第一話 『起床するG』
夢を見た。
いや、その表現は正しくない。僕は今、夢を見ている。いわゆる悪夢というやつだ。
燃え盛る炎の中、みんなが必死に酸素を求めてもがき、体を焼かれてもだえ苦しんでいる。そんな光景を僕は炎の届かない場所から眺めていた。
炎から逃れるために飛び上がろうとしても、みんなの薄い羽は広げた瞬間にぼろぼろに焼き尽くされる。熱を吸収する黒い身体が瞬く間に炎に包まれていく。そうやってみんなが次々と死んでいくのに僕はその場から動くことも声を上げることも、目をそらすことさえできなかった。
これは夢だ。毎日のように見ているいつもの夢だ。僕は自分にそう言い聞かせる。けれど僕の呼吸と動悸はいつも通り、少しずつ激しさを増していく。
これは僕が死なせてしまった仲間たちの怨嗟の声。僕の身勝手な行動が引き起こした当然の報い。だから僕はこの夢を今までも、そしていつまでも見続ける。たとえみんなが本当は僕のことを恨んでいないのだとしても。
みんなは世界で唯一僕を嫌わず、恐れず、いつもそばにいてくれるのに、僕はその好意を自分の身勝手のために使い潰しているのだから。
そして、いつものように夢は佳境に入っていく。
みんなが耐えられない熱に苦しそうなうめき声を上げる。そのうちの一匹と僕の目が合う。その目の中にはないまぜになった苦痛と、絶望、そして強い怨念がどす黒く渦巻いていて――
「――ッは!」
僕は跳ねるように飛び起きた。滝のように汗をかき、まだ心臓がバクバクと強い鼓動を刻んでいる。何度か深呼吸をして息を整える。おかげで今日もスッキリが目が覚めた。
「ふう、もう朝か」
窓から差し込む朝日が立ち上がった僕の顔に射す。まぶしさに目を細めながら僕は小屋の外に出た。
小屋の裏に流れている小川で顔を洗い、昨日のうちに仕掛けておいた罠を引き上げる。ペットボトルで作られたその仕掛けの中には容器いっぱいの大きさの魚が一匹だけ詰まっていた。
「こんなに大きいのは久しぶりだなあ。今日は運がいいや」
今すぐこの新鮮な魚を煮るなり焼くなりして食べてしまいたいが、ここでは貴重な食糧だ。我慢して後で干物にしようと思う。
小屋の表に回ると、数十メートルは切り立った崖になっている。僕はその崖の上に立って心地よい朝の風に吹かれながら、眼下に広がる街を眺める。
そこは僕の生まれ育った街。でも、僕があの町で暮らすことはもうないだろう。捨てられた僕が帰る場所はあの街にはないから。
一か月前に見つけたこの山小屋は、ここ数年人の入った気配がなく、しかも運のいいことに一通りの家具がそろっていた。少しばかり原始的な生活ではあるが、それでも僕は今の生活に満足している。僕はここでみんなと静かに暮らせればそれでいい。
そんなことを考えている間にみんなが帰ってきたみたいだ。気配でわかるってほどじゃないけれど長い付き合いだから、こうなんとなく、帰ってきたって分かる。
「おはよう、みんな」
僕は木々の間から現れた数百匹のゴキブリの群れに向かって、そう声をかけた。
僕はこの山小屋で、ゴキブリたちとともに暮らしている。




