11、ゲーム研究会
「そうだよ。君は新入生?」
「はい! 俺達ゲーム研究会が気になってて、隣座ってもいいですか?」
「もちろんいいぞ」
先輩二人はとても優しそうで、にこやかな笑みを浮かべて俺達に席を勧めてくれた。
「二人ともゲーム好きなんだ」
「はい! あっ、俺は内藤拓実です」
「俺は橘真斗です」
「拓実くんと真斗くんね。私は木原夏樹。夏樹って呼んで」
「俺は権田龍之介だ」
夏樹先輩と権田先輩か。夏樹先輩は茶髪のショートヘアで明るく活発な感じ。権田先輩は黒髪の短髪で口数少なく、武道でもやってそうな感じだ。
「夏樹先輩と権田先輩ですね。よろしくお願いします!」
「拓実くんは元気だね〜。じゃあまずは食べようか。冷めちゃうよ」
「あっ、そうでした。ありがとうございます」
「いただきます」
俺達がご飯を食べ始めると、先輩達も途中だった食事を再開させる。そして今度は食事をしながらの会話だ。
「あの、ゲーム研究会って『フォレスト・ワールド』をやってる人はいますか?」
ずっと気になっていたので聞いてみると、夏樹先輩が嬉しそうな笑みを浮かべてすぐに頷いた。
「うちのサークルは今、ほとんどの人が『フォレスト・ワールド』にハマってるところだよ。二人もやってるの?」
「はい。あっ、でも俺は二日前にやっと届いて始めたばかりで」
「俺は一週間前っす。受験もあったので」
「大丈夫大丈夫。私も全然届かなくて一ヶ月前に始めたばかりだから。リュウちゃんは二ヶ月ぐらいだっけ?」
「確かそのぐらいだな」
リュウちゃんって呼ばれてるのか……女子からあだ名で呼ばれるとか良いな。大学生って感じだ。なんか憧れだ。青春だ。
「サークルではどんな活動をしてるんですか?」
「基本的に部室では情報交換だよ。後はサークルに入ってる人は全員がフレンド登録をしてて、ゲーム内でパーティーを組んだりしてることもあるかな。たまに臨時パーティーを組んでクエストやったりね」
「おおっ、それ楽しそうですね!」
拓実は前のめりでそう言った。これはほぼ確実に加入するな。まあ俺もだけど。
「部室でもっと詳しい話とかできるし、このあと一緒に行く?」
「いいんですか? ぜひ!」
「俺もよろしくお願いします」
「はーい。じゃあ早く食べちゃおうか」
それから初めての学食をあまり味わうことなく詰め込んだ俺達は、夏樹先輩と権田先輩の案内で部室に来ていた。部室はサークル棟と呼ばれる建物の二階にあって、年季が入っている雰囲気だ。
「ちょっと古いんだけどごめんね。中は綺麗にしてるから」
そう言って夏樹先輩が開いたドアから中を覗くと……中には大きなテーブルが一つど真ん中に置かれていて、壁際には本棚が設置されていた。そしてその本棚や机の上には、ゲーム機器や攻略本、それから攻略サイトを見るのだろうパソコンなどが雑然と置かれている。
なんか……こういうの良いな。めちゃくちゃワクワクする。
「あっ、夏樹! もしかして新入生連れてきたの?」
ドアを開けてすぐこちらに駆け寄ってきたのは、ふわふわに巻かれた髪から良い匂いがする綺麗な女性だ。
「もっちろん。真斗くんと拓実くんでーす!」
夏樹先輩に背中を押されて部屋の中に入ると、他にもたくさんの人がいるのが分かる。とりあえず新入生らしいスーツ姿の女性が一人に、先輩なのだろう人達が七人いる。
「こんにちは。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
最初の印象は大事だと思って笑顔で挨拶をすると、先輩達は優しく歓迎してくれた。雰囲気が良さそうなサークルで良かった。
「あの、一年生ですよね……?」
夏樹先輩に椅子を勧められて座ると、隣に座っていた新入生だろう女性に話しかけられた。ポニーテールが特徴的な、明るい雰囲気の人だ。
「うん。君もだよね?」
「そう! 私の他に一年生がいなくて緊張してたの。来てくれてありがとう。私は新田梨奈だよ。梨奈って呼んで」
「俺は橘真斗。真斗で良いよ」
「俺は内藤拓実だ。よろしくな!」
俺達の挨拶に梨奈は嬉しそうな笑みを浮かべてくれた。そうして俺達が連絡先を交換したりと盛り上がっていると、夏樹先輩が俺達の向かいの席に座った。
「もう仲良くなったんだね。はい、これ。このサークルについての説明が書かれてるからあげる」
「ありがとうございます」
渡されたのは一枚の紙だった。新入生を勧誘するために作ったのだろうその紙には、活動時間とか部員数とかが書かれている。
基本的に一学年に二十人ぐらいの部員がいるらしい。でも定期的に活動に参加するのは半分以下で、後の半分は他のサークルや部活と兼ねてるのでたまに顔を出す程度だそうだ。
「一応活動日は火曜と木曜の午後六時から。この部室で情報交換だよ。まあでも情報交換と言っても雑談だし、来られるときに気軽に来てくれれば良いから。それにその時間以外も基本的にここには誰かがいて話してるし、ゲームの中でクエストやったりもしてるよ」
本当に緩いサークルなんだな……ゲームを好きな人達が繋がる場って感じだ。なんかこういうの、大学生っぽくて良いな。
「文化祭の時は皆で毎日集まって準備したりはするかな。後たまに飲み会とか食事会とか、長期休みは旅行とかも計画するかな。……説明はそんな感じ。何か聞きたいことはある?」
「いえ、大丈夫です。あっ、入部って何か届出とか出さないといけないんでしょうか?」
もうこのサークルに入ることはほぼ決定なのでそう聞くと、先輩は少しだけ目を見開いてから、嬉しそうに微笑んだ。
「入ってくれるの?」
「はい。楽しそうですし」
「俺も入ります!」
「私も……!」
拓実と梨奈もそう宣言すると夏樹先輩は権田先輩を呼び、権田先輩が入部届を渡してくれた。




