第74話 手向けられたヒガンバナ
「うおおお!!!!」
「はあっ!!!!」
リドリーは跳び上がりシュベレットの脳天に地斧デゼルトを振り下ろすも、シュベレットは左拳を突き上げて食い止めた。
〝聖器〟の刃も通さない肉体を未だ攻略出来ず、意気込んだリドリーの心を挫きにかかる。
「ちぃ……」
「ふっ……」
リドリーとシュベレットは押し切り合い、双方が後ろに飛ばされた。
リドリーは両足と左手の平を地面について着地し、シュベレットは数メートル地面を擦るもすぐに止まり、2人は部屋中を移動し激しくぶつかり合っていた。
「はああ!!……おらああ!!……どけえええ!!!」
「はあっ!!……せいっ!!……行かせん!!!」
(かなり時間を食ってる……アリシアはかわいいから何されてるか……速くこいつ片づけて……あたしが行かないと……アリシアは絶対に助ける!!!)
徐々に、されど確かに、リドリーはシュベレットの動きに対応してきている。
もちろんシュベレットはまだ本気とはほど遠いが、リドリーの対応速度はそれでも恐怖感を孕ませる勢いだ。
(攻撃の度に速く重くキレが増していっている……想像よりも速く成長している……ルナ様の元へは誰一人向かわせはしない、邪魔はさせない……
……愛する家族を捨ててまで守ると誓った方の宝……私が守らなくて誰が守る!!!)
リドリーとシュベレットは各々の思いを胸に戦闘を繰り広げている。
相容れない2人の戦闘はその後数十分、ノンストップで続く……パワーもスピードも上昇させながら、切れていく息も忘れながら。
※ ※ ※ ※ ※
そしてシュベレットがもう何回目になる攻撃手段かという、空中でリドリーを蹴り飛ばしリドリーは床がめり込むほどの衝撃で叩き付けられた。
「……ようやく息がつける……ふぅ……」
「……おかしいだろ」
「……何がだ」
「誰も行かせないんなら……あのチビと変態とペンギンは……よかったのかよ……はぁ……はぁ……」
リドリーは立ち上がろうとするも、足に激痛が走り力が入らず立てずにいた。
リドリーはずっと疑問に感じていた……アリシアを守るなら、自身よりもベイルやハロドックを行かせない方が良いはずだと。
認めたくないが、その2人の方が強く厄介な相手だろう、と。
そしてこの時点で、リドリーの脳内にニコラスの存在は消えていた。
「ハロドック・グラエルは我々の目的だった、彼はユリ様の恩人故に私にはそもそもどうこうする資格は無い、それに彼もそれを理解しているだろう、たとえベイル・ペプガールやあのペンギンでも、介入させないだろう……
……ベイル・ペプガールさえいれば、ケイナン・クルエルの野望は打ち砕かれるはずだ」
「……味方じゃねぇのかよ」
「味方?ケイナン・クルエルは昔から野蛮な男だ、信用ならない」
アリシアの問題とはまた別に、誰も介入させたくない何らかの因縁がある別問題があるらしい。
リドリーはそんなことを邪魔する気など無いが、アリシアの元へ通過するためにはその因縁がぶつかる部屋を通過しなくてはならない。
そうなれば味方陣営にいるハロドックにも殺されかねない……それだけ緊迫した戦場なのだろう。
わざわざこうやって考えさせてくれる間を与えてまで、シュベレットはリドリーに自分が足止め食わされている理由を教えさせた。
ケイナンはベイルで十分、ペンギンはよく分からないが問題にはならない、リドリーが放っている突き刺すオーラがシュベレットの目にとまったのだ。
「……あっそう……ぐっ……」
そしてもう一つ間を与えた理由は……極限の集中力と、アドレナリンがドバドバ出ているので気付いていなかったダメージを気付かせるためでもあった。
「両の足を折った、地下とはいえほとんどが人工物質の無機質な部屋で自然治癒は期待出来ないだろう、チの一族はたとえ海の中だろうと底に大地さえあればという強みがあるからな……無力な己を呪え」
「……ふざけんな……」
「呪力でも使えたなら、少し変わったかもしれないのにな」
「……あたしのは自由に……使えないんだよ……」
するとリドリーは、足が折れているにもかかわらずゆっくり立ち上がった。
抗え……抗え……諦めるな……たかが両足の骨が折れただけだ……。
何のために闘ってきた?何のために絶望を味わってきた?何度でも心をへし折ってくるなら、それ以上に強く在ればいい……。
アリシアが感じる不安や恐怖からしてみれば、両足の骨折なんて痛くも痒くも無い!!
「何故無理をする」
「全ては……愛する女のためだ」
「なら、せいぜい私がお前の目から光を消した後に、その灯火を吹き消そう」
シュベレットは一瞬でリドリーの背後に回り込み、背中を渾身の右拳で正拳突きをした。
「つぇえああ!!!」
「がっ……」
リドリーは抵抗出来ず、向かい側の壁に激突した。
「まだだ」
さらにシュベレットはリドリーの首根っこを掴み、顔を自身の前に持っていった。
「ふんっっ!!!」
シュベレットはリドリーの額に思い切り頭突きした。
「てあああっ!!!」
シュベレットはリドリーの首根っこを掴んだまま地面に叩き付けた。
「まだだあああ!!!」
さらにシュベレットは10数回もリドリーの顔面を地面に思い切り叩き付けた。
リドリーは何度も吐血し、気絶していた。
「おおおあああ!!!」
そしてシュベレットはリドリーの両腕を両手で持ち、その場で恐ろしいスピードで回転し、跳び上がって地面に叩き付けた。
「……ここまですれば、身も芯も折れるだろう……いや……」
シュベレットは着地した後、突然何かに気が付き周囲を見渡した。
「やはり……あの片手斧が無い……消えるなど……あるのか?……」
「そうなったら面白いな」
するとリドリーは奇妙な立ち上がり方をし、変色した目でシュベレットを見た。
「……どうなっている……」
「我が名は地斧デゼルト、獄刀インフェルノと並ぶ龍人族の〝聖器〟だ……今は、チの民であるリドリー・ミボルを選び、こうしてこの身に入った訳だ」
〝聖器〟の自己防衛本能───
たとえ〝聖器〟が持ち主を認めたとしても、持ち主が死にかけてもこの本能は普段働くことはない。
持ち主が死んでもまた別に持ち主が現れるから、どちらでもいいのだ。
故にこの現象は、〝聖器〟自身の気まぐれに左右される奇跡よりも運命に好かれていない現象だ。
しかしリドリーは、デゼルトの重い重い腰を上げた。
「……どういう意味だ……」
「人間、言葉を慎め……私は守護神ウーヴォリンより、種族の均衡と調和の保持のために生み出された〝聖器〟だ、我が言葉は神の言葉と思え」
「あいにくだが私は無神論者なんだ、それより説明してもらおうか、お前が何者なのか」
「……存在定義は今言った通りだ、この娘は私が選んだ者だ、発展途上のまま死なれては困るので、私が代わりに肉体を操作する……しかし……人の肉体に入るのは久しい故に、まだ慣れなくてな」
「……ほう」
「身構える必要は無い、足をくっつけた程度で〝聖器〟として持つ力は失せた……所有者の成長が私の成長、まだ力は貧弱なものだ」
「……それでも、警戒を解けという方が無理だな」
するとシュベレットは〝零域〟に入り、さらに加速してリドリーの顔面に右拳を打った。
「っ!?」
リドリー……否、デゼルトは軽々とかわし、シュベレットの右拳を回し蹴りで弾き飛ばした。
シュベレットが実際にリドリーにやってみせた身のこなしをデゼルトはあっさりと再現した。
「確かこうだったな」
「だからなんと?」
シュベレットは左拳を小指を下にリドリーの頭上に振り下ろしにかかった。
しかしリドリーは右腕で受け止め、リドリーの立つ場所はかなりめり込んだ。
「……どういうことだ……〝零域〟には入っていない……それでいて私と対等……だと?……」
「私はリドリー・ミボルが現状保持する力しか出せない、何せ肉体を借りてるだけだからな」
つまり、なけなしのリドリーの生命力を無理矢理引き出して動いているために僅かに生存の時間を長引かせている。
一見無駄な行動にも思えるが、デゼルトは何か策略があっての行動なのだろう……不敵な笑みがそれを表している。
シュベレットもそれに警戒し、切り札を出して全力を挙げて倒しにかかっている。
「……つまり……私より……力が上だと?」
「分からない、この娘は〝零域〟とやらには入れない……あと私の持ち時間は娘が目覚めるまでだ、少し急かす」
そう言ってデゼルトはシュベレットの左腕を両手で掴み、背負い投げた。
シュベレットは背中を壁に強く打ち付けた。
激突した壁はシュベレットがデゼルトに激突させた際より広く深く凹んでいた。
「ぐあっ……」
(立地が悪いな……共鳴は出来ない……ならば……)
デゼルトはシュベレットに右拳を殴りにかかるも、シュベレットは瞬時にかわしリドリーの背後に回った。
デゼルトの右拳はさっきの攻撃で凹んだ壁をより凹ませた。
「鈍い」
シュベレットは両拳をリドリーの背中に数十発撃ち込みにかかった。
デゼルトは即座に振り向き、デゼルトもまたシュベレットと同じ数だけの両拳を撃ち放っていた。
(この壁はかなり厚い……穴でも開けて共鳴しようと思ったが…穴が開く前に死にそうだ……それにダメージはこちらの方が大きい……相当分が悪い……)
「おおおおおおおお!!!!」
「ぐぅ……」
「はああ!!!!」
デゼルトは腕が軋みだし僅かに苦悶の表情を浮かべると、シュベレットは見逃さずさらに拳を打つ速さを上げデゼルトに競り勝ち体に数十発の拳を打ち込んだ。
「ふんっっ!!!!」
そしてシュベレットは渾身の右拳を加えるも、デゼルトは顔の前で腕をクロスし、右拳を防いだ。
「……仕方が無い」
シュベレットはそう言うと、右拳を受けたデゼルトの両腕の肉が腐り始めた。
「っ!?……つう……」
「〝酸腐食〟……使わずなるようになればよかったがな……一線を退くとやはり鈍るか」
「……私もここまでか……」
するとデゼルトはふらふらとうつぶせに倒れ、リドリーの右手には地斧デゼルトが現れた。
「……アリ……シア……ぐっ……」
生命力をデゼルトに根こそぎ持って行かれたリドリーは、もはや立つことも不可能となっている。
「死に際だな……もう既に焦点が合っていない……さらばだ」
シュベレットも〝零域〟を解き、しばらく戦線から離れていたためにやや無理をしたフラフラな体を動かしリドリーに近づく。
シュベレットはうつぶせに倒れて動けないリドリーの背中を右拳で殴りにかかった。
するといつの間にか、部屋中に黒い霧が発生していた。
「……何だ……うっ!!!?……が……」
シュベレットがそれを吸うと、突然首を押さえて倒れ呼吸が出来なくなっていった。
「か……か……」
そしてリドリーは逆に、その黒い霧を吸うと全ての傷とダメージを治癒していた。
「───〝死滅域〟……あたしが生死を彷徨ったときだけ体中の汗腺から噴き出る黒い霧……それあたしが吸ったら全部リセットだけど、他はすぐ死ぬ」
「か……あ……」
シュベレットはしばらく悶絶した後口から泡を吹き、腕がぱたりと地面につき伸びきった。
そしてシュベレットの心臓のある胸部からヒガンバナが一輪咲いた。
デゼルトの狙いはこのため、死に際を彷徨うという呪力発動の条件を整えるため。
リドリーが奥の奥の手として手札に加えている、一発逆転の呪力を発動させるためだった。
「……はぁ……アリシア……」
リドリーは部屋を後にし、地下階段を走って下っていった。




