第十二章:帰還 ――“父と娘、そして誇り”
神殿の使者が砦に滞在して三日目の朝。
砦の門が開き、重厚な馬蹄の音が響いた。
「――帰還部隊、到着!」
見張りの声に、砦中がざわめく。
そして、砂煙の中から現れたのは――
**辺境伯ビート・グレンツゲ**。
灰色の外套に、傷だらけの鎧。
だがその背はまっすぐで、眼光は鋭く、
まさに“戦場の獅子”と呼ばれるにふさわしい風格を放っていた。
「隊長、ビート様がお戻りになりました。」
レイは執務室を出ると城門に向かった。
「……父上、無事だったか。」
レイが静かに歩み寄る。
その姿は、かつての“甘えん坊の娘”ではなかった。
「久しいな、レイ。
……立派になったな。」
「……あなたの教えのおかげです。
でも、今は“隊長”として話します。
砦の現状と、神殿の動きについて、報告があります。」
ビートは目を細め、頷いた。
「聞こう。
だがその前に――」
彼はレイの肩に手を置き、低く言った。
「……よく、生きていたな。
それだけで、十分だ。」
レイは一瞬だけ目を伏せ、そして微笑んだ。
「……ありがとう、父上。」
広間にて。
神殿の使者が再びティナの“召喚”を求める中、
ビートがゆっくりと席に着いた。
「辺境伯ビート・グレンツゲとして、
この砦の主として、話を聞こう。」
神官は一礼し、改めて口を開く。
「ティナ・エルフェリア殿は、神殿の聖女候補として選ばれし存在。
その身柄を、聖都へお連れするのが我らの使命です。」
「ふむ。だが、彼女は今、我が砦の一員だ。
そして、我が娘の部下でもある。
その彼女を連れて行くというのなら――
“それ相応の理由”を示してもらおうか。」
神官は一瞬たじろぐが、すぐに言葉を整える。
「……神の意志に、理由は不要です。」
「ならば、我が剣もまた、理由を問わずに振るわれることになるな。」
広間の空気が凍りつく。
だが、ビートは続けた。
「……だが、ティナ本人が“行く”と決めたのなら、
我らが止める理由もない。
ただし――」
彼は神官を真っ直ぐに見据えた。
「“彼女を傷つけるようなことがあれば、
神殿とて、無事では済まぬ”と心得よ。辺境伯軍の一員だということをよくよく心に刻め。」
神官は無言で頷いた。
その夜。
レイは父と並んで、砦の外れに立っていた。
「……父上が帰ってくるとは、思わなかった。」
「お前が砦を守ったと聞いてな。
父として、見届けねばと思ったのだ。」
「……どうだった? 私の戦いぶりは。」
「……老練だったな。
まるで、何十年も戦ってきた者のようだったと聞いている。」
レイはふっと笑った。
「……まあ、そんなところだ。」
ビートは娘の横顔を見つめ、静かに言った。
「お前が何者であれ、
私は“今のレイ”を誇りに思う。
それだけは、忘れるな、娘よ。」
レイは目を伏せ、そっと呟いた。
「……ありがとう、父上。
その言葉だけで、十分だ。」




