第59話 ただ一つのために
「……乳のデカい奴に孕ませたが……〝ホシノキズナ〟を持つと貧乳となる決まりでもあるのか……」
ケイナンともう一人着いてきた男は、巨大な機械の状態を見始めた。
「王、今しばし準備をお待ちください」
「ああ」
ケイナンは完全武装をし、アリシアの前に現れた。
「……何か言いたげだな」
アリシアは座り込み、胸と陰部を手で隠しつつケイナンを睨み付けていた。
「……何をしたの……」
「それについてはお前が知る必要はない、他に無いのか?」
「───」
「……致し方ないか……そりゃそうだ、予告も無しにここに連れてこられたら、さすがに言葉は突然出ないだろう」
「……帰して」
「……何だって?」
「私を!!……皆のところに帰して!!」
立ち上がり両拳を握り、勇気を振り絞ったアリシアはケイナンの目を見て、怒りをぶつけた。
「……帰してというのは違うだろう、ここがお前の帰るべき場所だ」
その返答も想定済みだったケイナンは、冷静に返答する。
「違う!!」
「何も違わないだろ、お前は隠しもせずクルエルと名乗っている、クルエルの始まりと終着地はここルブラーンなのだ」
「───」
「自覚していないのか、お前は自分が無力だと」
「っ……」
そんなことは、アリシア自身がよく分かっていた。
それでも、それが抗わない理由にはならない事もよく分かっていた。
「王、ルナ長官から報告です……全ての兵の配置、整いました」
男はヘッドホンのように、両耳に〝言伝貝〟を取り付け、連絡を常時受け取れる状態にある。
「分かった……そっちの調整はどうだ?」
「……全ての線に問題ありません、主電源他68の電源、全て正常、冷却装置、正常、メーター安全圏内、いつでも行けます」
「……さあ、ここに入れ」
ケイナンはそう言って機械の左側にある人一人が横になれる、機械と管が繋がっているカプセルの元に歩み寄り、四角いスイッチを押しカプセルを開けた。
「お前の命と引き換えに、大いなる力があるべき場所へと還るのだ」
「……何……え……」
「無力なお前が唯一役に立つ、お前にしか出来ない役目だ」
※ ※ ※ ※ ※
同じ頃、サン・ラピヌ・シ・ソノのアンビティオ号では、アリシアの突然の消失により混乱状態にあった。
「アリシア!!!!どこだアリシア!!!!」
リドリーは頭が真っ白になりながらサン・ラピヌ・シ・ソノ中を駆け回り、アリシアを捜し続けていた。
「うるせぇな、だいたい見当はついてる」
「どこっすか!?」
「ルブラーンだろ」
ハロドックは至って冷静なまま、目線はゾーネの胸の谷間ながら真剣な表情で言葉を発した。
「ど~やってきえたの~?」
「……裏にジェノサイドがいやがるな、大胆に実行してきたって事はアリシアをどうこう出来る手段も、俺をどうこう出来る算段も、目的を行使出来る条件も揃ってんぞ」
「な~んでてめぇをどうこうすんだよハロドック~?」
「黙れペンギン、マジでやべぇんだよ」
するとアンビティオ号にラルフェウとビオラとうさちゃんが駆けつけた。
「ハロドックさん!……アリシアさんは……」
「見ての通りだ」
「……すみません……アリシアさんの護衛は……僕の使命だったのに……」
「……アリシアの保護が最優先だが……幸運な事に、まだ〝ホシノキズナ〟は覚醒してねぇ」
「……覚醒?」
「〝王証〟はそもそも覚醒させなきゃ宝の持ち腐れなんだよ、しかも〝ホシノキズナ〟はその中で唯一、覚醒が2段階ある……
……2段階目に入ったら……最大出力のベイルやガービウと互角の力がおまけで付いてくる……敵に欲しくねぇ、アリシア以外の誰かじゃ…次の機会は何万年後になるやら……」
「……おい」
するとほぼ興味を示さなかったクラジューが口を開いた。
「勝手に話進んでるけど、俺は行く気にならねぇな」
「……そういえば、お前ら何でここにいんの?リドリーちゃんは見て分かるけど……こんなくせ者集団よく集まったな……」
「アニキに拾ってくれたっすから」
「クラジューくんがいるから~♪」
「ワタシが答える義理は無い」
「……条件を飲んだだけだ」
「〝闘戦〟か?」
「───」
あまりにもバラバラな理由についてはハロドックは驚かなかったが、だいたいがベイルとの信頼関係はほぼ0だという事を不思議に思った。
そしてクラジューはハロドックの視線に気が付き、無言で顔面を殴った。
「ぶはっ!……いいか、ベイルは俺と組んだ、ベイルに着いてくみてぇな条件ならちゃんと俺にも着いてきたまえ」
「は?俺にはあの人間を助ける意味がねぇんだよ」
「バカああ!!!」
するとクラジューの左頬をゾーネは右手で思い切りビンタした。
「……痛って……何だよ!」
「めのまえにこまってるひとがいたら、たすけてあげなきゃいけないの~!!!」
「……はあ?」
勇気を振り絞ったゾーネは、感情が高ぶったため涙目となりながらもクラジューを説得しようとした。
「女にそこまで言わせたら行くしかねぇな」
「は?行きたくねぇのに行くかよ」
ハロドックは、決まったと思わんばかりの一言でクラジューの説得は終わったと思ったが、クラジューは本気で理解も納得もしていなかった。
クラジューがそう言い放つと、周りが一瞬凍り付いたように静かになった。
「……最低かよ」
「何が?……」
アリシアとはあまりにも自分に接点の無いので、関係ないのに何故行かないといけないのか?と言わんばかりに首を傾げたが、ゾーネが行くなら行こうと思うクラジューだった。
するとベイルとキリウスがとぼとぼ歩いて船に戻ってきた。
「荷物運び終わった?」
「……ああ」
「ベイル様……」
「……ラルフェウ、お前がやれよ」
状況を察しているベイルは、アリシアのいる場所への最短ルートとしてラルフェウの呪力を利用しようと提案した。
「えっ……しかし……ベイル様の方が速いのでは……」
しかしそれはベイルも同じく可能な事だった。
「俺やったら微調整利かねぇよ」
「……分かりました、皆さん船に乗り込んでください」
これ以上ベイルに何かを言っても、おそらく色々こじつけて使わないつもりだとラルフェウは察した。
そして同時にここでベイルが力を使えばベイルは力尽き、早期の奪還を望む一行にとっては、早い回復が見込めないベイルよりも、自分がやるべきだとラルフェウは判断した。
その場にいる、うさちゃん以外の一行はすぐに船に乗り込んだ。
「おい、まだ乗ってねぇ奴いるぞ」
「誰?」
ベイルは船内に跳び乗り、まだサン・ラピヌ・シ・ソノ中を駆け回るリドリーを
「……よし、置いて行くか」
「ベイル様、ここで僅かな戦力ダウンも痛手かと……ルブラーンにはビオラさんのいた島で会った特等聖戦士もいるはずです……偶然や奇跡はバカに出来ません」
「いや冗談だかんな、そんなマジに反論しないで」
「も、申し訳ありません……」
「はあ……俺何でこいつに着いてったんだ…」
「っはっはっはっはっは!!心配すんなクラジュー、俺も後悔してる、分かるぞ」
自分の選択に落胆し、肩を落とすクラジューとハロドックは肩を組み、笑ってから真剣な表情を浮かべ、うんうんと頷いて同情した。
「……知らねぇよ」
ハロドックをウザく思ったクラジューは、ハロドックを軽く突き飛ばす。
「クラジューくん……」
ゾーネは自分が殴った事を怒ってないか、無理やり引っ張ってきた事が嫌じゃないか、不安そうにクラジューを見つめていた。
実際クラジューはの心情は、ぶたれた事に怒ってはいないが、嫌々感は否めない。
クラジューはそんなゾーネの顔を見て不安にさせてしまった事を悔やみ、自分をぶったゾーネの右手にそっと両手で触れ、優しく声をかけた。
「……ゾーネ、俺は行く……お前がそうしたいっつうんならな」
その言葉を聞いて安心したゾーネは、笑顔でクラジューに飛び付き抱きついた。
そしてクラジューは顔に思い切りゾーネの胸が当たっている事を気にして赤面する。
ほぼほぼ毎日クラジューの体のどこかには当たっているのに、全く慣れがやってこないクラジューの心臓はいつも速くなっている。
「だいすきだよ~!!クラジューく~ん!!」
「ああもういちいちくっつくなよ!……当たってるし……」
「男のツンデレとかどこに需要あんだよ」
ハロドックはひがみを込めてそう言いつつゾーネの尻を後ろから触りに右手を伸ばした。
しかし触れる直前に一瞬でゾーネの胸の中からハロドックの背後に回り、いつの間にかハロドックの右腕をクラジューは持っていた。
「ひゅ~、さすが」
「黙れ」
クラジューはその右腕を左手に持ち、ハロドックの左側頭部目掛けて振り飛ばした。
ハロドックは部屋の外壁に頭から激突した。
※ ※ ※ ※ ※
そんなやり取りをしている間にうさちゃんは僅か数秒で、港の反対側にいるリドリーの背後に回り、手刀でうなじを捌き気絶させた。
そしてリドリーを抱きかかえたままうさちゃんは数秒で戻ってきた。
「すげーなうさちゃん、速ぇ……」
「全然見えへんかってんけど」
(あの速さ……やはりビオラさんの言う通り……僕が見えたという事は恐らくほとんど力は出してないに等しいでしょうが……やはり〝韋駄天〟シシ・リンドラントは健在ということでしょうか……)
ラルフェウはうさちゃんからリドリーを受け取り、甲板で横に寝かせた。
「うさちゃんさん、ありがとうございました」
「……よい結果を祈っています」
するとラルフェウは両手の平を足下の床に置いた。
その瞬間、その場から船は忽然と姿を消した。
「……あと少しだよ、マナクリナ……」
※ ※ ※ ※ ※
サン・ラピヌ・シ・ソノから消えた一行を乗せた船は、ルブラーンを囲む〝連なり囲む山脈〟の北側、ルブラーン王宮の正面の山の盆地側の中腹にあった。
「……なんや……どうやったんや?」
「ラルフェウの呪力は〝瞬間移動〟、つまりそういう事だ」
「どういう事やねん」
「はぁ……はぁ……おかげで……はぁ……体力が……底を……はぁ……尽きました……はぁ……はぁ……」
ラルフェウは仰向けになり、左手の甲を額につけていた。
「とりあえず急ぐぞベイル、人間はせっかちだ」
「焦んな、もう来たから」
その瞬間、あまりにも多くの、待ち構えていた兵士たちが、あっという間に船を取り囲んだ。
「……おいおいおいおい……こりゃ多過ぎやしねぇか?」
「なんやこの数……」
一行は船から、ルブラーン内外の広範囲に広がる40万人の武装した兵達を見て、あっけにとられていた。
「……マジの戦争か、やるしかねぇな」




