10、昼食と先輩
入学式が終わって会場から外に出ると、隣の拓実が大欠伸をした。
俺たちは会場を出て、オリエンテーションが行われるらしい大講義室に移動しているところだ。構内にはサークルの勧誘なのか、大きなプレートを持ってる人がたくさんいる。
「拓実、途中で寝てたよな?」
「え、バレてた? だってさ、皆がほぼ同じ話してんだもん」
「まあそれは分かるけど……そういえば、拓実って何学部?」
ゲームの話ばっかりで肝心の大学の話をしてなかったなと思ってそう聞くと、拓実はあくびを噛み殺しながら口を開いた。
「言ってなかったか? 法学部だ」
「お前……その外見で法学部なのかよ」
「金髪カッコ良くね?」
「まあ、分かるけど」
「真斗は何学部?」
「俺は経済学部だよ。学部が違うとあんまり授業被らないのかな」
大学の仕組みがいまいちよく分かってない。自分で自由に時間割を決められるらしいってことは知ってるんだけど。
「どうなんだろうな。一緒に受けられるやつあったら受けようぜ」
「そうだな」
「そういえば真斗ってどこ出身なんだ?」
「俺はここから電車で二十分ぐらいのところ。拓実は一人暮らしなんだっけ?」
「うわぁ、めちゃくちゃ都会っ子じゃん!」
拓実は大袈裟に驚いて俺の顔を凝視してくる。確かに都会っ子なのか……? 小さな頃からこの辺で育ってきた俺には、あんまり実感がない。でも確かに旅行で行った温泉地とか、ああいうところが地元の人と比べたら都会だよな。
「俺はめちゃくちゃ田舎だぜ? しかも観光地でもなんでもない場所。田んぼと畑とビニールハウスが民家より断然多くて、最寄駅まで十キロぐらい。最寄りのバス停までも三キロはあるな。しかもそのバス一日に数本しか出てねぇし、電車は一時間に一本だし、マジのど田舎」
「……それ、北海道とか?」
「いや、これでも関東なんだよ。地方の人が思う関東の印象と違うよなぁ」
関東にもそんな場所があるんだ……まあ確かに、関東にだって温泉地とかあるもんな。ああいう山沿いとかはそんな感じの場所もあるのだろう。
「凄いとこだな」
「そうなんだよ。だから引っ越してきてから人が多すぎてビビってる。あと匂いが全然違う。うちなんて外出たら土と草の匂いばっかりだから」
「良く言えば、『フォレスト・ワールド』みたい?」
「おおっ、確かに!」
土と草の香りって話で、ゲームにログインした時の感動を思い出してそう言ったら、拓実は大袈裟に頷いた。
「あのゲームの中って凄いよな。マジで匂いとか感触とかリアルすぎて、ちょっと怖いぐらいじゃねぇ?」
「分かる。魔物を倒した時の手に伝わる感じとか、もうちょっとリアルじゃなくても良いぐらいだ」
「それ思った……! でもさ、あのリアルが良いんだろうな」
「そうなんだよ。もうあのゲームしたら、他のゲームに戻れないよなぁ」
そこまで話をしたところで大講義室に到着し、席は任意だったので、俺達は真ん中より少し後ろあたりの無難な位置に座った。
そしてそれからは講義の受け方や時間割の決め方など、大学生活における必要なことに関して説明を受け……オリエンテーションは一時間ほどで終わった。
この後は各自解散で自由時間だ。家に帰っても良いし、学食で昼食を食べてみても良いし、サークルの見学をしても良いし、図書館に行ってみても良いらしい。
「真斗はまだ帰らないよな?」
「ああ、とりあえず昼ご飯を食べようかと思ってる。それからはサークルかな。拓実も一緒に行くか?」
「もちろん行くぜ! サークル、やっぱここか?」
楽しそうな笑みを浮かべながら拓実が指差したのは、さっきもらったサークル一覧だ。その右下辺りにひっそりとある、拓実が指差している団体は……ゲーム研究会だ。
「まあ、当然だな」
「そうだよな! ここって『フォレスト・ワールド』やってる先輩いるかなぁ」
「今はゲームって言ったらそれだと思うけど……レトロゲーム好きが集まる研究会って可能性もあるな」
「でもさ、それならこっちのレトロ文化サークルじゃねぇ?」
「……確かに。じゃあ『フォレスト・ワールド』やってる人がいる可能性は高いな」
二人でそんな話をしながらこれからの大学生活に心を躍らせ、俺達はまず食堂にやってきた。食堂はカウンターで注文して、料理を受け取ったら空いてる席を探すスタイルみたいだ。
「学食って安いんだなぁ」
「俺、スタミナ丼大盛りにするかな」
スタミナ丼の内容を見てみると、ニンニクが効いたホルモンと甘辛いタレで焼かれた牛肉ステーキの合い盛りらしい。
……俺にはさすがに重すぎるな。
それに大学なのにニンニクとかありなんだ。まあ、歯磨きして口臭ケアすればいける?
「俺はチキンカツ定食にする」
最初だし冒険することなく、無難そうなやつを選んだ。そしてレジでお金を払って空いてる席を探していると……拓実が突然「あっ」と声をあげて、男女二人組の元へ向かっていった。
私服だし先輩なんじゃ……とドキドキしながら拓実の後に続くと、拓実は傍にあったプラカードを指差す。
「もしかして、ゲーム研究会の先輩ですか!?」
ああ、そういうことか。確かにプラカードにはゲーム研究会の見学はこちらって書かれている。そしてその横にあるイラストは……『フォレスト・ワールド』のパッケージにあったマークだ。




