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シリスとお買いもの

今回も閑話という扱いです

「遅くなって悪いけど、これ返すよ」


 私は謝罪と共に一振りの剣……異国でカタナと呼ばれている片刃のそれを、テーブル上にそっと置いた。

 受け取ったのは、もちろん剛鉄組のリーダー、エドだ。

 申し訳ないとは思いつつ、ずっと借りっ放しになっていたカタナだったけど、ようやく懐にも余裕ができたので返そうと思い立ったのが今朝のこと。

 こういうのは先送りにすると、なんだかんだで返そうにも返せなくなってしまうからね。

 それにちょっとだけ愛着が湧き始めていたから、すっぱりと手放すならこのタイミングしかない。


「ふむ……」


 老けてなお衰えない目付きで、エドはカタナの柄から刃まで視線を巡らせる。

 しっかり研いで点検もしたから、不備はないはずだけど不安だな。

 かなり酷使したから小さな傷を見逃していたかも。

 などという心配は杞憂だったようで、エドは一転して口元を緩めた。


「なるほど、だいぶシリスちゃんに馴染んでおるようだのう」

「馴染む?」

「このカタナは、もはやシリスちゃんの物だ。受け取れん」


 言いつつ鞘に納めると、テーブルの上にごとりと差し出される。


「いやいや、私だって受け取れないよ」

「シリスちゃんに良い事を教えよう。人が武器を選ぶように、武器もまた人を選ぶのだ。この『桜花』は儂よりもシリスちゃんを認めておる」

「オウカ?」

「うむ、このカタナの銘、つまり名前かのう。ほれ、ここの所に文字が刻まれておるだろう。遥か東方の言葉で桜の花を意味しておるそうだ」


 鍔……刀身と柄の間に挟まれた平たい楕円形の部分には、たしかに文字のような模様が刻まれている。

 これがリザードキングの首を断ったカタナの、真の名らしい。


「桜花か……」


 小さく呟くと、奇妙な話だけど桜花が返事をしたように思えた。

 まさか武器に意志があるわけないし、きっと気のせいだけど。


 その後も押し問答を繰り広げた結果、エドから提案した剣の手合わせを受けることで、ひとまず譲り受けるのに同意する。

 あくまで手合わせの報酬として貰えるだけで、今はまだ借り物扱いだけどね。

 肝心の日時は、いずれとしかエドは答えないので本当にやる気があるのかは正直に言って疑わしい。

 なんだか上手く言い包められた気分だったけど、再び桜花を手にできるのは素直に嬉しくもあって、それ以上は言葉が出なかった。


 あまり剣に拘りはなかったと思うんだけどなぁ。

 どうやら私の眼鏡に適う剣との出会いがなかっただけのようだ。

 この先、桜花とは長い付き合いになる予感がするね。


「だがシリスちゃん、どうやらまた一本足りないようだのう」

「うん、そうなんだよね」


 安物のショートソードだったけど、リザードキングの腕を斬り裂いたのだから十分に仕事を果たしてくれた。

 とはいえ愛用していた剣が砕けたのは、ちょっとショックでもある。

 その前の一本は死霊に投げたら失くしちゃったし、私はもうちょっと剣を大事にするべきだね。

 桜花がカタカタと微妙に震えたのは、そんな自責の念から来る錯覚だろう。


「であれば、良い店を紹介しよう」






「それが、このお店ですか? シリスさん」

「なんだか薄暗くて、雰囲気も良くないですね」

「うーん、教えて貰った通りだから間違いないと思うけど……」


 翌日、エドに武具の名店と称して教わった件の店に、私はプロンとベティを連れて訪ねていた。

 話によると質は良いのだが値が張るそうで、私の手持ちで足りない場合はパーティの活動費用から捻出するしかなく、それには二人の許可が必須だ。

 最初にこの話を切り出した時は、シリスさんの自由にして構いません、シリス様がご自由に使ってください! などと相変わらずの答えが返って来たので、ならばとみんなで向かうことにしたのである。

 せっかくだから私だけじゃなくて、二人用の物も購入できれば私としても心おきなく装備を整えられるからね。


 だけど、紹介された店は裏通りから細い路地に入った先にある、非常に怪しい雰囲気が漂う店構えだった。

 なんというか、闇の商人でも待ち構えていそうだ。

 さすがにエドが変な店を紹介するとは思えないけど……。

 ともかく、わざわざ紹介状まで貰っているのだから引き返す気はない。


「それじゃ行こうか」


 リーダーとして私は率先して扉に近付く。

 軽くノックをすると、覗き窓がスライドして門番らしき男が顔を見せた。


「何用だ?」

「これ、紹介状」


 事前に聞かされていたので慌てずにエドの紹介状を渡すと、やがて覗き窓が閉じて、がちゃりと分厚い扉が開いた。

 入ってもいいようだ。


「おじゃましまーす」

「お邪魔します」

「お邪魔です!」


 揃っているようで揃っていない私たちが屋内へ入ると、意外にも中は明るく照らされており、大通りのオシャレな店と遜色ない内装が施されていた。

 唯一、違いがあるとすれば品揃えか。

 均等に配置された背の低い棚には珍しい武器や防具が陳列され、壁一面にも飾りと言わんばかりに様々な装備が展示されている。

 ざっと見ただけでも、いくつかは魔獣の素材がふんだんに使用されいる高級品とわかった。他にも気になる物が多いけど、私の知識ではカバーできない品揃えの豊富さに圧倒されそうだ。

 上級冒険者のエドがオススメするだけはある。


「やあいらっしゃい」

「うわっ」


 棚の陰から音もなく現れたのは、頭から足下まで濃い緑色の衣服に包み、素肌どころか顔すら白い仮面で隠した小柄な人物だ。

 その仮面は凹凸がなく、表面に奇妙な模様が彫られているだけでひとつも穴が空いていなかった。ちゃんと見えているのか不安になるけど、軽快な足取りで私たちの前まで近寄る様子から心配ないらしい。


「お客さんは初めてだね?」

「えっと、もしかして店の人?」

「これでも店主さ。それと驚かせて悪いね。この面は外せないから慣れてくれたら嬉しいな」


 くぐもった声色からは、せいぜい女性であるとしか正体が掴めない。

 なにか事情があるようだから、あまり触れないであげよう。


「かなり変人……いえ、変わった方のようですね」

「あ、これが変人さんなんですか?」


 こらこら、ちょっと失礼だよ二人とも。

 そんなプロンとベティの小声は聞こえなかったか、あるいは気にしていないようで、店主はカウンターに入るとこちらに向き直る。


「さて、早速だけどお求めの品は、いったいどんなレア物かな?」

「そんなに珍しい物が欲しいわけじゃないんだけどね」

「おや、そうなのかい? ここに来るお客さんは、みんな一癖も二癖もあるからてっきりお客さんもかと思ったよ」


 品揃えのせいもありそうだけど、この店主がそう望んでいる節もある。

 じゃなきゃ、こんな場所に店を構えていないし、わざわざ門番を用意して入店する客のギルドカードを確認しないからね。

 口調は軽くても、中身まで同じとは限らない。

 冒険者を通すってことは、きっと商人や金持ちの道楽で買われるのが我慢ならない職人タイプだろう。


「とりあえず剣を見せてくれるかな」

「長さはどの程度? 形状は? 短いのから長いのに大きいの、まっすぐから反ったのに捻じくれたのまであるよ」

「片手剣なんだけど、ちょうどこれと同じぐらいの」


 捻じれた剣を出されても困るので、私は桜花を見本にする。

 もうちょっと長くても問題なく振れるけど、重量の関係から短い方がいい。


「おやおや? それってもしかしてエドさんが持っていた物では?」

「わかるんだ?」

「もちろんだとも。これでも武具を扱う商人だから」


 カタナは珍しいから、という理由もありそうだ。


「ちなみに予算を聞いても?」

「えっと、できる限り安く……かな?」


 こんな高級店で言うようなセリフじゃないのは承知している。

 それでも私は無駄遣いを避けたいし、ここがダメなら普通のショートソードでもいいとさえ前もって決めていた。

 だから、もし断られても素直に店を出るつもりだ。


「うーん、安物でいいなら、あの辺のはどうかなぁ」


 店主が指差したのは店の隅だった。

 私がすっぽり入れそうなほど大きな木箱に多様な剣がいくつも突っ込まれて、まるで雑草みたいに柄が生えている。

 街の武器屋ではありふれた、よくある光景だ。

 こういうのは使い古しだから、たしかに安いことは安いけど、その分粗末な物ばかりで私は元より、大抵は誰も買おうと思わない。

 手を出すのは冒険者になったばかりの新人や素人くらいだ。


「この店にあるなら、ただの中古品ってわけじゃないんだよね?」

「もちろんだとも。訳あり物につきセール中ってね」


 まあ見るだけならタダだから、一通り目を通してみよう。

 すでにプロンとベティは、引っ掻き回すように次々と手に取っている。


「シリス様、ここにあるの値打ち物ばかりですよ!」

「この装飾は北方の物ですね。こちらは古い国に見られる特徴があります」

「あれ、二人とも詳しいんだ?」

「……教会にいた頃、美術品に触れる機会がありましたので」

「えっと、ベティはなんとなく……そう思っただけです!」

「へー、私には高そうだなぁとしか見えないけど」


 実際に私もいくつか手にして驚いたけど、想像よりもずっと良さそうな剣が揃っている。

 あくまで美術品としての評価だけどね。

 柄に鞘、刀身に至るまで細かい装飾が施されているため、恐らく実戦を想定していない宝剣の類だろう。

 貴金属や宝石などは使われていないから鑑賞目的じゃなくて、あくまで騎士が見栄えを意識して携えたり、あるいは儀礼に用いられる物だ。

 使えなくはないけど耐久性に不安があるし、私の趣味でもない。

 どうせなら、もっとシンプルなのがいいかな。


「うん? これは……」


 凝った意匠は一切ない。見た目はごく普通。ただ黒い色合いをした木製の柄と鞘が、豪華な美術品に溢れた中で異彩を放っている。

 惹かれるように、その一振りの剣を引き出す。

 そして手にした最初の感想は『軽い』だった。

 異様なほどの軽さから、まさか中身が存在しないのかと疑うほどで、少しだけ二人から距離を取って床と平行になるように持ち直し、静かに抜き放つ。

 現れたのは黒い柄から伸びる、冷たい白色の剣身だ。

 桜花より少し長いのに軽く、鋭く、不思議な輝きを帯びている。

 この剣について、私はなにも知らない。

 だけど一目で、これが欲しいと心から望んでいる私がいた。


「それを選んだかー」


 奇妙な感覚に意識を奪われていると、店主の声にハッと我に返る。

 つい見惚れてしまっていたみたいだ。


「あの、この剣って……」

「それは特別製でね、まあ当たりってところだよ」

「当たり?」

「箱の中に入っていたのは外装ばかり立派で中身が伴わない出来損ないばかりさ。それだけが唯一、当たりとして紛れ込ませた一品でね。見事に見つけた者には格安で譲ろうって考えてたのさ」


 なるほど。どうやら私の審美眼を試したようだ。

 まあ偶然だけどね。

 せっかく当たったのだから、ここは黙っていよう。


「それで、どれぐらい安くしてくれるの?」

「えーっと、このくらいかな」


 店主が計算用の道具で示したのは、だいたいショートソードの二倍ほどの額だ。

 これほどの逸品なら安いと思うけど、元がどれくらいか気になる。


「ちなみに本来の値段だったら?」

「こんな感じ」

「……え? え!?」


 改めて店主が示したのは、さっきの百倍だった。

 だいたいメルの入学費と同じくらいになる。


「ちょっと待って、そんなに安くして大丈夫なの? 桁を間違えてない?」

「もうずっと置きっ放しだし、他に誰も使い手がいないんじゃその子が可哀相だからね。だから君が使ってくれるなら喜んで譲るよ」


 事も無げに言う店主の申し出は嬉しいけど、さすがに気が引けてしまうな。

 だからって予算的に、本来の値段で買うなんて私には無理だ。

 うーん……仕方ない! ここは店主の好意に甘えて、これから贔屓の店にするってことで自分を納得させよう。

 そう決めた私は金貨四枚に相当する金額、銀貨四十枚を支払った。


「はい毎度あり! 大事にしてね」

「それはもちろん……でも、この軽さって普通の鉄じゃないよね? 素材は?」

「ああ、星宝銀(ミスリル)製だから軽いのは当然だよ」

「……え、本物?」

「うちは詐欺なんてしないよ」


 星宝銀(ミスリル)は、黄金を越える価値があるとされている。

 その理由は、主に三つ。


 まず単純に珍しい。鉱床がほとんど発見されていない上、過去に産出された分だけでも量が少なく、希少性からして黄金を遥かに上回るからだ。

 古代の大国において最上位の通貨として使われていた星宝銀貨(ミスリルコイン)と呼ばれる遺物が、現在でも金貨を上回る価値を誇っているほどで、一枚で金貨にして十枚は下らないと見られている。


 次に素材としての有用性が高い。軽くて頑丈、そして決して錆びないというだけでも素晴らしいのに、加えて魔力を反射する性質を持っているため、魔法除けに効果があると考えられて人気がある。

 冒険者のみならず騎士や魔法使い、貴族すらも欲しがる素材というわけだ。


 そして最後に、見栄えが良い。

 武具に用いる素材としても優秀な星宝銀(ミスリル)の白銀色は、宝飾品に用いても一級品であり、小さい物なら指輪やネックレスに加工される。

 ある貴族に至っては冶金していない鉱石のまま広間に飾り、それを手にする己の財力と手腕を誇示する逸話まであった。


 さっき店主はショートソードの倍の価格を提示し、本来はその百倍の価格で販売すると話していた。

 だけど、星宝銀(ミスリル)製の剣であればさらに二倍、金貨八百枚であっても買い手が殺到するだろう。

 ただ軽いだけではない剣を、ぽんと譲ってしまう店主の気軽さに目眩がする。


「おめでとうございますシリスさん。良い買いものができましたね」

星宝銀(ミスリル)なんてスゴイです! ベティも見たことないですよ!」

「いやまあ、そうそう目にできない物だとは思うけど、あんまり安すぎてお店に悪い気がするんだよね」

「そう思ってくれるなら他にも買ってくれたら嬉しいなー」


 仮面で表情は窺えないけど、期待の眼差しを送られている……たぶん。

 想定よりも出費は抑えられたし、もう少しくらいはいいかな。


「だったら防具でいい物があったら見せて欲しいんだけど」


 私は身に着けるタイプで動くのに邪魔にならない、軽装の防具を思い浮かべながら店主に伝える。


「それなら、とっておきのがあるよ」


 店には出していないのか、さっと奥へ引っ込んだかと思えば、すぐに白の木箱を抱えて戻って来る。

 カウンターに置き、ぱかりとフタを開けば、そこには黒い布が収められていた。

 てっきり革製の防具だと予想していたので首を傾げる私たちだけど、気にせず店主が摘んで取り出すと、布が衣服の一種であるとわかった。


「これは森妖精の黒絹(エルフィンシルク)で編まれた肌着でね、上がインナーといって、下がスパッツさ。どちらも肌に張り付くように密着して伸び縮みするから動きやすく、おまけに破れ難くて汚れにも強いよ」

「なんだか良いとこ取りって感じだけど、それが防具なの? それに初めて聞く布だけど……えるふぃん?」

「エルフは知っているかい? 森妖精の黒絹(エルフィンシルク)は彼ら……ああいや、彼女らだけが知る製法で紡がれるんだ。別名は魔法のシルク」


 シルクと言えば高級な織物として一般的に知られている。

 それをエルフが紡いだから森妖精の黒絹(エルフィンシルク)か。

 これもまた高そうな一品だ。


「せっかくだから試着してみないかい?」

「え、でも肌着なんでしょ? 汚したら悪いし……」


 それで弁償しろと買わされるのも困る。


「さっきも言ったけど汚れに強いから大丈夫。奥に試着用の小部屋があるから、さあさあ行った行った」

「うえぇぇぇ!?」


 問答無用で後ろから押され、なんやかんやあって着替え終えてしまった。

 店主の指示もあって間違いはないはずだけど、ちょっと落ち着かない。

 肌に張り付くとは聞いていたけど、本当にぴっちりとして体のラインが浮き彫りとなってしまい、肌を晒すよりも気恥ずかしいからだ。


 黒いインナーはシャツのように着込むけど、首元から胸周りまで覆うだけで、肩やお腹が出ている。

 黒いスパッツはいつも穿いているハーフパンツに似ていても、やっぱりお尻や太ももに密着するから見ようによっては丸出しだ。

 実際は上に服を着込むから、ほとんど見えないし、仮に見えてもしっかりガードしてくれるという点においては、この密着度は安心できる……かも?

 勇気を振り絞って、いざプロンとベティの前に出てみると。


「とてもお似合いですよシリスさん」

「シリス様のイメージにぴったりです!」


 普段どんなイメージを持たれているのか気になるね。


「たしかに、動きやすいんだけど……」


 激しく動く戦闘スタイルの私に合っているのは事実だ。

 で、でも高いお金を払ってまで購入する必要はないかな?

 破れ難いってだけで普通の肌着だし買うほどじゃ――。


「あ、そうそう。それを防具としてお勧めするのは森妖精の黒絹(エルフィンシルク)に変わった特性があるからでね。実は魔力を帯びると瞬間的に硬質化するんだよ」

「硬くなるってこと?」

「まあ試してごらんよ」


 こんなに密着しているのに硬質化したら、動けなくなるんじゃないの?

 特に害はなさそうなので言われた通り試すことにする。


「……お、おぉ?」

「どうかな?」


 たしかに硬くなったようだけど、鎧みたいにガッチガチになるんじゃなくて、前に大湿地帯でディーネたちが着用していた弾力性のある防具に似ている。

 あれは衝撃を和らげる効果と、耐水性で体温が下がるのを防ぐ役割があった。

 魔力を注ぎ続けられるなら、これも似たような効果が期待できそうだ。

 さすがに長時間は難しいけど、ほんの数分くらいなら可能かな。


「攻撃を受ける一瞬だけでも、少しはダメージを防げそうだね」

「軽く叩かれたり、斬られた程度じゃビクともしないさ。もっとも覆っている面積が少ないから、あくまで不意の備えってところだよ」


 くっ、思ったより便利そうだ……。

 こういった僅かな備えの差で生死が左右されるのは、前世のグレヴァフがよく知っている。

 そして迷いに迷った末、結局インナーとスパッツを二セットと、さらに魔獣の革製ジャケットや編み上げブーツなどを購入した。

 だって、まとめ買いしたら安くするって言うから……。

 合計で金貨二十枚、銀貨にして二百枚だ。

 さすがに手持ちが足りなかったから、残りは後日に支払うと約束する。この辺りは信用の問題で、私の場合はエドの紹介状もあったし、それなりに私の名前も知られていたからすんなり通った。

 有名人って便利だね。


「そういえばプロンとベティちゃんは、なにか買わない?」

「私はこの鎧がありますから、ご心配ありがとうございます」

「ベティも今あるので大丈夫ですよ!」


 言われてみればプロンは聖騎士の鎧という一級品の装備があった。

 じゃあベティはと言えば、なぜか初めて会った時から高級品の装備を身に着けていた。まるでベティの体形に合わせた特注品のようにピッタリだから、その辺の安物はもちろん無理に買い替える意味がない。

 こう考えると、今まで安物に身を包んでいたのって私だけ?

 ……今後はリーダーとして相応しい装いを心がけよう。

 リーダーはパーティの顔だって言うし、私のせいで二人が侮られるのだけは絶対に避けたいからね。




 翌日、私は北の大門前をうろうろと歩いていた。

 新たな武器、私の星宝剣(ミスリルソード)を試したい。でも魔獣どころか森に入ることすらマムに禁止されている。

 魔獣を相手にしたら……特にブレードベアの角なんて以前のショートソードなら確実に叩き折られるけど、この剣なら打ち勝てるのではないだろうか。

 そんな行き場のない熱い想いが、私の足をここまで衝き動かしたのである。

 マムの言葉を無視できるほどじゃなかったけどね。

 日が暮れそうになるまで悪足掻きを続けていた私も、とうとう諦めて帰ろうとした時だ。見覚えのある三人が駆けて来る。

 死霊騒動で救助した少年たち、ジンとケインとキールだ。

 何事かと声をかけたら、どうやら他所者の冒険者がはぐれブレードベアが出没する危険区域に入ってしまったらしい。


「私に任せなさい!」


 即座に駆け出した私は、これは人助けです、と心の中でマムへの言い訳を考えながら、そっと腰に吊るした剣を触れる。


 ありがとう名も知らぬ冒険者!

 待ってろよブレードベア!

 行くぞ私の星宝剣(ミスリルソード)

あまりややこしくならないよう

一枚で金貨は1万円、銀貨は1000円として計算しています。


つまりショートソードが2万円で

ミスリルソードは店での販売額400万円

本来の価格800万円以上という話でした。


同時にメルの入学費は400万円という事になりました。


ちなみに依頼におけるブレードベアの角の報酬が

シリスのいる街では3万円未満

他の街では6000円程度です。(品質により誤差あり)


孤児院の運営費、武器や道具の調達、修繕にもお金がかかるので

400万を稼ぐのにシリスはそれなりに苦労したようです。

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