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【4部完結】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
第4部 アヴァリスのアヴァリスの武闘祭 1章 行方

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101話 黄金の槌亭の不覚

 ここ最近はずっと同じ部屋に泊まっていたが、昨夜は久しぶりに別々の部屋を取って眠りについた。

 一人の時間はのんびりできて熟睡できた反面、目覚めた時に気配がないのは、どこか少し寂しい気持ちもあった。


 いつも部屋に感じていた温もりや軽い気配が完全に消えて、無性に部屋が広すぎるように感じる。

 普通に考えたら一人部屋の方が狭いはずなのにな。

 

 一階の食堂へ降りて朝食を摂っていると、少し遅れてエレナが俺の座っている席へやってきた。

 どうやら、朝の僧侶としてのお勤めが終わったらしい。僧侶としての義務を欠かさない彼女の姿勢には、いつも頭が下がる。

 白い法衣の裾が軽く揺れ、朝の陽光が彼女の銀色の髪を優しく照らして、聖女と言われてるのがよくわかる。


「おはよ」


「シビさん。おはようございます。今日は鍛冶屋に行ってから、王城ですの?」


「朝一で王城に訪問してもいい迷惑だろ。多分。俺だったら勘弁してくれって思う」


「ふふ。シビさんは、朝は何もなければ、のんびりですもんね」


 朝からきびきび動くのは、仕事だけでいい。

 それか、何か面白いことが起きた時だけだ。

 そっちの方が刺激があっていいのにな、なんて考えてしまう。


 パンに塗ったジャムの甘い香りが鼻をくすぐり、温かいスープの湯気が顔を優しく包む。

 こんな穏やかな朝が、意外と悪くないと思ってしまう自分がいる。


 こちらの世界は朝早くに起きて、夜は早めに寝るのが習慣のようだ。

 時計なんぞ無いから正確な時間はわからんが、多分二十一、二時には皆、睡眠を取っているのではないか。


 前世の、深夜まで明かりが絶えない世界とは全く違う。

 最初の頃はそのギャップに随分と戸惑っていたっけ。

 ネオンが煌めく街、スマホの画面が青白く光る夜。

 そんな記憶が、ふと頭をよぎって胸が少し締め付けられる。

 そんな雑談をしながら食事を終え、俺たちは目的の場所――『黄金の(つち)亭』へと向かった。


「クスクス」


 道中、なぜかエレナに笑われてしまった。


「なに? なんか面白い事でもあった?」


「いえ、すみません。なんだかすごく楽しそうに向かってるのが、ほほえましくて。まるで、楽しみを待ちきれない子供のようで、可愛らしいなぁと」


 それを聞いて、一気に体の体温が上がるのがわかる。

 頬が熱くなり、耳の先までカァッと赤くなるのが自分でもわかる。

 視線を逸らそうとしても、エレナの柔らかい笑顔が視界に残って、余計に心臓がドクドク鳴る。

 道の石畳を踏む足音が、急に自分の鼓動と重なって聞こえてくる。


「……わるい?」


「いえ、悪くありませんわ。ただほほえましいなぁと思っただけですの」


「そうですか。どうせ、エレナから見たら子供ですよ」


 中身は四十四だと言いたいが、シビの身体は十八だったはずだ。

 エレナは二十代中半だった記憶がある。

 肉体年齢は確か五、六歳は離れていたはずだ。

 エレナの視線が優しく俺を包む中、俺の胸の奥でちょっとした反発が湧く。

 自分が、なんだか滑稽に感じて、頬がさらに熱くなる。


「そんなにすねないでくださいまし。シビさんにとっては大事な相棒ですもんね」


「エレナよりは、付き合い短いけどな」


「やはりあの剣、凄かったんですね」


「炎の部族の幹部達も言ってた」


「どのように?」


「確かジグが『ミスリルの純度が高すぎる業物(わざもの)だとか。呪文を使う時の媒体にもなってるはずだから、呪文を使うお前には丁度いい代物』みたいなこと」


「さすが太古のミスリルゴーレムの中から出た物ではありますね」


「いろいろ研究もしたいんだけど、時間が無いんだよな。俺達って、休み時間ほぼなしで動いてるから」


「唯一あったのが、船の時間ぐらいですものね」


「熟練度が、いまいちな俺には、そういうアイテムで底上げしないと勝てない相手が多いからなぁ。それに楽しみは、伝説のドワーフが見てくれるんだったら安心できるだろ。どんなふうになるのか楽しみだ!」


「クスクス。そろそろ着きますわよ」


 俺達が鍛冶屋の中に入ると、まだ昼前なのにすごい熱気でいろいろと働いてる人が多かった。

 鍛冶場の空気は熱く、重く、鉄と炭の匂いが鼻を突き、炉の赤い炎が壁や天井をオレンジ色に染め上げている。


 ハンマーの連続する響きが絶え間なく響き、汗だくの職人たちが鉄を叩き、火花を散らし、金属を曲げ、磨く姿があちこちで動き回っている。


 足元に落ちた火の粉がチリチリと音を立て、床の石畳が熱を持っているのが靴底を通じて伝わってくる。

 昨日の老ドワーフ、ガルドラムがこちらに来た。

 白髪混じりの髭をたくわえた巨躯のドワーフが、汗で光る額を拭きながら近づいてくる。

 革エプロンに(すす)がこびりつき、太い腕の筋肉が炎の光で影を刻んでいる。


「昨日のお嬢ちゃんか、いや良い物を触らせてもらったよ」


地鳴りの(ガルク)ガルドラムに打ってもらえるなんて光栄だ」


「俺の事を知ってるのか?」


「戦士ならだれもが憧れる代物だ。あんたの銘が入った武器はステータスらしいしな。名前は昨日聞いたけど、今日酒場で聴いて思い出しただけだ」


 たしかシビが、将来彼の剣を装備したいっていうのも思い出したけどな。


「純度100%近いミスリルソードは、初めてだったので子供のようにはしゃいでしまった。悪いんだが、打った後は弟子に渡してしまってあるから、小間使いに言ってもらってくれ、代金はそいつに渡してくれて構わん。俺は次の仕事があるんでな。いい仕事ができた。ありがとうよ」


 俺は、使用人に言って剣を持ってきてもらった。

 若い見習いのドワーフが、布に包まれた剣を抱えて小走りで近づいてくる。

 剣の柄が布越しにわずかに覗き、ミスリルの淡い輝きが漏れている。

 剣を触った瞬間だった。

 確かにミスリルソードだ……ふざけるな

 柄を握った途端、指先に伝わる感触が違う。

 重さのバランス、刃の微かな曲がり、金属の冷たさ――すべてが昨日預けた剣とは明らかにずれている。

 胸の奥で何かがカチンと音を立て、怒りが一気に沸騰する。


「ガルドラ~~~~~~~~~ム」


 俺は怒りながら大声で怒鳴った。

 声が鍛冶場の熱気を切り裂き、ハンマーの音が一瞬止まる。

 火の粉が舞う中、周囲の職人たちの視線が一斉にこちらへ刺さる。


「シビさん。どうしたのですか?」


 エレナも含めて周囲の働いてる人たちが、驚きと俺の方に注目をしていた。

 エレナの瞳が心配そうに揺れ、白い法衣の袖を軽く握りしめている。

 職人たちの視線が好奇と緊張で混じり、炉の炎だけがパチパチと音を立て続ける。


「どうもこうもないだろ!」


 俺はエレナに剣を見せる。

 布を剥ぎ取って差し出した剣の刃が、炎の光を反射して鈍く輝く。

 でも、その輝きは俺の知るミスリルソードのものじゃない。


「ミスリルソードですわよね」


「はぁ?」


「おいおい、金額は正式な金額だから怒鳴られる必要はないんだが、お前さんも一流の人間だ。金でごねられるとは、だから小娘が……」


 俺は、ガルドラムに向けて、渡されたミスリルソードを渡した。

 剣を突き出す手が、怒りで微かに震えている。

 ガルドラムの太い眉がピクリと動き、髭の下で表情が固まる。


「てめえなら、俺の言いたいことがわかるよな!」


「こ……これはこの嬢ちゃんの剣じゃない。おい、ナンバー四八六九に保管してある剣はどうした」


「ガルド様、この剣が、入ってましたので持ってきましたが」


 ガルドラムは、何も言わずに奥に向かって歩き出した。

 重い足音が石畳に響き、職人たちが道を空ける。

 背中から滲む緊張が、熱気の中に冷たい空気を混ぜる。

 俺達もついて来いと言わんばかりに進んでいく。


「シビさんどういう事なんですの」


「置き間違いであってほしい」


 俺はやれやれという気持ちで浮いていった。

 胸の怒りがまだ収まらず、足取りが重い。

 鍛冶場の奥へ進むにつれ、熱気がさらに濃くなり、息苦しくなる。


「わたくしには同じようにしか見えませんが」


「エレナは専門じゃないしな。流石ここに置いてある武器だ。普通の奴なら気づかないかもな、でも愛着を持って扱った一流の戦士なら握った瞬間にわかるよ」


 俺の声は低く、抑えきれない苛立ちがにじむ。

 剣の感触がまだ手に残っていて、間違った重さと冷たさが、頭の中で何度も反響する。


 「ここがお前の置いてあった剣を設置してあった場所だ。ミスリルは打ち治った後、ここにおいて最後の仕上げをする。おい」


「はい!」 


 俺の後ろに歩いていた小間使いがびくびくしながら返事した。

 若い見習いのドワーフは顔を青ざめさせ、肩を縮めて視線を床に落としている。

 熱気の残る部屋の隅に並ぶ棚や台には、他の武器が丁寧に置かれているが、俺の剣の場所だけが空っぽで、埃が薄く積もっているのが目立つ。


「ここを任せておったゼノはどうした?」


「朝早くに来て何やらしてましたが、体調不良で帰りましたが」


「すまねえ。俺の監督不足だ。何を言われても仕方ねえ。絶対にあんたの剣は探し出す」


「やはり盗まれたか」 


 俺は力ある言葉を発する。

 胸の奥で怒りが再燃し、握った拳の関節が白くなる。

 ガルドラムの髭が震え、太い腕の筋肉が張り詰めるのが見える。


 俺は力ある言葉を発する

「追跡の光粒チェイス・パルス」 


 呪文を唱えるとピンポン玉ほどの大きさの光球を出した。

 淡い青白い光が掌から浮かび上がり、部屋の熱気を切り裂くように輝く。

 光球は2.3回くるくると周囲を回ってから、ゆっくりと方向を定め、奥の通路の方へ動き出した。

 その軌跡に微かな魔力の残滓が尾を引き、埃っぽい空気をわずかに揺らす。


「あんたは呪文も使えるのか?」


「あぁ、俺は追いかけるかあんたはどうする?」


「わしにも責任がある。ここでじっと待っておれんよ」


 なるほど、だけどドワーフは歩くの遅いからなぁ。

 俺は、いつもの加速(ハステン)を三人分かけ、俺は光を追い始めた。

 呪文が体に染み込むように発動し、足元に風が巻き起こる。

 筋肉が軽くなり、視界が少し鮮明になる感覚が広がる。

 光球はすでに通路の先へ進み、俺はエレナとガルドラムを伴って駆け出す。


 鍛冶場の熱気が背中に残る中、街路の冷たい風が頬を叩く。


「あのシビさん。何の呪文ですか?」


「盗難されても困るから、追跡呪文。本当は回収もできるけど、なんか嫌な予感がするからそのまま追跡する。無茶苦茶面倒だけど」 


 皆に説明をしてから、鍛冶屋を出て街中に走っていった。

 光球は人ごみを縫うように進み、俺の足音が石畳に響く。

 周囲の商人や通行人が驚いた顔で振り返るが、俺は視線を光球に固定したまま加速する。

 エレナの白い法衣が風に翻り、ガルドラムの重い足音が少し遅れて追ってくる。

 嫌な予感が胸を締め付け、剣の感触を失った手のひらがまだ疼いている。

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