表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【4部完結】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
4章 再会は、腐臭と共に

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

145/148

タイトル未定2026/04/13 20:45

 重厚な双開きの扉を押し開けると、そこは荘厳な玉座の間だった。

 天井高く広がる大ドームには、複雑な幾何学(きかがく)模様のステンドグラスがはめ込まれ、魔法の光が七色の柔らかな光の柱を床に落としている。

 玉座のすぐ傍らに控えていた銀糸で、複雑な刺繍を施された。

 漆黒の法衣を纏う宰相が、静かに一歩前に出たのだが、殿下が左手を上げた。


「礼は不要だ。そのまま入って来てくれ」

 殿下の声は低く、しかしドーム全体に響き渡るほどよく通った。


「殿下、それでは……」


「この間のやり取りをするのも不毛だろう」


 殿下は、宰相の言葉を軽く制し、手を軽く振った。

 俺達は、すでに指定の位置まで歩を進めていた。

 俺は少し苛立ちを隠せずに口を開いた。


「それで、何の用ですか? 宴会のお金を支払った瞬間に、タイミング良く呼び出してくれたのは」


 理不尽だとはわかっていても、つい棘のある言葉が出てしまう。

 周囲に控える貴族たちが一斉にこちらを向く。

 不満げな視線が何本も突き刺さるが、知ったことか。

「殿下と宰相閣下にお呼び出しいただけるとは……」

 エレナがそっと横からフォローしようとしたが、俺はすぐに手を上げて止めた。

「礼不要って言ったんだから、エレナも気にしなくていいよ」

 ……これお互いがこんなことやってるから、グダグダしてるな。


 殿下が軽く咳払いをした。

「ごほん。まずは食事でも食べながら話そう。こちらについてまいれ」

 俺たちは案内されるままに、玉座の間から隣接する食堂へと移動した。

 そこは暖色系の魔法灯がふんだんに灯され、壁に掛けられたタペストリーや暖炉の火が、部屋全体を柔らかく包み込んでいる。

 長い白樺(しらかば)のテーブルには、すでにいくつもの料理が並べられ、湯気と香ばしい匂いが漂っていた。

 席に着き、ワインが注がれるのを待つ間、俺は真っ直ぐに殿下を見つめた。


「殿下はなぜ俺達と食事を? 暇じゃないんでしょ」


 殿下はグラスを軽く回しながら、穏やかな笑みを浮かべた。

「食事をすると話もまとまるってよく言うだろう。この間の件、本当にご苦労だった」

 

 俺はフォークを軽く握りしめ、ため息混じりに答える。

「まぁ苦労はしたけどね。損失の方がひどいですよ。これが普通の冒険とかならまだわかるけど……得体のしれない戦いばかりで、想定外の連続でしたし」


 暖かな魔法灯の光が、長い白樺の食卓を優しく照らしている。

 銀の燭台に灯った炎が揺らめき、ローストされた鶏肉や濃厚なスープの香りが部屋中に広がっていた。

 殿下はワイングラスを置くと、わずかに眉を寄せて俺を見た。


「それほどまでに喪失しておったのか? すまないな……最後のお前の戦いは、避難やら処理やらで忙しくてな。いくらだ?」


 俺はフォークで肉を刺したまま、赤い瞳を細めて答えた。

「多分、金貨40万枚以上は損失したんじゃないですかね」

 

 その瞬間、食堂にいた貴族たちの手が一斉に止まった。

 誰かのスプーンがカチャンと音を立て、驚愕の視線が俺に突き刺さる。

「40万……?」「まさか……」という小さなざわめきが波紋のように広がった。


 俺は構わず、大きな鶏肉をナイフで切り分けながら説明を続けた。


「さすがにね。それを全部填補してくれってのは無理だってわかってますよ。あれも……仲間の葬式代だと思いたいけど、頭では理解してるんだけど……感情が納得いかないんですよね」


 スープを一口すすると、温かさが喉を通り過ぎた。

「ここで得た知識を差し引いたって、まだ大赤字なんですよ」

 

 殿下は静かに頷いた。

「そのことで相談なのだがな」


「いやですよ。これ以上損失するのは!」


 俺は即座に首を振った。

 剣術と違って魔法は金がかかりすぎる。

 特殊な魔法インク、極上羊皮紙、希少素材……どれも科学の実験並みに金が飛ぶ。

 今回は王宮の施設を使わせてもらえたからかなり安く済んだけど、それでも研究費だけで数万ゴールドは消えていた。

 すると殿下が、穏やかだが重みのある声で切り出した。


「おぬし、伯爵にならないか?」


「は?」

 何を言ってるんだ? 俺はこの国の物じゃないだろうが。


「ド・ロア伯爵がああなったからな。今、伯爵領が丸々空いている状態だ」

「断る」


 即答だった。

 大方下心丸出しだろう。

 俺を手元に置いておきたい。

 運が良ければエレナも……そんな腹づもりが見え見えだ。

 冗談じゃない。

 

 殿下は本当に不思議そうに首を傾げた。

「冒険者というのは、貴族になるのが夢だと聞いたが?」


 俺は、大きな鶏肉を豪快に頬張りながら、はっきりと言い放った。

「俺にとっては、残念ながら不利益しかない」


 周囲の貴族たちが息を呑むのがわかった。


「まず領主ってことは、その地域を治めなきゃならねえ。そんな面倒くさいことはやりたくねえよ」


 ため息をつき、ナイフを置いた。


「それに、領主になったらあんたの下につくことだろ。未訳の呪文を訳せだの、研究成果を出せだの言われたら困るし……俺は自由がいい。以上、断る」


 食堂が一瞬、静まり返った。

 貴族たちの視線が痛いほど俺に集中する。

 誰かがガタンと椅子を鳴らした。


「だそうだ、叔父上」

 殿下が宰相の方へ視線を向ける。


「本当に要らぬのか」

 宰相は銀糸の刺繍が施された法衣の袖を正しながら、静かに口を開いた。


「宰相閣下、あんたの入れ知恵か!」

 俺が睨むと、宰相は小さく笑った。


「いかにも。お主のことは嫌いだ。だが、お主がもたらすものは、この国にとってプラスにしかならぬ。お主が言っておった金貨30万枚は確かに無理だが……そこの領主になって、お主の力量でいくらでも取り戻せるだろう」


 宰相の言葉に、俺はフォークをテーブルにカツンと置いた。


「首輪を繋がれてな」


「だから言ったであろう。この者は誰の足元にもつかぬと」


 宰相が小さく肩をすくめる。

 俺は殿下の顔を真正面から見据え、赤い瞳を細めた。

「殿下は賛成じゃなかったんですか?」


 殿下は一瞬言葉を詰まらせたあと、豪快に笑い出した。

「国のことを思えば賛成だ! だが少し考えたらわかるだろう。シビをこの国に置いたら、トラブルが山ほど降りかかってきそうだ」


 そう言いながら殿下は腹を抱えて大笑いした。

 その笑い声に釣られるように、隣に座っていたエレナまでくすくすと静かに笑い始める。

 金髪が肩で柔らかく揺れ、青い瞳が優しく細められている。

「まるで俺がトラブルメーカーとでも言いたげだな」


 俺がむくれると、殿下はまだ笑いながら手を振った。

「まぁそんなにむくれるな。力ある者はトラブルに巻き込まれやすいと聞く。諦めろ」


「……まぁいいですけど」

 俺はため息をつき、話題を切り替えた。


「今回の依頼の内容を教えてください。この間の一件の続きでしょ?」

 殿下は表情を引き締め、静かに語り始めた。

「ちょうど2ヶ月前、我が国の宝の1つ――魔鏡が盗まれた」

「魔鏡?」

「魔法時代以前の代物で、詳細はほとんどわかっていない。数ヶ月前に発掘されたばかりだ。発掘時に判明したのは、魔法の増幅効果と……何か強力な力を持っているということだった。あの町から出てきた冒険者がいたと聞き、あの町を出るには、古代魔法の秘術が必要だというのを知っていてな。ダメもとで読んでみたという事だ」


 なるほど。鑑定が本当の依頼だったのか。


「それが数週間前、族の手に盗まれてしまった。調査中にちょうどお前がこの国に来たというわけだ」


 大公殿下がパンパンと手を叩くと、控えていたメイドが素早く近づき、俺に大きな黒い木箱を差し出した。


「宝石の補填は、さすがに無理だが……これをそなたに授けよう」

「なに?」


 箱を開けると、中には深紅と銀の輝きを放つ美しい服が収められていた。


「魔法の防具だ。イメージしただけでその防具に変化するという代物らしい。名を『クェルシオラ』という」


「もしかして……」


「あぁ、ご名答。その魔鏡と同じ遺跡から出土した防具だ。歴史的価値を考えれば、お前の失った宝石分には十分釣り合うはずだ」


 俺は防具をじっと見つめながら、ゆっくりと頷いた。


「それで手を打ちますよ。依頼は魔鏡の奪還ですか?」

「そうだ。族のアジトはこの島最北端の山にあるらしい。しかし、そこまでは飛翔呪文が一切使えない結界を張られている」

「完全に……罠じゃねえか」

「あぁ、シビ……お前を誘っている罠だろうな」

「船からは?」

「絶壁の山だ。登るだけでも一苦労だろう」

「距離は?」

「馬車で近くの村まで一ヶ月半から二ヶ月かかる。もちろん空を飛んでいけば早いが……」


 俺はグラスを握りしめ、苦い顔をした。

 ずっと魔力を使いながら長距離飛翔なんて、完全に自殺行為だ。

 魔力切れで墜落したら終わりだ。

 

 エレナが心配そうに俺の袖をそっと握ってきた。

 殿下の言葉に、俺はワインを一口含んでから、ふと思い出したように口を開いた。


「あれは? 飛行の乗り物とかはないの?」

 殿下は苦笑しながらグラスを回した。

「それこそ魔法文明の代物だろう。古代魔法時代には『(ゲート)』と呼ばれる装置で、遠く離れた場所を瞬時に移動できたと聞くが……今はもうどちらも失われた技術だ」


 門の呪文か……。

 古代魔法文明期なら確かにあり得る話だよな。

 でも俺はそんな高度な呪文を知らない。

 やはり正攻法で山を越えるしかないのか……。

 

 俺は隣に座るエレナの方をチラリと見た。

 するとエレナは、青い瞳をまっすぐにこちらに向けて、「もちろん、わたくしも参りますわよ」という意思をはっきり浮かべていた。

 金髪が魔法灯の光に照らされ、穏やかだが決意の強い微笑みを浮かべている。


「今回は我が国の宝も絡む話だ。生活費はこちらで全額負担しよう。もちろん馬車の手配もな。ただし……」

「現場に着いたら、近くの街まで避難してもらいますよ。いてもらっても困るしね」

 俺は即座に釘を刺した。エレナも素直に頷いた。

「報酬は?」

 殿下が指を軽く立てて提示した。

「前金で一人2万。魔鏡を奪還できれば追加で一人3万だ」

「中にあるものは?」

「もちろん、そなたたち冒険者のものだ。ただし、極めて貴重な遺物に関しては……」

「持ち帰ってきて、買い取ってもらうってことでいいですか?」

「そこは交渉だな」


 そうして晩餐は静かに終わった。

 城を出ると、廊下の冷たい夜気が頬を撫でた。

 

「……面倒になったものだ」


 エレナが俺の横を歩きながら、そっと袖を引いた。

 すると、エレナが俺のすぐ横に寄り添うように歩みを揃え、静かに切り出した。

「シビさん……やはり行くつもりですか?」

 俺は深いため息をつきながら、長い銀髪を指で軽くかき上げた。

 赤い瞳がわずかに疲れた色を帯びる。

「エレナは、多分危険だから……」

「誰が貴女の背中を護るのですの?」

 エレナの声が少し強くなった。

 青い瞳が真っ直ぐに俺を射抜き、頬がわずかに上気している。

「それに、ルークさんたちからも頼まれましたわ。それとも……わたくしが足手まといだと思っていらっしゃるのですか?」


 その言葉に、俺は足を止めた。

 エレナの金髪が魔法灯の柔らかな光に照らされ、清楚な白と金のローブが夜の城下町の通路で優しく揺れている。

 彼女の表情は穏やかだが、そこには揺るがない決意があった。

 俺は視線を逸らしながら、苦い笑みを浮かべた。

「足手まといだなんて思っちゃいねえよ。ただ……今回はあの次元の知識を使うかもしれない奴らで……」


 エレナは一歩近づき、俺の袖をそっと握った。

 その手は温かく、わずかに震えていた。

「危険なのはわかっておりますわ……でも、シビさん一人で行かせる方が、嫌ですわ、それに……」

 俺は、月明かりに照らされたエレナの顔を、じっと見つめた。

「……そうだよな。これからも、俺の背中を頼む。来てくれ」

 言葉が出た瞬間、自分の声が少し掠れているのに気づいた。

 エレナの青い瞳が、ふっと優しく細められる。

「もちろんですわ」


 月明りに照らされた彼女の笑顔が、すごく綺麗だった。

 金色の長い髪が銀色の光を浴びて柔らかく輝き、白い頬に淡い桜色が浮かんでいる。

 清楚な神官服の裾が夜風に揺れ、まるで月光そのものが彼女に寄り添っているかのようだった。


 俺は照れくさくなって、銀髪をガシガシとかき上げながら視線を逸らした。

「ったく……今までも二人で何とかなったし今回もな」

 エレナはくすっと小さく笑って、俺の袖をもう一度優しく引いた。

「ふふ……そうですわね。全力でシビさんの力になりますわ」

 月明かりの道で、二人の影が長く重なり合っていた。

 面倒な依頼が、なんだか少しだけ軽くなった気がした。



「転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~」をお楽しみいただけましたか?


もし「続きが気になる」「応援したい」と感じていただけましたら、ぜひブックマーク登録と、ページ下部にある【評価する】ボタンから評価ポイントをいただけると、とても励みになります!


皆さんの応援が、次の話の執筆を進める力になりますので、どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
綾の長編シリーズ!
他の長編もチェックしてね
新連載
紫微綾の事件簿 case2 白き子羊の檻(予定)
(百合×探偵×バイオレンス)

1. Liebe(一部完)
学園物百合小説
2. 白雪様と二人暮らし
女子高生と仏様とのほのぼの百合小説
3. 【完】紫微綾の事件簿
(百合×探偵×バイオレンス)

※R15・基本性的描写・残酷描写あり。苦手な方はご注意!

もっと知りたい人はTwitterで更新待ってるよ~
@VTuberAya_Nanjo
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ