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Past Letter  作者: 東師越
第3章 ホシノキズナ
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第75話 父と子

 さっきまでとはあまりに違う、体の軽さ、疲れない体……いつまでも走っていられそうな、そんな感覚。


 「はぁ……はぁ……」


 シュベレットとの激しい戦闘は、あまりにも呆気ない幕引きだった。


 呆気ないと言うと、リドリーとデゼルトの命がけの行為に対して失礼極まりないだろう。


 リドリーは持つ力の全てを駆使した、技術も膂力も心も未来すらも……持てる全てをぶつけた。


 それでも敵わなかった……シュベレットは、桁違いなんてレベルではない……元コーゴーの特等聖戦士だ。


 一体幾つもの奇跡が折り重なったら、このような結果になるのだろうか。


 発動する条件すらあやふやな、実体験も数回あるかないかの呪力に頼らざるを得ない状況に陥った……当然と言えば当然だ、呪力以外に、シュベレットを倒す方法なんて在りはしなかった。


 しかしリドリーは、瞬間躊躇った。


 呪力しかない、発動さえすればほぼ無敵の呪力しかない……分かっていたのに、そのために生命力を絞り尽くす努力を怠った。


 故に働いてしまった、〝聖器(ポーマ)〟の自己防衛本能。


 地斧デゼルトがリドリーに可能性を感じたからこそ、わざわざデゼルトの意志でリドリーの望む結末へと導いた。


 デゼルトのリドリーに対しての好感度の高さと、シュベレットの慎重さが結果的に功を奏した。


 未だ1人で何も成し遂げられない……敵にすら頼らないと、闘って勝てない。


 1人で何も出来ない弱い自分が、愛する人をこの先本気で護れるのだろうか?


 自分がダメでも、ベイルやハロドックがいるからアリシアは護られると安心している、満足しているのではないか?


 違うだろう、自分は彼女を愛しているんだろう!!ならばもっと強欲に!傲慢に!自分が護ってやると自分に言い聞かせてやれ!!


 満たされるな!逃げるな!他力本願になるな!


 道が険しいことくらい分かっていたはずだ、その覚悟は何度も決めたはずだ、アリシアを取り巻く全てが世界を巻き込むほど巨大だと、ついさっき死ぬほど実感した。


 噛みしめる祈りは、抱きしめる願いは、伝えたい想いは、山ほどある……。


 進め、アリシアを利用して、自分が強くなれ、そしてアリシアを護り抜くんだ。


 下る階段、トラップが出尽くした各階の部屋を走り抜け、アリシアを抱きしめにいくんだ。


 自分という存在が、アリシアにとって安心の対象となるんだ。


 この世の全てが敵でも、自分が護り抜くと心に刻み込め!


 くよくよする時間は終わった、反省もした、覚悟も決めた、抱きしめる準備も整った。


 後は迎えに行くだけだ…またいつもの日常を!笑顔で歩むんだ───




   ※ ※ ※ ※ ※




 リドリーが地下階段を下り地下12階に来ると、そこにはハロドックとルナの姿はなかった。


 そこには確かにいるはずなのに、気配は確かにあるのに……姿形はどこにも見当たらない……気色の悪い雰囲気だ。


 「……何だこの部屋……」


 リドリーは警戒し足を止めるが、危険は無いと見てそのまま部屋を通過し地下階段を下っていった。




   ※ ※ ※ ※ ※




 リドリーが部屋を通過した数秒後に、ハロドックとルナが突如部屋に現れた。


 「……邪魔はされたくねぇもんな~」


 「同感だ」


 ハロドックは時間を止め、リドリーの背後、1つ上の階の踊り場にいてそこから降りてくる。


 ルナはこの部屋に仕組まれていた壁の中に潜み、リドリーが通り過ぎるのをやり過ごした。


 そこまでして、2人は誰にも邪魔などされたくなかった。




   ※ ※ ※ ※ ※




 少し前、ルナはハロドックを睨み付けながら剣を抜いた。


 「何か言いたげだな、ルナ」


 「言いたい事は山ほどある……が、今は一つでいい」


 片手で握りハロドックに向ける刃は、量産型などではないルナ専用の剣だ。


 魔力が流れるように設計され、キレ味が格段に増す設計だ。


 ルナは今日人間界の兵団の最高職である長官のも、コーゴーで最も名誉だと、誇りだと、強さの証だとされる特等聖戦士の印のも、どの徽章も身につけていない。


 つまり1人の男、ルナとして、過去の全てに決着をつけに来たのだ。


 「……何だ」


 「母さんを殺したのは……お前なんだな」


 「……ああ」


 隠すつもりも、悪びれる気も無い……倦ねはしたが、それでも答えた。


 その一言を聞き、ルナはさらに歯を食いしばり、強く鋭い眼光をハロドックに浴びせる。


 「よくもそう飄々と……〝狂犬〟の異名は伊達じゃないということか」


 「俺だって心はある、じゃないと痴漢なんて出来ねぇだろ?」


 するとハロドックは腰のベルトに付けてある鞘から、ナイフを取り出した。


 「ナイフで俺の剣とやる気か?」


 「出来ればナイフのまま……終わりてぇな~」


 ハロドックはいつの間にかルナの背後に回り込み、右手に持ったナイフをルナの右側の首元に刃を突き立てた。


 「安心しろ、そのまま終わらせる」


 ルナはハロドックが背後に回り込む前から剣の切っ先を背後に回し、ハロドックの腹部に突き刺さっていた。


 「……けっ……やっぱ天敵だな、俺の〝時停世界(ヘブン)〟は無敵だと思ってたんだがな~」


 「俺の〝未来予測(プリデクション)〟は、時間を止めようが関係ない」


 ハロドックの腹から剣を抜けば、その深い傷はすぐに再生する……魔力は全く使っていない、それでもラルフェウ並に凄まじい再生速度を実現させるのは、無限の生命力……不老不死の成せるモノだ。


 ルナはその事実を理解している……理解した上で、ハロドックを倒すために、誇りも何もかもを捨て、過去を断ち切りに来た。


 「そうとも限らないだろ」


 するとルナは剣を何もない目の前を振り下ろしにかかった。


 その瞬間ハロドックが目の前に現れ、ルナはハロドックの左腕を切断した。


 「……なるほどな……さすがに1秒未満だと見切れねぇわな」


 ハロドックが次、何をどうするのかは呪力を駆使すれば容易く見破れる。


 たとえ時間を止めた所で、視えたなら全ては皆無と化す……後はそれに反応出来る己自身があってこそ、完成する代物。


 「それが限界か?」


 「……やめだやめだ」


 「?……」


 少し会話の間を空けてから、ハロドックは気怠げな声色で、ナイフを右手に持ったまま、両腕を上げてそう言う。


 「あのなぁ、俺は確かにアリシア助けに来たよ?そういう宿命なんで、けどな?それは半分建前な訳だ……これを機に、ちゃんと親子喧嘩しねぇとなと思った……


 ……呪力厚かましくぶつけて、頭凝らしてギリギリの緊張感の中での命のやり取りはごめんだあああ!!……殴り合うぞー、武器使用可で」


 「……なら俄然ナイフで戦うのはどうかと思うがな」


 「へいへい」




 するとハロドックはナイフを金色に光り輝かせ、ハロドックの身長と同じ程の棍棒に変化させた。


 棍棒の真ん中には持ち手があり、全体に様々な模様を印している……そして両端には、刃も顔を出している。


 「これでいいよな」


 「奇怪な武器だな」


 「女からもらったんだよ、〝魔操棍(ハロドック・マジック)〟だ」


 「知らん」


 ルナとハロドックは互いの武器を振り、2つの武器は火花を散らす程の衝撃が部屋全体に迸った。


 「いい剣だな」


 「本部聖戦士の上等以上は特注武器を持てる、知らないとは思えないが」


 「もちろん知ってますが?」


 そして再び2人はさっきと同じ程の威力で激しくぶつかり合った。


 「何故母さんを殺した……答えろ!!!!」


 「聞きてぇなら言わせてみろ!!俺を殺してでもな!!」


 2人は何度も何度も激しくぶつかり合い、しばらくして衝撃波だけでキブニウムの部屋全体が凹んでいた。


 その破壊力から見てとれる…このルブラーン攻防戦、最大の戦闘はこの2人による一騎打ちだ。


 その火蓋が切られた……誰も止める事は出来ない、2人が望んだ結果の終着地に、誰にも文句など言わせやしない。


 張り詰めた空気の中、計り知れない思いを胸に、血の繋がった親子は、今この瞬間から、互いに血を流し合う。








 (……これで……いいのかよ───ユリ……)

次話よりハロドックの過去が一部明らかになります。

よろしくお願いいたします。

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