第十七章:記憶の門 ――“つなぐもの”とは
王都アルセリアが、ついにその姿を現した。
遠くに見える白亜の尖塔。
神殿の鐘楼が、朝の光を受けて輝いていた。
「……見えてきたな。」
アレクが馬を止め、皆に声をかける。
「うわぁ……あれが、王都……」
ティナが馬車の窓から身を乗り出す。
「相変わらずバカでっか……。」
ミヒャエルがぽつりと呟く。
だが、そのとき――
「……っ!」
レイの手綱が、わずかに震えた。
「レイさん?」
ティナが気づいて声をかける。
レイは、何も答えなかった。
ただ、王都の尖塔を見つめたまま、動かない。
視界が、白く染まる。
気づけば、レイは別の場所に立っていた。
いや――“つなぐもの”としての記憶の中に、沈んでいた。
王都の大広間。
白い柱、赤い絨毯、そして――
玉座の前に跪く、自分の姿。
「つなぐもの。
汝に、神の栄誉を与える。」
「……はい、我が身をもって、神の意志である”つなぐもの”の役割を果たします。」
その声は、確かに自分のものだった。
だが、今のレイの声ではなし、ましてや前世の自分の声でもなかった。
もっと澄んでいて、もっと若く、もっと――
“つなぐもの”の声だ。
なんだ”つなぐもの”とは?
「……私は、あの場所で、 むかし
“つなぐもの”として選ばれた……?」
記憶の中のレイは、
微笑みながらも、どこか寂しげだった。
なんだ。
この記憶は?
「レイさん! 大丈夫ですか!?」
ティナの声が、現実へ引き戻す。
レイは、はっとして顔を上げた。
額にはうっすらと汗がにじんでいた。
「……いや、なんでもない。
少し、昔を思い出していただけだ。」
「……その“昔”って、どれくらい昔なんですか?」
ティナの問いに、レイは少しだけ笑った。
「……そうだな。
たぶん、三百年くらい前だろうか。」
「……!」
ティナは言葉を失った。
だが、レイはそれ以上は語らず、馬を進めた。
「取り合えず、向かいましょうか。
どちらにしろ、もう後戻りはできません。」
珍しく真面目な表情で正論をいうミヒャエルに、逆に笑いが漏れた。
「そうだな。」
レイはそういうと馬を進めた。




