表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/56

第二話  婚約者との婚約を破棄します

「フォーカス、あなた、男爵令嬢と手紙を交わしてたこと自体は認めるんですよね?」


私は静かに、でも鋭く訊いた。

フォーカスはガタガタ震えながら頷く。


「は、はい……。でも、ほんとにただの社交辞令で……!リディール殿下への忠誠は変わりません!」

「忠誠?」


私は手紙を手に持って、ピラピラと振ってみせる。


「これがあなたの忠誠ですか?『君の笑顔は星のようだ』とか、『また話したいね』とか、挙句の果てに『婚約破棄したら求婚する』って。社交辞令でここまで書く人、初めて見ましたよ」


謁見の間にいた衛兵やメイド達が笑いをこらえてるのが聞こえる。

アルカはもう完全に呆れ顔だ。

国王は静かだけど、その目には「しっかりやりなさい」ってメッセージが込められてる気がする。

私は深呼吸して、冷静に言葉を続ける。


「フォーカス、あなたが男爵令嬢と恋仲かどうかは、正直どうでもいいんです。問題は、あなたが私の婚約者として、軽率な行動で私の名誉と王家の信頼を傷つけたこと。手紙の内容が本気だろうが冗談だろうが、こんなものが公になったら、王家のメンツは丸潰れですよ」


フォーカスが顔を真っ青にして、「そ、そんなつもりは……!」と叫ぶけど、私はそれを遮る。


「つもりとか関係ありません。結果が全てです。公爵、息子を勘当するかどうかはあなた家の問題ですが、私との婚約についてははっきりさせましょう」


私は一歩前に出て、フォーカスを真っ直ぐ見据える。

リディールの記憶にある貴族の威厳をフルに使って、ビシッと言ってやる。


「フォーカス・メア・オレサイキョー。私はあなたとの婚約をここで破棄します」


謁見の間にどよめきが広がる。

フォーカスは目を見開き、まるで世界が終わったような顔で固まる。


「リディール、その決断に理由はあるか?」


国王が低く、落ち着いた声で訊く。

私は頷いて、胸を張って答える。


「フォーカスは私の婚約者として相応しくない行動を取りました。手紙の内容が公になれば、王家の信頼は揺らぎます。それに、私には目的があります。異端児差別をなくし、この国をより良くするために、王女として全力を尽くしたいんです。そんな私に、信頼できない婚約者は必要ありません」


国王は私の言葉を聞いて、ゆっくり頷いた。

まあ、国王のこの対応は分かっていたけどね。


「リディールの決意は理解した。フォーカス・メア・オレサイキョー、リディールとの婚約は本日をもって解消とする。オレサイキョー家には、この件で王家への忠誠を改めて証明する機会を与える。異論はあるか?」


オレサイキョー公爵は深く頭を下げ、「異論はございません。今回の不祥事、誠に申し訳ございませんでした」と答えた。

フォーカスはまだ床にへたり込んだまま、放心状態だ。

些細な言動が勘当や信頼の喪失に繋がる貴族社会。

フォーカスには申し訳ないけど、これが普通だ。

彼の行動は許されたものではない。

これから、フォーカスがどう生きるかはわからない。

けど、私は君が普通に生きれるように努力はするよ。


◇◆◇

――数日後


「フォーカス」


私はオレサイキョー公爵邸に向かった。

公爵邸の前では、フォーカスが切なげな表情で我が家を見ていた。

私に気づいたフォーカスは、希望を失ったような顔をしている。

フォーカスは、もう冷静になっているようだった。


「リディール殿下……」

「こんにちは、お見送りに来ましたよ」

「護衛はどうなさったんですか?それに、平民の服なんか着て」

「見てわかりせんか?お忍びです」


私が笑顔で言うと、驚いたように目を見開いた。

しばらくすると、フォーカスは小さく笑った。


「あなたが笑っているところを初めて見ました」

「お茶会で、あなたは自分の話しかしませんでしたからね。笑う場面がないじゃないですか」

「そうですね。全ては自分中心だった僕が悪いですよね」


これは、よほど公爵に説教されたんだな。

王族への態度をわきまえ、すごくしょげてる。

顔も腫れているところがいくつかある。

こっ酷く怒られたんだろう。


「何発か殴られたから、冷静になれたんですか?」


フォーカスは少し悲しそうに頷いた。

彼が文通していた男爵令嬢は十歳。

私とフォーカスは一歳差だ。

魔法が使える人と、魔法が使えない人。

魔法が使えない人は魔道具も使えない。

魔道具は所有者の魔力を吸って機能する。

だから、子供は魔法が使える大人には無力だ。

私や国王は薄々気づいていた。

男爵令嬢がフォーカスに魅了をかけていたことを。


「ごめんなさい、フォーカス。わかっていたのに助けられなくて」


頭を下げると、フォーカスは慌てた。


「いえ、どちらにしてもこうなっていたはずですから。父は公爵の立場や名誉のことしか考えていません。魅了にかかっていたとバレても勘当されていたでしょう」

「でも……」

「国王陛下が父にチャンスを与えると言ってくださったおかげで、五発で済みましたから」


五発も大概だと思うけどな。

私はフォーカスの目をまっすぐに見て、言った。


「これからどうするつもり?」

「そうですね。まずは平民の生活に慣れようかと思ってます。それから居場所を見つけていきますよ」

「……あなたが望むなら、王宮はあなたを受け入れます」


フォーカスは私が何を言いたいのかを察したようだ。

少し考えるような仕草をしてから、彼は優しく微笑んだ。


「魅力的な話ですが、結構です。自分でなんとかしてみたいんです。それに、この顔ならどこへ行っても大丈夫だと思います」

「そう、なら無理強いはしません」


私はフォーカスの腕を掴み、手のひらにお金の入った袋を置いた。

私は口元に人差し指を当ててウインクした。


「使いなさい。私からの慰謝料よ」

「本当にあなたは変わりましたね」


フォーカスはお辞儀をして、私のいる方とは逆の方向に歩いて行った。

あなたが選んだ道を、私は今後選ぶかもしれない。

けど、その日が来たとしても後悔しないように、王女としてできることをします。


◇◆◇


「リディール王女殿下はフォーカス様との婚約を破棄されたとか」

「ああ、わたくしも聞きましたわ。フォーカス様が不貞を働いたとか……」

「そのお相手が男爵令嬢らしいわよ」

「男爵令嬢?誰ですの?」

「ほら、あの……。リリアーナ・ルア・アタマカユイですわよ」


リリアーナ・ルア・アタマカユイ。

彼女はそう、私の目の前にいる。

ちなみに私の横にはアルカと国王がいる。


「さて、リリアーナ嬢。今回の件、どう言い訳をする気かな?」


国王が訊いた。

リリアーナは悪びれもせずに笑った。


「私とフォーカスが愛し合ってしまった。ただそれだけのことです。それなのに私達を引き裂くなんて……酷いっ……!」

「おお、可哀想なリリアーナ。王家であろうと愛娘に酷いことをするのは許せませんな」


全員が心の中でツッコんだ。


『いや、酷いことされてるのはこっちだしお前もだよ』


と。

普通のぶりっ子のように見えるリリアーナは、ガッツリと魅了魔法を使っているようだ。

しかし、王家サイドの人間には無害だ。

透明化の魔法を使って私達の傍にいるのは、国家レベルの魔術師だからな。


「お父様、私は悪いことをしておりません……。愛し合った。それだけなのです。どうかリリアを責めないでください……」


リリア……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ