何もかもが違う世界
ビルヒジスタ。ラオネル公国の首都であり、ラオネルに生まれた人間なら一度はこの都市での生活を夢見るという。実態がその理想に見合うかは置いといて、人々の憧れであることは間違いない。
人口は堂々たる50万人。人口100人のロルカ村からスタートした俺にとってみたら、この街に店を構えるのは大出世なんてもんじゃない。
「ついにここまで来たな」
「はい! 私も誇らしい気持ちでいっぱいです!」
「私もガリアス以上の都市に住むのは初めてだ……楽しみだな」
「うんうん! 楽しいことも一杯ありそう!」
「気苦労も多いんだろうけどね」
とか何とか言いながら、ノアも結構嬉しそうだ。
やっぱりみんな、今まで以上に大きい舞台での商売に期待があるみたいだ。
ここまで来られて本当に良かった。
……と言っても、まだ店は建築中なので、暫くは準備しかできないんだけど。
***
ビルヒジスタは、大雑把に言うと2つの区画に分かれると言って良い。
この都市は割と綺麗な円形をしており、その中心部と、その外部に分かれるという感じだ。
さらに中心部が3つ、外部が8方位で8つの部分に分かれる為、細分化するなら11の区画になるか。
簡単に言うと、中心部が上流階級の住む土地、外部がそれ以外の中産階級、労働者階級の住む土地になっている。
中心部と外部の間にはいくつかの門があり、憲兵が立っている。特に移動に許可証などが必要なわけでは無いが、貧しい身なりの者などは呼び止められて尋問されることもある。
日本でも高級住宅地と言うのはあるけど、ここまで露骨な区別は無いよな。それはやはり世界の、そして時代の特徴と言ったところか。
俺達は今の自分たちの予算などから、その中心部に店を持つことが出来る程だと判断した。かなり地価は高かったのだが、俺達は中心部に店と住宅を構えることが出来た。
今度は今までと違い、店舗と住宅地は離れた位置にある。
この理由は中心部がその特徴ごとに割と明確に区別されるためである。
一つは貴族たちが住む、本当の意味でのこの街の中心。一つが商用地域で、中心部に住む貴族や資産家向けの店や飲食店が立ち並ぶ地域。そしてもう一つが、その店舗を経営する商人たちが住む地域だ。
もうわかったと思うが、俺達の店は商用地域に、俺達の自宅は商人用の居住区に作った。因みに、リネットとノアのラボは、商用地域の一角に作ってある。
この高級住宅地に住居を構えるという事については、俺達の間でも少し意見が割れた。
「肩ひじ張りそうで嫌だな」
「ミミカも……。それに土地も高いし、余計な出費だよ」
ノアとミミカは、こんな感じで反対した。
「だが、周辺にも資産家が多い状況と言うのは大切なのだぞ? 人脈を作るのに有効だ」
「それに、中心部の方が治安が良いと思います」
レイラとリネットは賛成派だ。
「そうだな。二人の言う通りだ。それに、高級住宅地に住むというのは、商人にとって必要なことなんだ」
「何で?」
「簡単に言うと、格好つけだな。俺達はこれから、どんどん単価の高いものも扱うようになっていく。そんな高価なものを、安い土地に住んでいるような商人から買いたいと思うかどうか? 早い話、『俺は金を持ってるんだ!』って周囲に示すのも必要なことなのさ」
「そういうもんなの?」
「俺はそう思う」
結局、俺のその意見が取り入れられ、中心部に自宅を構えることになった。
確かに値は張った。住宅と店、それに開店に必要な資金を揃えるだけで、金貨が12000枚ほど吹き飛んだ。今まででは考えられないレベルの支出だが、これからはそれに見合った商売ができるという事でもある。
これからどれほど大きな仕事ができるのか、今から楽しみで仕方がない。
***
話は少し戻るが、俺達はビルヒジスタに移住する前に一度この街を訪れている。
土地を買い、建物を建てる契約をするためだが、このほかにも必要な事が有った。
それは、身なりを整えるという事である。別に今までだって貧相な格好をしていたわけでは無いが、中心部に住むとなると話は別である。
事実、最初に中心部に入ろうとした際、レイラ以外の4人は一度憲兵に尋問された。
流石にレイラの顔はビルヒジスタでも効いたので、その時は彼女の従者という事で入ることを許された。
だが、これではレイラがいなければただの移動にも少々難儀する。
それは困るという事で、俺達は中心部にふさわしい服装を購入したのである。
とはいっても、別にきらびやかなドレスなんかを購入したわけでは無い。いや、パーティー用に全員分一応買いはしたが、それは普段着では無い。
俺にとっては普段着だって、今までの物から大きく変わるわけでは無い。ただ、良い素材を使い、一流の仕立て屋の手によるものがわかるしっかりした作りになっただけ。所々に刺繍なんかが入っているお洒落な逸品だ。俺の曇った目では、今までの服との違いがよく分からなかったが、値段は驚くほどに高かった。
まあリネットやミミカ、ノアも似たような物か。一応全員にスカートを買い与えてはあるが、誰も彼も動きやすいパンツルックを好むので、あまり活用される機会はなさそうだ。
ドレスを着て行くほどにはフォーマルじゃないけど、パンツルックは失礼な位カジュアルじゃない状況? 本当に使う事が有るのか?
ついでに言うと、一着最低でも金貨10枚はくだらなかったので、これでも金は飛んでいった。
と、恨み言ばかりを言っていても仕方がない。
「うわー! 綺麗な服です! 私、こういうの一度着てみたかったんです!」
「ミミカも! まるでお姫様か何かになったみたい!」
「……悪くないじゃん」
と、3人もご満悦だ。
レイラだけは彼女がすでに持っている服装で通用したから買わなかったが、
「……それも寂しいな」
と少し悲しそうな顔をされた。いつか、もう少し余裕が出来たら彼女にも何か買ってやろう。
***
俺達がビルヒジスタへの移住に置いて行った準備はこのような感じである。
こうやってまとめると、準備だけでも今までの街とまるで違うのがわかる。
何もかもが豪華で上品な世界。今までとのギャップに戸惑う事も有ろうが、それもここまで成り上がって来たが故。
そして、俺はこのビルヒジスタを終着点にするつもりも無い。
ここから他国へと視線を向け、もっとグローバルな活動をしていくつもりだ。
俺達の新しい戦いが、始まる。
評価、感想などを下さった皆様、本当にありがとうございました。
お蔭で、少し勇気が湧いてきました。
宜しければ、これからも応援の程、よろしくお願いいたします。




