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【2部連載中】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
4章 炎の民

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47話 再会

 扉を開けた瞬間、暖かい空気と、煮込みの匂いが顔にぶつかった。薪がぱちぱち鳴ってる。俺の喉の奥に残ってた鉄の味が、やっと現実に戻ってくる。


「ただいま」


 声が思ったより掠れてて、自分で笑いそうになった。


 窓のそば。灯りの近くで、思った通り、エレナが祈ってた。

錫杖を胸に抱えて、唇だけが小さく動いてる。俺の声で、それが止まる。

止まったまま、エレナの肩が一回だけ跳ねた。


 次の瞬間、椅子が鳴った。床板が軋む。エレナが振り向いた。目が合った途端、安心が先に来て、でもそれだけじゃ終わらないって顔をしてた。


「……シビさん」


 名前を呼ばれた瞬間、胸がきゅっとなった。心配させたのが一発で分かった。しかも結局、一人で突っ走った。喉の奥が苦くなる。やっちまったな。


 エレナは駆けてきた。勢いはあるのに、最後の一歩だけ急に弱くなる。抱きつくか迷って、迷ったまま俺の腕を掴む。指先が小さく震えてた。


「……よかった……ほんとに……」


 言いかけて、息が詰まって、言葉が続かない。エレナの瞳が赤い。泣いてたのがすぐわかった。


 俺は軽く笑ってみせた。「そんな顔するな。ちゃんと帰ってきた」それで誤魔化せると思ったけど、無理だった。


 エレナの視線が、俺の肩を見た。次に腕。次に頬。最後に、俺の歩き方。安心の顔が、怒りの顔に変わるまで一秒もかからなかった。


「……どこが、ちゃんとですか。立ってるだけで精一杯のくせに」


 声が小さいのに、刺さる。


「自然回復は入れてるから……たぶん、大丈夫だ」


たぶん、が喉に引っかかった。今のエレナの顔の前で、強がりを通す自信がない。



 イヴァンが暖炉の近くで体を起こした。まだ顔色は悪い。でも目を開けて、俺を見て、短くうなずいた。


「無事戻ったか。助かった」


 それだけで空気が締まった。俺の帰還が、ただの再会じゃなくて、次の一手につながるって思い出させられる。


エレナは俺の腕を掴んだまま、錫杖を構えた。


「まずは、座ってください。今すぐです」


「いや、まだ動ける」


「動けるとかじゃなくて、治します。黙って」


 優しい人の言い方じゃない。聖女の言い方じゃなくて、怒ってる女の言い方だった。俺はそれが、変に嬉しかった。心配してくれてるってことだから。


 俺は渋々、椅子に腰を落とした。背中が木に触れた瞬間、疲れがどっと来て、息が漏れる。


 エレナが低い声で詠唱した。「聖癒光(グレイス・ヒール)


 柔らかな黄金の光が、俺の肩と腕を包む。痛みが薄くなる。血の熱が引いていく。やっと、体が自分のものに戻ってくる感じがした。


 俺は目を閉じて、短く言った。


「……助かった」


 エレナは返事をしなかった。代わりに、治癒の光が少し強くなった。怒りの力で回復量増やしてないか、それ。

僧侶の回復呪文って感情で振れ幅あるんだよな。口にしたら怒られそうで黙った。


 治癒が落ち着いたところで、俺は喉を鳴らした。


「バステルに戻る。ここに長居はできない」


 イヴァンが眉を寄せる。「瞬間移動か……だが、あれは基本、個人呪文だろう?」


「二人ならテレポートで済む。けど三人だ。定員オーバーだから、星移門エルシードを使う」


星移門エルシード?初めて聞くな」


「まあな。便利そうに見えて、意外と不便なんだ。覚えてる術者も少ないと思う。情報部の魔術師なら知ってるかもしれないが」


イヴァンが肩をすくめる。「制約が多いって顔してるな」


「多い。まず時間がかかる。門を作るスペースもいる。行き先は、頭の中で細部までイメージできる場所限定。しかも維持してる間、魔力をずっと吸われる。使い勝手は正直悪い」


「大呪文だな」


「一応な」


 エレナが俺を見る。「ここで使うのですか?」


「ここじゃ狭い。外でやる」


 俺は立ち上がった。足が少しふらつく。エレナが反射的に支えようとして、途中で手を止めた。俺の意地に気づいたんだろう。かわりに、俺の背中に手のひらを軽く当てた。支えるんじゃなく、いるって合図みたいに。


 俺たちはロッジの外に出た。夜明け前の空気が冷たい。森の匂いと、遠くの荒れ地の乾いた匂いが混ざってる。風が弱くて、静かだった。


 俺はバッグの奥から青い小瓶を取り出した。栓を抜くと、薬草と金属みたいな匂いが鼻を刺す。それを一息で飲み干した。


 昔のCMじゃないけど、確かにファイトって言いたくなる気持ちは分かる。

空っぽだったはずの身体の内側に、もう一度、魔力の芯が戻ってくる。

自然回復みたいに待つ感じじゃない。血の流れと一緒に、急速に巡り始める。


 助かった。これがなきゃ、門なんて開けられない。


 この世界に来てからいつも思うんだけど、RPGみたいなゲームで戦闘中にポーションってよく飲めるよな。

飲む瞬間なんて隙だらけだし、攻撃が来たら回避でこぼれるし、そもそも飲み込めないだろって。

今さら全く意味のないことを考えてしまった。


 エレナが小さく息を吸う。「結界を一枚だけ張りますわ。もし敵が来たとしても時間稼ぎにはなりますわ」


「頼む」


 エレナは錫杖を地面に立てた。「聖なる障壁セイクリッド・バリア


 薄い膜が、俺たちの周りに落ちる。音が少し遠くなる。空気が、ひとつの部屋みたいに閉じた。


 俺は深呼吸した。魔力の流れを整える。エルシードは派手だ。時間もかかる。だからこそ、やるなら手早く、迷いなく。


「星の紡ぐ糸よ、空間の裂け目を穿て!悠久の門、エルシードの名の下に開かん!光と影の狭間、我を導き、瞬きの彼方へ星移門(エルシード)


 言葉とともに、周囲の空気が微かに震え、足元から淡い銀青色の光の粒子が無数に浮かび上がる。

それはまるで夜空から零れ落ちた星屑のようで、ゆっくりと回転しながら上昇していく。粒子たちは次第に集まり、星々の門が形作られた。

 

 門の向こうに、石畳の色が見えた。あの宿の裏手の路地。俺が一度、買い出しで通った場所だ。自分の足で行った。条件は満たしてる。


 イヴァンは門を見上げたまま固まって、低く息を吐いていた。


「……こんな転移、見たことがない」


「行くぞ!」


 俺は門に手を伸ばして、先に踏み込んだ。

イヴァンが一歩遅れる。門の枠を一度だけ見回してから、慎重に足を出した。

見知らぬ呪文に身を預けるのは、そりゃ勇気がいるんだろう。

一応命の恩人なんだから、信用してほしいんだけどな。


 視界が一瞬、星屑で埋まる。耳が詰まる。胃がひっくり返るみたいな感覚。

次の瞬間、冷たい石畳の匂いと、街の空気が戻ってきた。

バステルの夜明け前。遠くでパンを焼く匂いがした。どこかの店が準備を始めてる。人の足音が、まだまばらだ。


 エレナとイヴァンが門から出てくる。エレナは少しよろけて、でもすぐに姿勢を立て直した。

イヴァンは口元を押さえて、吐きそうな顔をして、でも耐えた。


 俺は小さく笑う。「慣れると楽なんだけどな」


「慣れたくない種類の揺れですわ……」


 エレナがぼやいて、それでも俺を見て、少しだけ安心した顔をした。


 星の門は、役目を終えたみたいに粒子へ崩れた。銀青の光が風にほどけて、路地の闇に吸い込まれる。残ったのは、いつものこの街の空気だけ。


 ロッジの時より、呼吸が落ち着いてる。湿った石と、早朝の町のにおいを感じられてやっと俺も気が少し抜けた。

早朝のバステルは静かで、遠くのどこかで水の落ちる音だけがする。


 俺たちは路地を抜けて、宿の自分たちの部屋に戻った。

扉を閉める音がやけに大きく聞こえて、外の冷えた空気が切り離される。

燭台に火を入れて、暖炉に薪をくべた。ぱち、と弾ける音のあと、じわっと熱が戻ってくる。

柔らかな灯りが壁の飾りと絨毯を照らして、足音はふかふかに吸われた。静かすぎて、耳が逆に冴える。


 甘いハーブの香りと、広すぎる空間が迎えてきた。ロイヤルスイート。相変わらず悪ふざけみたいな豪華さだ。

俺は扉を閉めて、鍵をかけた。肩の力が、ほんの少しだけ落ちた。


「……貴族の私室って感じだな」


 イヴァンが部屋を見回して、素直に息を吐いた。磨かれた床に灯りが揺れて、置かれた家具まで妙に品がいい。


「何が起きたのか知らんが、宿代を多めに出したらこうなった」


 俺は自分の口で言って、ちょっとだけ嫌な予感が濃くなる。


「多め、の範囲じゃありませんわ」


 エレナがきっぱり言った。


「ひと月で金貨五百枚ですもの」


「……おい。本気か?」


イヴァンの声が一段低くなる。


「本気だ。だからこうして、扉を閉めて落ち着いて話ができる。先行投資ってやつだな」


 言い切ってみたけど、言えば言うほど自分で苦しくなる。


 エレナはそれ以上そこを突っ込まず、部屋の片隅にある小さなキッチンへ向かった。

火を起こして湯を沸かし、茶葉を落とす。湯気が立って、甘い香りが少し濃くなる。

白いカップに紅茶を注いで、静かにこちらへ運んできた。指先の動きが丁寧で、やっと呼吸が戻ってきた気がした。


「作戦会議したいのは山々だが、まず休息をしたい」


 俺がそう言うと、二人とも黙って頷いた。


「俺はどこで寝ればいい?」

 イヴァンが当然みたいに言う。


「俺のベッドで寝ればいいだろ」


「じゃあお前はエレナと一緒に寝るのか?」


 俺は首を振った。


「俺はそこのソファで寝る。客にソファは使わせられん」


「シビさん!」


 エレナが非難的な声を上げた。それなら同じベッドで寝ればいいみたいな感じだ。あんな生殺しみたいな体験はもう2度としたくなかった。


「エレナの名誉のため理由は言わない。けど一緒は無しだ」


 ご丁寧に拒否させてもらったら、何かに気づいたようでイヴァンが眉を寄せて近づいてきた。


「さすがに俺も気にする。女のベッドで一人は落ち着かん。エレナと同じじゃ駄目か?」


「ああ。寝相が悪くてな。迷惑をかける」


「なら俺がこの宿で部屋を借りる」


 エレナに聞こえないように小声で相談をして越智応納得はした。

さすがに、イヴァンなら不覚は取らないだろう。


「二、三日休んでから炎の民のアジトへ行く。それでいいな」


二人の返事を聞いて、俺はようやく肩の力を抜いた。


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