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9、友達と入学式

 俺が今日から通うのは、多種多様な学部が存在している大きな私立大学だ。かなり偏差値は高く、合格者名簿に俺の受験番号を見つけたときは、マジで間違いか何かだと思ったのが懐かしい。


 電車に乗るとスーツを着たサラリーマンなのだろう大人がたくさんいて、いつもは全く目につかないのに今日はなんだか嬉しくなる。俺もこういう大人達みたいに見えてるのだろうか。

 そう思うと向こうにいる制服を着た高校生や、どこかへ遊びにいくのだろう楽しそうな小中学生にカッコよく思われたくて、訳もなく胸を張ってしまった。


 そうしていつもの日常がどこか特別なものに感じられながら電車に揺られていると、すぐに大学の最寄駅についた。駅を降りると……そこには俺と同じ新入生なのだろうスーツ姿の人達がたくさんいる。


「友達、できるかな」


 高校で仲が良かった友達は軒並み違う大学に進んでしまったので、俺はここで一から人間関係を構築しないといけないのだ。そう思うと緊張してしまう。こういうのって最初が肝心だし、ここでコケるとこれからが辛いよな……


 そんなことを考えつつ案内に従って大学の構内に入っていくと、入学式が行われる講堂にすぐ辿り着いた。中に入るとかなり広くて、オーケストラの演奏会でも行われてそうなホールだ。


「うわっ……めっちゃ人いる」


 入学式は学部ごとで午前と午後に分かれてるはずなのに、それでこの人数とか凄いな。ちなみに俺は経済学部だ。午前の部には他に、法学部や文学部など文科系の学部が割り振られている。


 受付をして会場にいた職員によって席に案内され、会場の右前あたりに着席した。式が始まるまではあと三十分以上ある。遅れるより良いだろうって思ったけど、さすがに早く来すぎたかな……


 そう思ってスマホを開こうとしたところで、俺の隣にやってきた学生に声をかけられた。


「こんにちは、話しかけても良いか?」


 左隣に顔を向けると、そこにいたのは派手な外見の男だった。耳にはピアスをしていて髪色は金だ。でも顔に浮かんでいるのは人懐っこい笑みだったので、俺は一瞬構えた体の力を抜いてすぐに頷く。


「もちろん。早く来すぎたかなって思ってたんだ」

「俺も俺も。一人暮らしだから起きられるか不安で目覚まし三つもかけたら、うるさすぎて一瞬で目覚めた」

「ははっ、それはかけすぎだろ。俺、橘真斗、よろしく」

「おうっ、俺は内藤拓実だ。よろしくな」


 拓実は話してみるとかなり話しやすく、仲良くなれそうだと頬が緩んだ。大学生活がボッチで悲しいものにならなそうで良かったな。


「この会場さ、薄暗いしあったかいし眠くなると思わねぇ?」

「分かる。しかもこういう式ってつまんない話多いよな」

「そうなんだよ。ふわぁぁ、昨日は夜更かししすぎたかなぁ」

「何してたんだ?」

「ゲームだよゲーム、『フォレスト・ワールド』知らない?」


 え、『フォレスト・ワールド』!? 俺はその言葉が出てきて思わず叫びそうになり、しかし咄嗟に口を塞いだ。


「お前もやってんの?」

「え、てことはお前も?」

「始めたのは二日前だけど」

「マジか、俺も始めて一週間! 受験の時はできなかったから」


 俺と拓実はそこまで話をすると、ガシッと手を握り合った。


「同志よ、フレンドになろう」

「もちろんだ。ちなみに職業は?」

「そりゃあ決まってる、剣士だ」

「ああ、そうだと思った」

「なんだよそれ。真斗は……錬金術師とか?」

「……なんで分かったんだ?」


 俺達は同じ趣味があるということで一気に仲良くなり、ゲームの話で盛り上がる。やっぱりゲームは良いよな。『フォレスト・ワールド』やってて良かった。


「レベルはどこまで上がった?」

「まだレベル9」

「ふっふっふっふっ、俺はレベル15だ」

「凄っ。レベルって10を超えたら上がりにくくなるんだよな?」


 SNSで流れてくる情報とか、たまに見てた攻略サイトでそう書かれていた。さらに30超えたらそこからはただ弱い魔物を倒すだけじゃ、いくら戦ってもレベルは上がらないらしい。


「そうなんだよ。だからめちゃくちゃ頑張ったぜ。真斗ってまだユーテにいんの?」

「いる。そこの宿屋でログアウト中だ」

「俺はもうあの世界の一番発展してる街に行ってるんだ。多分そこまでは早めに移動したほうがいいぜ。ギルドの依頼数とか、周辺のフィールドとか充実してるから」

「うわぁ……マジか。宿に十日分の金を払っちゃったんだけど」


 確かに二日間真剣にやって、かなりあの村でやることはやり切った感あったんだよな……ミスったかもしれない。


「それはドンマイ。まあ大学始まったし、昼間はログインできないからちょうど良いんじゃねぇ?」

「確かにな。……そう思っとくよ」


 そこまで話をしたところで突然会場がさらに暗くなり、入学式開始のアナウンスが流れた。話してたらすぐに時間が経ったみたいだ。


「また式終わったら話そうぜ」

「そうだな」


 そこから約一時間。入学式はかなり退屈だった。学長の話とか後援会長の話とか、こんなこと言ったら怒られるだろうけど、誰だよって感じ人の話を聞いて……やっと式が終わった。

 とりあえず一時間かけて俺達に伝えたかったのは、ハメを外しすぎるな、勉強はしっかりな、でもこの四年間でしかできないことも頑張れ、色々と経験積めよ。みたいな感じだった。

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