猫と天使
気の良い宿屋の店主さんは朝食まで用意してくれた。
店主さんからは子供が旅をするなら、全てを疑いながら旅をしろと言われた。
優しいふりをして金を巻き上げる大人はいくらでもいる、と。
アドバイスついでに雇ってもらえるところはないか聞いてみたけど、この辺りで子供が働くことは難しいと言われてしまった。
一応自衛団に相談してみたらいいと言われたけど、盗まれたものは今更証拠もないし難しいだろうと。
とりあえず子供でも働けそうな地区を教えてもらったけど、どこも手は足りているようだ。
午前中いっぱい歩き回って体力と精神面で疲れきった私は、適当な場所を見つけて座りこんだ。
幸いなことに盗られたカバンと別の袋に、前の町で買い込んだ食料が三日分ほどあった。
その中に干し肉を見つけて気分が落ち込む。
「これ以上髪を売ると坊主になっちゃう」
さすがにそれは嫌だなとぼんやりと空を見上げる。
自衛団に掛け合ってみることも考えたけど、町を歩き回っているとそれも無駄な考えな気がした。
基本、この町は貧しいんだ。
私より小さな子供達が土まみれになりながら荷物を運んだり、痩せ細った大人がふらふらと歩いていたり。
「別の町に行かないと」
ここでは働いてお金を稼ぐことは出来ない。
確か次の町は観光でも有名な場所だったはずだ。
「歩けば三日…」
食料としてはギリギリだけど、果たして魔物に会わず過ごせるだろうか。
あまりにも無謀な案に腰をあげられずにいると、視界に赤い物体が目に入ってきた。
「にゃあ」
「あ、猫」
小さな赤毛の猫が大きな青い目をきらきらさせながら近付いてきた。
人に慣れているのか足にすり寄ってくる猫に、荒んだ気持ちが癒されていく。
「お名前は?」
「にゃあ」
「そっか、にゃあちゃんね」
無理やり会話を成立させた私は、恐る恐る猫を膝へと抱き上げる。
逃げることなく大人しく座ってくれたことにほっとしながら、再び猫へ話し掛ける。
「どうしたの?お腹すいたの?」
「にゃあ」
「そっか。干し肉食べる?」
お腹は空いているのにどうしても食べる気がしなかった干し肉を出すと、猫は嬉しそうに小さな身体を動かし始める。
「美味しい?私はなんだかトラウマなんだ、干し肉」
自嘲染みた口調で猫を見る私に、不思議そうに首を傾げる姿はとても可愛い。
「…みんな心配してるかな」
自分のことでいっぱいいっぱいだったけど、皆は一体どうしてるだろう。
あのまま王都に戻っているならそろそろ船の上かも知れない。
「にゃあ!」
「どうしたの?」
可愛らしい声に意識を戻すと、猫は私の膝から飛び降りて歩き始めた。
小さな温もりがなくなって一気に寂しさが増した私は、慌てて猫を追いかけた。
「ねえ、待って!」
猫は私の声を無視して人気の少ない道へ走っていく、
何度声をかけても振り向いてくれない猫を追いかけていたら視界が歪んでいった。
そんな私に気が付いたのか振り向いて足を止める猫を見て、何故だか涙が止まらなくなった。
「にゃあ」
「か、帰りたい。帰りたいの!」
何処に?
自問自答しても答えられない。
ただ帰りたかった。
私の知っている人がいる場所へ。
「なんで、どうして…!」
私はこんなところで何をしてるんだろう。
どうしたらいいんだろう。
「どうした?迷子か?」
その時、天使が現れた。
金髪碧眼の髪をくるくるさせた天使が。




