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偽りの英雄  作者: 考える人
第三章 竜神
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カーライ・テグレウ

今回ちょっと短いです。


『なんでよ!?あなただってヘルトに恨みがあるんじゃないの!?』


『私が憎んでいるのはオーヤ・ヘルトだ。それ以外の誰でもない』


『なによそれ……わけわかんない』


『わからないのは私のほうだ。君の怒りは本当に君のものか?

 

 私の眼から見た君は、まるで何かにとり憑かれているようにしか見えない』


『……?』


 


 遠い過去のようで、思ったよりも最近の記憶。

 

 はっきりとわかる。

 私が変われたのは、間違いなくカーライのおかげだ。


ーーーーーー



 トーヤ視点



「カーライ! しっかりしてカーライ!!」


 倒れているカーライに向かって、ラシェルが必死に呼びかけ続ける。


 カーライの傷は全く再生していない。

 それどころか、どんどん悪化しているように見える。


 疲労感から見て、魔力切れだというのは確実だった。


「危なくなったら無理するなと、いっておいたはずだぞ」


「……なに、ラシェルのために恩を売っておくべきだと思ったまでだ」


 息も耐え耐えになりながら、カーライは返答する。

 だとすれば大成功だ。

 

「安心しろ、約束は守ってやる。トーヤ・ヘルトの名において、ラシェルの安全を保障しよう」


「不思議なものだ……ヘルトの人間に封印され、ヘルトの人間を狙い、ヘルトの人間に大切な者を守ってもらうことになるとは」


 もはや自分が長くないことを、カーライは自覚しているのだろう。

 

「ねえ! 回復魔法とか使えないの!?」


 ラシェルが請うように尋ねてくる。


「悪いが使えない。それに伝承通りなら回復魔法でどうにかなるもんじゃない。魔人の死は魔力切れによってのみ起こる。つまり傷が治ったところで、魔力がなければ肉体は死へ向かうのみだ」


「そんな……」


 ラシェルの顔が絶望に染まる。


「そんな顔をするな。もう……私がいなくても大丈夫だ」


「やめてよ、そんなこと言わないで!」


「母に言われたことを、盲目的に信じていた昔の君とは違う。何が正しいかを考え、見極め、間違いを認めることだってできるはずだ」


「……私を、ちゃんと叱ってくれるのはあなただけだったのに」


 二人のやり取りを見ていると、それは親子のように感じられた。

 

 ラシェルは王の隠し子として生まれ、当然まともに生きることなどできなかったはずだ。

 そして魔人であるカーライ。

 二人の間に何があって今の関係に落ち着いたのか、想像できるようなもんじゃないだろう。


「ほんとに数奇な人生だった。だが不思議と……それほど悪くなかったと思えるよ。心残りがあるとすれば、親友の娘の安否だけだな」


「なんなら俺が探し出して保護しようか?」


 文字通り命はってくれたんだ。

 それぐらい喜んでやってやる。


「ありがたい……が。なんせ500年前の友人だ。娘がどうなったかわからない」


 死んでると思うけどなぁ。


「ちなみに名前は?」


 まあ時間があったら調べて、墓の前で報告ぐらいはしてやるか。


 インあたりにやらせよう。

 

「シルエ……シルエ・ダルニアス」


 ダルニアス……まさかな。


「私たちのことに関しては、ラシェルに聞けばわかる。悪いがロスや他の魔人については、私もほとんど知らない。封印される前は、直接会ったこともなかった」


 だろうな、敵対していた時点で予想はできていた。


「『ナイラル』という組織を調べるのが一番の手がかりのはずだ」


 ナイラルね、覚えておこう。


 他にも聞きたいことはあったが、どうやら限界が来たらしい。

 カーライの体が、灰のようになって徐々に崩れ始める。


「カーライ!?」


「どうやら、もう時間がないようだ」


 体の崩壊は止まることなく、どんどん崩れていく。

 とっくに限界だったはずの肉体が、魔力によって無理やり生かされ続けたことによる影響かもしれない。


「トーヤ・ヘルト。私のように、封印から解かれた魔人が他にもいるはずだ。立場上、君は間違いなくそれに関わっていく。多くの困難があるだろう――だが、君はオーヤとは違う。きっと素晴らしい結末を迎えることができるはずだ」


 俺に伝説の英雄以上の結果を求めるのかよ。

 無茶言ってくれる。


「ラシェル。君には話したいこともたくさんあるが……一言だけ伝えることにする。



 君と出会えてよかった」


「私も……あなたに会えて、ほんとうによかった。ありがとう……ありがとうカーライ」


 涙を流しながら、感謝の言葉を告げるラシェル。 


 

 ついにカーライの体はすべて崩壊し、カーライの体の一部だった灰が、風で舞い上がる。

 残ったのは、カーライの身に着けていた衣服だけだった。


 

 

 魔人とは、人の理から外れた存在だ。

 死の瞬間ですら、道理から外れている。

 永遠に近い命が手に入ることを考えると、それは軽い代償なのかもしれない。


 それでも、死んで骨すら残らず消えていく最後の瞬間を――



 俺は切なく感じてしまった。






カーライ・テグレウ デクルト山にて完全消滅


カーライの死のシーンだけで一話まとめることにしたため、少し短くなりました。


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