閑話 大和連合
閑話 大和連合
サイド とある事前登録者
「はぁ……」
街の酒場でため息をつく。無駄にイケボな己の声に未だ慣れないが、そうも言っていられない。
どうして僕はこんな所に来てしまったのだろうか。
始まりは、『アナザーワールド』とかいうアプリゲーに興味本位で事前登録しただけ。それが、気が付けば見知らぬ森の中に飛ばされていた。
最初は興奮したさ。夢にまで見た異世界転移。それもゲームキャラになるというチートつき。
幸い人間の街もすぐ近くだったから、そこに行って冒険者になれた。
ただ、三日もすればこの世界が本当に嫌になる。
飯はまずいし、日本人の基準で『食べられる』と思った物は高い。宿はよほど高い所じゃないと虫やらなんやら出るし、酷い時は物取りも出る。
公衆浴場もなく井戸で組んだ水で体を洗う日々。そして当然ネットもテレビもなく、ゲーム機だってありゃしない。
辛い。家族に会えないのも、ここで暮らすのも。
安い酒で硬いパンとベーコンを流し込む。こんなのでも、この世界の平民の食事としては上等な方だ。
「ごちそうさま……」
不愛想なマスターに金を払い、店の外に。
「おい、あれ……」
「ああ、『狂犬』か……」
「おい、噛みつかれるぞ……」
ぼそぼそと、今しがた出た店の中から声が聞こえる。ため息がまた一つ。
異世界物でよくある、冒険者ギルドに登録した時の『おめえみたいなガキは帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな!』なイベント。それに自分も遭遇したわけだ。
まあ、正確には授業料と言って殴りかかったあげく身ぐるみ剥ごうとしてきた奴らだったけど。
それを当然の様に撃退したわけだ。ただ、こっちは殴り合いの喧嘩なんてした事もないし、この体にもまだ慣れていない。
結果、相手は再起不能レベルの大怪我。冒険者同士の喧嘩なんて街の兵士も気にしないから捕まる事はなかったが、自分の悪評は広まってしまったわけだ。
それでも最初は、この力目当てですり寄ってくる奴はいた。だが、その時自分は宿で物取りにあっていて人間不信だったのだ。
つまり、力を誇示するように威嚇して勧誘に来た冒険者を追い払った。その結果がこれだ。
この世界に来てまだ三週間。しかし、もう既に日本に帰りたくてしょうがなかった。
「はぁ……」
明日もまた、ギルドで仕事を受けてその日食い繋げる資金を稼ごう。物取りに転移した時持っていた金をとられたのは本当に痛かった……。
「うん?」
遠くから声が聞こえた気がして、視線をのろのろとそちらに向ける。
悲鳴……じゃない。なんだろう。
「東京タワー!日本海!」
「国会議事堂!新幹線!」
「生麦生米生卵ぉ!」
一瞬、何を言っているのかわからなかった。
だが、気づいた瞬間走り出していた。だって、これは。この内容は――!!
「なんだあいつら。頭おかしいのか?」
「身なりいいな……襲っちまうか?」
「見ろよ。端の女。相当な上玉だぜ」
「どけっ!!」
何か言っているやじ馬を押しのけ、叫んでいた集団に近づく。
「うーん……やっぱいないか?日本人」
「そう簡単には合流できないよな―」
「ねえ、なんで私だけ早口言葉なの?」
そこにいたのは、美男美女の集団。仕立てのいい装備を身に着け、固まってぼそぼそと話し合っている。
一瞬言葉が出なかったが、どうにか声を絞り出す。
「なあ!」
「あん?」
声をかければ、一人の男がこちらを向いた。まるで作り物めいた美貌だ。
そう、自分と同じように。
「東京特許許可局……とか言えたら、仲間になれないかな」
「……へ?」
自分でも変な笑いを浮べながら、そう告げれば彼らもまた鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
なんとも言えない沈黙が流れた後、弾けたように抱き合った。
* * *
「大和連合?」
「おう」
さっきまで自分がいた酒場に戻って来て、いくつかのテーブルを使い彼らと席に着く。
元々大して繁盛していない店だし、僕の悪評がある。『快く』マスターも場所を用意してくれた。
十人以上の『日本人』。彼らが告げてきたのは、そんな名前だった。
「ギルマスって言うのも変な話だけどよ。この大陸中に『分身』を送って日本人を集めている人がいるんだよ」
「はぁ……」
分身とはまた、珍妙な単語が出てきたものだ。
しかし、自分とて異世界転移経験者。そういうスキルもあるのだろうと受け止める。
「で、その人が作ったのが『大和連合』さ」
「簡単に言うと互助会かな?日本人同士の」
他のメンバーも会話に加わり、説明をしてくれる。
「この訳の分からない世界で暮らすにしろ、日本に帰るにしろ。私らだけじゃ危なくてしょうがない」
「価値観が違う奴ばっかりだからな!まともに会話するのすら難しい。そこで、せめて日本人同士助け合いましょうってこった」
「なるほど」
どうやら心細い思いをしていたのは自分だけじゃなかったらしい。
しかし、いくら分身というスキルがあったにせよ、よくギルマス?って人はここまで日本人を集められたな。
「是非、僕も加えてください!お願いします!」
「お、おう。そりゃもちろんだがよ。いいのかい、そんなホイホイ頷いちまって。俺が堅気でも襲っちまうケダモノかもしれないんだぜ?」
「いや……本当に獣みたいなのは、この世界の住人ですよ」
平気で人の物は盗むし、死体がその辺に転がっていても気にしない。それどころか、何か金目の物はないかと漁る始末。
汚いし、怖い。この世界は、そういう場所だ。
「……そうかい。色々あったんだな」
「はい……あ、そう言えば、ギルマスってどういう人なんですか?」
「どうって……」
「そうねー……」
二人して数秒ほど考えた後、真顔でこう言ってきた。
「獣?」
「変態?」
「……は?」
我ながら気の抜けた声が出たが、それをかき消すように勢いよく酒場のドアが開いた。
何事かと思い剣に手をかけながら視線を向ければ――。
「待たせたな皆の衆!お主らのアイドルにして大和連合の盟主……そう、儂じゃぁ!」
白髪に狐の耳。紅い隈取をほどこした幼い少女。改造巫女服に身を包み、小さい体で尊大に腕を組んでそう叫んでいた。
どこか頭痛を堪える様に、説明してくれていた人がこちらに声をかけてくる。
「あー、アレがうちのギルマスだ。変な人だけど、悪い人じゃないんだ。それにとてつもなく強い」
「うん。頼りにはなるのよ。頼りには。けど少し頭が、ね……?」
「可憐だ……」
「「え」」
「なんて、可憐なんだ……!」
なるほど。僕がこの世界に来たのは……あの人に出会うためだったんだ……!
「おい……」
「……類は友を呼ぶって、本当なのね……」
なにやら先ほどの二人が顔を引きつらせているが、自分の目は彼女から離せなかった。
「聞け、皆の衆。そろそろ……儂らの『国』を作る時が来たようじゃぞ」
ニヤリと、ギルマスが不敵な笑みを浮かべた。
「きゃわいいいいいいいいいい!!!」
「え、なにそやつ……こわ」
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