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商人ウィリー

 率直に言って、経営は良くも悪くもない状況だった。

 赤字は出ていないが、だからと言って貯蓄が出来るほど稼げているかと言うと、そうでもない。

 初めはこんなもんかとも思ったが、なかなか改善が見られない。

 ロルカ村で話題になった『葡萄酒パン』の売り出しなども行ったのだが、住民の間には『商人がロルカ村から仕入れてくる方』が本家だと思っている人が多く、売りにはならなかった。

 まあリネットには悪いが、パン作り自体はマラカイさんの方が上手いからな。俺は恩返しと思ってマラカイさんにレシピを教えたのだが……それが思わぬ弊害を生んだな。

 だが、後悔するような事じゃない。マラカイさんが儲かるなら、俺も嬉しいからな。

 改善すべき点は他にある。具体的に言うと、喫茶店の経営だ。

 言いたかないが、喫茶店の経営は上手く言っていない。この店の売り上げの9割以上がパンの持ち帰りであり、喫茶店で食事をしていく人がいない。

 『紅茶を淹れる腕を振るえる!』と期待していたリネットはかなりしょんぼりしている。銘柄とか、一生懸命揃えたのに……。

 宣伝を頑張れば少しはいいんだろうが、この町では俺もリネットも伝手が無い。どうしたらいいのか考えているうちに時間は過ぎ、改善の見込みがないままに一月が経った。


***


 シリスタに店を出してから40日ほど経った時。朝一番の、リネットが厨房にいる時に一人の男が訪ねて来た。


「久しぶりだね、あんちゃん」

「貴方は……」


 訪ねて来たのは、いつぞやの商人のおっさん。俺が『葡萄酒パン』の宣伝をしてもらう様に頼んだあの男だ。


「ロルカ村では名乗り忘れたね、私はウィリーってんだ」

「俺はハルイチ、よろしく」


 俺達は軽く握手を交わした。


「この前は有難うよ、おかげでたんまり儲けさせてもらったよ」

「お互い様ですよ。俺も貴方のお蔭で儲かった」

「みたいだね。シリスタに店を構えるなんて、凄いじゃないか」

「ははは……でも、中々苦労してますよ」

「だろうね。ロルカ村程じゃなくっても、このシリスタだって閉鎖的なところはある。

 ……それに、この店はパッとみ、なに屋かわかりにくいねえ。私はあんちゃんと付き合いがあるからパン屋だってわかるけど……」

「いえ、ここはパン屋じゃないんです」

「へえ、違うのかい?」

「ええ、喫茶店と言うんですが」

「キッサテン?」


 やっぱり商人のおっちゃんでもわからないか。


「ここはパンの販売もやってますが、ここ店の中で食べて行くことも出来ます。その際に、紅茶なども提供することで、もうちょっと儲けようと言う訳です」

「ほー、相変わらず面白いことを考えるね、あんちゃん」


 ウィリーさんは感心したような表情を浮かべたが、すぐにその顔を引き締めた。


「だが、今のままじゃ駄目だね」

「それはわかってるんですけど、どうしたらいいのか……」

「あんちゃん、本当にわかってるかい? 問題が何処にあるのか」

「何処に? ウィリーさんは具体的にわかるんですか?」

「わかるとも。ま、前儲けさせてもらったお礼だ。教えてやるよ」


 そして、勿体ぶって話し始めた。


「いいかい? 言っちゃ悪いが、この店は流行ってない」

「はい」

「それに、その喫茶店とかいう商売の形も、広く認知されていない」

「はい」

「簡単に言うと、みんな興味津々でも使いにくいのさ。わかるかい? みんなパンしか買わない状況の中、店内で一人食事をする。それって結構勇気がいらないか?」

「あ……」


 確かにそうだ。飲食店でも、あまりに店内がガラガラだと入りにくかったりする。

 それに、俺の店ではパンの販売も行っている。パンを買いに来た客に好奇の目で見られる状況では、落ち着いて食事などできない。


「あんちゃん。私を雇わないか?」

「雇う?」

「勿論、従業員として働くってわけじゃない。だがな、私はあんちゃんよりも顔が広い。『あんちゃんの店で美味しそうに食事してくれ』って頼んだら、聞いてくれる人の心当たりは結構あるよ」


 サクラを使うってことか……。商売には必要な要素だな。


「いくらで請け負う?」

「金貨2枚」


 結構吹っかけて来たな……以前が銀貨10枚、つまり金貨1枚と等価だから、2倍だよ。

 ……だが、やる価値はあるな。


「頼みます」


 俺は金貨二枚をウィリーさんに渡した。


「へへっ、毎度」

「でも、やりすぎると疑われるので、程ほどにして下さいよ。少しずつ客を増やしていく感じにしましょう」

「流石に抜け目ねえなあ、あんちゃんは。だが安心しろ、そこは私も仕事人さ。考慮するよ」


***


 サクラを使う。基本的な手だが、盲点だった。

 ウィリーさんは約束通り、サクラの客を数日に渡ってよこしてくれたらしい。

 『らしい』と言うのは、誰がサクラなのか俺にはよくわからなかったからだ。

 だが、作戦は功をなした。

 俺の店は喫茶店の方も売り上げを伸ばし、営業は軌道に乗った。


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