第58話 宿命
ベイル一行がサン・ラピヌ・シ・ソノに入った頃、王都ルブラーンでは暴徒化していた民衆を鎮静させるために、王自らが民衆の前で話をした。
それはセロナが運良く人間界に来ていた事を利用し、セロナによって人間界に棲み着くテロリスト達のアジトは全て玉砕したという話だった。
もちろんでっち上げだが、特等聖戦士〝剣聖〟セロナ・レンシアのネームバリューと、コーゴーという組織の信頼感、これにより何とか鎮静ははかれた。
しかしテロリストの残党がルブラーンに攻めてくるかもしれないと、そしてセロナは既に帰還したとも言った。
ここで王は、コーゴーは一つの世界の政治に大きく関わる行為はしない、だからこそ自分たちの手でテロリストを滅ぼさなくてはならない、と力強く叫ぶ。
それと同時にその場に登場したのはルナと、王の研究により誕生した龍人に種族変化した人間界の兵士達、数にして40万人だった。
これを以てルブラーンを常に守り、敵は確実に殲滅すると民衆に誓った。
そのために、その40万の兵力をルブラーン内外に張り巡らせ、完全無欠の防衛を徹底させた。
また戦闘となるとルブラーンが戦地となるかもしれないため、1週間、民衆をシェルターに避難させるように指示した。
民衆はこれらに従いルブラーンに住む約3万人の民衆は山脈の山に紛れた約300メートルの100層に分かれたシェルターへの避難を、その日の夜には完了させた。
「何とか上手く丸め込めたな、ルナ長官」
(食料の備蓄は確かに1週間が限界だ……本気なのか……)
ルブラーンは八つの山が輪のように連なる、〝連なり囲む山脈〟の盆地に在る。
北東の山を100数年の月日をかけて完全に崩し、世界最高硬度の物質キブニウムを多分に含んだ鉄で山と同じ程のシェルターを建築し、崩した山の土を積み外観は完全に以前の山となっている。
このシェルターは、核爆発にも最低50回は耐えられるように構造されている。
そのシェルターに民衆は避難をしていた。
王とルナは王室に戻り、王は避難する民衆を王室から覗いていた。
「……お前に渡したあの機械、ちゃんと王女に付けたんだな」
「はい……あれは何なんですか……」
「転送装置だ」
「転送装置?……」
「一瞬で今いる場所からここに移動されるというものだ、科学も進歩したものだな~」
「……何だと」
「まあ、もう片方がまだ未完成だからまだ実行には移せていないが……家出ももう終わりだ」
(あり得ない……リ:ミゼルですらそれほどまでの科学力は有していないはず……まして人間界……そんな資金も資源も土地も技術力も無いはず……いや、そもそも科学というのも疑問だ……やはり、噂は真実か……)
「明日の昼には完成する、既に40万の兵がルブラーン内外に配置されているのを見ただろう……ここに来たなら必ず奴らは来る、協力者……いや……ハロドック・グラエルとベイル・ペプガールは、特にな」
「っ!!?……今……何と……」
「コーゴーだけの極秘情報とでも思っていたら大間違いだ、キングは全てを見据えている」
「……キング……それは、ジェノサイドの者がガービウ・セトロイを指す言葉だ……それを口にするだけで、どれほどの重罪か分かっているのか」
「敵対する組織なのにどちらも保有する総戦力の多さ故にお互い水面下以外は不干渉、それどころか……貿易すらも行っていると聞いているが?」
「知らんな」
「世界を管理する?聞いて呆れる、コーゴーとは古代言語で平和を意味する言葉だろう、何故火種を育てるような真似をする?」
「くだらん妄想は済んだか」
「今に分かる……全ての世界はジェノサイドの、キングの手の中だと」
「……堕ちたなケイナン・クルエル」
ルナそう言い残して王室を出た。
するとルナの前にはドグラが立っていた。
「ようルナ長官どの、敵前逃亡したって?っははは!聞いたよ……特等が聞いて呆れる」
「無知故の戦略的撤退だ、お前にどうこう言われる筋合いは無い」
「そりゃベイル・ペプガール相手だもんな~、なんてったって〝霊王〟を除けばガービウ・セトロイと同等の力を持つ唯一の存在とまで言われてるもんな~、コーゴーには何があり誰がいる?」
ドグラが〝霊王〟を除いた理由は不明だが、この数千年〝霊王〟が人々の前に姿を表していないため、死亡説すらも流れている。
「……俺の前に立ったのは、ベイル・ペプガールより遙かに強い者だった」
「……へぇ、気になるな~、どんな奴だった?」
ルナは答えずにドグラを横切っていった。
「そういやもう一つ報告があるぜ長官さーん!」
「……手短に話せ」
「特別作戦隊隊長の、ギュートラス・ゴージスがユナー諸島から帰って来たんだとよ、いつもの場所に来いって言伝付きだ」
「……はぁ……」
※ ※ ※ ※ ※
ルナは王宮を出て歓楽街を抜け裏道のそのまた裏道を通り、全く人気が無く日の光がほとんど届いていない道にある扉を開いた。
扉の目の前の階段を下ると鍵のかかった扉の前に立ち、ルナは4回ノックをした。
「合言葉は」
「セシリア・フレブル」
「……いらっしゃいませ」
すると扉は開き、ルナはカウンター4席テーブル2席のバーに入っていった。
そしてカウンターでワイングラスで牛乳を飲んでいる男の隣に座った。
扉を開けた2メートル近い巨躯を持つ似合わないサングラスをかけるマスターは、座ったルナの前にすぐにショットのウイスキーを出した。
「今日はいい」
「左様ですか」
マスターはウイスキーを下げ、真水を出した。
「……用件を言えギュートラス」
「そう焦んなよ、喉渇いてんだろ」
「───」
ルナは真水を一気に飲み干し、2人は正面を見たまま話し始めた。
特別作戦隊───兵団とは違う王直属の暗殺部隊で、数十人が在籍している。
この存在は民衆は知らないが、隊長のギュートラス・ゴージスの存在だけは認知されている。
人間界最強の殺し屋として。
「今度の戦争はデケぇんだろ?長らくそういうのやってねぇから楽しみだな、腕が鳴るぜ」
「……奴の真意は、どこにあるんだ……」
「ケイナンか?っははは!……そりゃあ、これだろ」
するとマスターが10枚のホッチキスの針でとめられた資料をルナの前に差し出した。
「……っ……これは……」
ルナが書類に目を通すと、そこには何らかの機械の設計図や部品の詳細などが書かれていた。
「それは特定のエネルギーを人から吸い取り、そん中で液状化させ別の奴に移植させるっつー異次元レベルの機械だ、それが王宮のどっかにある……探したが、一応怪しまれねぇとこにはなかったぞ」
「探してない場所は王宮の何割ほどだ」
「さあな、それすらも分かんねぇよ……ルブラーンは全世界最古の王都だからな」
「……転送装置といい、人間に龍人の血を輸血させるのもそうだ……あの科学力はどこから…」
「ジェノサイドだよ」
「……何故分かる」
「俺の上司だった奴が今や最高幹部のひとりなんだがよ、ジェノサイドの科学力はコーゴー……いや、5000年前の人間界に匹敵するとまで言われてる」
「なっ……バカな……何のために……ジェノサイドの目的は何なんだ」
「知らねぇ……が、そのためには間違いなくクルエルの〝ホシノキズナ〟にゃ科学力が必要だってこった、多分今回ケイナンが転送装置で王女さんからその機械で〝ホシノキズナ〟を自分の体内に移植させ、その身でジェノサイドに行くんだろうな」
「……いや……待て……まさか……あの王女が、〝ホシノキズナ〟を所持しているのか!?……」
「可能性でしかねぇが、もうここまで来たらそうと考えねぇと辻褄が合わねぇ……まあ、もしかしたらもう手遅れかもな」
「……何がだ……」
「クルエルの奴しか知り得ないルブラーンに眠る情報は全部ジェノサイドに渡ってるかもしれねぇな」
「……だとすれば、奴は……ルブラーンを……いや、人間界そのものを……崩壊させるつもりなのか?……」
「特等の10位は人間界に着くのが常例、何でか分かるか、むしろ治安なら妖人族、危険性なら龍人族の方がやべぇのに……何でかね~」
「……これを制定したのは最高長官だが……俺は最高長官が誰か知らない……1000年前の創設時の方々しか知らないから……」
「……じゃあルナ、今から選択の時間だ」
「選択?……」
「お前はコーゴー特等聖戦士としての使命を全うし、ケイナン及びジェノサイドの陰謀を阻止するか……」
するとギュートラスは胸ポケットから一枚の女性の写真を取り出し、ルナに手渡した。
「どさくさに扮して、私情だが、宿命を果たすか」
「……彼女は……」
「───ユリ・クルエル……お前の母親だ」
「っ!!!?……」
「クルエルのいざこざに必ず関わっている男と、クルエルの運命に弄ばれて壮絶な死を遂げた女の間に生まれてしまった、混じり血の悲劇の子……その子は500年の時を経て、母親の本当の真実と父親の真の姿を知る事となる……その子はその時、どう選択するのか……壮大なドラマだな」
「……この写真、どこで手に入れたんだ」
「ユリ・クルエルの遺体を回収して、まだ幼かったお前を〝癒波動の地〟に保護させたのはどこのどいつだと思う?」
「……怖いな……俺は……今日に至るまでの生き様を……仕組まれてたとでも……言いたいのか……」
「それは結果論としか言いようがねぇな……」
「……ルナ様……私は、あなたが今望む方を、選ぶべきだと考えます」
「……マスター……」
すると突然マスターは食器を洗い終わり、会話に入ってきた。
「ユリ様を王宮から逃がし、ハロドック・グラエルと出会わせたのは私ですから……おかげで今はこの有様で、どうにかギュートラスどの専属の情報屋として食いつなげている訳ですが……悔いはありません」
「……マスター……何者ですか?」
「私は……」
するとマスターはサングラスをとり、つけヒゲをとった。
「元コーゴー特等聖戦士序列10位、シュベレット・フレブルです」
「……確か……永久追放された……史上初の、人間の特等聖戦士……」
「……私も戦います……あなたがジェノサイドと戦うなら、コーゴーにバレぬよう隠密に、あなた自身と戦うなら、その邪魔をする者達の排除を……妻子を持ちながら……ユリ様の幸せを願った私自身の償いと、救われたいと願う……私のためにも」
「……全く……我々は、まんまとハメられる訳ですか……」
「いいじゃねぇか、俺らがバカやったって組織は痛くも痒くもねぇよ」
「……そうだな」
「うし!このまま夜まで飲んで娼館行こうぜ!長官どのなら超かわいい子が避妊無しで抱かせてくれるかもよ!」
ギュートラスはそう言いながらルナの背中をバシバシ叩いた。
「行かない」
「えぇ~!?じゃあお前は?」
「私には妻子が……」
「逃げられたじゃねぇかよ!目の前のガキの母親抱いて逃げられたじゃねぇかなあ!?」
「……正確には自分から離れたというか……」
「なのに未練がましく合言葉自分の娘の名前でよお!バーカ!」
「そうだったんですか……」
「……お恥ずかしい……」
「ルブラーンなんて滅んじまえー!!」
「何でこいつ牛乳で酔ってんだよ……」
「牛乳で割ったので……」
「え?今日は割ったんですか?……ギュートラス飲めないのに……」
「たまに面白半分で勝手にアルコール入れてるんですよ」
「……はっ……っははははは……すごいですね……っははははは!」
「でしょう?」
「死んじまえバカケイナーン!!」
3人はこの後、夜まで飲んで騒いだ。
ルナもこの日は騒ぎながらも、父親に対する憎悪と母親の写真を胸に着々と準備を進めていった。




