第四十二話 一般人の思考
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第四十二話 一般人の思考
サイド 矢橋 翔太
昨日の明らかに戸惑った様子はどこへやら。いつも通りのちゃんぽん弁で、アミティエさんが先導する。
街道を進み、時に森をショートカットして進む事数時間。街道沿いの森で昼食をとっていると、微かに直感に反応があった。
「何かいる……」
「たぶん人間だね。けどこれは子供かな?」
小声でそう呟けば、ボウガンにそっと触れながらアミティエさんが答えた。
子供か……そう警戒する事もない相手に思えるが、油断もできない。子供の様な体躯で、しかし実際は恐ろしい怪物だなどという事もありえるのだから。
「どうする?」
「とりあえず、翔太君が話しかけてくれるかな?ウチが全体を警戒。ホムラさんは翔太君の後ろで何かあった時のバックアップを」
「「了解」」
もはや手慣れたものだ。腰の剣帯に左手をあて、背に『山剥ぎ』の重さを感じながら気配がした方向に歩く。
あと数メートルといった所で、一応は声をかける。
「そこに誰かいるのか?こちらから危害を加える気はないから、出てきてもらえないかな?」
相手は本当に普通の子供の可能性があるので、出来るだけ優しい声を心掛ける。
今の所『獣の直感』も警告を出していないが……。
「……」
がさりと、草藪から一人の子供が出てくる。少年だろうか。歳は十に届かない様に見える。
あちらこちら泥に汚れているものの、怪我らしい物はなさそうだ。こちらを露骨に警戒した様子で、恐る恐る口を開いた。
「あ、あんた、冒険者なのか?それとも、どっかの兵士?」
「一応冒険者だね。なってから日は浅いけど。君は?この辺りの子かな?」
ニッコリと笑みを浮かべ、片膝をついて問いかける。そうしながら後ろ手でホムラさんに制止の合図を出した。
どうやら本当に普通の子供らしい。
「お、おれはカラム村のコニーって言うんだ。あんた、もしかして強いのか?」
「え?うーん……クマよりは?」
突然の質問に首を傾げながら答えると、コニー君が口の中で『クマ……クマは、けど……』と何かを呟いている。
「えっと。君はどうしてここに?もしかしてお父さんやお母さんとはぐれたのかな?もし必要なら、村まで送っていくけど」
「おい」
少し後ろから、木に隠れたホムラさんが苦言を発してくる。
それに少しだけ振り返って、苦笑いで返した。彼女が警戒するのもわかる。なんせ、ここまでの道のりエルギス以外だと吸血鬼に支配された街だったり、魔王軍の幹部がトレントで包囲した村だったりしたのだ。
だが、いくらなんでもそう厄介ごとばかりに遭遇はしないだろう。そんな危険地帯ばかりだったらとっくに世界は滅んでいる。
「……な、なあ」
「うん?」
「あんたは、その……」
視線を彷徨わせるコニー少年。どうしたのかと観察するが、あいにくと自分には読心能力はない。
どうしたものかと困っていると、意を決した様子でコニー君がこちらを見つめてきた。
「お、おれの村を、助けてください!」
「……はい?」
え、まさかまた厄介ごと?
* * *
「人食いクマ?」
とりあえず自分達が昼食を食べていた所までコニー君を連れてきて、詳しく話を聞いたところ、こんな感じだったらしい。
『ある日、森に入った猟師の男達が帰ってこなかった。その日は罠の確認だけのはずだったのに』
『翌日、村の若い男で様子を見に行こうとした所、猟師の一人が帰って来た。しかし、かなりの重傷を負って』
『うわ言のようにクマと呟く猟師を、とにかく村の薬師の所に連れて行き治療を受けさせようとなった』
『しかしその夜、森から出てきた巨大な獣に薬師ごとその猟師が殺されてしまう』
『それから毎晩のように、その巨大な獣が村を襲い村人を食べている』
「よし。スルーしよう」
「えぇ……」
即断で言ってのけたホムラさんに思わず顔を引きつらせる。
「だって私ら無関係だし」
「それはそうですけど……」
ちらりとコニー君に視線を向ければ、その辺から拾ってきた倒木に腰かけて俯いている姿が見える。目には涙を溜め、膝の上で強く拳を作っていた。
「正直なぁ。その子供、信用できないし」
「な、なんだと!」
声を荒げてコニー君が立ち上がるが、ホムラさんはフードの下から冷たい視線を向ける。
「そいつが嘘をついていて、私達を罠に嵌めないって保証はない。村ぐるみで盗賊になっているって話も時代劇で聞いた事がある。それに、そのクマとやらを倒したら今度は私らが襲われるかもしれないじゃん。村人に」
「おれたちはそんな事しねぇ!」
「はん。それに、そもそもそういうのはここを治めてる奴の仕事じゃん」
「街までたどり着けないからあんたらに頼んでるんだろ!」
「それが人に物を頼む態度かクソガキ!」
「うっさいフード女!」
「あんだとー!?」
「まあまあまあ」
子供相手にガルルと威嚇を開始した自称大学生の前に立ちはだかる。
そのままバウバウと威嚇を続けるホムラさん。どうか人語を取り戻してほしい。
「……うーん。ウチも反対かなぁ」
「えっ」
「ほらー」
思わぬ言葉に目を見開く。
あと勝ち誇った顔をする馬鹿がうぜぇ。
「あ、あんたも疑うのかよ」
「うん。けど、ウチが疑っているのは村人に襲われる事じゃなくって……」
アミティエさんが、ニッコリと笑みを浮かべる。
「それ、本当にクマだった?」
「……!」
「え、どういう事?」
ホムラさんと二人して疑問符を浮べる。
「さっきからね。クマって言葉は最初の猟師の言葉以外出てこないんだ。巨大な獣としか言っていない」
「そ、それがなんだよ」
「村に直接乗り込んで来たのなら、足跡や体毛が残っているはずだよ。それに、目撃者もいるはず。なのにクマと断言しなかった。そこが気になるなぁ」
「……言い忘れてただけだよ」
「うん。そっか。どちらにせよ、ウチは反対。冒険者ギルドを通さず依頼を受けると、大抵トラブルが起きるんだ。ケツ持ちがいないって言うのは危ないからね」
いや、そもそもギルドから仕事を受けた事ないから知らないんだけどね、俺らそういうの。
それはそれとして、多数決だと反対派が勝るか。
まあ、二人の言い分もわかる。こういうのは自分らの仕事じゃないし、何より信用しきれない。森に住むという『巨大な獣』も、なんなのかわからない。
理屈で考えたら聞かなかった事にするのが賢い。
だが、ここで見捨てるのは『違う』だろう。理屈ではない、人として出来る事はしたい。
「いや、行こう」
「わかった。やろうか」
「……え」
我が儘として口を開いたら、アミティエさんがあっさりと頷いて来た。
え、どういう事?
「いや、そこは反対する所では?何言ってんだこいつってなる所では?」
「え……ごめんね、翔太君。趣味は人それぞれだと思うけど、ウチに人を傷つけて悦に浸る趣味は……」
「俺もMじゃねえよ!?そうじゃなくって……いいの?」
「いいんじゃない?」
あっけらかんと答えるアミティエさん。
……躁鬱かな?
「今失礼な事考えたね。酷いなぁ……」
「い、いえ滅相もない」
「単純に、翔太君がここで精神の不調を患ったら困るなって思っただけ。ウチらは『竜殺し』をするんだから、こんな所で気が逸れる様な事になってほしくないなって」
「な、なるほど」
まさかの俺のメンタルを心配しての事だったか。
「えー……じゃあ、私も行く。けど何かあったら翔太に延々マウントとるからなぁ?」
「ホムラさんもいいんですか?」
「まあ、流石にカーミラやベルガーみたいなやばいのが出てくる事もないんじゃない。化け物が出てきても潰せばいいよ」
「いや、別にそこの兄ちゃんが来てくれればフード女は別に……弱そうだし」
「吊るしたろかクソガキ……!」
大人気ない人は置いておくとして。
どうやら、自分は思った以上に気遣われているらしい。それは少し嬉しい。
よし、と掛け声をつけて立ち上がる。
「じゃあ、早速行こう。これ以上村人に被害が出る前に動かないと」
「ああ!ありがとう兄ちゃん!」
よほど嬉しかったのだろう。コニー君がこちらをキラキラとした瞳で見上げてくる。
まるで英雄でも見るかの様な視線に少し照れながら、安心させてあげようと笑顔を向けて親指をたてた。
「一番近い街に行って、すぐに兵士の人ら呼んでこよう!」
「「「え?」」」
「え?」
え、これって通報するかどうかじゃないの?村人だけだと街までたどり着けないから、その道中をどうにかするんじゃなくって?
その後、何故かホムラさんに『さすがにないわー』と言われカラム村へと引きずられていく事に。なお、コニー君は何故か『サンタさんなんていない』と言われた子供みたいな顔をしていた。
アミティエさん曰く、ここから街に向かっても説明や準備でどう考えても一週間以上はかかるから通報は却下だそうな。それを先に言ってほしい。
内心で、『なんでこの人ら初手で自分達が退治する話と思ってんだ』と思いながら、ホムラさんに杖で突かれながら歩く。
そこでふと、この話しの危険性に気づいた。
「待った。もしかしたら村ぐるみで罠を仕掛けているかもしれないし、そもそも口約束でこういう話を受けるのはトラブルの元では?」
「しばきまわすでほんま。はよ歩けや、もうここで引いたら拳の下ろしどころがわからんねん」
「ケツの穴焼いてやろうか?とっとと害獣駆除に行くんだよ。次アホ言ったらマジで魔法撃つからな?」
「ごめんて」
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翔太
「人食いの獣が出たらまず通報では……?」




