第38話 特等聖戦士
「がはっ……っう……」
クラジューはミソラにあらゆる攻撃を加えた、殴る蹴るの肉弾、槌での打撃、雷───しかしミソラは一歩も動かず、全ての攻撃をかわすことなく受けきった。
消耗したクラジューにミソラは表情を変える事無く、鞘に納めたままの刀でクラジューのみぞおちの急所を、1ミリのブレも無く正確に突いたもの
たった一発でクラジューは立てなくなり、消耗した体力の影響がズンと及びだした。
「あの、いい加減教えてくれませんか?……ここで何をしているんですか?」
「……知るか……」
クラジューは実際本当に知らないので、これしか言いようが無い。
しかしミソラは納得出来ず、刀を腰に差し直し、もう1つの気配のゾーネがいる船内へと向かって歩き出した。
「おい待て……どこ行きやがる……」
「もう1人に聞きます、もちろんあなたみたく抵抗するようなら、問答無用で正当防衛しますけど」
遠回しの攻撃を示す言葉を込めたミソラの発言に、クラジューは怒りを露わにし、立ち上がった。
「待ちやがれ」
「は?」
「待てって言ってんだよ!!!」
「……あ、もしかして中の方も知らないんですか?」
「だったらなんだ……」
「ならいいです」
ミソラはすんなり納得し、甲板から飛び降りて火山島に着地し、最も近くにいるアリシアの元へ歩き出した。
「おい待て!!」
ミソラの言動に戸惑いを隠せないクラジューは、思わずミソラを呼び止めた。
「……もう用は無いんですが……」
「てめぇらこそ何しに来やがった……」
「……家に帰るためです、では」
「……訳分かんねぇ……っぐ……」
確かにセロナがこの火山島に寄ってからコーゴー本部に帰ると言ったため、ミソラの発言はいささか間違いではない。
クラジューはミソラが船から遠ざかっていくと肩の荷が下り、ミソラからもらった一撃の痛みが再び出てきて動けなくなり、その場で座り込んだ。
※ ※ ※ ※ ※
「また誰か来たで」
「……おいおいおいおい、大物じゃねぇか」
ベイルはセロナの姿を見ただけで、セロナの強大さを理解した。
それはラルフェウもビオラも、キリウスも同じだった。
「知り合い……やないねんな」
「……セロナ・レンシア……特等聖戦士序列9位……異名は───〝剣聖〟……ですよね」
「誰?」
「知らない人もいるんだ、へぇ~…」
セロナは何かに引っかかり、ベイルの顔を数秒見つめた。
「……あ、もしかして…ベイル・ペプガール?」
「違うけど……」
「う~ん……確かにゴーユ神話は、主人公のくせに文面からも顔がよく分からなかった……全くスキが無い……書いた人は、ベイル・ペプガールを誰にも知られたくないみたく、意図的に情報を出さなかった風に思えた」
「は?」
「情報は名前、男であること、ゴーユの民であること、背が小さいこと……未知の領域に、足を踏み入れたこと」
「何言うとるんや?」
「黙ってて」
「それだけで十分……そこの君は、全ての条件を満たしている、ゴーユの民とはオーラだけじゃわかりにくいけど、よく分からない違和感があればビンゴ……まあ、未知の領域に入ったかどうかは目を見ればすぐ分かる……同じ目の奴がコーゴーにも1人いるから」
「何一つ決定的な根拠は揃っていませんが」
「いいの、〝かもしれない〟であろうと……首を持って行けばすぐ分かる、違えば違うで特に問題なし」
「か弱い一般人を殺して問題ないって……とてもコーゴーの戦士の口から出た言葉とは思えませんね……」
「コーゴーなんてそんなもんだよ、所詮組織、中身は腐ってるよ」
セロナは鞘から刀を抜き、右手で持ち手を握りながら、ベイルから一瞬も目を離さなかった。
「……分かった、俺はベイル・ペプガールじゃねぇけど、頑張ってコーゴーの特等聖戦士様を説得してみせる」
ベイルは一歩前に出て、セロナの目を離さなかった。
「いいね~、どうみても雑魚なのに、ちゃんと異質、ちゃんと異次元……ちゃんと怖い」
セロナはベイルが右足を少し前に出したのを見て、ベイルの首を狙って斬りにかかろうとした。
しかしセロナの両足は微動だにせず、セロナは踏み出せなかった。
「なっ……」
「〝幻影空間〟」
ベイルは指を鳴らし、ドーム状の黒い靄がかかった空間を造り出し、セロナを閉じ込めた。
※ ※ ※ ※ ※
「……何ここ……」
セロナが目を開けると、そこは赤い空で、地平線の果てまで広がる砂漠のど真ん中という異空間にいた。
「……呪力……にしては強すぎる……やっぱしベイル・ペプガールじゃん」
「ちぇ~、バレたか」
セロナの目の前には、ベイルが余裕気に笑みを浮かべながら立っていた。
「殺せば出れんの?」
「やってみたら?」
ベイルの言葉通りに、セロナは一歩も動かず、刀を振った時の風圧だけでベイルの体を粉砕した。
しかしセロナのいる場に何らかの変化は起こることは無く、脱出出来ずにいた。
「……出れない……厄介ね……」
「じゃ、もっと頑張ってみよう」
するとセロナの背後に、さっき粉砕したはずのベイルがひょうひょうとした様子で立っていた。
「……どうなってんのこれ……」
「まあ頑張ってみなさい」
※ ※ ※ ※ ※
「〝時空変空間〟」
ベイルは指を鳴らし、〝幻影空間〟の上から被せるようにドーム状の紫やピンクが入り混じる空間を造り出した。
「〝完全無欠空間〟」
さらにベイルは指を鳴らし、上から被せるように、ドーム状の透明な結界を造り出した。
ベイルは相当な体力を消費し、過呼吸気味になって片膝を地面に付けた。
「はぁ……はぁ……はぁ……はは……ハナから……特等と……はぁ……真っ向勝負するわけ……ねぇだろ……はぁ……はぁ……」
「ベイル様!!」
「俺はいい……ラルフェウはそいつの相手しろ」
セロナが現れた方角とは逆の方から、ミソラが現れた。
「……分かりました」
「はぁ……うっ……やっべぇ……全身痛ってぇ……頭も……吐きそう……」
ベイルは同時に繰り出した空間の維持をしているが、頭や全身、外側と内側両方から激しい痛みが生じ、その場で座り込み、両手で両腕を抱え、下を向いて速い呼吸をし、汗、涎、涙が滴り落ちていた。
※ ※ ※ ※ ※
「なんやあいつ……死にそうやんけ……」
「……ベイル様に任せます、それより……」
ミソラは明らかにクラジューとは違う3人を前に、刀を鞘から抜き、戦闘態勢を取った。
「……まさか、私が人間界で刀を抜こうとは……何者ですか……セロナ様はどうなっているんだ」
「さあ、僕らにも分かりません」
ラルフェウとビオラはミソラの前に立ち、キリウスも立ち上がってミソラの前に立った。
「なんか知らんけど、ワイも混ざってええか?」
「え……構いませんが、でもキリウスさんは何も関係な……え……」
ラルフェウがキリウスと会話をしていると、ミソラはラルフェウとの間合いに入り、ラルフェウの左腕を切断した。
すぐにビオラが右拳で殴りにかかったが、ミソラは下がってかわし距離を取った。
「何故……刀を抜いた私の前で……会話なんて油断が出来る?……ふざけてんのか?」
「……っ……すいません……敬意が足りませんでしたね」
そう言ったラルフェウの左腕は、数秒で再生し、元の状態に戻った。
「っ!!?……どういうこと……」
「僕、魔人族なので」
(……は?……確かに魔人族は、魔力の流れを駆使して傷や大きな怪我を恐るべき速度で治癒、いわゆる再生が出来る……出来るけど……切断した腕を───数秒で再生とか……あり得ない……どんな魔力してんのあの魔人は……)
「……速過ぎてよう見えんかったわ」
「本当に?」
「いやまあギリギリ見えたけど、避けるのはムズそうやな……」
「なら見てて、邪魔」
ビオラはミソラの頭の覆う水の塊を繰り出し、ミソラを窒息させようとするも、ミソラは特に顔色を変えず、ビオラの首を上から振り下ろすように刎ねにかかった。
驚いたままのビオラはギリギリかわしたが、首の左側に切り傷がつき、血がツーッと一筋流れた。
「……速い」
ラルフェウはミソラの背後から頭を蹴り落としにかかるも、ミソラは難なくかわし、ラルフェウの心臓を一突きした。
「うあっ……」
(再生力高いだけで、不死身じゃないでしょ)
ラルフェウが血を吐き、仰向けに後頭部を強打して倒れたと同時に、キリウスが炎で造形された、ミソラの刀を模造したような剣でミソラの首を刎ねにかかった。
ミソラは刀で防ぎ、キリウスの剣は炎ながら、刀同士がぶつかり合うガキンという音が響き渡った。
「嘘やろ……」
ミソラの息つく暇も無く、ビオラは水で造形した氷柱のような形状の突起物を、海を利用して無限に造り出し、ドリル回転をかけながらミソラの背後へと発射した。
「〝水柱乱旋弾〟」
しかしミソラは、凄まじい反応速度でこれら全てを刀で斬り落としていき、ビオラとの間合いを詰め、ビオラの目を斬りかかるも、ビオラは少し跳んで下がり、すんでのところでかわした。
「……え……」
ビオラはミソラの思考を視ようと呪力を使ったが───。
(斬る斬る斬る斬る斬るキルキルキルキルキルキルキルキル)
と、細かな思考は一切視えず、その結果動きがほんのコンマ数秒遅れただけで、ビオラは右脇腹を斬られた。
だがビオラの服は特殊な結界で作られているためビオラに外傷は負わなかったが、衝撃で吹っ飛ばされ、10数キロ先の海に落ちた。
そしてようやくミソラの頭を覆っていた水の塊が消え、ミソラは大きく深呼吸した。
「はぁ、やっと」
キリウスは動きが止まったミソラを、炎の剣で斬りにかかるも、ミソラは目にも止まらない速度で刀を振り、キリウスの腹筋の真ん中の腹直筋で一閃され、血が噴き出した。
「ぐあっ……」
炎の剣は消え、キリウスはうつぶせに倒れ気絶した。
ミソラは刀に付いた血を、刀を上から振り下ろして振り払い、鞘に納め、意識を失いかけているベイルに近付こうとしていた。
「……セロナ様を脅かすなら……私が斬る……斬る……」
「はぁ……う……はぁ……はぁ……」
ミソラはベイルの背後に立ち、抜刀する体勢に入った。
「後から御免、お命ちょうだ……っ!!!?」
刀を抜きかけたミソラの左側の顔の横に、何かが恐ろしい速度で横切り、左頬を少しかすって血が一筋流れた。
「っはははは!!久しく見る強き者よ!!……この俺と闘え」
立ち上がり、そのセリフを言ったのは、突き刺された心臓を再生させたラルフェウだった。
しかし明らかに、ラルフェウとは異なる目の色や、異なるオーラを放ち、そのプレッシャーはミソラを軽く凌駕していた。
「……違うのか……誰だ」
「我は、神が創りし崇高なる〝聖器〟が一柱───
───闇弓ルシファーだ!!」




