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Past Letter  作者: 東師越
第2章 Always "Sadness" in their hearts
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第28話 祭典とビキニと美味しいおイモ

 「うし行くか~!!」


 「待ってくださいベイル様~!!」


 ベイルとラルフェウは船を飛び降りて街の中心部へと走り去っていった。


 あの後ビオラが10分近くベイルを無視する放置プレイをして、その間ベイルが微動だにしなかったため、ビオラはベイルを許した。


 優しきビオラ様の慈愛に深く感謝の念を胸に刻み込んだか弱きベイルは、その優しさを2秒で忘れてラルフェウを巻き込んではしゃぎ始めた。


 「───」


 ビオラは学んだ。ベイルを信じるのはある程度にして、基本的には疑おうと。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「あっちいこ~よ~!!」


 「ちょっ!?おい引っ張んなおいいいいい!!!!」


 ゾーネはクラジューの左手を右手で握って街の中心部へと走り去っていった。

 今まで避けていた、人々が暮らす街に入るということで、浮かれるのも仕方ない。


 「……騒がしいっすねー……」


 追われている身だということを忘れ、羽根を伸ばしまくる一行を見ていてもレオキスには慌てる様子はなかった。


 ビオラという強大な存在は、恐怖のどん底にまで叩き落としたルナの脅威を少しでも小さく見せているのかもしれない。


 そんな様子を、船酔いで身動きが取れなかったが、停泊したため落ち着いたアリシアも見ていた。

 アリシアはまだ不安を感じていたが……。


 「大丈夫かな……こんなに大きな街……」


 「木を隠すなら森の中っす、顔が割れてないならこの島にいることを理解してても、そう分かるものじゃないっすよ」


 「……ならいいけど……」


 「今のところ気配は無いっすから大丈夫っす!じゃあオレも行ってくるっす」


 レオキスも船を飛び降りて、1人食料調達のために街の中心部へと歩いていった。


 「……アナタは行かなくていいの?」


 「うん……リドリーちゃんもいるし……」


 リドリーはあれから部屋をあまり出ていない。全く元気が無い様子で、アリシアも相当心配している。


 リドリーはクラジューと違い、力への貪欲さがあまり無いため、反骨心が芽生えることは、今のところ無さそうだ。


 リドリーの目的は、自分のためではなく、あくまでアリシアのためであるため、自責の念は人の何倍もある。


 「そう」


 「……ビオラちゃんは、どうしてベイルに着いていくの?」


 「……失った日常を、知るため」


 「……ここ、一番日常とかけ離れてる気がするけど……」


 「……少し寝るわ、昨日一日に何回も泣きすぎてあまり疲れがとれてないの」


 「お……おやすみ……」


 ビオラは船の中に入っていった。アリシアもすぐ後を追うように部屋に入っていった。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「ベイル様、さすがに盗みすぎでは……」


 「誰も気付いてねぇからいいだろ!目指せ全店制覇!!」


 2人は出店の食事を目にも止まらない速さで盗み食いながら街中を走り回っていた。


 街はお祭り騒ぎで人が混雑しているが、ベイルの視野の広さとスピード、そして小柄な体の前では問題なくするするっと駆け抜けている。


 ラルフェウはなんとか着いていこうとしていたが、しばらくするとはぐれてしまった。


 「……マズい……」


 なおかつベイルは気配を殺しているので、ラルフェウは出店街の道の真ん中で立ちすくんでしまった。


 「おい親父、なんか盗られてんぞ」


 「え?……あ!!誰だスリやがったのは!!」


 ラルフェウのすぐ後ろの果物を売る出店の店主が客の男の一言で気付き、大声を上げた。


 その声を聞いた他の出店の店主達も商品を確認し、ベイルが通り過ぎた道にある食べ物を売る出店の店主達は、全員盗まれていることに気が付いた。


 「うおっ!!こっちも盗られてやがる!!」


 「誰だこの野郎!!!」


 「バレましたか……まあバレないでしょうが……」


 ラルフェウはとりあえずベイルを捜し出すために、食べ物の出店がある場所を重点的に、くまなく捜し始めた。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「……何であるんだよ……巨人族衣服専門店……」


 「巨人族の衣服は誰にでもサイズが合いますし、丈夫で動きやすく軽く、デザインも豊富なのでこういう世界1つを挙げて催される祭典ではよく売れるんですよ~」


 クラジューとゾーネはベイルとラルフェウがいる出店街から少し離れた、簡易ながら大きな建物が並ぶ場所に来ていた。


 クラジューはその中の巨人族衣服専門店の前に立ち、案内人の女性から話を聞いていた。


 「そんなデケぇ祭りなのここ?……てことは、普段は売ってねぇんだな」


 「そうなんですよ~、原産の素材が〝巨界ガイア〟でしか扱われないという条約があるので、普段はお目にかかれないものばかりですよ~」


 「あ、そう……てか……広ぇなぁ~……」


 「はいろ~よ~!!」


 ゾーネはクラジューを引っ張って建物の中に入っていった。


 「ひろ~~い!!!!」


 入り口をくぐると、簡易の施設とは思えないほど広々としたエントランスがあり、2階建てで様々な人々の需要に対応した衣服が並んでいた。


 「どっからこんな金出てんだよ……」


 「すご~~~い!!!はやくみよ~よ~!!!」


 「お、おう……」


 クラジューは買い物というものをしたことがある記憶が無いので、おそらく人生初のお買い物だろう。


 ものすごい人の数で、店内を回るだけでも1日は経つ巨大な敷地を、ゾーネはクラジューを引っ張り回しながら縦横無尽に駆け巡っていた。


 「たのし~~~!!!」


 「ゾーネ……買い物しねぇの?……」


 「……あ!!わすれてた~!!」


 「そしてデカい声そんなに出さないで、見られてるから……俺ら多分追われてるし」


 「は~い!!!」


 「言ったそばからああああ!!!」


 ゾーネはクラジューの質問を適当に聞いて適当に答え、走り回ることをやめなかった。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「ど~お~?」


 しばらくしてから、ようやくゾーネは服を見始め、何着かを選んで試着室に入った。


 クラジューは別に体力を消耗して疲れた訳では無いが、何故か呼吸が乱れ疲れ切った様子だったが、ゾーネに頼まれ自身もゾーネの服を何着か選んでみた。


 ゾーネは試着室のカーテンを開けてクラジューにクラジューの選んだ布面積の比較的多い上下の姿を見せた。


 「お~、ゾーネ何でも似合うかもな……もう少し足下隠さねぇとな……足首が見えてる……ゾーネ、何か意見はあるか?」


 「むねがきつい~」


 「むっ!?……サイズは合わせたつもりなんだが……」


 「あ、そ~だ!おもしろいのあったからみてみて~!」


 そう言ってゾーネはカーテンを閉め、着替えてカーテンを開けた。


 「ど~お~!?」


 「ぶはっ!!」


 ゾーネは純白のビキニを着て、クラジューはその姿を見た瞬間に分かりやすく鼻血を勢いよく吹き出す。


 「おもしろいでしょ~!」


 「……今すぐ着替えろゾーネ……」


 「……にあわなかったかな~?」


 「いや!!似合う!!もうショートケーキとイチゴくらい似合う!!」


 「じゃ~い~じゃ~ん♪」


 「ダメに決まってんだろ!!似合うからダメなんだよ!!」


 「うぅ……クラジューく~ん……」


 「……それも買ってこう……」


 どうしても欲しいゾーネは、クラジューを落とすためではなく、本気の潤んだ涙ぐむ瞳でクラジューにおねだりをした。


 紳士なクラジューくんには、今回のゾーネのおねだりを却下する理由など何があろうと存在しない。


 「やた~!……でもおかねあるの~?」


 「ああさっきここまで来るまでに幾らかくすねといたから」


 クラジューは金貨や札をポケットに入れていた。


 「さっすがクラジューく~ん♪」




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じ頃、同じ衣服専門店ではドグラ達が見回っていた。


 「さっすが巨人族の一大産業、人間界は金持ち多いからいい肥やしだよな~」


 「支部長、勝手にコロシアムにエントリーしましたね」


 ドグラは兵団には入っていない自身の部下の女を連れて、島を私服で散策していた。


 「いいだろ、暇つぶし暇つぶし」


 「しかし、武器の使用が禁止とはいえ正規の格闘家などがドグラ様に敵うわけありません……」


 「ま、コロシアムから王女逃走の協力者が出てくるかもしれないだろ?ぶっ潰せるチャンスじゃん」


 「そんな訳無いでしょう、そもそもここに来ている可能性すら0に等しいのに……」


 「いやあるかもよ、この間のルナ長官どのの報告だと……そういう奴ららしい」


 「あの特等聖戦士がそのようなことを?」


 「言ってねぇよ、あくまで予測……まあほぼ当たりだろ」


 「だからわざわざ私を呼んだのですか?」


 「実はこの後復讐への道にその身を投じ、生きてきた鉄の生娘を女にしてやろうとも思ったり」


 「帰ります」


 「待って待ってごめん、まあこれ終わってからルブラーンに帰るから、着いて来といてって事」


 「……何が始まるんですか?」


 「それは王様に聞いて……今まで色んなVIPに会ってきたけど……あんだけ腹の底が見えねぇ奴はいなかった……」


 「……暴君という感じでしょうか?確かに顔だけ見れば、知的で、掴み所が無いという印象でしたが……」


 「顔どこで見たの?」


 「ジェノサイドの情報網舐めてるんですか?」


 「なるへそ、まあ水商売の女の子しか顔知らないレベルで公に姿出さねぇからな~」


 「はぁ……ではすぐ向かってください、開催まであと30分ですよ」


 「ほーい」


 ドグラは街の北部にある巨大な闘技場に向かっていき、クラジューとゾーネもまたその方向に向かっていった。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「はぁ……はぁ……いた……ベイル様ー!」


 ベイルは街の中心にある、島で1番巨大な建造物であるコロシアムのそばで壁に貼られたポスターを見ながら呆然と、口を開けて立ち尽くしていた。


 「……どうされましたか?」


 「出るぞラルフェウ」


 「え?」


 「この大会出るぞ!!!」


 「……何を言ってるんですか?」


 「なんかよく分かんねぇけど、このイモは……ヴェルジイモだ」


 ヴェルジイモとは、甘くて栄養豊富なサツマイモに限りなく近い人間界産の食物で、王族や王宮従者、商会の主などの位の高い人々しか食べられないような高級品である。


 「しかしベイル様、ここはかなりの兵の数です」


 「だから堂々としてりゃいいんだよ、そしてヴェルジイモ1年分だ」


 「……確かにそうですね……しかしビオラさんがアリシアさんを守るとは思えないですし……不安ですね……」


 ラルフェウのこの発言から、既に一行達のリドリーに対する認識は容易に分かる。


 「ベイル様、やはりどうしても出ますか?」


 「当たり前だ!!ヴェルジイモ1年分だぞ!!」


 「……分かりました……しかし名前は変えますよ、どうしますか?」


 「犬の名前とかでいんじゃね?」


 「分かりました」


 ベイルとラルフェウは締め切り時間ギリギリに予選会の受付に向かい、エントリーシートに名前を記入した。

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