絆
嵐が過ぎ去ったあとの机の下は、まるで激しい合戦が幕を閉じたあとの野原のように、静まり返っていた。
舞い上がっていた埃はゆっくりと時間をかけて降り積もり、主が部屋の明かりを消したことで、世界は深い群青色の闇に包まれた。
クリンは、自分の銀色の体がまだ床の上にあることを、何度も確かめるように足元を踏みしめた。
しかし、自分自身の無事を確認することよりも先に、彼がしなければならないことがあった。
「ルル……ルル、返事をして!」
クリンの目の前で、ルルは糸のように細く伸び切ったまま、動かなくなっていた。
本来の瑞々しいピンク色は色褪せ、掃除機の猛烈な吸引力に耐えるために無理やり引き伸ばされた体には、今にも裂けてしまいそうな痛々しい白い筋が、無数に刻まれている。
彼女を支えるために連結していたホチキスの芯たちも、精根尽き果てたように一つ、また一つと連結を解き、静かに暗闇の中へと散っていった。
「ルル……ぼくのために、あんな……」
クリンは自分の角を使い、ルルの体をそっと手繰り寄せた。
冷たく、硬い自分の金属が、彼女の傷ついた肌をさらに傷つけてしまわないよう、これまでにないほど細心の注意を払って。
ルルは、微かに「ぷるり」と震えた。
それは、彼女がまだこの場所に留まっていることを示す、消え入りそうな命のサインだった。
「……クリン……? よかった……あなた、吸い込まれて……ないわね……」
掠れた、今にも途切れそうな声。
ルルは自分自身の体格が崩壊しかけていることよりも先に、クリンの安否を気遣った。
「当たり前だよ! ルルが、あんなに頑張ってくれたんだから……ごめん。ぼくがもっと重ければ、ぼくがもっと強ければ、君をこんな目に合わせずに済んだのに」
クリンの銀色の表面に、一滴の湿り気が伝った。それは、天板の隙間から落ちてきた結露だったかもしれないし、あるいはクリップであるクリンが初めて流した「涙」だったのかもしれない。
その時、暗闇から再び静かな足音が聞こえてきた。
「嘆くのはまだ早い。この娘は、まだ終わってはいないよ」
現れたのは、ボタンさんだった。
彼は、掃除機の風で飛ばされないよう、どこかの隙間に潜んでいたらしい。
彼はクリンの隣までやってくると、真珠色の体を傾け、ルルの様子をじっと見つめた。
「強いな、この娘は。輪ゴムとしての『弾力』を使い切ってもなお、心までは伸び切っていない。クリン、お前さんの出番だ。彼女の体に寄り添い、その冷えた心を温めてやるんだ」
「ぼくが……温める?」
「そうだ。金属は冷えやすいが、一度熱を持てば、それを長く保つことができる。お前さんが今日経験した『誰かを助けたい』という熱を、彼女に伝えるんだ」
クリンは戸惑いながらも、傷ついたルルの体を自分の銀色の輪っかの中に、そっと包み込んだ。
冷たく、硬い自分。
柔らかく、伸び切ってしまった彼女。
二つの全く異なる素材が、机の下の暗闇で重なり合う。
クリンは目を閉じ、心の中で祈った。
(ルル、戻ってきて。ぼくたちは、これから一緒に外の世界へ行くんだ。君がいなきゃ、あの風の匂いも、赤い空の色も、誰に伝えたらいいかわからないんだよ)
どれほどの時間が経っただろうか。
クリンの体温が、彼自身の決意が生んだ微かなエネルギーが、ルルに伝わり始めた。
すると、ルルの白っぽくなっていた肌に、少しずつ、少しずつ元のピンク色が戻り始めたのだ。
千切れそうだった亀裂が、自らの弾力でゆっくりと塞がっていく。
「……あったかい……クリン、あなたの背中、なんだか陽だまりみたい……」
ルルがゆっくりと体を丸め、クリンの輪っかの中で安心したように呼吸を整えた。
死の淵を共に乗り越えたことで、二人の間には、単なる「道連れ」を超えた、言葉では言い表せない深い絆が生まれていた。
それは、あの上で「書類を留める」「物を束ねる」という機能的な役割を果たしていた時には、決して得ることのできなかった感情だった。
相手を思い、相手のために傷つき、そして相手の熱に救われる。
「ありがとう、クリン。私、もう一度歩ける気がするわ」
ルルが顔を上げると、その瞳には、以前よりももっと強い意志が宿っていた。
「二人で……行こう、ルル。どんな嵐が来ても、今度はぼくが君を離さない」
クリンの銀色の体は、闇の中でこれまでで最も眩しく、誇らしげに光り輝いた。
仲間たちが遠くの影から、その様子を温かく見守っている。
傷だらけのクリップと、亀裂の入った輪ゴム。
不完全な二人が結んだ「絆」という名の最強の鎖が、今、机の下の暗闇を照らし出し、次なる希望の地へと二人を導き始めようとしていた。




