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【4部完結】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
2章 闘技祭の準備

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105話 愛刀禁止と痴話げんか

 城の魔法研究施設の見学を終えた俺たちは、一旦『エメラルドの水晶亭』へと戻ってきた。

 だが、道中から続く刺すような沈黙が、どうにも居心地が悪くて仕方ない。

 隣を歩くエレナの足取りは硬く、張りつめた空気のせいで、ただ歩いているだけなのに息苦しささえ感じる。


「なぁ、そろそろ機嫌直してくれって」


 冒険者ギルドを兼ねた酒場に入り、使い込まれたカウンターテーブルに腰を下ろす。

 だが、彼女は視線を落としたまま、いっこうに言葉を返してこなかった。


「なんだい。痴話喧嘩かい?」


 カウンターの向こう側から、ギルドマスターのエクレアが、ニヤニヤと楽しげに目を細めて茶化してきた。

 その視線が俺とエレナを面白がるように往復する。

 からかうような響きが、酒場のざわめきに混じって耳に残った。


 痴話喧嘩って、誰が。

 付き合ってもねえし。そもそも、こんなの喧嘩ですらないだろう。


「決まっちゃったものは、もう仕方ないだろ」


 俺が投げやりにジョッキをドンと置くと、ようやくエレナが重い口を開いた。

 その肩がピクリと震え、声には抑えきれない苛立ちが滲んでいる。


「……シビさん、本当にわかっていらっしゃいますの?」


「なにがだよ」


「シビさんの愛刀。そのミスリルソードも、武闘会では使用禁止にされたのですよ!」


「あぁ、そう言われたな」


「『言われたな』じゃありませんわ!」


 エレナが声を荒らげるのも無理はない。

 研究室のチェックを終え、満足して帰ろうとしたその瞬間だった。

 あのイストリス宰相閣下が、わざわざ俺たちの前に足を運んできて。

 開口一番、とんでもない条件を突きつけてきた。


「そうそうシビ。最近お主、『ミスリルのアヤ』と呼ばれているそうだな」


「……らしいですね。俺は気に入りませんが」


「その愛刀だが、今回の武闘会では使用禁止とする。持ち込みは許可するがな」


 ――あの老いぼれ、さらりといけしゃあしゃあといじわるを抜かしやがる。


「理由をお聞きしても?」


「いやなに、深い意味はない。特殊なミスリルの性能で勝ったとなれば、お主自身の華麗な実力が霞んでしまうという声があってな」


「……いいでしょう。ですが、それ以外の制限は一切認めませんよ。後出しで『あの魔法はダメ』だの『あのアイテムは禁止』だの、手足を縛るような真似をされたら、誰だろうと勝ち目なんてねえからな」


「もちろんだとも」


 奴の額に埋め込まれた紅玉ルビーが、冷たい光を放って俺を嘲笑しているように見えた。

 胸の奥に灯った小さな苛立ちを燃料に、俺はバッグから羊皮紙を取り出すと、無詠唱で契約書を書き上げた。


「これに署名を。あんた個人の名と、国の公印だ。できなきゃこの話は白紙だ。今すぐ瞬間移動で王国へ帰らせてもらう」


「……バカな。これほどの長距離を……まさかお主星移門(エルシード)を操るというのか!?」


「ただの瞬間移動ですよ」


「……よかろう、署名しよう」


 俺は宰相とのピリついたやり取りを思い返しながら、傍らの愛刀に視線を落とした。

 鞘に収まったミスリルの刀身が、酒場の薄暗いランプの光を吸い込み、淡く青白く輝いている。

 なぜ、この剣に固執する? 俺の知らないところで、一体何が動いている……?

 得体の知れないざわめきが、ゆっくりと胸の奥に広がっていく。


「……とんだ難題をふっかけられたもんだね」


 エクレアに事の経緯を詳しく話して聞かせた。

 言葉を紡ぐたび、王宮での馬鹿げた光景が鮮明に蘇る。


「……あんた、よくあの宰相を相手に生きて帰ってこれたね」


 エクレアが心底呆れたように吐き捨て、隣ではエレナが深く肩を落としていた。

 その落胆があまりに重く、酒場の柔らかな灯りが彼女の横顔に暗い影を落とす。

 滲み出る疲れと心配の色。

 ため息を吐くと幸せが逃げるなんて、前世では言ったもんだが、この世界でも同じなんだろうか。


「……そんなに、すごいことしたかな?」


「あんたねぇ、国のトップに近い人間をおもちゃにするなんて……」


「俺はただ、礼をもって接してほしかっただけだ。そっちがルール無用の無法なら、こっちだってやりたいようにやっただけだぜ」


「……はぁ。あんたも苦労するね」


 なぜかエクレアは俺ではなく、エレナの方を見て同情の声をかけていた。

 確かに、『補聴の呪文をかけてやろうか』はやりすぎたかもしれない。

 過ぎたことをいまさら言っても仕方ないよな。


「エレナはお疲れだろうし、少し休憩すれば?」


 流石にこれ以上は、俺の都合で引っ張るわけにもいかないだろう。

 今朝からの事件の対応で、エレナには明確な疲労の色が見て取れた。

 酒場の柔らかなランプの光が、彼女の小麦色の黄金の髪に淡く反射し、いつもよりどこかはかなげに見える。


「シビさんは?」


「俺はいろいろ、部品を買いに行こうかと思ってる」


「部品って、何か足りないのですの?」


「部品じゃなくて、素材……かな。魔法薬の材料に、魔術師ギルドで魔導書を買ったり。他にも色々だ。……優勝すれば、かなりの賞金も出るしな」


「……優勝、って」


 エクレアが眉をひそめて、俺の顔を覗き込んできた。

 カウンター越しに身を乗り出すその動作はしなやかだが有無を言わせぬ圧があり、普段の飄々とした笑みは跡形もない。透き通るようなその瞳には、本気の心配と隠しきれない呆れが混じっていた。


「あんた……あれをただの『闘技祭』だなんて思ってるなら、そんなに甘いもんじゃないよ」


 恩赦に魔物。事前情報からして、ろくな大会ではないことは分かっていたつもりだ。

 エクレアの尖った耳がぴくりと震え、グラスを磨く手がピタリと止まった瞬間――。

 酒場の喧騒が遠のき、背筋に冷たいものが走る。彼女の低い声だけが、俺の鼓膜に重く響いた。


「あそこまで派手に騒いだしな、今さら優勝を逃せば笑いものだ。それに、ここに来た本来の依頼まで立ち消えになっちまう。……なあエクレア。あんたなら知ってるだろ。俺たちが本来受けるはずだった依頼の正体を」


 声を落として尋ねると、エクレアは露骨に視線を逸らした。

 指先でカウンターの古びた木目をなぞるその手が、微かに震えている。

 それは彼女なりの、精一杯の拒絶のサインに見えた。


「……知ってはいるよ。でも、あたしの口からは言えない。固く口止めされているし、今はまだ事前調査の段階だ。その『空白の時間』を埋めるために、あんたを武闘会に担ぎ出したのかもね」


「……なるほど。表舞台で踊らされている間に、公然と消そうって腹か」


 俺の言葉がカウンターに落ちると、酒場の喧騒が一段と遠のき、エクレアの目が鋭く細められた。

 胸のざわめきは、もはや無視できないほどに大きくなっていく。

 その張り詰めた沈黙を切り裂くように、エレナがガタリと身を乗り出した。


「シビさん! やっぱり危険すぎますわ、断りましょう!」


「いまさら無理だって。……それになぜこいつが狙われてるのかも知りたい」


 俺は腰に下げたミスリルソードを一瞥する。

 なぜこの剣を気にするのか、その理由を突き止めないうちは引けない。


「ですが、殿下にお伝えすれば……」


 なんでそこで、殿下が出てくるんだ?

 なんだか無性にムカついてきた俺は、ふと思い出した疑問をぶつけてみた。


「そういえばさ。さっき城で自由に出入りできる場所を案内されてた時、おまえ、あの殿下と楽しそうに話してたよな。……何かあったのか?」


 エレナの動きが、ぴたりと止まった。


「いえ、なにも……ありませんが?」


 なんだ、その不自然な間は。

 嘘をつくのが下手な奴特有の、泳いだ視線が嫌でも鼻につく。


「……何か隠してねえか?」


「何もありませんわ! ただ……去年お会いした時の無礼を、謝罪した……だけですわ」


 語尾が小さくなっていくのは、やましいことがある証拠だ。

 そんなに俺には話せない内容なのかよ。

 イライラしてくるぜ!


「……まぁ、あの殿下はイケメンで教養もあるからな。お似合いなんじゃないか?」


 半ば投げやりにエール酒を喉に流し込んで吐き捨てると、エレナは即座に眉をひそめて反論してきた。


「そういうのではありませんわ! 深読みしすぎですわよ。それに殿下にも失礼ですわ!」


「はぁ? なんであいつを庇うんだよ。別に変な勘ぐりじゃねえだろ。事実だろうが! 実際、楽しそうに話してただろうが!」


「……もしかしてシビさん。わたくしが殿下とお話ししていたから、焼きもちを焼いていらっしゃいますの?」


 エレナが少し含み笑いを浮かべ、俺の顔を覗き込むように揶揄(からか)ってきやがった。

 男女の情愛など知りもしないはずの処女(ガキ)が、ふざけやがって。


「はあぁ!? なんでそういう話になるんだよ! お前のそれこそ、下種の勘繰りだろうがッ!!」


 勢いよく立ち上がり、さらに怒鳴り散らそうとした、その瞬間だった。


「なっ……!? ごふっ……!」


 唐突な冷たい衝撃が、視界を真っ白に塗りつぶした。

 俺とエレナの頭上から、容赦なく大量の水が浴びせかけられたのだ。

 銀髪が顔に張り付き、赤いドレスの襟元から冷たい雫が入り込む。

 俺が反射的に水が飛んできた方向を睨みつけると、そこには空になった木桶を片手に、冷ややかな視線を向けるエクレアが立っていた。


「……何しやがるんだ!」


「痴話げんかなら外でおやり。ガキの喧嘩じゃあるまいし、ここは酒を飲む場所だよ」


「……あぁ、そうかよ!」


 濡れた髪を乱暴にかき上げ、俺は椅子を蹴るようにして立ち上がった。

 ニヤニヤとこちらを見守る冒険者たちの視線が背中に突き刺さる。

 俺はそのまま、酒場の重い扉を勢いよく蹴り開け、街へと飛び出した。


 ちっ、なんであんなにムカついたんだ。

 エレナが大公と話していようが、俺には関係ないはずだ。

 去年、王国に来ていた時の再会だっていうなら、なおさらだ。

 なのに、思い出すだけで腹が立つ。


 俺は頭を冷やすように魔術師ギルドへと向かい、身分証を提示して資料室へと潜り込んだ。

 さすがは魔術大国というべきか。そこには膨大な数の論文や、研究過程の興味深い資料が山積みにされていた。

 今回、ここの研究施設を借りたのは、自分の呪文の練度を高めるためだけじゃない。


 この世界の、未完成で断片的な知識を補完する必要があったからだ。

 なのに、先ほどからエレナの顔がちらついてきやがる。

 俺は結構な分量の本を借り受け王城へと向かった。


 背後にはずっと尾行の気配がある。

 だが、手を出す素振りはないようなので、そのまま研究室へと足を向けた。

 尾行でふと思い出した。カインの野郎は、今頃無事で元気にしてるんだろうか。


 城の図書館に寄り、必要な本を数冊借りてから自室へと戻る。

 すぐさまサーチングの呪文を放ち、部屋に残された出歯亀野郎どもの仕掛けを一つ残らず処理した。

 全く、隙も何もあったもんじゃない。タダで借りている以上、文句は言えないがな。


 大会は五日後。一週間かけて行われる祭りだという。

 俺も、できる限りの準備を整えておかないとな。



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