が散々だったから」
前世が散々……?
「僕は三人兄弟の末っ子だった。いつも兄の後をついて回って、母さんを呆れさせたりしてた。幸せだった……」
「…………」
「成人してからは家を出たんだ。僕達が家を出たあと、母さんは他界してしまった自分の妹の子供を引き取った。僕もたまに遊びに行ったりしていた」
あれ?
この話、どこかで聞いたことがあるような……。
「幸せそうな母さんを見るのは好きだった。りりあもすごく可愛くて、素直な子だった」
この人、小百合さんの息子さんだ。
ってことはりりあの義理のお兄さんだ。
「でも、りりあが中学生の時に次男が交通事故で他界した。次男を大事に思っていた長男は壊れてしまったのか、翌年に大きな犯罪組織に入って捕まった。りりあはストレスが溜まった母さんに突き放されて、引きこもった。そのあとは、不治の病にかかり他界し、母さんは仕事を始めて僕を見なくなった」
「…………」
「元々兄弟からも好かれてなかったし、父さんからも母さんからも愛されていた記憶がない。レンタル彼女でその穴を埋めようとしても埋まらない。僕は、無償の愛が欲しかっただけなんだ……」
無償の愛。
そんなものが存在しているのかはわからない。
愛を求めれば、何かしらの見返りが求められる。
形のない人の心は、複雑で面倒だ。
リリアーナは唇を噛み、俯いたまま言った。
「前世で、誰も僕のことなんて見てくれなかった。母さんも、父さんも、弟も。りりあはあんなに母さんに愛されてたのに、僕はいつも影だった。この世界でやっと、僕が主役になれると思ったのに!」
その言葉に、私は胸が締め付けられる。
リリアーナの前世、めっちゃ辛かったんだ。
愛されたかったのに、誰も自分を見てくれなかった。
そんな気持ち、元ヒキニートの私も少しわかる。
前世で、家族とも向き合えなかった自分を思い出して、ちょっと目が熱くなる。
でも、ここで泣いてる場合じゃない。
「リリアーナ、愛されるために人を操るのは、ほんとの愛じゃないよ」
私は一歩近づいて、彼女の目を見つめる。
「あなたが前世で感じた孤独、わかるよ。私も前世では、誰ともちゃんと向き合えなくて、自分を愛せなかった。でも、この世界で変われたんだ。あなたも、偽りの愛じゃなく、本物の愛を見つけるチャンスがあるよ」
リリアーナは私の言葉に、涙をポロポロ流しながら首を振る。
「本物の愛なんて……僕には無理だ。誰も僕のことなんか愛してくれない。前世でも、この世界でも……」
「そんなことない!!」
その時、小百合さんの声が部屋に響いた。




