シリスと日常
「一カ月は大人しくしなさい。いいですね?」
「あ、はい」
マムから謹慎処分を言い渡された私は、抗う術などあるはずもなく、ただ頷くしか選択肢は残されていなかった。
まあ自業自得だけどね!
あれだけ注意されていたのに、とんでもない無茶のし通しだったからメルにも怒られるし、マムからはとりあえずで謹慎処分だし。
さらにもうひとつの、もし無茶をしないという約束を破ったら、なんでも言うことを聞く約束も履行されるのだ。
ただ、これはマムがいずれ使うとして、今すぐどうこうはしなかった。
それはそれで怖いんだけどね。なにをされるんだろう……。
でも私は、この結果を後悔してはいない。
おかげでディーネを無事に助けられたのだから。
リザードキング討伐から戻った後の話をしよう。
幸いにも大きなケガ人はベティのおかげで出なかったため、何事もなく拠点へと帰還した私たち。
無事にディーネを連れて帰ったと聞いたアルルからは何度もお礼を言われ、感極まったのか抱き付かれたりと、落ち着かせるのに苦労したよ。
でもアルルみたいな可愛い子に、ぎゅっとされるなら悪い気はしないね。なんてチラッと考えてたら、後ろにメルが立ってて心臓が止まるかと思った。
いやぁ、リザードキングより恐ろしかったね。ははは……。
ともあれ大湿地帯でのリザードマン討伐依頼も完了となったんだけど、本当に大変なのは街へ戻ってからだった。
なんと、すでにキングが討伐されたと知れ渡っていたのだ。
なにかの賭けとかで大湿地帯に押し掛けていた例の見物人たちが、先に帰って噂として広めてしまったらしい。
それは別に構わないんだけど、問題はその後だ。
本当に討伐したのか?
報酬が欲しいだけじゃないのか?
討伐した証となる魔石はあるのか?
などと疑われる事態になってしまったのだ。
初めに言い出したのは他所から訪れていた冒険者みたいで、それを聞いていた知り合いの冒険者が庇ってくれたりしたけど、相手の言い分は正しい。
これは私が魔石を持ち帰らなかったせいだから仕方ない面もある……けど、やっぱり嘘つき呼ばわりは心外だ。
結局は勇者アズマや、上級冒険者であるパワーズのジョンたちが証言してくれたおかげで、どうにか収まったから良かったよ。
すると本来なら魔石との引き換えで得られる報酬を、ギルドは特例措置として全額を支払うと宣言してくれた。
たぶん勇者であるアズマの顔を立てる意味合いもあったんじゃないかな?
ありがたく受け取った金額は、なんと武器と防具と野営道具を新調して、残りをメルの学費分に充ててもまだ余るほどだ。
さすがリザードマンの長! ありがとうキング!
なんだか魔石を貰った時より嬉しいのは、きっと気のせいだ。
でもこんなに報酬を貰ったら、リザードキング討伐隊のリーダーを務めたアズマに申し訳ない気持ちになってしまう。
本来ならアズマは、私より称賛されるはずだからね。
そう言ってみたら本人はまるで気にしていないようで。それどころか私の武勇に心からの賛辞を送ってくれた。
本当に良いやつだけど、なぜか視線を向けられるとぞわぞわする。
きっと第一印象の悪さが拭い切れていないせいだろう。
ついでに……じゃなくて、一緒に冒険者ランクも上級への昇格が認められたんだけど、これに関しては辞退した。
以前だったら悩んだと思うけど、もう大金を稼ぐ理由もなくなったし、上級は大討伐の召集に応じる義務が伴うから、今の私からするとデメリットが大きい。
これからは本当に無理をせず、のんびり孤児院の運営費を稼ぐくらいが丁度いいのである。
肝心のディーネだけど、彼女は街に戻ってからも眠り続けていた。
その原因は、魔力を使い果たして枯渇状態に陥ったせいだ。
これは後で聞いた話で、ディーネは濁流の槍でキングを宙に打ち上げたところで魔力が少なくなった中、崩落に巻き込まれた私と自分を咄嗟に水の膜で覆って保護してくれたらしい。
結果、以前の私みたいに限界まで魔力を絞り出したのだ。
そんな無茶のおかげで落下の衝撃は和らげられ、私は地下遺跡で意識を取り戻せたのだから、もう頭が上がらないね。
ディーネには外傷として、落下した際に付いた細かいキズもあったけど、これはベティが魔法で癒してくれたから痕も残らずに消えた。同じくアルルの腕も完治したので安心する。
二人とも綺麗な肌だから本当に良かった。
ただし傷口を塞いでいるだけなので、しばらく安静にしていないと簡単に開いちゃうし、失った体力も回復しないとベティに注意されたので、冒険者としての活動は休止するらしい。
上級冒険者なら蓄えはあるだろうから、心配いらないかな?
私も当分は依頼を受けられそうにないので、奇しくも揃ってお休みだね。
三日後にディーネが目を覚ましたと聞き、すぐにお見舞いへ行った。
こんな高級宿に泊まっているなんて、やっぱり上級は稼ぎがいいんだなぁ、なんて感想は引っ込めておく。
広い部屋に入ると、ディーネはベッドから起き上がって出迎えてくれた。
まだ歩き回れるほど回復していないけど意識もはっきりしていて、心配し過ぎですわ! なんて介護しようと傍を離れないアルルに不満を口にしている。
さすがにトイレまで付き添おうとしたら、私だって困るからね。
でもアルルはアルルで、自分のミスでディーネが危険な目に遭ったという負い目があるから、そうして動かずにはいられないんだと思うな。
私が言わなくても、ディーネは理解しているみたいだけどね。
「今回は迷惑をかけましたわね」
「困った時はお互い様だよ」
素直に謝るディーネから、以前のような覇気が薄れているように感じた。
疲れもあるだろうけど……。
「それで納得する私ではありませんわよ。ですからシリス、アルルとヴェガとも話し合って決めましたわ。今回の勝負は貴女の勝ちであると認めましょう」
「あー、それなんだけど、こっちも話し合ってね? 引き分けにしないかって」
「却下! ですわ!」
うわー、やっぱりかー。
プライドの高いディーネだから、こうなるとは予想していたけど、あれで私の勝ちにされても困るんだよね。
「たしかに私はリザードキングを倒したけど、ディーネの協力がなかったら途中で死んでた気がするし……」
「それを言うのでしたら私も同様ですわ! だいたい私を助けようと無茶をしたために招いた事故みたいなものでしょう?」
「どちらにしても時間の問題だったんだけどなぁ」
ディーネとしては、先を急ぐために私がベティから『増強』の魔法を受けていなければ、途中で力尽きなかったと予想しているんだろう。
でも私は、あの状況から死に物狂いで立ち上がろうとする強い意志でもなければ、きっと記憶を取り戻せず、キングに打ち勝つなんて不可能だった。
つまるところ、私たち二人が揃って初めて得られた勝利なんじゃないかな?
だから引き分けこそ相応しい幕引きだと考えたんだけど……。
「いいですから、黙ってお金を受け取りなさい。必要なのでしょう?」
「あ、それもキング討伐の報酬を貰ったから大丈夫なんだ」
「でしたらお好きに使いなさい。あって困る物ではありませんもの」
勝負する際に決めた条件、それは敗者は勝者の言うことをひとつ聞くこと。
私が要求しようと決めていたのは、今回のリザードマン討伐でディーネたちが得られるはずの報酬を、丸ごと私が受け取るというものだ。
これを予想していたディーネは、その約束を頑なに果たそうとしている。
どうしても引き下がらないみたいだから、第二案に切り替えよう。
「でもさ、ディーネも槍を失くしちゃったし、防具だって修理するか新調するにしてもお金がかかるんじゃない?」
「……問題ありませんわ。いざとなれば水の槍でも使えますし」
「あれは普段から使えないよ。消耗が激し過ぎるからね」
わかってるでしょ、と言葉にせず目で訴えかける。
いくら蓄えがあるからって、以前の高性能な装備を揃えるには痛手のはず。休養中の生活費もあるし……そういえばアルルも剣を失っていたかな。
もちろん、だからって差し出そうとしたお金を手元に戻すようなディーネじゃないんだよね。
だから私は、こう切り出す。
「ひとつ提案なんだけど、ディーネに貸しておこうと思うんだ」
「貸す、ですって?」
「受け取るはずだった報酬をそのままね。それで装備を整えて、また依頼で稼いだら、その時は素直に受け取るよ」
「また……依頼で?」
「うん。だから返すまでは、絶対に逃がさないからね」
実のところ、ここへ訪れる前にヴェガから気になる話を聞いていた。
それはディーネが、冒険者の引退を仄めかしていた、というものだ。
大ケガをした冒険者にはよくあることで、大抵は死への恐怖だったり、生き延びた命を大事にしたいという思いが芽生えたからだけど、時に責任感や罪悪感に苛まれる者もいる。
仲間を危険に晒したり、あるいはパーティを失ったリーダーに多く見られる特徴であり、ディーネもこれに該当する気がしていた。
でもアルルとヴェガは、そんな結末を望んでいない。
もちろん私だってそうだ。
勝者の特権を使ってでも引き止めたいところだけど、こればっかりは本人の意志が伴わないと難しい。
「シリス……私はもう冒険者は……」
「本当にやめたいなら、いいよ。でもディーネはちょっと弱気になってるだけなんじゃないかな?」
「ですけど、みなさんに迷惑をかけてしまいましたわ。シリス、貴女にも」
「私たちは勝手に動いただけで、その結果が命を落とすようなものでもディーネを恨んだりしないよ。きっと、みんなもね」
実際、キング討伐に向かったのはアズマとパワーズ、ヴェガと私のパーティだけで、他の冒険者たちは拠点に残っていた。
それが悪いなんて誰にも言わせない。無理だと判断したら退くのも大切だ。
反対に勝てると踏んだから、私たちは立ち向かった。それだけだからね。
「それに、あの時は勝負していたのも良くなかったと思うんだよね。魔物だらけの大湿地帯でどれだけ多く狩れるかなんて、今考えると……ね」
これが普段の私だったら、必ず互いに協力して安全第一に行動していた。
もしかしたら目先の大金に眼が眩んでいたのだろうか。
お金は人を狂わせると聞くけど、まさか自分がそうなるとは……反省しよう。
「これからは私たちも力を合わせられるし、それなら例えリザードキングが相手だって怖くないよ」
「私たちは別のパーティですわよ?」
「パーティが違ったら協力しちゃいけない決まりなんてないでしょ?」
「そう、ですわね……」
「私はそっちのパーティには入れないけど、お互いに協力するなら、もう同じパーティと大して変わらないし、私もディーネと一緒に依頼を受けてみたいからね」
えっ、と驚いたようにディーネが私を見つめる。
なにか変なこと言ったかな。
「どうしたの?」
「わ、私と一緒に依頼を受けたいというのは、本当なのかしら?」
「もちろん! 昔よりずっと強くなって頼りがいもあるし、むしろ私のパーティに勧誘したいくらいだよ!」
「な、ななな、な……」
顔を赤くしてぱくぱくと口を開け閉めするディーネは、やがてベッドに潜り込んでしまった。
「し、仕方ありませんわね! そそそこまで言うのでしたら、いずれ共同で依頼を受けてあげてもよろしくてよ!?」
「うん、その時はよろしく頼んだよ!」
シーツに包まってぐにょぐにょとうごめきながら、なぜか上擦った声で捲し立ててるディーネだけど、いつもの調子を取り戻したみたいだ。
この様子なら、もう引退なんて言わないかな?
あとはパーティメンバーであるアルルとヴェガに任せるとしよう。
「じゃあ、私はそろそろ帰るね。また遊びに来るよ」
「お、おととい来なさ―い!」
「あはは、またね」
すっかり元のディーネに戻ったのを確認した私は、安心して部屋を出た。
途中でヴェガがやって来て改めてお礼を言われつつ、今度また手合わせをしようと誘われたけど、ほどほどに付き合おう。
それと、アルルの態度がちょっとだけ以前よりも柔らかくなった気がするのは私の勘違いだろうか。
なんにせよ今後はもっと仲良くなれたらいいな。
もちろん親睦を深めるのは、ディーネのパーティだけじゃない。
実は私たちのパーティへ臨時で仮加入していたベティが、本当に加入することになったのだ。
便利な魔法もさることながら支援役として相性が良く、本人もすごく乗り気な上に、プロンまでも加入を提案するほどだったので私としても断る理由がない。
となれば、こちらはこちらでより仲良くなるのは、今後の連携のためにも必要不可欠だろう。
「その一環としてパーティ名を決めたいと思うんだ」
「パーティ名、ですか」
「それってなんでしょうか?」
プロンは知っているみたいだけど、ベティは首を傾げていた。
私もあまり気にしてなかったから知らなくても仕方ない。
冒険者パーティは、それぞれパーティ名を付けるのが通例となっている。その名前が広まれば、指名依頼が入りやすくなるといった利点があるからだ。
現に上級冒険者のトップクラスである三つのパーティも剛鉄組、ドラグノフ、パワーズとそれぞれ名前を付けているし、ディーネたちも月華美刃と名付けている。
あまり実力が伴っていないと名前負けして逆に格好悪いから、敢えて無名にしている冒険者も多いけど、上級に認定された私のパーティなら構わないはずだ。
なによりひとつの名前を共有するのは、結束を固めるのに効果的だという。
騎士団や傭兵団も、似たような理由から名前を付けているほどだからね。
「別にパーティ名がなくても、基本的にリーダーの名前で識別されるから必要ないんだけど、せっかく三人揃ってパーティらしくなったからね」
「私はシリスさんのお望み通りでいいと思います」
「ベティも、シリス様が好きに決めていいです!」
「いやぁ……できたら二人にも考えて欲しいかなーって」
遠慮とか、なにも考えてない訳じゃないと思うけど、二人のなにもかも私へ一任してしまうところは、ちょっとパーティとしてどうかと悩んでしまう。
だからこそのパーティ名で、二人に自分もメンバーのひとりだと強く自覚して貰いたい、という狙いがあったりするのだ。
「でも名前を付けるなんて言ったけど、どんなのがいいかな……」
「お悩みでしたらシリスさんのお名前を取って『シリス守護騎士団』はどうでしょうか? シリスさんをお護りする、という意味です」
「あ、ではベティは『シリス様と愉快な従者たち』を提案します!」
きっと真面目に考えてこれなんだよね……?
で、でも率先して案を出すのは改善されていると、そう思いたい。
「いきなりだったし、もう少しみんなで考えて、決めるのは後日にしようか」
できれば私の名前を入れるのは阻止する方向でね。割と本気で。
あくまで、私たち三人のパーティなんだから。
話題を切り替えてベティが滞在している宿について聞いてみた。
いざという時すぐに連絡が取れないと困るから、お互いの居場所や、なにか予定があって遠出する際には事前に話しておくといった、細かいルールも共有する。
三人パーティともなれば、その辺りもきっちりしないとね。
「ベティは『春眠亭』に泊まっているんですよ」
「あれ? それってたしかプロンと……」
「そうですね。ベティさんは私と同じ宿に泊まっています」
前にプロンの宿泊先を聞いた時にも耳にした宿で、記憶違いでなければ街にある高級宿のひとつだったはずだ。
そこに泊まっているって、ベティは何者なんだろう?
わざわざ冒険者になる必要あるのか……いや、事情は人それぞれだ。あまり詮索したらマナー違反になってしまう。
話したくなれば、いずれ本人から教えてくれるだろう。
「ところでシリスさん。ひとつ耳寄りな情報がありまして」
「あ、ベティもあります!」
「なになに?」
二人がこぞって教えてくれたのは正式魔法についてだった。
まあ、だいたい知ってる内容だったんだけど、せっかくだからきちんと最後まで聞いてお礼を言っておく。
新しい発見はなかったものの、グレヴァフの知識に間違いがないとわかっただけでも充分だ。
やっぱりあの時、私が使ったのは正式魔法で間違いない。
この魔法『魂の覚醒』は、魂に刻まれた記憶……私の場合、前世の私が有していた身体能力を、そのまま現在の私に上乗せできる一種の強化魔法と言える。
でも、いきなり会得したわけじゃなくて、魔力が足りなくて気付いてなかっただけで初めから私に備わっていた力だった。
それをリザードマンの魔石を大量に砕いたおかげで、発動させるのに必要な量まで届いたのだ。
そのことから私の魔力的な感知機能はかなり大雑把というか、一定量に達していないと認識できないのだとわかった。
魔力制御に苦戦していたのも、その感覚に対して私自身の魔力量が少な過ぎるせいで、正確に感じ取れていないのが原因だったようだ。
ちょっと溜まっても魔獣を狩るのに無意識に使ってたみたいだし、死霊騒動では空っぽになるまで使い果たしちゃったからね。ある意味、自業自得だ。
今ならキングの魔石から大量に補充できたので、手に取るようにわかる。
だからって無駄遣いすると、消耗に対して回復が間に合わず、再び魔力制御も覚束ない状態に逆戻りするから気を付けないといけない。
魂の覚醒もかなり魔力を使うから、いざという時のために温存しておかないとね。
もちろん、そんな事態にならないのが一番だよ。
とまあ、そんな感じで色々あったわけだけど、私はなにも変わらない。
より克明にグレヴァフの記憶を取り戻したとしても、膨大な魔力を得て、正式魔法なんてものが使えるようになっても、私は私なのだから。
……どれだけ変わってしまっても、それだけは変えたくない。
この、いつも通りの平穏で……黄金よりも価値がある、大切な日常も。
「シリスも少しは反省してくれるといいのですが……」
孤児院の主マーム・ジュリーク、通称マムは執務室で書類を眺めながらも、思考は院内切っての問題児で埋め尽くされていた。
どれだけ注意しても無茶な行動ばかりで、それを知らされる身にもなって欲しいとマムは溜息すら漏らす。
そんな悩みも、どうやら終わりが見えたと思えば気が楽になった。
今度こそシリスは本当にメルの学費を支払うのに十分な額を稼いだため、危険な依頼を受ける必要がなくなったからだ。
そのメルも当初こそ機嫌を損ねていたものの、シリスはいつだって誰かのために無茶をすると知っているからこそ、心中ではとっくに許していた。
なにしろメル自身が、助けられた当事者なのだから。
しかし、それではシリスを甘やかすだけだと、心を鬼にして形だけは怒って見せたが、やはり本心までは誤魔化し切れない。
シリスになんでも言うことを聞かせられる権利を罰として使う気にもなれず、その裁量をマムに一任する要因のひとつとなったのだ。
ただし、そこにマムが以前からメルに頼んでいた、という事情も含まれる。
実のところ、シリスが約束を破ってしまう結果は予期しており、マムをこれを利用して、とある計画を進める一助とするつもりだったのだ。
「これで準備は整いましたね……あとはシリス次第ですか」
今までシリスは孤児院のために多大なる貢献をしてくれた。
それをマムは深く感謝しているが、そろそろシリスも成人が近付き、孤児院のためではなく、自分の幸せを考えてもいい年頃だと懸念している。
本人に言って聞かせたとしても、恐らく聞き入れない。
あまり知られていないが、見た目からは想像できないほどシリスは頑固だ。これからも孤児院の子供たちのために、あれこれ動くのは目に見えている。
将来的には、孤児院を継ぐ意志すらある気がしていた。
それはそれでマムとしては嬉しいが、シリスはまだ、あまりにも若い。もっと別の道を模索してからでも遅くないだろう。
となれば、せめて環境を整えようとマムが算段を付けたのが一年ほど前。
「まあ、メルの件もありますし、最後はそれで推し進めるとしましょう」
一枚の書類をそっと机の引き出しにしまう。
文面には大雑把にまとめると、こう記されている。
――以下の者、エルザス学院への入学申請を受諾する。
――マーム孤児院のメルフィナ。
――マーム孤児院のシリス。
――以上。
こんな〆でなんですが、まだ学院編に入ったりはしません。
あと次話からは幕間みたいなのをいくつか挟む予定です。




