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永劫のセツナ  作者: ALOE
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鍵たち

ゴーッという、空気が長い廊下を吹き抜けていく音だけが聞こえていた。

等間隔に壁に埋め込まれた淡いランプを頼りに


セツナとヴィネスは何も言わずに歩き続けていた。


「何も無いな…」

セツナが呟いた。


窓もなくドアも無い。

ただ同じ景色がひたすら続いている。

だがこの廊下は大きく螺旋を描きながら

下へと続いていることだけは確かだった。


「鍵…」

ヴィネスが呟いた。


「?」


「さっきのあの魔物…私の事を

“鍵”と言いました。」


「ああ」


ヴィネスはゆっくりと眼鏡を外した。


「ん…」

ヴィネスの青い瞳にセツナが映る。


「セツナさん…私…見えます…」


「見えるって何が?」


「壁の中を縦や横に走る無数の光や

床には幾何学模様の帯が流れてて、空中には意味不明な

文字や記号が浮いています…」


「……」


「セツナさん…こっちです!」

ヴィネスは急に走り出した。

暫く行くとヴィネスは何もない壁の前で立ち止まった。


「ここ…です。」


「ここなの? 僕にはわからないけど…」


セツナは試しにその場所をコンコンと叩いた。


「扉があります。」


「……」


「開け方が…」

だがヴィネスは思い返していた。


アンナの背中の刺青…

「はっ…」


ヴィネスは何かを思い出したように

壁に手をかざした。


そして壁を縦や横になぞった。

「正しい位置に…戻したら‥」


ヴィネスが言った。


セツナはそれを黙って見ていた。



◆



クンクン…

ストロムブラードは鼻を天に向けて

匂いをかいだ。


「ガーゴイル達はどこにいったんだ…

まさか抜け駆けしようというんじゃ

ないだろうな…」


上に向かって伸びる巨大な牙のある

醜い顔で辺りを見回した。


「あのドワーフの娘は…間違いない…こっちだ…

若い娘と、…なんだ…?

クク…まあいい、子虫が一匹いようが

目的は何も変わらん。」


ストロムブラードは天井に四つ足で張り付いた。

そしてトカゲの様に素早い動きで走り出した。



◆



「これで…良いはず…」

ヴィネスはそう言って手を止めた。


ゴウン…

と音が鳴り、扉の輪郭が現れた。


隙間からパラパラと埃がこぼれ落ちた。

数千年ぶりに開けられたであろう扉は

ブルブルと震えながらゆっくりと開いた。


入り口に埃が舞っている。


セツナを先頭に二人は入り口をくぐった。

入った瞬間、ぼんやりと青白い光が灯った。


「え…? なんだここ?」


だがヴィネスの反応は違った。

「……!」


ヴィネスが突然立ち止まる。


「どうしたの?」

セツナが振り返る。


ヴィネスは答えなかった。


眼鏡を外した彼女の目には、セツナの身体に淡い光が重なって見えていた。


胸から首へ。

そして頭部へと伸びる、幾筋もの細い光。

それだけではない。

セツナを取り囲むように、見たこともない文字が浮かんでいる。


「セツナさん……」


「ん?」


「あなた……何なんですか?」


「え?」


「この部屋に入った途端、あなたの周りに

文字や模様が浮かびました。」


「どんな?」


「今まで見たことが無いような…

文字も…なんて書いてあるのか…」


その時…


「ヴィネス…下がって…」


セツナはヴィネスを自分の後ろに行かせた。


「どうしたんですか?」


ヴィネスが不安そうな声で言った。


「何か来る」


その瞬間、天井から何かが落下した。


それはゆっくりと起き上がると、出口を塞ぐように

セツナ達のいる部屋を覗き込んだ。


「おお…ここだ…

まさに伝承の通りだ…!!」


ストロムブラードは懐から古びた手帳を取り出し

ページをめくった。


「良くやったぞ、ドワーフの娘。

…なるほど、これが…そうだ…お前の目…

ククク…」


そう言ってストロムブラードはその巨体を

入り口にねじ込ませてきた。


「ちょっと聞きたいんだけど。」


「あ?」

ストロムブラードがセツナを見た。


「この奥には何があるんだ?」

セツナが言った。


「なぜお前に言わねばならぬ?」


「じゃあ誰の命令で探している?」


「……」


「お前は我々が帝国にでも戦争を仕掛けるために探していると

思うのか?」


「だったら何だ?」


「‥‥来るんだよ…」


「何が?」


「そこをどけ小僧!」

ストロムブラードがセツナを払いのけようと

した瞬間…


ドーン!


という音と、地響きがして、辺りに埃が

舞った。


次の瞬間、ストロムブラードは通路の床に頭を

うずめていた。


セツナはそのままストロムブラードの尻尾を掴み

天井に打付けた。

今度は天井に顔がめり込んだ。


そしてまた床に打ち付けた。


「グハッ…グ…」


ストロムブラードは血を吐きながら、這って

逃げようとしていた。


セツナがストロムブラードの髪の毛を鷲掴みした


その時


「セツナさん! 待ってください!」

ヴィネスが叫んだ。


「……」


「この人はさっきの魔族とは違います!」


セツナはピタリと動きを止めた。


「こいつらは君達ドワーフの民を監視し、

勝手なルールを作り、従わない者には

罰を与えた。

そして、君たち祖先の遺産を横取りしようとしている。

それでも放っておくのか?」


「それでも…

それでも殺してはいけません。

それではなんの解決にもなりません。」

ヴィネスの青い瞳には涙が浮かんでいた。


セツナは掴んでいたストロムブラードの髪の毛を

手放した。


「ハアハア…何だ…

き…貴様は何者だ…」

そう言いながらストロムブラードの体は

みるみる元のドワーフの姿に戻っていった。


「僕はただの人間だよ。」

そう言ってセツナは仮面を外した。


「人間族…な…謎多き種族だ…」

ストロムブラードは喘ぎながら言った。


「どういう事だ?」


「ゼェゼェ…来るべき日にそれは大挙して現れる。

遥か昔、それは来たれり。

その伝承には人間族が深く関わっているという。」


「伝承とはなんだ?」


「そ……それは言えぬ。」


ストロムブラードはポケットから小さな光る玉を取り出した。

その玉をつまむと、パチンと割れた。

その瞬間、ストロムブラードの体は虹色の膜で覆われ始めた。


「いずれすべては滅ぶ……」


「何を言ってる?」


「遥か昔と同じだ。世界は再び終わりを迎える」


ストロムブラードは奥の暗闇へ目を向けた。


「そして、そこに眠る物も……我々には扱えぬ」


「ならば、なぜ探してる?」


「……しかるべき者…導きの…」


そう言い終わった瞬間、辺りは目が眩むほどの閃光がはしり

気が付くと、ストロムブラードの姿は消えていた。


「消えました…」


「転移のマジックアイテムだろうね」


「先へ進みましょう、セツナさん。」


「先ってどこに?この部屋は行き止まりだ。」


ヴィネスは首を振った。

「あるんです、扉が。

私には見えている。」


そう言ってヴィネスは部屋の奥の壁の前に立ち、

さっきと同じように、壁を上下になぞった。


すると白一色の壁に扉の輪郭が現れた。

その扉は音も無くスライドした。


扉のその先は、また通路が伸びていた。

二人は先へ進んだ。


その時、どこからか

ポーンという聞きなれない音が聞こえた。


「?」


ヴィネスがふとセツナを見ると

セツナを取り囲む文字の環の一つが青くなっている

事に気が付いた。


「セツナさん…」


「何?」


「いえ…何も…」


そしてまた二人は歩き続けた。


ポーン…


「……」


「また…」

ヴィネスはセツナを見た。


「やっぱり…」


「ん? どうした?」

セツナが言った。


ヴィネスは黙ったまま歩き続けた。

そして再び音がなった。


そしてセツナの3本目の環が青くなった。


「全部で7つ…」


「…ヴィネス…僕に何かあるんだろう」


「あの音…

あなたに反応しています。」


「……」


「あなたの体の周りには、沢山の文字や記号が

書かれたいくつもの環が取り囲んでいます。

あの隠し扉から部屋に入った時からです。」


セツナは黙って聞いている。


「あの音が鳴ると、その環が、青く変化するんです。」


「その環は…いくつあるの?」


「七つ」


「じゃあ、あと四つか」


仮面越しではあるがヴィネスはセツナが

微笑んでいるような気がした。


「僕は、ずっと探している。

エントリを。

そのために旅をしてきた。

この町に辿り着いたとき、思ったんだ。

近づいている気がするって。

エントリに。」


「エントリって?」


「時々夢の中に出てくる。

それは人なのかどうかわからないけれど。

僕は会わなければならない。」


「セツナさん、まだ確証はありませんが

私思うんです。

ここは私たちドワーフの遺産ではなく

むしろあなたの…人間族の…」


「それは…その答えはまだ早いよ…

ただずっと、この世界の違和感は…」


セツナがそう言った時

ヴィネスの青い瞳の深部がひときわ光を

強めた気がした。


そしてセツナは言葉を続けた。

「はるか昔に何があったのか。

ストロムブラード達は何を恐れているのか…

問題はそこにあるんだよきっと。」


「……」


「そして、それに疑問を持ち始めている

人たちもいる…

僕が旅の途中出会った人たち…

そして君。」


「私は…」


「行こう、ヴィネス。

確かめないと。」


そうして二人は再び歩き出した。

それぞれに何かを抱えながら。


やがて通路は行き止まりになった。

その時セツナの環は六つまで変化していた。


行き止まりの壁には人の顔の形のような

レリーフが浮き出ていた。

壁そのものが顔の形のようだ。

偶然であろうが、まるでセツナの仮面に見えた。


その時また

ポーンと音が鳴った。


ヴィネスはセツナの七つ目の環が青く光るのを

確認すると、セツナを見て頷いた。


そして

<生体コードを確認

パスワードを入力してください。>

という声が聞こえた。

女性とも男性ともつかない声だった。


「……どういうこと?」

セツナは呟いた。


その時、ヴィネスがセツナの前にスッと

割り込んだ。

ヴィネスは思い返していた。

アンナの背中の刺青を。


セツナにはヴィネスが宙に向かって腕を動かしている

ようにしか見えなかったが

ヴィネスにだけははっきりと見える

空中に浮かんだ数字や記号を並び変えていた。


その動きは、まるで舞を踊っているようだった 。

セツナはただ静かにヴィネスの動きを眺めていた。


「懐かしく…美しい…」

セツナは無意識に口について出たその言葉に

ハッとなった時、仮面の隙間から

雫が零れ落ちた。


「僕が…泣いてる…?」


<パスワード確認

プロテクトキーを解除>


顔のレリーフが二つに割れ、やがて左右に

広がるように扉はスライドした。


そこは小さな部屋だった。

真ん中に寝台があり、何かが横たわっている

ように見えた。


「セツナさん…これは…

この人は…」


セツナはただ立ち尽くすヴィネスの背中越しに

心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。


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