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【4部完結】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
外伝

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121/150

0話 始まりの物語

【閲覧注意】

この物語には、家庭内暴力、児童虐待、体罰、性被害の暗示、性的搾取、精神的トラウマなどの描写が含まれます。

これらの内容が苦手な方、または現在心の負担になっている方は、閲覧をお控えください。時代的な一面もありますので、リアル感を出すためにその時代の文化・風俗・社会の空気を少し入れました。

フィクションですが、現実の被害者・経験者に配慮した表現を心がけていますが、

不快感やフラッシュバックを誘発する可能性があります。

自己責任でのご覧ください。




 パタンッ!!参考書を、まるで敵を叩き潰すみたいに叩きつけて閉じた。

 分厚いマクロ経済学の教科書。

 ページの端っこ、俺の指の脂と汗で真っ黒にテカテカ光ってる。

 角は白くボロボロに擦り切れて、何百回も開いた証拠だ。


 ……43歳かよ。

 もう若い頃はさぁなんて甘ったれた言い訳、通用しねえ年齢だぜ。

 鏡見りゃ、目尻の皺が深くなって、頬が少し落ちてる。

 くそ、容赦ねえな、時間ってやつは。ゆっくり首を上げて、天井を見る。


 いつものシミ。

 雨漏りの黒い影が、どんよりと広がって、中心は真っ黒、周りはカビの白い斑点がポツポツ浮かんでる。

 湿ったカビ臭が、鼻の奥にじわっと染みてくる。

 埃っぽい空気と混ざって、息苦しい。

 まるで俺の人生そのものじゃん……。

 どんより重くて、広がる一方で、消えねえ。

 くそ、笑っちまうわ。


 自嘲の笑いが、喉の奥で小さく漏れた。机の端に置いたノート。

 一番下の隅、折り目が深く入ったページ。

 三年前、バイト帰りのコンビニ袋握りしめて、膝の上で震える手で書いた文字。慶應義塾大学 経済学部

 あの夜、手が冷たくてペンが滑りそうだったけど、必死に押さえつけて書いた。


 もちろんあの時目指したことはあきらめてない

 だから今も勉強してるけど……でもよ、時々思うんだ。


 静かな部屋で、胸がズキッと疼く。

 俺、いつこんな遠回りしちまったんだよ。


 はあ……。息が白くねえ。

 吐いた息が、目の前で少しだけ滞って、埃っぽい空気に溶ける。

 部屋全体が重い。

 古い畳の匂い、安い洗剤の残り香、埃と湿気の混ざった淀んだ空気。


 窓の外から、低く響く電車の音。

 ガタン……ゴトン……ガタン……。

 規則正しいリズムを聴きながら、過去を振り返っていた。


 俺の名前は池田丈。

 1981年生まれ。

 生まれた瞬間から、人生はクソゲーだったよな。

 親父はヤクザだった。親ガチャ大失敗ってやつだ。

 これがまだ大親分とかならよかったんだけど、中ぐらいの組織で役職があるぐらいだった。


 家の中はいつも、腐った匂いでパンパンだった。

 安物の焼酎が甘くドブ臭く漂って、タバコの煙が天井にべったり張り付く。

 知らない女たちの甘ったるい香水が混ざって、吐きそうになる。


 そして、怒鳴り声。

 低く唸るような、喉の奥から絞り出される声。

 時々、それが爆発するんだ。

 気に入らなければ、殴る。


 理由?

 そんなもん、最初からねえよ。

 機嫌が悪い。

 それだけで、拳が飛んでくる。

 ゴツン! と頬に衝撃。


 口の中に鉄の味が広がって、耳の奥でキーンって金属音。

 体が畳に転がって、ゴロゴロ。

 痛みより先に、恐怖が全身を凍らせる。


 くそ……またかよ。


 だから俺がガキの頃に覚えたのは、

 勉強でもスポーツでもねえ。

 生き延びるための「最適解」だ。


 玄関の靴を脱ぐ音。

 ドスンって重く落ちたら、今日はヤバい。

 パタパタ軽けりゃ、まだ猶予あり。

 ドアの閉まる角度。

 バタン! って強く閉まれば、酒が回り始めてる。

 スッと静かに閉まれば、奇跡のチャンス。


 酒瓶が空になるペース。

 一晩で三本空いたら、確実に爆発。

 二本で止まれば、ラッキーセーフ。

 その日の「危険度」を、秒単位で読み取る。


 息を殺して、耳澄ませて、心臓の音さえ抑えて。

 親父の足音が廊下に近づくたび、背筋がゾワッと凍る。

 俺は、影みたいに小さくなるんだ。


 怒る前に黙る。→何黙ってるんだで殴られる

 怒る前に謝る。→謝るぐらいならする名で殴られる

 怒る前に、視界から消える。見つからなければ正解。みつかったらこそこそ逃げやがってと言われて殴られる。

 それが、俺の生きるための正解だった。


 学校でも、同じだった。

 宿題忘れれば、教師の拳骨が飛ぶ。

 ゴツン! って頭のてっぺんに鈍い衝撃。

 教室の空気が一瞬で凍りつく。


 廊下に立たされて、壁に向かって正座。

 足が痺れて、膝がガクガク震える。


「お前みたいなガキは、いつまで経ってもダメだな!」


 教師の怒鳴り声が、耳元で炸裂。

 家でも殴られ、学校でも殴られる。

 逃げ場なんて、どこにもねえ。

 気がつけば、俺は人の顔色をうかがうだけのガキになってた。

 暴力だろうって今なら思うんだけど、なぜかこの時代は、教育という大義名分でイカレタ時代だった。


 唯一の逃げ場は、ゲーセンだった。

 学校帰り、親父の機嫌を読みながら家に帰るのが怖くて。

 暗い路地を抜けて、ネオンがチカチカ光るゲーセンに駆け込む。


 ドア開けた瞬間、電子音とBGMの爆音が俺を包む。

 煙草の煙がモクモク漂って、床がベタベタの床にコインの音がジャラジャラ響く。

 あの頃のゲーセンは、そんなカオスな匂いと熱気で満ちてた。

 暗い照明の下、レバーを握る。

 指が汗で滑りそうだけど、握りしめる。

 画面に映るのは、格闘ゲームの世界。

 でもよ、そこでは世界がちゃんとルールで動いてた。

 殴れば、ちゃんとダメージが入る。

 ガードミスったら、ライフがゴリゴリ減る。

 コンボを決めて、相手をダウンさせれば勝つ。


 無抵抗に、親父の機嫌次第で拳が飛ぶ家とは違う。

 教師のビンタで廊下まで飛ばされる学校とは違う。

 ここでは、俺の入力がそのまま結果になる。

 勝てば勝ち、負ければ負けで、ただそれだけだった。


 その延長で、俺はキックボクシングを始めた。

 近所の古いジム。

 コンクリートの壁に汗の染みが染みついて、リングのマットが擦り切れてる。

 空気は汗とゴムと、かすかな血の匂いが混ざってる。


 サンドバッグを、ミット打ちで叩く。

 ドスン! ドスン!

 拳が当たるたび、衝撃が腕に響いて、骨まで振動する。

 汗が目に入って痛いけど、止まらねえ。

 叩くたび、少しだけ強くなった気がした。


 格闘ゲームの主人公たちと同じ技術を学んでいるそんな気持ちだった。

 親父の拳を避けられるかも。

 学校の先生のビンタを、ガードできるかも。

 そんな幻想を抱いて、毎日通った。


 親父も、それを見て笑ったんだ。


「男らしくなれよ」


 皮肉すぎるだろ。

 親父の拳で怯えてた俺が、拳を振るう練習をしてる。

 親父は本気でそう思ってたのかもしれねえ。

 

 親子心だったのかもな。

 ヤクザの親父なりに、「強くなれ」って言いたかったのかも。


 ジムのミラーに映る俺の姿。

 汗だくで息を切らして、サンドバッグを叩き続ける。

 あの頃の俺は、まだ知らなかった。

 本当の強さは、拳じゃねえってことを。

 それでも多分一番楽しかった時だったかもしれない。


 九〇年代半ば。

 たしか、1995年頃だ。

 親父の潜り屋台は、あっさり潰れた。

 保健所の規制が厳しくなって、警察の摘発が連日。

 一夜にして、屋台の提灯が消えた。


 家の中は、焼酎の甘い腐臭、タバコの煙、女の残り香……全部が混ざって息苦しい。

 おふくろは、いつもひどい目に合っていた。

 朝から晩まで仕事漬け。

 親父の暴力がひどくなるたび、体に青あざを作って耐えてた。


 女たちの喘ぎ声が、薄い壁越しに響いてくる夜もあった。

 それでも、おふくろは耐えてきた。

 俺のためだって、思ってたのかもしれねえ。


 高校卒業の時、親父の女のツテで、名古屋の栄の闇ホストか男娼に売られそうだったのを知った。


「顔は普通だけど、体つきはいいから客がつく」


 親父的には、いいシノギになると思ったのかもしれない。

 それとも、これまで俺を養ってきた「費用」を、体で返せってことか。

「男らしくなれよ」って笑いながら言ってたけど、あれはただの自立しろって意味じゃなかったんだ。

 初体験が、男どもに掘られる冗談じゃない。

 それを知った瞬間、俺はもう耐えられなかった。家を飛び出した。


 アパート借りる金もない。

 友達なんていなかった。

 ただ、あの家から、親父の金づるになる未来から逃げたかっただけ。


 俺は寮付きのパチンコ屋で働き始めた。

 この時代の家出人の相場ともいえる仕事場所だ。

 玉を補充して、掃除して、客の愚痴を聞く。

 寮は狭くて、壁が薄くて、隣の息づかいまで聞こえる。

 でも、親父の拳も、売られる未来も、そこにはなかった。

 安心して寝れて食べれる。それだけで幸せを感じた。


 同級生たちは、幸せな家庭を持ったり、出世をしたやつもいるなんて話は風の便りで聴いた。

 俺には、そんな連絡すら来ねえ。

 

 そして二十代中半。

 決定的な夜が来た。夜道。

 名古屋の街灯が薄暗く、影が長く伸びてる。

 栄のネオンが遠くでチカチカしてるのに、ここは暗くて寒かった。


 背後から声がふいに聞こえた。

「おい、おっさん」


 振り向いた瞬間。

 三人か四人の若い連中に囲まれてた。

 全員がニタニタ笑ってる。

 目がギラギラして、楽しそうに。


「おっさん、金持ってる?」


 次の瞬間、腹に蹴りが入った。

 グッ!

 息が止まる。

 膝が崩れて、アスファルトに手をつく。


 冷たい。

 ザラザラした感触が手の平に食い込んで、指先が震える。

 財布を抜き取られ、背中を蹴られ、腹を蹴られる。

 ゴロゴロと体が転がる。


 痛みより先に、吐き気が来た。

 息が……吸えねえ。俺は何もできなかった。


 キックボクシングやってた。

 ジムで何年もサンドバッグ叩いて、ミット打ちで汗流して。

 やろうと思えば、何人かは倒せたはずだ。

 蹴りを返して、ガードして、カウンターで……。

 でも、やらなかった。骨でも折ったら、警察が来る。


 俺みたいな家出持ちが、ヤンキー連中をボコったら、終わるのは俺だ。

 前科がついて、仕事も失って、全部終わり。


 地面に這いつくばっていると、女の声がした。


「ねぇ」


 一緒に後ろを見ていたギャルが、俺を見下ろしていた。

 ミニスカートに厚底ブーツ、髪は金髪で巻いて、化粧が濃い。


 冷たい目で俺の顔を、まるでゴミを見てるみたいに眺めていた。


 彼女はゆっくり胸元の服をずらした。

 ブラの縁がチラリと見えて、乳首がもうすぐ見えそうな角度で誘惑してくる。

 俺の視線を、わざと引きつけるように。


「私を抱いてみる?」


 一瞬、意味がわからなかった。

 頭がクラクラして、耳鳴りがする。

 痛みで体が震えてるのに、目が離せねえ。

 視線が、勝手にその胸に吸い寄せられる。

 息が荒くなって、喉がカラカラだ。彼女は笑った。

 薄い唇が歪んで、歯が見える。


「……まぁ、百万円積まれても嫌だけどね」


 周りがどっと笑った。


「このおっさん本気になって私の胸凝視してた。チョ~気持ちワッル~~」


 周囲の若者もゲラゲラと、腹を抱えて。


「おっさん、チョーウケるww」


「生きてる価値あんの?」


 その瞬間、俺の中で何かが、完全に壊れた。ああ。

 そうか。

 俺って、ここまで下なんだ。地面の冷たさが、骨まで染みてくる。

 アスファルトのザラザラが、頬にこすれて痛い。

 でも、それより心が痛かった。


 誘惑されて、視線を奪われて。

 欲求すら「気持ち悪い」って踏み潰された。


 キックボクシングで強くなったつもりだったのに。

 結局、何も守れなかった。

 守る価値すら、俺にはなかった。


 周りの笑い声が、遠くに聞こえる。

 俺は、ただ這いつくばったまま。

 体が震えて、涙がにじむ。

 頬を伝って、アスファルトにポタポタ落ちる。


 冷たい、全部が冷たい。

 親父の拳も、売られる未来も、逃げたはずだったのに。

 結局、俺は、社会の最下層なんだ。


 俺の価値は、金を持っていて搾取される側だっただけ。

 それが無くなれば、用なし。

 ゴミ。

 踏みつけられるだけの、惨めなゴミ。


 周囲の人たちも、誰も助けない。

 見ているだけ。

 遠くから眺めてるやつ。

 ケータイを耳に当てて誰かに話してるやつ。

 笑ってる人も何人か見える。

 まるで、喜劇コントを見てるみたいに。


「おっさん、チョーウケるww」


「生きてる価値あんの?」


 はっきり示された。

 俺は、笑いのネタ。

 人間ですらない、ただの、惨めなコントの主役。


 体が震えが止まらない。

 息が詰まって、喉が焼けるように痛い。

 でも、声が出ねえ。

 叫びたくても、這いつくばったまま、動けねえ。これが、俺の現実だった。


 それから、女の目を見るのが怖くなった。あの夜の冷たい視線が、頭から離れねえ。

 ギャルの嘲笑が、耳の奥でエコーみたいに響く。


「気持ち悪~」


「百万円積まれても嫌だけどね」


 それから、女の目を見るのが怖くなった。

 人のぬくもりは、金で買うものになった。


 風俗のカーテン越しにしか、触れられなくなった。

  薄暗い個室、合成皮革のベッドの匂い。

 カーテンの向こうで、女の声が優しい。

 でも、全部演技だってわかってる。


 金払えば、温もりもくれる。

 金がなくなれば、終わり。

 それだけだった。


 二十代後半から四十歳手前まで、俺はそんな日々を繰り返した。

 仕事終わりに、月に数回店に寄って、カーテンをくぐって、体を預ける。

 心は空っぽのまま。

 女の目を見ないようにして、ただ触れるだけ。

 それで、少しだけ孤独が紛れた気がした。


 貯金だけが増えていった。三百万。

 それだけが、俺の唯一財産だった。


 転機は四十歳を過ぎてから。

 体は重くて、朝起きるのも億劫になっていった。


 ある日、会社の旅行で韓国に行くって話が出た。

 パスポートがないから、申請しに行った。

 窓口で戸籍謄本を出したら、職員が顔をしかめた。


「……お父様が亡くなられてますね」


 悪魔みたいなあの父親が、死んでた。

 まだ60代なはずなのに?

 いつ死んだかも知らなかった。


 母親は、住所を移してないから生存確認できなかった。

 俺は、ただ立ち尽くした。

 親父の拳も、売られる未来も、知らないうちに全部なくなった。

 でも、喜びも悲しみも湧かねえ。

 ただ、空白が広がっただけ。


 ある夜、いつものようにスマホをいじってた。

 スクロールしてたら、記事が目に入った。


「ホームレスから人生逆転した男の話」


 タイトルだけ見て、胸がズキッとした。

 クリックした。

 画面に映るのは、ボロボロの服を着た男が、今はスーツで笑ってる写真。

 借金まみれ、家族なし、路上生活から這い上がって、資格取って会社員になって……。


「スタート地点はゼロだったけど、諦めなかった」


 そんな言葉が、刺さった。

 画面を見ながら、俺はつぶやいた。


「……俺には、まだ帰る家がある」


 アパートの天井のシミ。

 埃っぽい部屋。

 狭いけど、鍵をかけて寝られる場所。

 ホームレスじゃない。

 路上で凍える夜を過ごしてない。

 あいつらより、スタート地点はマシだ。

 そう思えた。


 胸の奥が、久しぶりに熱くなった。

 だから決めた。


 慶應義塾大学 経済学部に入学する。

 三年間勉強して受験する。


 親父の仕事が潰れた理由。

 俺が派遣で終わった理由。

 この世の理不尽を動かしている仕組みは、全部経済だと思えた。


 それを、自分の頭で理解したかった。

 理解して、超えてやりたかった。

 派遣で貯めた三百万。

 奨学金を合わせれば、道はある。


 それから月日が経ち、受験も終わり、合格発表の日が来た。

 掲示板の前に立った。

 指が震えて、番号を探す。

 ……あった。


 自分の受験番号が、はっきりそこに並んでる。

 膝が抜けた。

 地面が少し遠くなった気がした。

 視界がぼやけて、涙が溢れる。

 喉が詰まって、息が熱い。

 人生で初めて、俺は結果を出せた。

 周りの20歳前後の若者たちが、友達と抱き合って叫んでる。


「やったー!」


「受かったよ!」


 そんな中、44歳のおっさんが一人、拳を握って雄叫びを上げてる。


「うおおおおおおおおお!!!」


 周りがチラチラ見てくる。


「え、あのおっさん……?」


「変な人じゃんw」


 でも、そんなのどうでもよかった。

 今さら恥ずかしくなってきたけど、この瞬間だけは、どうでもよかった。

 胸が熱くて、笑いが止まらねえ。

 涙が止まらねえ。

 これが、俺の人生で一番嬉しい瞬間だ。


 あまりの嬉しさに浮かれて、帰り道にコンビニに寄ろうとした。

 自分で祝杯をって。


 約3年、酒も風俗通いも離れていたけど、合格の時ぐらいはいいだろう。

 これで大学に入って、しっかり勉強して、人生を変えられる。

 そう思ってた。


 素直にお店で食べるとか、

 久しぶりに女性の身体で癒してもらうとかしていたら、

 人生は変わっていたんだろう。


 でも、俺はそのまま、そんな事をやらずに、いつもの習慣でイリンに向かった。

 イリンに行く交差点が、騒がしい。

 サイレンが遠くから聞こえてくる。


 野次馬の群れが、ざわついてる。

 何かがあったのか、そちらに向かった。

 

 人だかりが厚い。

 ビルの隙間を抜けて、横から覗く。

 そこにいたのは、刃物を持った男。


 幼い女の子に、刃を振り下ろそうとしてる。

 女の子の短い悲鳴が、空気を切り裂く。


「いやぁっ!」


 周囲には倒れた人影がいくつも転がってる。

 血の匂いが、鼻を突く。

 足元に散らばったバッグ、転がった荷物。


 誰かが叫んでる。


「誰か止めて!」


 でも、誰も動かない。

 俺は、考えるより先に体が動いた。

 肩からぶつかり、男に体当たり。

 男の体がよろめく。


 刃物を持つ腕に、両手で絡みつく。

 指が腕に食い込んで、男の筋肉が硬くなる。


 刃がアスファルトにカランと落ちる。

 女の子の悲鳴がピタリと止まる。


「早く女の子を!」


 俺は、女の子の保護を頼んだ。

 誰かの叫びが響く。

 周りの歓声が、頭の中で爆発する。


 男の息が荒い。

 目が血走ってる。

 俺の拳が、男の顔に何度も入る。


 ドスン!

 ドスン!


 何度か叩いていたら抵抗が無なくなった

 

 もう、逃げないし、守る価値がないなんて、もう思わない。

 俺は幼い女の子を護れた。

 そう護れた。

 そう思って一瞬安堵して、勝手に終わったと思ってしまった。


 俺の視界が、揺れる。

 ん?

 何か熱いものが、腹に広がる。

 刃が、落ちてたはずなのに。


 息が詰まる。

 女の子の顔が、ぼやけて見える。

 泣いてるけど、無事だ。


 意識が、遠くなる。

 周りの声が、遠くなる。

 最後に、思ったのは――

 トジったけど、女の子は無事だ。

 これで、俺の人生…終わったかもしれない。

  そこまでで、記憶が切れている。


――転生したら美少女冒険者に!本編に続く

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