第十九章 この世界の病
響界塔の地下へ続く階段を下り始めてから、どれほどの時間が経ったのかはわからなかったが、外の光が完全に見えなくなったあとも壁の白い線だけは一定の間隔で灯り続け、ワッパたちの足元をかろうじて照らしていた。
上層で読んだ記録によれば、この施設は響界と呼ばれる目に見えない情報の層を観測するために造られ、人間を直接そこへ接続する試験まで行っていたらしい。
その結果として接続された人間の身体には枝分かれした変色や発熱が現れ、さらに境界が損傷した場合には白い霧状の現象や生物の変質まで起こる可能性が記録されていた。
それらは、これまで別々の異常として見てきたものとあまりにもよく似ていた。
エルナの黒い痕。
森へ広がる白い霧。
異常に変質した森喰らい。
どれか一つだけなら偶然と考える余地がある。
けれど三つが同じ施設の記録に並んでいる以上、まったく無関係だと考える方が難しくなっていた。
「階段、まだ続くのかな」
エルナが少し息を整えながら言った。
「疲れてきたなら休もう」
ワッパはすぐに答えた。
「まだ歩けるけど、腕の熱は少し強くなってるよ」
その言葉を聞いて、四人は階段の途中にある広い踊り場で一度止まった。
ワッパがエルナの左腕を確認すると、黒い痕は上層にいたときより明らかに濃くなっていたものの、急激に広がっている様子まではなかった。
バタコも状態を記録した。
「深く下りるほど反応が強くなってる可能性はありそうだね」
「それなら下に原因があるってこと?」
エルナが尋ねた。
「原因そのものかもしれないし、接続が強くなる場所なのかもしれないから、まだそこまでは決められないよ」
「でも少なくとも関係はありそうだな」
ガルドが壁を見ながら言った。
「外にいるときより、この塔の中へ入ってから明らかに反応してる」
ワッパも同じことを考えていた。
ただし、自分たちが下へ進んでいるせいで痕が悪化している可能性もある。
手掛かりへ近づいていることと、エルナの身体を危険へ近づけていることは、同時に成立するかもしれない。
「これ以上急に悪くなったら、途中でも戻るからな」
ワッパが言うと、エルナは少しだけ困ったような顔をした。
「わかってるから何回も確認しなくて大丈夫だよ」
「何回でも確認するって前にも言っただろ」
「それなら私も何回でも大丈夫って答えるよ」
そのやり取りを聞いたバタコが少し笑った。
休憩を終え、さらに階段を下りていくと、やがて広い通路へ出た。
壁には上層より多くの文字が残っている。
いくつかの扉も見えた。
バタコが近くの案内板らしきものへ灯りを向けた。
「ここが接続管理区みたいだよ」
「エルナの痕について調べるなら、この辺りが一番重要そうですね」
ワッパが答えた。
「そう思うけど、記録がどれくらい残ってるか次第だね」
最初の部屋はほとんど崩れていた。
次の部屋には壊れた器具が並んでいる。
三つ目の部屋で、ようやくまとまった記録が見つかった。
壁一面へ細かな文字が刻まれている。
中央には人間の身体を模した図があり、胸や腕から何本もの線が外側へ伸びていた。
エルナが図を見て、すぐに自分の左腕へ視線を落とした。
「上で見た図より、もっと痕に似てる」
「そうだね」
バタコは記録へ近づいた。
「こっちは接続者の身体変化について詳しく書かれてるみたい」
ワッパたちは周囲を警戒しながら、バタコが読み解くのを待った。
「接続が浅い場合は一時的な感覚異常だけで終わることが多いけど、深い接続では身体に痕が固定されることがあるって書いてある」
「固定されたら消えないの?」
エルナが尋ねた。
「自然には消えにくいみたいだけど、接続そのものを解除できれば薄くなる可能性はあるって書かれてるよ」
ワッパはすぐに顔を上げた。
「解除する方法があるんですか?」
「少なくとも、この記録を書いた時点では研究されてたみたい」
エルナの表情にも希望が浮かんだ。
しかしバタコはすぐには喜ばなかった。
「ただし、接続解除の方法については別の区画に記録されてるみたいだね」
「どこですか?」
「中央制御区か、その下にある境界制御区って書かれてる」
ワッパは地図へその名前を書き加えた。
さらに記録を読んでいくと、エルナの痕より深刻な内容が残されていた。
「境界劣化っていう言葉が何度も出てくる」
バタコが言った。
「上では境界損傷って書かれてましたよね」
「たぶん同じ問題を、時間の経過も含めて説明してるんだと思う」
バタコは壁の文章を追った。
「響界塔は観測精度を上げるために、現実世界と響界の間にある境界を意図的に薄くしていたみたい」
「それって前に読んだ内容ですよね」
「そうだけど、こっちはその後について書いてあるよ」
バタコの表情が少し硬くなった。
「観測を繰り返した結果、境界が元の状態へ戻らなくなった場所が出始めたって書かれてる」
「戻らなくなったらどうなるんですか?」
ワッパが尋ねた。
「響界側の影響が現実へ漏れ続ける」
エルナが白い霧を思い出したように言った。
「その漏れたものが、白い霧なんだね」
「かなり可能性は高そうだよ」
バタコは続けた。
「霧状現象が発生した地域では、生物の行動変化や身体変質、方向感覚の異常、聴覚や感覚への干渉が報告されてる」
「森喰らいも、その影響を受けた生き物なのかもしれないな」
ガルドが言った。
「森喰らいになる前は普通の獣だった可能性もありますね」
ワッパは答えた。
「そう考える材料はあるけど、元の生物が何だったかまではまだわからないよ」
バタコが慎重に付け加えた。
ワッパは壁の記録を見ながら、妙な感覚を覚えていた。
白い霧を最初に見たとき、それはこの異世界に存在する恐ろしい自然現象だと思っていた。
森喰らいも、そういう怪物として最初から存在しているのだと思っていた。
しかし本当に響界塔の実験によって境界が傷つき、その結果として霧や生物の変質が起きたのなら、これは自然に存在する災害ではない。
人間が世界へ手を加えた結果として生まれた異常になる。
「この世界が最初からこうだったわけじゃないのか」
ワッパが呟いた。
エルナが尋ねた。
「どういう意味?」
「白い霧も森喰らいも、昔から普通に存在してたものじゃなくて、この塔が壊したものから生まれた可能性があるってことだよ」
バタコも頷いた。
「記録が正しければ、その可能性はかなり高いね」
ワッパは床を見た。
世界そのものが病気になったように感じた。
人間が情報を求めて境界へ穴を開け、その傷が閉じないまま長い時間をかけて広がっている。
白い霧は症状。
森喰らいも症状。
エルナの痕も症状。
そう考えれば、今まで別々に見えていたものが一つの形へ収まる。
「エルナが病気なんじゃなくて、この世界の方が壊れてるのかもしれないな」
ワッパが言った。
エルナは少し驚いた顔をした。
「世界が病気ってこと?」
「言い方として正しいかわからないけど、この痕が塔の境界損傷に巻き込まれた結果なら、エルナが原因じゃないだろ」
エルナは左腕へ触れた。
長い間、自分の中に何か異常な存在がいると思っていた。
自分が霧を広げているのかもしれないと考えていた。
母親が消えたあと霧が減ったという話を聞き、自分も同じように消えなければならないのではないかと恐れていた。
けれど今見つかっている証拠は、その考えとは反対の方向を示している。
エルナは原因ではない。
被害を受けた側かもしれない。
「それなら母さんも同じだったのかな」
エルナが静かに尋ねた。
ワッパはすぐには答えなかった。
「その可能性はあると思う」
バタコが代わりに答えた。
「だからこそ、お母さんがここで何をしたのか調べないといけないね」
さらに奥の部屋を探すと、接続者への緊急対処について書かれた記録が見つかった。
バタコが読み始めてから、すぐに表情を曇らせた。
「これはあまり良い内容じゃないかもしれない」
「何が書いてあるの?」
エルナが尋ねた。
「境界損傷が急激に広がった場合、接続者を使って一時的に安定させる方法があったみたい」
ワッパの胸がざわついた。
「接続者を使うって、どういう意味ですか?」
「もう少し読んでみる」
バタコは壁へ近づいた。
「接続者へ漏れ出している響界の影響を集中させ、その人間を境界の固定点として使う方法らしい」
「固定点にされた人はどうなるんだ?」
ガルドが尋ねた。
バタコはしばらく黙った。
「かなり危険だったみたい」
「危険ってどのくらい?」
エルナの声が少し低くなった。
「記録には生命活動の停止が発生する可能性が高いって書かれてる」
ワッパはエルナを見た。
エルナも同じことを考えたらしい。
母親。
森へ入った。
そのあと白い霧が減った。
そして戻ってこなかった。
「母さんは、その方法を使ったのかな」
誰もすぐには答えられなかった。
証拠はない。
しかし状況は一致する。
接続者。
同じ黒い痕。
森へ入った。
霧が減った。
帰らなかった。
「まだ決めない方がいい」
ワッパが言った。
エルナは小さく頷いた。
「わかってるけど、可能性はあるんだよね」
「かなりあると思う」
バタコも否定しなかった。
記録には続きがあった。
接続者を固定点として使うことで、周囲の境界損傷を一時的に抑えることができる。
しかし損傷そのものが修復されるわけではない。
時間が経過すれば再び不安定になる。
必要であれば、別の接続者を用いる。
バタコが最後の部分を読み上げたあと、部屋の空気が完全に変わった。
「別の接続者を使うってことは……」
エルナが言葉を止めた。
ワッパは壁を見た。
一人が消える。
霧が減る。
しばらく経つ。
また損傷が広がる。
次の接続者を使う。
もし本当にそうなら、それは治療ではない。
問題を先送りしているだけだった。
「これを続けてたら、何人犠牲にしても終わらない」
ワッパが言った。
「記録を書いた人たちも途中でそれに気づいたみたい」
バタコは別の部分を指した。
「固定方式は緊急時の一時措置としてのみ使用すること、恒久的な解決にはならないって後から追記されてる」
「それでも使われたんですね」
「大きな事故が起きたときは、他に方法がなかったのかもしれない」
ガルドが言った。
ワッパはエルナを見た。
もし母親がこの方法を知り、自分を固定点として使ったのなら、村の霧が減った理由は説明できる。
しかしそれは母親が村を救うために死ぬ運命だったという意味ではない。
施設側が作った壊れた仕組みの中で、最後の手段として利用された可能性がある。
そして今度はエルナが同じ立場にいる。
「エルナを同じ方法には使わない」
ワッパが言った。
エルナは彼を見た。
「私も同じ方法を使うつもりはないよ」
「でも他に方法が見つからなかったら?」
エルナは少しだけ黙った。
「それでも最初から死ぬ方法を選ぶつもりはない」
その言葉に迷いはなかった。
「私は生きる方法を探しに来たんだから、最後までそれを探したい」
ワッパは頷いた。
そのとき、耳元で偽物の声が響いた。
『エルナを置いていけば、すべて終わる。』
ワッパは目を閉じなかった。
すぐに伝える。
「偽物の声が、エルナを置いていけば全部終わるって言ってます」
ガルドが壁の記録を見た。
「今読んだ内容と似てるようにも聞こえるな」
「でも全部終わるって部分は違います」
ワッパが答えた。
「固定点にしても境界損傷は一時的に抑えられるだけで、また悪化するって書いてあります」
バタコも頷いた。
「少なくとも今の記録とは矛盾してるね」
エルナが静かに笑った。
「それなら置いていかれる理由はないね」
「最初から置いていくつもりはないよ」
ワッパは答えた。
偽物の声は続いた。
『一人を捨てれば、多くの人間が助かる。』
ワッパはその内容も伝えた。
誰も答えなかった。
それは完全な嘘として片づけるには、あまりにも現実的な誘惑だった。
もしエルナ一人を犠牲にすれば、村や森の人間がしばらく助かる。
過去にも同じ判断をした人間がいたのかもしれない。
それでも、それが恒久的な解決ではないことを自分たちは今読んだばかりだった。
「この声は、完全な作り話だけじゃなくて、実際に存在した方法を使って誘導してる」
ワッパが言った。
「だから厄介なんだね」
バタコが答えた。
「現実に存在する選択肢と、そこから導く結論を混ぜてる」
ワッパは以前の世界で聞いていた声を思い出した。
本当の出来事。
実際に言われた言葉。
現実に存在する不安。
そこへ最悪の意味を足していく。
偽物の声も同じような方法を使っている。
しかし今のワッパには、確かめるための記録と仲間がいる。
四人はさらに接続管理区を調べ続けた。
いくつもの部屋が崩れていたが、最も奥にある小さな記録室は比較的保存状態が良かった。
そこには大量の薄い金属板が棚へ収められていた。
バタコが一枚ずつ確認する。
「固定方式についての記録が多いね」
「別の方法はないんですか?」
ワッパが尋ねた。
「探してるけど、まだ見つからない」
エルナも棚を見た。
「生きたまま接続を切る方法があればいいのに」
その言葉からしばらく経ったころ。
バタコの手が止まった。
「待って」
「何かありました?」
「ここに第二方式って書いてある」
ワッパとエルナが同時に近づいた。
「第二方式って何ですか?」
「今読んでる」
バタコは金属板の文字を慎重に追った。
「固定点方式とは別の接続解除方法みたい」
エルナが息を呑んだ。
「生きたまま切れるの?」
「その可能性がある」
バタコの声にも少し興奮が混じっていた。
「接続者の生命活動を維持したまま、響界との結びつきを段階的に弱めるって書かれてる」
ワッパの胸が強く鳴った。
今まで探していた言葉だった。
死ぬのではなく。
消えるのでもなく。
生きたまま痕を切る。
「続きは?」
ワッパが急いで尋ねた。
バタコは金属板を読み進めた。
しかし途中で表情が変わった。
「ここから先が削られてる」
「壊れてるんですか?」
「自然に壊れたようには見えない」
金属板の中央から下が、何かで意図的に削り取られていた。
第二方式という名前。
生命活動を維持する。
段階的に接続を弱める。
そこまでは読める。
しかし具体的な手順がない。
エルナの顔に浮かんだ希望が、少しだけ揺れた。
「他の記録に残ってないかな」
「探そう」
ワッパはすぐに答えた。
「一枚だけで終わってるとは限らない」
四人で記録室を調べた。
棚。
床。
崩れた箱。
壁。
しかし第二方式について完全な手順を書いたものは見つからなかった。
代わりに、いくつかの金属板の端へ同じ記号が残っていた。
下向きの三本線。
その横に小さな文字。
バタコが読んだ。
「詳細記録は下層へ移管って書かれてる」
「下層に残ってるかもしれないんですね」
「可能性はあるよ」
ガルドが扉の外を見た。
「それなら次は下へ行くしかないな」
接続管理区の奥には、さらに下へ続く通路があった。
しかし普通の階段ではない。
床の一部が大きな円形の黒い板で塞がれている。
その周囲には白い線が刻まれていた。
「扉みたいですね」
ワッパが言った。
「地下へ下りるための床扉かもしれない」
バタコが周囲の文字を調べた。
「中央制御区へ続くって書いてあるよ」
エルナが黒い短剣を近づけた。
白い亀裂が光る。
しかし床扉はすぐには開かない。
「上の入口とは違うみたいだね」
エルナが言った。
ワッパたちは周囲を調べた。
黒い壁。
円形の床。
細い溝。
そして壁の片隅に、人間の手を置けるほどの小さな窪みがある。
エルナが近づこうとした瞬間。
――下。
短い声が響いた。
ワッパはすぐに伝えた。
「短い声は下って言いました」
ガルドが床扉を見た。
「現実側にも下へ行く理由はあるな」
「第二方式の記録を探したいですからね」
ワッパが答えた。
バタコが窪みを調べる。
「ここへ短剣を近づけてみよう」
エルナが黒い短剣を差し込むのではなく、慎重に窪みへ近づけた。
白い光が走った。
床扉の周囲へ一本ずつ線が灯る。
低い振動が塔全体へ広がった。
その瞬間。
エルナの左腕の痕が大きく黒く浮かび上がった。
「エルナ!」
ワッパが肩を支えた。
「大丈夫だから、まだ離さないで!」
「本当に続けられるの?」
「少しだけ待ってみるよ!」
黒い短剣から白い光が伸び、床の溝へ流れ込む。
やがて巨大な円形扉がゆっくり左右へ分かれ始めた。
下から冷たい空気が吹き上がる。
同時に、わずかな白い霧も混じっていた。
ガルドが顔をしかめた。
「下の方が霧は濃そうだな」
バタコがランプを近づけた。
扉の下には、さらに暗い階段が続いている。
「ここから先が中央制御区だと思う」
ワッパは階段を見下ろした。
第二方式の完全な記録。
境界損傷の本当の原因。
エルナの母親が使った可能性のある方法。
そしてエルナを生きたまま接続から切り離す手段。
それらが下に残っているかもしれない。
偽物の声が耳元で囁いた。
『下へ行けば、今度こそ誰かが死ぬ。』
ワッパはすぐに伝えた。
「偽物は、下へ行けば誰かが死ぬって言ってます」
エルナが階段を見たまま尋ねた。
「それなら戻る?」
ワッパは少し考えた。
危険は確かにある。
霧は濃い。
エルナの痕も強く反応している。
けれど上に残っている記録だけでは、エルナを救う方法は完成しない。
戻れば安全だという保証もない。
痕はすでに残っている。
境界損傷も続いている。
「今は下へ行きたい」
ワッパは答えた。
「声が下って言ったからじゃなくて、第二方式の記録を見つけるために進みたい」
エルナも頷いた。
「私も下へ行きたいよ」
ガルドが剣を確認した。
「それなら周囲を警戒しながら進むぞ」
バタコは記録を鞄へしまった。
「危険が急に増えたら戻れるように、位置だけは記録しておこう」
四人は階段の前へ並んだ。
上の接続管理区には、人間を固定点として利用した記録が残されていた。
その方法は一時的に霧を抑えることができた。
しかし世界の傷そのものを治すことはできなかった。
人間一人を犠牲にして時間を稼ぎ、その間に何も変わらなければ、やがてまた別の誰かが必要になる。
そんな仕組みを解決とは呼びたくなかった。
そして記録の中には、別の方法が確かに残されていた。
接続者を生かしたまま、響界との結びつきを解除する第二方式。
まだ手順は見つかっていない。
それでも存在したことだけは確認できた。
「行こう」
ワッパが言った。
四人はさらに深い階層へ向かって歩き始めた。
階段を下りるほど白い霧は濃くなり、壁の黒い線はまるで巨大な血管のように中央へ集まり始めていた。
ワッパはその光景を見ながら、この塔の故障だけが問題なのではないという感覚を強くしていた。
長い年月のあいだ、人間が開いた傷から何かが漏れ続け、その傷を塞ぐために別の人間を使い、それでも根本的には治らないまま今日まで残っている。
エルナだけが壊れているのではない。
森喰らいだけが異常なのでもない。
白い霧だけが災害なのでもない。
それらすべてが同じ傷から生まれた症状なのだとしたら、治さなければならないものはもっと大きい。
ワッパは階段の奥を見た。
この世界の病そのものへ、少しずつ近づいているように感じられた。




