レイラ再び
俺は衝動的に、土地の借用証書を持って店を飛び出した。
中央部の倉庫群とはどこか正確にはわからないが、何となく見当はついているのでそっちに向かって走り出した。
あまり何かを考える余裕なんてなかった。ただ、リネットが心配だった。
東部を抜けて、中央部に入る。そこまで5キロ近くの距離を全力で走ってきたため、流石に息が切れて来た。
手元の借用証書を見ていたら、またいろいろな考えが頭を巡って来た。
これを奪われてしまったらあの店での営業は続けられなくなる。当然リネットはロルカ村に帰さなければいけないし、俺には莫大な借金が残る。
……何を考えているんだ、俺は。そもそも、そのリネットの命が懸ってるんだ。今の俺にとって、リネット以上に大切なものは無い筈だろう?
マラカイさんには悪いが、借金の返済は待ってもらおう。こうなったら、傭兵でも兵隊でも何でもやって金を稼いで返そう。
マラカイさんだって、アナベルさんだって、リネットの命以上に大切な物なんてないと思っているはずだ。
なら、俺のしなければいけない事は決まってる。
……理屈ではそうわかっても、中々心は難しいな。ジョニーみたいな、どうしようもないチンピラのせいで夢を絶たれるのは許し難い。……よそう。今はリネットの事だけ考えていればいい……。
「ハルイチ? ハルイチじゃないか?」
突然後ろから声を掛けられる。振り返ると、そこには黒髪の美女が立っていた。
この女性は確か……、
「レイラか?」
いきなり俺に斬りかかってきた女である。そう言うと物騒だが、俺に情報をくれた気のいい女である。
「ああ。久しぶりだな。ここ二月ほど、近くの村に遠征に行っていたんだ。帰ってきたら、どうもハルイチらしき男が店を開いたと聞いたから、近いうちに行ってみようと思ってたんだが……」
そこでレイラは言葉を切った。
「どうしたんだ? ハルイチ。死にそうな顔をしているぞ」
俺はそんなに酷い顔をしていたのか……。
「それに、その手に持っているのは土地の借用書じゃないか? どうしてそんなものを持っているんだ?」
何というか、目ざといな、レイラは。
話していいものかどうか迷ったが、中央部の倉庫群の詳しい場所なども知りたい。
俺は彼女に簡単に事情を説明した。
「……許し難いな」
レイラはその顔を怒りに染めた。
「ジョニーの奴、また下らないことを……」
「知っているのか?」
「ああ。一度、住人に頼まれて痛い目を見せてやった事が有る。その時は憲兵に突き出すまでには至らなかったのだが……こんなことになるのなら、徹底的にやっておくべきだった」
「今は後悔しても仕方がない。兎に角、ジョニーのいる倉庫群の場所を教えてくれ」
「行ってどうするんだ?」
「決まってるだろう。これを渡してでも、リネットを返してもらう」
「それでは、奴らを調子づかせるだけだ」
「仕方ないだろう。こっちは人質を取られているんだ」
「待て、私にいい考えがある」
レイラはよほど自信があるようだ。……聞いてみてもいいか。
「私は一度連中に痛い目を見せてやったと言っただろう?」
「ああ」
「それを利用するんだ」
「利用する? どうするんだ?」
「つまりだな……」
レイラが提案した策は、とても無謀なものだった。
やっとレイラが再登場できました。
ここからはレギュラー化する予定です。