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Past Letter  作者: 東師越
第3章 ホシノキズナ
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第95話 非情なる無意味

 「っぐ!!……」


 「……はぁ……はぁ……」


 ルブラーン王宮地下12階にて───ハロドックとルナは棍棒と剣を交わして打ち合い、世界最固の物質キブニウムによって作られた部屋は既に傷や凹みだらけとなっていた。


 「はぁ……はぁ……」


 (やはり腐ってもハロドック・グラエル……強い……その一言で表すにはあまりにも足りない程……正確無比……)


 「ちぃ……」


 (やり辛ぇな……どう攻めても着いて来やがる……たった500年の人生で、俺と同等以上ってか……我が遺伝子ながら呆れる…)


 ハロドックは右手に持つ紫紺に輝きを放ち出す棍棒を、キブニウムで造られている床に勢いよく突き刺す。


 その瞬間棍棒を中心に小さな魔法陣が現れ、ルナの足下にも同じ魔法陣が現れる。


 「〝陣操刺体(スティング・ホール)〟」


 当然危機だろうと察したルナは後方に跳んで足下の魔法陣から移動した。


 その瞬間にその魔法陣の中心から棍棒が恐ろしいスピードで出現し、殺傷力を高められた勢いで真上に直進する。


 同じく妖しげな紫紺に輝く棍棒のため、あたかもハロドックの床に突き刺した棍棒とつながっているように見えた。


 「……っ!?」


 直進し天井に直撃するかと思われたその時、その棍棒は急激に停止し、標的が見えているのか蛇のようにうねりながらどこまでも伸びてルナを追尾し始めた。


 「ちぃ……」


 剣で斬っても傷ひとつ付かず、弾いてもすぐに追い続ける棍棒をルナはギリギリまで引きつけてから紙一重にかわし、右足でうねる棍棒を地面に叩き踏んだ。


 「おらあっ!!!」


 ハロドックは追尾する棍棒に夢中となったルナのスキを付き、確実に今踏んでいるはずの棍棒を頭上に振り下ろす。


 かわすタイミングを見失ったルナは直撃を免れられず、大きなダメージとなったこの一撃で僅かにフラつき、姿勢を崩して右片膝をついた。


 (何だ今の円形は……見たことないが…)


 「おいルナ……その程度か?」


 「っ……」


 ハロドックはそこから追撃をする事無く、棍棒を肩でポンポンと叩きながら見下ろし立ちはだかる。


 どちらも未だ〝零域(ゾーン)〟のような強化状態に入っていないながら、世界最固の物質で造られている部屋に傷や凹みを付け、あちこちに血飛沫が飛び散っている。


 しかし双方には血飛沫が飛んだほどの傷跡は無い……互いの再生能力の質の高さが、他のどの場所よりも壮絶な死闘を繰り広げられているここでの双方の無傷という異常をもたらしている。


 「ユリの事俺から聞き出すんだろ?……生半可な肝でかかってんじゃねぇよ」


 ルナは立ち上がり、刹那に50撃近くの斬撃をハロドックに浴びせにかかるも、ハロドックは棍棒を一振りしてルナを退けた。


 「ぐっ……くっ……」


 「その程度かっつってんだよ!!!!」


 「───」


 負ける訳にはいかない……己の人生の全てを、今この時のために懸けてきたのだから。


 誰も踏み込めない両者譲らずの均衡状態。


 狭い範囲でほとんど休む間もなく、もう何十分と互いに攻め続ける。


 やがて衝撃でダイヤモンドよりも固い壁に亀裂が生じ始め、全世界のどこを見回してもこの速度、威力、判断力、技術、それらを持続させる持久力をぶつけ合う戦闘は見られないだろう。


 「はああああああああ!!!!!」


 「うおおおおおおおお!!!!!」


 一撃一撃に込められる力は世界を揺らし、その度に吹き荒れる衝撃波の颶風は呼吸すらも苦しくさせ、互角の闘いは終わる気配を感じさせない。




   ※ ※ ※ ※ ※ 




 約450年前、コーゴー本部序列外聖戦士だったルナは、ホーウェンの部屋にただ1人呼び出されていた。


 「失礼します」


 「ああ」


 ルナはノックをして部屋に入り、座るホーウェンの前に立った。


 「……俺が直々に鍛えてやる、マンツーマンで」


 「っ……」


 「そんなに驚くような事か?」


 驚くのも無理も無い……〝特等専属戦士(セカンド)〟すらかつて持った事の無い男が、誰か1人を贔屓して教官を申し出たのだから。


 「いえ……シキシマ教官が、ホーウェン代理は人を教えるのが嫌いだとおっしゃっていたので……」


 「……そりゃ、目標の無いような奴らに教えること程無意味な事は無いだろう」


 「……と……言いますと?」


 「ビジョンが見えていない者がどれだけ努力をしたって底はたかが知れている、ビジョンを持つ者でも、願って叶うようなビジョンでは意味が無い」


 するとホーウェンは立ち上がり、ルナの前に移動してより近い距離で面と向かって話し始める。


 ルナはその姿に思わず怖じ気づき、全身に鳥肌が立ち背筋も凍る。


 存在そのものが争いの抑止力となっている、まるで核兵器のような男……序列2位の存在感だ。


 「現在の特等は全員明確かつ届かない程遠いビジョンを見ている、目標を達成するための努力は、何よりも人を成長させる……その状態が常に保たれているのが、特等というモノだ」


 「……それが俺と、どう関係するのですか?」


 「お前はそのビジョンが見えている……目を見れば分かる、それは特等の目だ……それは……強者の証だ」


 「……光栄です」


 「……しかし、気を付けろ」


 「……というと」


 「───あの男は……この世で唯一───魔法が使える男だ」




   ※ ※ ※ ※ ※




 ルナは立ち上がり、何度もハロドックに牙を剥け、さらにルナの目は時間を経る毎に輝きだしていた。


 「本気を出せ……絞り出せ……そんなんで俺に勝てると思ってんのか……はぁ……舐めんなガキが」


 「……ふぅ───」


 ルナが息を整え、目を閉じると、ルナを中心に渦巻くようにオーラが凄まじく蠢いていた。


 「……んだよ、やれば出来んじゃねぇかよ」


 「───」




   ※ ※ ※ ※ ※




 ルナが呼吸を整え静かに力を増幅させていると、ホーウェンとの会話が頭によぎっていた。


 「エグゼル化は大した強化にはならない……だが、力量の数値化、闘値を見る事は戦闘において重要であるため、戦士は全員身に付けていなくてはならない」


 「……けど……俺には出来ません……」


 コーゴー本部内にある縦横100メートルはある正方形の部屋でルナは、ホーウェンとマンツーマンでの指導を受け、普段以上に励んでいる。


 「分かっている、俺も出来ない」


 「え……それじゃあ……」


 「理由は分かりきっている、混血だからだ」


 「混血……それが何か」


 すると誰も見たこと無いとされる、ホーウェンが自身の剣を抜く瞬間に立ち会い、ルナはつばをゴクリと飲んで緊張感を全身に走らせる。


 「本来交わってはならない遺伝子が、奇跡的な確立で繋がっている、ただでさえ不安定なのに、エグゼル化は〝零域(ゾーン)〟とは根本的な違いがある……


 ……全く解明されてはいないが、混血はエグゼル化にはなれない事がリ:ミゼルで確立された」


 「……なら、教官はどうやって……」


 ホーウェンが低く姿勢を取った瞬間にルナは受けの体勢に入るが、入った時には既にホーウェンはルナの背後で剣をしまっていた。


 そしてルナの四肢、腹部にそれぞれ5つずつバツ字の斬撃が加わっており、ルナは膝から崩れ落ちながらも、未知の領域への邂逅に胸躍らせ少し微笑む。


 「……全く同じは不可能だが、混血にしか出来ない方法がある……それを修得すれば、エグゼル化と同様闘値が見え、しかしエグゼル化と異なり力量は通常の倍以上にはなる───俺は約5倍だ」




   ※ ※ ※ ※ ※




 やがてルナを中心に渦巻いていたオーラは落ち着き、むき出しだった感情を収束したルナの力量が恐ろしく向上した。


 「……ホーウェンにでも入れ知恵されたか───ディアボロ化」


 「ホーウェン・フェンリルと同程度の上昇率だ」


 「おー怖」


 その言葉を言い始めてから斬りにかかり、言い終わるまでに背後で剣をしまい、ハロドックの胴体が真っ二つに斬り裂かれる。


 ハロドックはそれを数秒で再生させるも、怒濤の攻撃を対処しきれず、ハロドックは壁に激突し同時に四肢が斬り裂かれた。


 瞬時に再生させるも、その再生間にルナは間を詰め細切れにするかのように僅かな秒数で幾千ものの斬撃を入れ、壁は一部完全に無くなり、土が丸見えとなっていた。


 しかしハロドックは難なく再生し、立ち上がった。


 「まだだ」


 そう自身を鼓舞するハロドックは紫紺に輝く棍棒を横に振り、部屋中の床、天井、壁を覆い尽くすように優に100を超える魔法陣を繰り出す。


 「〝魔波乱舞(ダークネス・フェアリー)〟」


 ハロドックは持てる魔法の力の全てを駆使して、全ての魔法陣から轟音を立てて金色に目で観測出来るエネルギーを繰り出し、それらを高圧縮したピンポン球ほどの大きさのエネルギーの球を20近く繰り出す。


 魔法陣はまだ消える事無く、ハロドックはエネルギーの球を躊躇わずルナに棍棒を向けて放つ。


 ひとつひとつが不規則にどこまでも追尾するこの球がルナのみぞおち付近に潜り込めば、高圧縮された球が一気に膨張し、国ひとつが滅びかねないとてつもない威力の爆破がルナを襲う。


 それに連鎖するように残り全ての球が膨張し、大陸ひとつが海に還りかねない爆破がこの狭い空間を襲った。


 この技こそがハロドック曰く、天災を超えるとされる魔法史上最強の代物、〝魔波乱舞(ダークネス・フェアリー)〟だ


 この部屋が木っ端微塵に壊れず、ルブラーンにどれほどの影響も与えられないままなのは、ハロドックが魔法の技の影響を抑える魔法陣を壁に張り続けていたのだ。




 「───で?……」


 それらをくらってなおも無傷であれるルナを見て、少し息の切れているハロドックは意図的にニヤリと笑う。


 「なるほど……ホーウェンと戦ったの思い出したわ……」


 そう言ってハロドックは全てのオーラを消し、唯一無二の極限集中状態───〝零域(ゾーン)〟に入った。


 これに入るということはすなわち、ハロドックもまた選ばれし強者なのだ。


 「これで互角くらいか?」


 「叩きのめす」


 ハロドックとルナはさらに速度を上げて部屋全体でぶつかり合い、約1秒で部屋の5カ所で巨大な衝撃波が広がっていっていた。


 「うおおおおお!!!!」


 「はあああああ!!!!」


 ルナが剣をハロドックの頭を狙うもハロドックは棍棒でいなし、ルナの左側頭部を右脚で蹴りにかかった。


 「うおおおあああ!!!!」


 ルナは紙一重でハロドックの蹴りをかわし、右拳でハロドックの顎を殴り上げた。


 ハロドックは首から上が天井に突き刺さり、身動きが取れなくなった。


 「っぐ……」


 ルナは一瞬でハロドックの肉体を何百も細切れにするも、その細切れになった肉体の欠片の一つが再生し、瞬時にハロドックは元に戻った。


 そして他の肉片は気化し、どういう訳かハロドックの棍棒に吸い込まれていった。


 「はぁ……はぁ……」


 (マジで互角じゃねぇか……どうなってんだ混血のそれは……ヤバい……死にはしねぇが、死なねぇのが仇になってくるかもしれねぇな…ろ)


 「ちぃ……」


 (まだか……再生はするがダメージは残るはず……)


 2人は僅かに向かい合って立ち止まり、息を整えた後再び激しくぶつかり合う───。




   ※ ※ ※ ※ ※




 ルナの脳裏には再びホーウェンとの過去が映る。


 「まだ足りない?」


 「……奴を倒すには……ディアボロ化だけでは限界があります」


 「なら、限界の無い力を手に入れたらいい」


 「……限界の無い力……」


 「〝零域(ゾーン)〟は自分が強くなればさらに洗練される……耐えられる肉体とスタミナが必要だがな……」


 (……俺は勝つ……この力で……お前の過去に復讐する)




   ※ ※ ※ ※ ※




 するとルナはハロドックから僅かに離れ、剣をハロドックの顔面に刺さるように投げ放った。


 ハロドックは刃を握って床に投げ捨て前を見ると、ルナの姿はなかった。


 「っち……」


 「はあああああ!!!!」


 ルナはハロドックの頭上に跳び上がり、縦に一回転し勢いをつけ、ハロドックの脳天に踵を思い切り蹴り落とす。


 ハロドックは顔面を思い切り地面に叩き付けられ、地下12階の床全体に亀裂が生じ、床が崩落し、ハロドックは地下13階の床に叩き付けられ、そこを中心にさらに地下13階の地面も僅かに亀裂が入った。


 「……ったく……マジかよ……」


 ハロドックは仰向けになり、腕で支えて僅かに上体を起こしてルナを見る。


 ルナの右目は白金に輝き、左目からは黒い涙を流していた。


 「お前を殺す、そのために生きてきた───今日の日のために」


 「───ディアボロ化と〝零域(ゾーン)〟の併用……怪物かよ……やり辛ぇよ……ガービウとやった時くらいな」


 今ハロドックの目の前にいる敵はこれまで生きてきた中でも、5本の指に入る程の強敵となっている。

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