第29話 カヴガコロシアム
一行が島に上陸した頃、島の裏側の隠れ港には兵団の艦隊が3隻到着していた。
「ご苦労さまです、リア様、ランス様」
そこには、王都ルブラーンから派遣されたリアとランスとその軍約500人が船から降りてきた。
この島に駐留する兵団は、本部からの兵の派遣という恐れ多い出来事に緊張感が走り、重役達は港で手厚く出迎えた。
「ありがとう、たかが序列外聖戦士を出迎えてくれるなんてな……」
「いえ……既に警備は例年以上に増やしていますが、聖戦士のお2人に来て貰うとは、鬼に金棒です」
「けど怠慢だな、何故兵士たる君たちがここにいる?」
「え?それは、リア様とランス様を迎えるために」
「なら兵士でなくても構わないだろう、兵士である必要があるなら末端の兵士1人で構わない、本来なら出迎えなど必要ない……指揮系統であるはずの君たちがここにいては、ちょっとした騒動ですら収拾がつかなくなる」
「ですが……」
「人間界の常識がどうなのかは知らないが……最優先にこなすべき仕事は、民を守る事か、上に媚びる事か、理解出来ない頭ではないだろう?」
「……大変申し訳ございませんでした、以降気を付けます」
「我々もすぐに配置につく、君たちも持ち場に戻れ」
「はっ!」
出迎えた兵達はすぐに港から出て、街の方へと戻っていった。
「まったく何なんだあいつは……せっかく出迎えたのに感謝も無いのか」
「きれいごとばかり並べるから序列外止まりなんだろう」
当然ランスの態度に兵達は不満を抱き、漏らしていた。ランスはそれらを全て承知の上で発言したのだから、気になどしていない。
「……あんなだから……友達出来ない……」
「必要なのは妥協ではなく意思だ、言うべきことを言わずして得た安心に、本質も価値も無い」
「……また序列外止まりとか……言われてる……」
「放っておけ、序列内に入る事の難しさをイマイチ分かっていないんだ、人間はコーゴーを1度否定したからな」
「……実力は……それぐらいあるのに……」
「俺の目的は昇進じゃない、与えられた任務を遂行するだけだ……誰かの操り人形である事は楽だし、無駄なことを考えずに済む」
「……変わってる……」
「……リア、落ち着いていけよ」
「……うん……大丈夫」
「本当か?」
「……薬……飲んだから」
リアは左手の甲を右手の親指と人差し指でつねっていた。
「……今日はまだ調子良い方か…そういえば、今日なんて祭りだったっけ?」
ランスは後ろに控えている兵士に質問を投げかけた。
「はい、イメア祭り……かつて人間界に存在した国イメアの頃から始まった5年に一度の祭典です、各種族の商人達がより取り見取りの店を開き、ルブラーン以外の街の活性化を図るものでもあります」
「……あんな王の割にはしっかりしてるな……」
「目玉イベントはカヴガコロシアム、毎回様々な種族の格闘家や実力者が腕を競う、全世界2大競技大会のひとつに数えられます」
「なるほど、そりゃ人も多いし、王女とやらが身を隠すには絶好の場所となるな」
「……行こう……」
2人は隊と共に、街の配置場所に向かって小走りで駆けていった。
※ ※ ※ ※ ※
ラルフェウがベイルを大会にエントリーさせた直後、クラジューとゾーネはコロシアム付近でラルフェウと合流した。
「お~い!」
「お2人は……すごい買いましたね…」
「うちはほぼえらんでないよ~♪クラジューくんがえらんでくれたからね~♪ぜんぶきるの~♪」
ゾーネがいつも通り満面の笑みを浮かべてクラジューとの話をする姿を見て微笑ましくなり、ラルフェウは思わず自然な笑みをこぼした。
「何だよ」
「いえ、本当にお好きなんですね、彼女の事」
「ばっ!!急に何言ってんだクソが!!」
「えぇ……」
クラジューのツンデレをラルフェウは理解出来ず、普通に面倒くさい奴を見る目でクラジューを見た。
「てか、何だここ」
「闘技大会があるらしくて、ベイル様は既にエントリーしました……」
「何でだよ……」
「優勝特典に賞金の他、副賞にこの島のブランドのヴェルジイモ1年分が贈呈されるそうで」
「出る」
甘党のクラジューの前では、ヴェルジイモという言葉以外に出場を決める理由などありはしない。
「え、本気ですか?」
「うちもでたい~♪」
「ダメに決まってんだろ!!」
「……うぅ……なんでダメなの?……」
ゾーネもこれがどういう大会なのかはある程度分かっていたが、クラジューは心配のあまりつい大声を上げてしまった。
さっきと同じく本気の涙目を見せられたクラジューは、ゾーネに大声を上げてしまった事を心の中で深く反省すると同時に、声を出そうとしたが……
「クラジューさん最低です」
色々頭をごっちゃにしている間にラルフェウに先を超され、しかもド直球なド正論をかまされた。
「うるせぇな!!……分かった分かった……ただし、ヤバい時は全力で逃げろよ」
「は~い♪」
「そこにエントリーシートがあるので、偽名でお願いしますよ」
「おう、書いてくれ」
「……まさかお2人も?」
「読めねぇし書けねぇ」
「うちも~♪」
「……分かりました……ではどんな名前にしますか?」
「あのチビは何だったんだよ」
「犬の名前です」
「じゃあそれで」
「いくら偽名でも統一性あったら怪しまれますよ……」
「さっさと書け、締め切り時間ギリギリのギリギリじゃねぇか」
「かけ~♪」
「……はい……控え室は左手の奥です……あ、荷物僕が船に運んでおきますね」
ラルフェウはエントリーシートに2人の分の名前を書き、2人の荷物を船に運んでいった。
※ ※ ※ ※ ※
2人は控え室に向かっていった。
「……参加者少ねぇな……そういえばあの紙に名前書いてたの俺達含めて4人だったしな……」
「何だお前?自由参加か?」
するとクラジューの前から身長2メートル以上ある肌の黒い男が、クラジューとゾーネの顔を見下ろし話しかけてきた。
男は筋肉の塊のように大きなガタイを見せつけるように、ボクサーパンツ姿で歩いている。
「自由参加?……受付のやつ?なら多分それだな」
「お前、バカだな」
「は?」
「そもそも、このカヴガコロシアムは全種族の選りすぐりの強者だけが集うべきだ、それを自由参加枠なんか作りやがって、どうせボコボコにされるだけだってのに……思い上がりの頭イカれた奴か金に目が眩んだ奴の相手なんか反吐が出るぜ」
「あっそう」
「でだ!」
(話長ぇな……)
(だ~れこのおじさん?)
「殺しは禁止だが二度と動けねぇように四肢をもいでやるんだよ、バカは一生治らねぇから、思い知らせなきゃなんねぇ……格の違いをな」
そう言い残し、男は去っていった。クラジューとゾーネに対する忠告だったようだが、2人にはまったく響いていない。
(あいつ絶対すぐやられる奴じゃねぇか、自分で立てたフラグちゃんと自分で回収しろよな……)
※ ※ ※ ※ ※
そして数十分後、コロシアム上空には花火が何発も上がり、何万人ものの人々が観客席を埋め、外でも大きく盛り上がる会場はさらに激しい盛り上がりを見せた。
「さあ今年も始まりました!!!5年に一度の人間界最大の祭典イメア祭り!!!今年はここセタカルド諸島ルービ島での開催となります!!!実況は私!!!リルティア・タイムズにも特集を組まれた稀代の実況者!!!フェイ・スモロがお送りしまああす!!!」
「すげぇな特集なんて!」
「いや、声がデカい勢いだけで成り上がったから特集されたんだよ、ほんの小さくだけな、実況は別段上手くは無いよ」
「そこの観客!!!文句があるなら直接言いたまえ!!!」
「何で聞こえるんだよ!!?」
「それではルール説明を行いまああす!!!武器飛び道具その他武器になりうる物は使用不可!!!勝利の条件は相手を気絶させる!!!相手の背中を10秒間地面に付ける!!!相手の降参宣言の3つになります!!!当然殺しは不可!!!その時点で即刻無効試合となります!!!」
※ ※ ※ ※ ※
フェイのけたたましいと思えるほどうるさい実況は、控え室にいたベイル達も耳を塞ぎたくなるほどちゃんと聞こえていた。
「うるせぇなーこの声……お、クラジューとゾーネいんじゃん……まさか……奴らもヴェルジイモ1年分を……絶対に渡さねぇ」
ベイルの食への執念は、一瞬でクラジューへのただの目線をメンチを切るように睨んだ目へと変貌させた。
「俺なんであいつに睨まれてんだ?」
「わかんな~い♪」
※ ※ ※ ※ ※
「今回の参加者は計8人!!!初戦は全世界に名を轟かす招待格闘家四天王VS命知らずの自由参加者4名がそれぞれ一対一を行うトーナメントデスマッチ!!!
その一回戦は!!!パワーとタフさは四天王最強!!!全世界無差別級格闘選手権を前人未到の5連覇!!!巨人族!フレディ・アウヴェスゥー!!!!」
するとフレディは緊張をほぐすように深呼吸をした後、両腕を掲げながら入場し、客席を大歓声を覆った。
フレディは5つのチャンピオンベルトを両手に持ち、胴体に3つ巻き、手に入れた栄誉を惜しみなく出していた。
「座る場所無いですね……あと実況の人声大きすぎる……」
ラルフェウはジュースを片手に客席の奥の方から闘技場を見ていた。しかも陽の光が直に当たる最悪の場所だった。
「そして対するは!!!特になし、チワワ選手ー」
明らかに声のトーンを落としたフェイの実況が、どれほど自由参加がとんだお遊びという認識なのかを物語っている。
「あ、クラジューさんですね」
「実況やる気の波!!てかさっきの話長ぇ奴じゃねぇか!!……マジか……俺が回収すんのかよ……」
「よう、降参宣言の準備は整ったか?」
「だから俺に突っかかってきたのか……トーナメント表見てなかった……」
「……ほう、その目、やる気はあるみてぇだな……が、すぐ思い知る事になるぜ、ここは自分にゃ場違いだったってな」
「はいはい」
「それでは!!!試合開始!!!」
フェイの言葉を皮切りにゴングの音が会場全体に響き渡り、歓声が沸き上がった。
「お先にどうぞ?」
フレディはクラジューを完全に舐めきり、右手でクイックイッと人差し指を下から上に曲げ、挑発した。
「ああっとフレディ選手!!!余裕の仁王立ち!!!からの挑発ゥー!!!……チワワ選手最後の一撃となるかー」
観客席もこのフレディのパフォーマンスでさらに盛り上がっていった。
「ムカつくなあの実況……まあいいか」
するとクラジューは挑発に素直に乗ってフレディに近づき、力の半分程度の威力でみぞおちに重い右拳を打ち込んだ。
「ぐあっ……」
無警戒だったフレディは力も入れずに身構えていたため、もろにくらったクラジューの一撃をくらって余裕など見せる事は出来ず、思わず出た声が会場を響かせた。
「雑魚が出しゃばんな」




