秘密の部屋
「隠れていても君の為にならんぞ」
フォクシールの声は巨大なホールに響いた。
「クソッ…誰なんだ? なんでダークエルフが
ここに居るんだよ!」
エリンは呟いた。
「フォクシール様、このような薄気味悪い場所、
隠れている者共々焼き尽くしましょう。」
フォクシールの後ろに従える小柄な
ダークエルフが言った。
目の下に涙模様のタトゥーがある。
「それはならん、ジガ。
たしかに死体に興味は無いが、例の物まで
傷がついては元も子もなかろう。」
エリンは腰の革ケースをまさぐった。
「あった…」
小さく呟いた。
「さあ、姿を現すんだ。
お前の遊び相手をしている時間は
無いのだよ。」
フォクシールがまた言った。
その時、エリンが手にしていた物を投げつけた。
それを感じたフォクシールとジガは振り返った。
エリンが投げた物がフォクシールの足元に転がる。
「?」
その瞬間、辺りは激しい光に包まれた。
「ぬあっ 眩しい!閃光弾か!」
「目が見えん…」
そしてエリンは走り、フォクシールとジガを突き飛ばして入り抜けた。
「見えたか?ジガ
猿芝居も堂にいっておる」
「ええ、はっきりと。
あの部屋のほうへ走っていきました。
我らにはあんな子供だましは通用せんのに。」
「ククク…ちょうどいい。」
「さようで。」
フォクシールとジガは笑みをこぼした。
◆
「クソッ…」
エリンは無数の遺骸を踏みつけながら全力で走った。
何度も躓いたが、とにかく走った。
どれくらい走ったか。
息が切れる。
「この辺で…ハアハア…」
ふと見ると
目の前にアーチ状の扉が見える。
扉は半開きの状態だった。
後ろを振り返った。
ダークエルフ達は追ってきていないようだ。
ゆっくりとノブに手をかけ
扉を開いた。
「なんだここ…」
思わずエリンは声に出した。
中はほんのり暖かく
壁一面にたくさんの機械があり
いくつもの小さな光がついていて、中には
不規則に点滅しているものもある。
——これより管理者識別認証を開始
どこからともなく声がした。
「なんだって?」
するとエリンに光が照射された。
その光は足先から頭のてっぺんまでエリンの体を
なぞっていく。
——エラー コード15、エントリアとの適合率12.3%——
——侵入者を確認、ただちに排除せよ ただちに排除せよ——
その瞬間、大きな赤いランプが点滅を開始した。
「なんだってんだよ?侵入者って俺の事…」
エリンは壁の機械を見たが、この状況を変える様なものは
見つからない。
その時
「ああ…全く…これだから素人は…」
後ろを振り返ると、ドアの外にさっきの
ダークエルフが立っていた。
顔に手を当てて首を横に振っている。
エリンは横目で別の扉がある事を確認した。
そして、その扉に向かって走り出そうとした瞬間
「クフフ…」
その扉からもう一人の涙目のエルフが姿を現した。
「追い詰められながらも…その状況を
なんとか打開しようと試みる勇気には
拍手を送ろう。」
「ッ!…」
「だがしかし!! 相手を見くびり過ぎだ。
ドワーフの青年よ。」
エリンの目の前にフォクシールの顔が迫った。
「ダークエルフが何の用だ! ここはドワーフ領だぞ!」
エリンは叫んだ。
「おやおや、議論を避けて逃げたのに、今更話し合いに
持ち込むのかね。」
「最初から話をするつもりなんて無いだろう!」
「フォクシール様、こんな奴さっさと 始末‥‥」
ジガが言いかけたがフォクシールが制止した。
「待て、ジガ」
「……」
ジガは口を閉じた。
「そう言えば…お前はどこから入って来たのだ?」
「?」
「私達が来た場所から来たわけではあるまい?」
「あっちだ。ゴンドラがあってそこから下りた。」
エリンは来た方向を指差した。
「何!? ゴンドラ? もしや“重力の籠”!?」
「おお、それは古文書の…」
ジガが言った。
フォクシールはニヤリと気味の悪い笑みを
浮かべた。
「あー…君は‥」
「エリン…」
「エリン、そのゴンドラまで案内してくれんか?
実は我々は入ったはいいが、迷ったようなのだ。」
ジガはフォクシールを訝しんだ目で見た。
「私はフォクシール、こっちはジガだ。」
その時、フォクシールからジガに念話が入る。
——ガーディアンが来ない。
——侵入者を排除する人形ですな?
——そうだ、故に俺たちは立ち入らなかったのだ
あの部屋にな。
だが、この間抜けなドワーフの小僧は感知された。
どうなるのか見てみたい。
——ククク…なるほど、それは私も同意致します。
フォクシール様。
その時、エリンが言った。
「お…俺も人を探してて…」
「おお、それは都合がよい!
では歩きながら一緒に探そうではないか。」
フォクシールが言った。
「ヴィネスっていう友達なんです」
二人の前を歩きながら
エリンは照れくさそうに言った。
「そんな話はどうで…」
ジガが言いかけたが、またフォクシールが手で制止した。
「おお、そうなんだな。で、ヴィネスとやらは
なぜここに入ったんだ?」
フォクシールが言った。
「彼女は…本が好きで…
ここには古い書庫があると…」
「本?」
フォクシールとジガはエリンの後ろで目くばせして
ニヤついた。
エリンを先頭に元来た道を戻る。
そしてほどなくエリンは口を開いた・
「たしかここのはず…」
エリンは言った。
「…何も無いが?」
フォクシールは辺りを見回した。
「小僧、貴様…」
ジガが言った。
「本当です!この場所、覚えてます。
たしかにここです。」
その時だった。
遠くの天井から陽が射しこんできた。
そして、円柱形の物体がゆっくりと降下してきて
いるのが見える。
「おお、あれは!」
「まさしく重力の籠、ワイヤーで引っ張るでもなく
下から支えるでもない。宙に浮いているぞ。
素晴らしい!」
フォクシールが言った。
やがてそれはゆっくりと地面に着地した。
「待て、誰かが乗っている」
扉が開くと、中には奇妙なものが立っていた。
「シンニュウシャヲハイジョスル…」
その人形は奇妙な声を発した。
そして、口元が赤く光を発している。
「ジガ! よけろ!」
フォクシールはそう言うと、ジガと共に
一瞬で上空へ飛び退いた。
人形の口から放たれた光は、エリンの目の前で爆発した。
エリンは吹き飛ばされ、遺骸の山に突っ込んだ。
「あれが、ガーディアンか…」
フォクシールはえぐれた地面を見て言った。
「そのようです。フォクシール様。」
「クフ…とてつもない力だ…
実に興味深い…」
フォクシールの目はおもちゃを目の前にした子供の様に
怪しい輝きを放っていた。
「フォクシール様、どうしますか?
破壊しますか?」
「馬鹿者、捕らえるのだ。
良き依り代となるやもしれんものを。」
「では…
スペルバインド…」
ジガが無表情のまま言うと、巨大な魔法陣が空間を覆った。
そこから無数の光の矢が人形めがけて降り注いだ。
いつの間にか人形は光の繭に包まれていた。
「アイスバインド…」
再度少し面倒くさそうにジガが言った。
繭は徐々に氷へと姿を変え、楕円形の氷塊の中に
人形は封じ込められた。
「マイナス120度ですから
機能は停止しているでしょう。」
「問題は格納庫だ…
一旦船に戻るぞ、奴らに感づかれたかもしれん。」
◆
「ウッ…」
エリンは骸の山の中で目を覚ました。
俺はあの人形に吹き飛ばされて…
エリンは少しだけ手と足の指を動かした。
大したことはなさそうだ。
この亡骸達がクッションに…
「今出て行くのは得策じゃ無いな…」
エリンの上に積み重なった遺骸が重く
なんとか体を起こした。
遺骸の隙間から外の様子を伺うと
辺りは静まり返っていた。
「奴らは居ないのか…」
ふと、手が何かに触れた
手探りでそれを掴む。
「なんだ…これは…ハンドル?」
何かのバルブ用のハンドルだろうか。
丁寧に遺骸をどかした。
そこに鉄のハンドルが露になった。
エリンは殆ど無意識にそのハンドルを回した。
すると、少し前方の壁の辺りからズズズ…という
岩をこすり合わせたような音が聞こえた。
エリンは更に回していく。
「あれは…」
エリンがトーチで音のする方を照らすと
何もない壁にぽっかりと穴が開いていた。
「…このハンドルの上に人が大勢覆いかぶさって
いたのは…」
エリンは骸の山から這い出し
穴に向かって進んだ。
穴の奥をトーチで照らす。
「光が届かない…かなり深いな…」
奥の方から油の匂いが上がって来る。
「ここまで来たんだ…」
エリンは本来の目的を忘れかけていた。
ヴィネスならきっと無事だ…
怪しいダークエルフ、人形…
ここには何かがあると、エリンの直感がそう言っていた。
「見たい!…」
エリンは穴に一歩足を踏み入れた。
その瞬間
「うわっ!」
穴の入り口は油で滑っていて
足を踏ん張った瞬間、ひっくり返ってしまったのだ。
穴の先はいきなり急こう配のトンネルだった。
エリンはそのまま滑り落ちていった。
「うわ――!!」
暫く滑り落ちていったが
やがて、空間に飛び出て
尻もちをついた。
「痛っ!」
尻をさすりながらトーチをつける。
「!! これって…!」
エリンの心臓は早鐘のように打ち
全身から汗が吹きだした。
そこには綺麗に整列したあの人形が無数に立っていた。
正確には1体1体がぶら下がっていた。
「ハァハァ…な…なんだ…ここ…」
トーチの光を反射する無数の人形の赤い目が
一斉に自分を見つめている気がして
エリンは息が止まりそうだった。




