第二話 『生活するG』
「ご苦労様。いつもありがとう」
僕はお礼を言いながらゴキブリたちの背から、みんなが集めてきてくれたものを受け取った。
今日の収穫はいつものキノコや山菜類に加えて栗の実がいくつか入っていた。
「よし、それじゃあ朝ごはんをつくるから少し待っててね」
これだけあれば朝からしっかり食べられそうだ。これでも僕は料理には割と自信がある。十年間、親に殴られないように必死で磨いた料理の腕は伊達ではないのだ。
この山小屋もさすがにガスは通っていないので外で火をおこし調理を始める。
みんなが拾ってきてくれたキノコや山菜をフライパンに投入し少量のサラダ油で炒めて、裏の川でとれた魚の干物を一切れほぐして混ぜ、最後に塩コショウで味を調える。
「完成!」
大雑把な男料理だが、調味料や調理器具が制限される現状ではこれぐらいが限界だ。採集で手に入らない油や調味料は足りなくなったら街に降りて買い足しているがこの費用もみんなが集めてきてくれたものなので無駄遣いはできない。
でもやっぱり醤油は買おうかな……。
「ほらみんな、ご飯だよー」
数枚の皿に盛った山菜炒めをみんなの前に置くと、お腹がすいていたのかみんな一斉に食べ始めた。
僕も、先に取り分けておいた自分の分に箸をつける。
「うん、上出来!」
少し強めに塩の効いた干し魚を新鮮な山菜がうまく中和してマイルドな風味に仕上がっている。コメがないのが本当に残念だ。
と、そんなことを考えている僕の肩の上に一匹のゴキブリが這いあがってきた。
「あれ? 隊長は食べないの?」
僕はそのゴキブリに声をかけた。僕はみんなに名前を付けたりすることはしないが、たった一匹、彼だけは特別に『隊長』と呼んでいる。他のゴキブリたちよりもひげが長いのが特徴だ。
彼は、僕が親に捨てられた直後に生み出したゴキブリたちの中で、唯一の生き残り。過酷なサバイバル生活を共に生き抜いた存在なのだ。
そんな百戦錬磨の戦友はその自慢のひげをピクピクと動かしてどこかを指し示しているようだ。
その方向に目線を向けると生い茂る木々の向こうに何か動く影が見えた。
あの影は……人間?
隊長が反応したってことは何かあるのかもしれない。せっかく見つけた安息の地で厄介ごとを起こされても困るから、ちょっと後をつけてみようかな。
木々の向こうに見えた人影の後をつけていくと、やがて少し開けた広場のような場所に出た。
『ここまでくれば大丈夫だろう』
『そうだな。こいつもやっと大人しくなったし、サクッと埋めて金もらおうぜ』
そこにいたのは二人のがたいのいい男と、その腕の中でぐったりとしている一人の女の子だった。
あっちゃー。どうやら当たりだったみたいだ。