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【7部】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者: 綾
3章 解放

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45.5話 心配するエレナ エレナ視点です。

 私とイヴァンさんは、魔物の街の外周を抜け、森林の方へと走り続けた。

夜の空気は冷たく、乾いた土埃が靴に絡みついてくる。

足元は岩と砂利が混じった荒れた大地で、一歩ごとに小さな音が響く。

背後から魔物たちの怒号が遠く聞こえ、心臓が喉元まで跳ね上がるような恐怖が体を駆り立てる。


 金髪の三つ編みが風に乱れ、聖衣の裾がばたついていた。シビさんが撤退できるように、少しでも遠くへ。少しでも早く。焦る心を抑えながら走っていた。


 息が上がり、肺が熱くて、喉がからからで、吸うたびに痛い。汗が額を伝って目に入り、視界がにじんできた。足元の砂利が滑って、踏み外しそうになってきた。


 ここでは止まれない。今もまだ、シビさんが、あそこで足止めをしてくれてる。私達が一歩でも遅れたら、そのぶんだけ、シビさんが危なくなってしまう。


 あの時、私が……見なかったことにできていれば。そう思うのに、胸の奥がすぐに拒んだ。母と子供を、無視なんてできなかった。それでも、手を振り払えなかった。


 街の門を離れてから、どれくらい時間が経っただろう。数十分は確実に経っている。私たちは言葉少なに、ただひたすらに走り続けた。


 イヴァンさんの足取りは重く、傷は癒えたはずなのに、数日間の捕虜生活の疲労が体を蝕んでいるのかもしれない。彼の息が荒く、やはり動きが鈍いように思えた。それでも私は、自分の心の不安を押し殺して進んでいた。


 シビさん……無事でいてください。


 祈るような思いで、前を見据える。シビさんは強い。あの人がそんな簡単に負けるはずがない。きっと、すぐに追いついてくる。


 ふと、私は足を緩めた。背後、魔物の街の方から、凄い音がしたからだ。


 ゴゴゴゴ……!!地響きのような低く重い音が、夜の闇を震わせた。地面がわずかに振動し、遠くの空に土煙が立ち上るのが見えた。


 それは、シビさんが集団戦でよく使う呪文の効果。

地面から鋭い岩の槍が複数突き出る、あの攻撃の痕跡だ。


 私の心臓が、凍りついたように止まった。土陣鋼槍《アース・スパイク》……?声には出さず、心の中で呟いた。

あの振動、あの土煙。間違いない。シビさんが、あの呪文を使っている。あれからかなり時間は立っているのにまだ戦っているのですか?


 そう思った直後、ドオオオオン!!今度は爆発の音が響き、炎の閃光が夜空を赤く染めた。遠いはずなのに、遅れて熱風が届き、私の金髪を乱暴に揺らした。街の方角に、爆発音が聞こえ、鍛冶の様子が見えてる。


「あれは……火炎流(キャノン・バスター)ですわ!シビさんの呪文です!!」


 イヴァンさんも立ち止まり、驚いた顔で振り返る。


「すげえ爆発だ……あいつ、まだ戦ってるのか?」


「ええ……勝っていますわ!あれだけ暴れられるなら……きっと、抜ける隙も作れているはず……!」


 喜びが胸に広がって、涙がこぼれそうになる。人数差なんて関係ない。あの人なら、砂煙と爆炎で目を奪って、するりと闇に消え街から脱出してくれますわ。私は何度も頷いた。


 さらに時間が経ち、もうすぐ森が見える位置まで来た時だった。突然、空が暗くなり、遠くの街の上空に雷雲が急速に集まるのが見えた。閃光が走り、轟音が遅れて届く。


「あれは……雷鳴の裁き(サンダーボルト)ですわ!」


 その瞬間、胸の奥が、すうっと冷たくなった。終わった?本当に?でも、雷が落ちた場所は、まだ街の方角だ。


 私、てっきりもう脱出できていると思っていた。なのに、なぜ……まだ、あの位置に。シビさん、人は無限には動けませんわ。それとも、抜けられない状況なんですの……?


「終わったみたいだな。あいつ……本当に人間か?」


 イヴァンさんが感心したように呟く。それでも私は今までシビさんと一緒に旅をして知っている。明らかにキャバオーバーしてる。無事でいてください。でも、なぜか胸の奥に小さな不安が残る。


 ガルドさんのロッジ近くに着いた時だった。私のヘアピンが、ぱきん、と小さな音を立てて割れた。


 私は思わず立ち止まった。金髪を留めていた小さなピンクのヘアピンが、二つに割れて地面に落ちる。拾い上げた瞬間、指先が震えた。胸の奥に、冷たいものがすっと広がっていく。


「どうした?」


イヴァンさんが立ち止まり、私を見た。


「ヘアピンが割れましたわ……」


「劣化だろう。長い旅で、壊れたんだろ」


イヴァンさんが肩をすくめる。


「これは……シビさんと首都で初めて買い物したときに、町などを案内したときのお礼でいただいたものですわ。もしかして……何かあったのかも」


 私の声が、自分でもわかるくらい震えていた。さっきまで抱えていた不安が、急に形を持って迫ってくる。ただの偶然。そう言い聞かせたいのに、割れたヘアピンが手のひらで冷たくて、否定できない。


 シビさんに、何かあったのでは。いつもあの呪文をかけておけばよかった。そうしたら、すぐに助けに行けるのに。


 私は振り返り、街の方へ走り出そうとした。


「戻りますわ!シビさんの所に!」


 イヴァンさんが慌てて私の腕を掴む。


「離してくださいませ!」


「戻ってどうする」


「もちろんシビさんの所に!」


「今さら行っても間に合わねえだろ。あいつは強い。あの雷が落ちたってことは、勝った証拠だ。信じるしかねえだろうが」


 涙が溢れてきて、止まらなかった。私は唇を噛み、声が震えないように必死に抑える。


「シビさん……無事でいてくださいまし」


 イヴァンさんに引きずられるように、私は歩いた。


 私たちはガルドさんのロッジに着き、扉を閉めて待つことにした。ロッジの中は静かで、ストーブの火がぱちぱちと音を立てるだけ。私は窓から街の方を見つめ、祈りを捧げ続ける。


 シビさん……どうか、無事でいてくださいまし。


 慈悲なる女神アウリス様、シビさんをお守りくださいませ。


 夜が深まる中、私たちはただ、シビさんの帰りを待った。

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