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Past Letter  作者: 東師越
第2章 Always "Sadness" in their hearts
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第48話 真っ直ぐ、不平等に、命を懸ける

 「……あり?」 


 追いかけるベイルと挟み撃ちにして少女と鉢合う、そのついでにジェノサイドと名乗るチンピラ集団を殲滅しようというハロドックの思惑は大きく外れた。


 「何だてめぇは」


 ベイルが殺した男達の遺体を大事に布で包み、荷馬車に積み込む10数人の本当のジェノサイドの集団と出くわした。


 「……まあ……組織だしな……あり得るわな……」


 「何だっつってんだろうが!!!」


 「うるせぇ」


 ハロドックはチンピラみたくメンチを切ってくる1人の男の顔面を、普通に右手の平でビンタした。


 男はうつぶせに倒れ、顔面の左側の骨が粉砕し鼻や口から血を流して気絶した。


 「何だこいつ!?」


 「俺達はジェノサイドだぞ!!」


 気絶した男の様子を見てその場にいた全員がハロドックに向かって敵意を剥き出しにし、銃な剣などの武器を構えた。


 「その崇高なるジェノサイド様にいるんなら、あんなクソみてぇな事すんなよ……お前らの大将さんに逆らうのは俺は怖くて嫌だな~」




   ※ ※ ※ ※ ※




 「……はぁ……はぁ……」


 「何だお前は……そのオーラに見合わない力……弱すぎるな」


 ベイルは少女を守らんとステファノに攻めかかるも、ステファノはベイルの攻撃を全て受け、かわして無傷だった。


 しかしベイルはステファノの攻撃の半分も避けきれず、全身が剣による切り傷だらけで血も大量に流している。


 「だが速さはある……いや、すばしっこいというべきか?」


 「うるせぇ」


 ベイルはステファノの顎を蹴り上げようと右脚を出すがステファノは跳んでかわし、上の木の枝に足を着けそれを蹴って速度を上げ、ベイルの首を斬りにかかった。


 ベイルは両手の平を地面につけバク転で剣を蹴り飛ばし、ステファノの手から離した。


 しかしステファノは即座に対応し、バク転から立ち上がったベイルの額に右肘を打ち込み地面に叩き付けた。


 「がっ……くっ!」


 「っ!」


 ベイルは頭蓋骨にヒビが入り額から血を流すも、ステファノの右腕を左手の手刀で真っ二つに折り力が弱まった瞬間に、さらにステファノの額を額で頭突きした。


 「なっ!」


 ステファノの上体が上がるとベイルは右拳でステファノの顔面を殴りにかかるが、ステファノはかわしベイルの顔面を左拳で何度も殴った。


 「っぐ……あああ!」


 ベイルは7~8回殴られてから首を動かしてかわし、ベイルを跨いで立つステファノの臀部を仰向けのままベイルは右脚で蹴った。


 ステファノが少し怯むとベイルは上体を起こし、睾丸を右拳で思い切り殴った。


 「があっ!!」


 動きが少し遅れたのを見逃さずベイルは立ち上がり、一体距離を取り息を整えた。

 その間に男は睾丸の痛みをこらえながら左手で剣を拾った。


 「はぁ……はぁ……」


 「はは……残念……俺は左利きだから、右は折れても挽回出来る」


 (やべぇな……今日能力使っちまって、大した能力も呪力も使えねぇな……くそ……)


 (闘値2000ぽっちのパワーとスピードじゃねぇなこの野郎……どこの回しモンだ……タマ痛ぇなちきしょうが……)


 少女は腰が抜けて立てず座ったまま後ずさるが、木に背もたれてしまいただ2人の様子を眺めるしかなかった。


 「その女はお前の何だ?」


 「……は?……」


 「そいつは俺達の大事な商品なんだ、そいつを売らねぇと俺達は食っていけねぇ」


 「……ジェノサイド様からお給金はもらってねぇのか?」


 「退屈なんだよ……職務を全うすれば衣食住は保証、犯罪行為には手を染めるな……つまんねぇな、俺は幹部だぞ?もっと金がほしいんだよ、遊び尽くしてぇそれから…スリルも味わいてぇ……組織に前ならえしてるだけじゃ何もかもが物足りねぇんだよ」


 「……それで、いいんだな?」


 「は?」


 ベイルはふつふつと体内からエネルギーを湧き出し、今までに無いほどの鋭い眼差しでステファノを睨んだ。


 「……俺は……まあ、刀見てぇのも多少はあるが……ほっとけなかったんだよな……こいつを」


 するとベイルの右腕は発光し、そして炎が渦を巻くように右腕を包みエネルギーを集中させた。


 「……なんだ……こいつの力は……」


 「俺と同じ境遇なんだよこいつは……クソ共に()たれ、体中弄られて、今でもあの頭に来る嘲笑が幻聴みてぇに聞こえてきやがる……」


 今までぼんやりとしか見えなかった視界がベイルの右腕の炎によりはっきりと見え、やがて少女は無意識に閉ざしていた耳も聞こえ出し、ベイルの声も聞き取れ出した。


 「俺はこいつの名前も知らねぇ、けどお前らの所に行くなら、守りてぇと思った……お前の理由はそれでいいんだな?」


 「っ……」




 「俺は懸けてるぞ、命───」




 己の快、不快のみが、ベイルの動く理由だった。


 幼稚で、しなやかでいて折れないその矜持は、ベイルにとっての全てだった。


 故に、快ならばカマキリの卵を孵化するまで命を懸けて守り、不快ならば世界一つも命を懸けて滅ぼす。


 そのベイルが、全てが平等であるベイルが今この瞬間、少女を守るために、不平等に、ステファノを殺そうと怒りを露わにした。


 「ぐっ!!」


 ステファノは慌てた様子で右足で1回地面を叩く……すると地面がステファノを囲うように、筒状に盛り上がった。


 「うおおおお!!!!」


 ベイルは盛り上がった壁に躊躇無く、エネルギーを集中させた右拳を打ち放った。


 「死ねクソが!!」


 そう言うとステファノはベイルの拳により発熱し、光り出している筒状の地壁の外側に尖った土をハリセンボンのように一気に全体に出現させた。


 ベイルは当然巻き込まれ、右拳をはじめとし左脚、左腹部、右目が貫かれた。


 「あ……」


 その姿を見ていた少女は、思わず声が出ていた。


 「っ……ぐ……おおおおあああああ!!!!!」


 ベイルは左手で右目を貫く尖った土を握って壊し引っこ抜き、そのまま右拳を振り抜いて地壁は一気に全体に亀裂が生じ、砕けて壊れた。


 「ひっ……」


 「おおおおおおお!!!!……あ……」


 そのままの勢いでベイルは右拳でステファノに殴りにかかった。

 その姿は小さいながらも、普段醸し出す殺気とも相まってまさに鬼の如き迫力だった。


 だがステファノの目の前で、エネルギー切れや出血多量などで力尽き、その場でうつぶせに倒れてしまった。


 「……は……はは……ビビらせてんじゃね……」


 ステファノは窮地から逃れ安心しきり、ベイルの頭を踏もうとしたその瞬間背後から銃声が聞こえ、銃弾はステファノの後頭部から脳幹を貫いた。


 ステファノは仰向けに倒れ即死した。


 「おー、我ながらナイスショット」


 背後の木の上から散弾銃を構えているハロドックは、撃った直後に銃を後ろにポイッと捨て飛び降りてからベイルの元に歩み寄った。


 「……こんな雑魚相手にそこまで苦戦すんのかよ……まあでも、こいつにも女の子守ってやろうって心はあったんだな」


 ハロドックは何一つ苦戦すること無くジェノサイドの集団を圧倒し、ついでに荷馬車や馬も殺して散弾銃を奪いベイルの様子をあくびをかきながら眺めていた。


 「よっと……お」


 ハロドックは左腕でベイルを抱えながら、怯える少女の前に立った。


 (身長は150後半、体重は30前半、おおよそ健康体とは言えねぇが……おっぱいは83……将来有望だな)


 「あ……っ……」


 「おい、お前はこいつの行動を見たんだよな?……見たんだよな?」


 少女は返り血を浴びているハロドックの姿が怖くて怖くてたまらなくてすぐに返事が出来ず、二言目で頷いた。


 「なら忘れんなよ、お前はこのチビに命を救われたんだ、たとえ何年かかろうが死ぬ前に絶対こいつに「ありがとう」って言わなきゃなんねぇ……だから俺達と来い」


 「……で……え……」


 「これからはお前の人生の安全は保障しねぇが、スリルは保障してやる、死ぬときお前の走馬灯に映るのが、このチビや俺達との他愛ない日常に染まるくらい、こいつは幸せにするから……ちゃんと飯食えよ」


 ハロドックの言葉に少女は何を思ったのかは、誰にも言う事はなかった。


 ただハロドックの言葉は、間違いなく少女の心に絡み付いていた何かのつっかえを取り除いた。


 この世の全てが恐怖に染まり、見えるモノ、聞こえるモノ、触れるモノ、匂うモノ、何もかもに絶望し、暗闇の中に閉じこもってから少女が初めて見た光は、ベイルの命を懸けた魂の光だった。


 魂を燃やし、ベイルの決意が炎の渦となり、その光がもたらしたのはステファノの恐怖心の煽りと、少女が歩く道しるべの姿だ。


 安心───きっとこれまでの少女には無縁だった感覚が、足元から全身に迸ったためなのか、少女はまた気絶した。


 「またかよ……忙しねぇなマジで……」


 とりあえずハロドックは少女を担ぐ前に、右手を広げて胸を一揉みした。

 ハロドック曰く、これは出会った全ての女性への礼儀作法らしい。


 「……なるほど……」


 それからハロドックは右腕で少女を肩に担ぎ、歩いて船に戻っていった。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「ベイル様!!」


 ハロドックは甲板に跳び上がり、ベイルと少女を降ろした。

 ラルフェウはすぐにベイルに駆け寄り、ベイルが息をしていない事を確認した。


 「ほっときゃ1時間以内におだぶつだ、どうにかしとけよ」


 「はい……」


 「シャワー浴びてくるわ、汚ぇし」


 ハロドックは船内に入ろうとすると、マルベスが船内から現れハロドックに小声で話しかけた。


 「……どうじゃった?」


 「大きさB、柔らかさA、肌触りB、形A+、感度不明、総合87点……将来性を期待してな」


 「そうか……」


 「けど、手は出さねぇ方がいいかもな」


 「何故じゃ」


 「───」


 ハロドックは黙って少女の方を振り向いた。

 マルベスも少女を見ると、気絶していながらも、少女は両頬に涙を伝わせていた。


 「あのクソ野郎と同じ境遇らしいぞ……人ってのは、本質は何千年経っても変わんねぇらしいぞ」


 ハロドックはそのまま船内に入っていき、浴室に向かっていった。


 「……説得力が違うのう……やれやれ……」

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