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ビルヒジスタ的な新規事業の形

 ついにビルヒジスタでの営業がスタートした。


今更だが、俺の店は一体何屋なのか。

 シリスタにいた頃は胸を張って『喫茶店』と答えたものだが、ガリアスで多角経営化が進み過ぎて何が何だか分からなくなりつつある。

 リネットが作った装飾品、ミミカの調教した魔物、ノアが作った馬車。のみならず、金山の開発まで行った。最早喫茶店が副業である。

 そんな俺達にとって、喫茶店と言うスタイルをビルヒジスタにおいて継続する必要があるのかどうか。

 俺は今一度仲間に聞いてみた。


「凄く私的な意見ですけど、喫茶店はハルイチさんと一緒に開いた最初のお店です。できれば、やめたくありません」

「同感だな。それに、急に方針転換して、失敗したらどうするのだ? 何事においても、強固な地盤と言うのは必要になろう」

「ミミカは喫茶店やりたい! 楽しいもん!」

「好きにすれば。どうせボクはそっちに関わるつもりは無いし」


 継続3、無関心1。俺の心は結構やめてもいいと思っていたのだが、よく考えればそれは慢心かもしれなかった。慣れない土地で、いきなり別の商売を始める。それはちょっと冒険し過ぎってものだろう。

 結果、俺達は喫茶店と言う形態をやっぱり地盤にすることになった。

 だが、その運営の仕方に置いては今までからいろいろ変えた。

 まず店が中心部にある以上、利用する客は当然資産家ばかりである。

 だから今まで以上に店内を高級感のある作りにした。主にリネットとレイラによって店内派の装飾は監修され、どちらかと言うと女性向けのデザインで統一された。

 扱う茶葉も高級の物を取りそろえ、パンやクッキーなども自家製の物を販売する。

 これらは主にリネットが考案したメニューであるが、全てを彼女の手によって作れるわけでは無い。だから俺達は、一流のメイドやコックなどを雇い、そのメニューを教え込んだ。

 余談だが、一流のメイドやコックとはどういう存在か。上流階級の主に使えていたが、その家が没落した。そんな不幸な人間が多い。その分新しい職場でのモチベーションは高く、元のスキルの高さと相まって素晴らしいパフォーマンスが期待できた。勿論給料も高いが。

 食べ物についてはそんなところだが、ガリアスで発展した良い部分は勿論引き継いでいる。それは装飾品の販売、魔法瓶の販売だ。

 だが、これらもガリアスにいた時よりは高級品になっている。

 ガリアスでは銅などのアクセサリを扱っていたが、ここでは銀がメイン。たまにはデリックから金を買い取り、それを使う事も有る。

 魔法瓶も今までは機能的なデザインだったが、ここで販売するのは視覚的にも価値のあるものだ。その辺りはリネットとノアが2人でデザインしてくれた。

 長々と説明して来たが、一文にすると『何もかも高級品にグレードアップした』のである。

 その結果としてはどうかというと、十分成功と言えた。

 ビルヒジスタにおいても喫茶店と言う営業スタイルは斬新な物であり、ある意味では酒場よりも特別な場所になった。

俺の店に来たお客様方は、ある種の空気に酔う様なところがあり、俺の店で扱っているというだけで商品が特別に見えるらしいのだ。だから、『余計なものと分かっていてもついつい装飾品なんかを買ってしまう』らしい。そんな無駄遣いする金があることが恨めしいが、大事なお客様である。そう言う需要もあるのか、と前向きに受け取った。

 この他にも、俺の店には時折変な依頼が紛れ込むこともあった。『魔物を調教してほしい』というものだ。勿論、俺の店にミミカがいることを知っている人からの依頼である。

 すでに飼われている魔物を調教するだけなので、今までよりは安いがそれでも十分な利益になった。

 このように幸先のいいスタートを切った俺の店だが、この状況がいつまでも続くなどと楽観視はしていない。

 ビルヒジスタは発展と革新の街である。この街なら、俺達の商売モデルを模倣するものなどすぐに現れるだろうし、下手したら魔法瓶なども作り上げる奴が出るかもしれない。

 勿論後追いに負けるつもりは無いが、利益は確実に減る。俺はそれを見越して、新しい商売のモデルを考える必要があった。

 商売の基本はいきなり新しいことをするのではなく、今までのサービスとの連動を重視すること。それを踏まえて、仲間と少し話し合ってみた。


「リネット。君はどう思う?」

「うーん……私としては、シリスタにいた頃を少し思い出すのもいいと思います」

「というと?」

「シリスタでは、私達のお店は老若男女に人気があったと思います。でも、今は大人の女性だけですね。それが少し寂しいかと」

「確かにそうだったな」


 レイラも頷く。ミミカは殆どそこにいなかったし、ノアはそもそもいなかったので首を傾げているが。


「だけど、結構難しい話だな。この際、老人と子供は一旦度外視してもいい」


 あまり金を落とさないからな。


「大人の男にも受ける店。そうするための方針を考えてみよう」


 とは言え、みんな若い女性である。『大人の男』に何が受けるかなど分からないだろう。

 それでもみんなは一生懸命考えてくれて、こんな意見が出た。


「この際、『両方に受ける』という考えは捨ててはどうだ?」


 レイラが言ったその言葉に、俺は少し驚きを覚えた。


「え? 今までの話を無しにするってこと?」

「ああいや、言葉が悪かったな。正しくは『一度に両方に受ける』のを諦めるという事だ」

「成程ね」


 俺はよく分からないのだが、既にノアはわかっているらしい。こいつ、本当に頭の回転が速いな。


「つまり、朝から夕方ぐらいまでは普通の喫茶店を経営して、夜は……」

「そうだな。酒なんかを中心の店にしてみたらどうだ?」


 昼は喫茶店、夜はバーか。俺の世界ではありがちだったが、悪くない発想だ。


「ただ、それには店の装飾をそのまま使いまわすわけには行かないな」

「椅子とかテーブルは流石に変えられないから、小物を変えるだけって感じになるね」


 もう既にノアの頭では構想が出来ているらしかった。


「じゃあ、リネット、ノア。新しい店のデザインを考えてみてくれ。男の意見が欲しければ、俺が少しは力になれるから」

「分かりました」

「りょうかーい」


 この構想が上手くいけば、男性向けの装飾品なども商品として視野に入る。こうやって広がりがあるのが商売の面白い所だな。


「さて、他には……」

「まだ何か考えんの?」


 ノアがうんざりしたような口調で言う。


「仕方ないだろう。ここはビルヒジスタなんだ、今までと同じようなやり方じゃ、通用しないかもしれない。出来ることは何でもやっておかないと」

「その志は立派だけどね。ボクとリネットは店の新しいデザインの考案で忙しくなるから、他の三人で出来るアイデアにしてね」

「申し訳ありません……」

「謝る事じゃないさ。じゃあ、ミミカ、レイラ。俺達で出来ることを考えよう」


 俺が視線を向けると、今まで大人しかったミミカが待ってましたとばかりに口を開く。


「動物を扱おうよ!」

「……動物って、犬とか、小鳥とかか?」

「うん! お金持ちの人に受けそうな、高級そうな猫とか売ればいいよ!」


 ミミカは満面の笑顔で言うが、俺はどうにも賛成できない。


「ミミカ。残念だが、動物と飲食店の相性は悪い。清潔さが大切だからな」


 猫カフェなんてサービスもあった気がするが、あれは結構ニッチである。この世界で受けるかどうかもわからない。


「そっかー…………じゃ、じゃあさ! ミミカがまた芸を……」

「いや、それも暫くは控えようと思う」

「何で!?」

「客層の違いかなあ。ガリアスでは賑やかな店内が好まれたけど、ビルヒジスタはどちらかっていうと静かだし」


 ミミカには悪いが、少なくとも昼のマダム達に受ける芸とは思えない。


「じゃあミミカ、静かな芸する!」

「静かな芸ってなんだよ?」

「……ラッパとか?」

「何処が静かなんだ」


 何処の世界にラッパがプップーなっている店で紅茶を飲みたいと思う人がいるのか。


「いや、でも、方向性としては悪くないかもしれないぞ?」

「レイラ? お前、ラッパに賛成するのか?」

「いや、ラッパは駄目だろう。だが、それ以外の楽器なら悪くないのではないか? 例えば、鍵盤楽器や弦楽器などならば、静かな店内にも合うぞ?」

「確かにそうだな」

「でも、ミミカそう言う楽器はちょっと……」


 そうだろうな。サーカスで扱うものじゃないし。


「では、演奏者を探して来ればいいのだろう?」


 事もなげに言うレイラだが……。


「そこまでする必要があるか?」

「もし、演奏を客引きの為だけのものと考えるなら、損だろうな。だが、これを投資と考えるなら悪いことでは無い。

 例えば、技術はあれど機会に恵まれず燻っている演奏者は少なくない。そう言う者を見出し手私達が機会を与えるとしよう。店に訪れた資産家がその者の演奏を気に入れば……」

「俺達から金で買い取りたいって人も出てくるっていう訳か……」


 何だか字面だけ見ると人身売買みたいだが、演奏者本人が自分で選択できるので大きく違う。


「わかった。じゃあレイラ。演奏者だけじゃなく、画家など他の芸術家にも視野を広げて探してみてくれ。この店の雰囲気を損なわず、且つ将来性を見込める様な芸術家をな」

「任せろ」


 レイラはこの中では一番身分が高い。それだけに芸術に触れる機会も多かったはずだし、見る目は一番確かだ。

 これが成功すれば、美術商としての道も見えてくる。

 今回俺達が考えたのは、パトロンとしての役割になるのだろうか? ……パトロンは必ずしも利益を求めていたわけじゃないから、違うか。

 兎に角、これで差しあたっての方針は決まった。


「むー! ミミカだけ仕事が無い!」


 しかし、ミミカにはそれが不満らしかった。


「安心しろ。俺も特にない」

「全然慰めになってない!」


 ……近いうちに、ミミカにも仕事をあげないとな。

御意見、評価、ブックマークを下さった方、本当にありがとうございます。

とても励みになっています。


そのご意見で、『誤字・脱字が多い』との指摘を多く頂いております。

本当に申し訳ありませんでした。

今、時間を作って最初から推敲しなおしております。少しでも読みやすい文章になるよう、頑張ります。

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