1話 変な夢・・・最後の夢としたらいいのかも
あの世界に行けたら、イケメンなら、またはお金持ちなら、いつも思ったりする。
また女性だったらとか、あんな能力があったらとか妄想することもあった。
それが現実になったら……俺の人生はきっと変わるだろう。
誰もが一度は考える話だと思う。
俺は真っ白な部屋にいる。壁も床も天井も白で、角の線はやたらと滑らかだ。
光源は見当たらないのに、どこも均一に明るい。
ここはどこかはわからないが、俺の服装は上下ともに白い服を着ていてmまるで病院で入院をしている感じにも見える。
生地は薄く、肌に触れるとひんやりして、紙のように音がしない。
質素なベッドで目が覚める。金属のきしみも木の軋みもない、妙に静かな寝台だった。
なんだか頭が鈍くて、思考がもたつく。麻酔の余韻が体に張りついてる感じがする。
だけど、ここはどこなんだ! 声に出しても、誰もいない部屋だし、軽く周囲を見ても監視カメラ等は見当たらなかった。
観察して分かったことだが、少し不思議に思った。
なぜなら、この部屋には入り口が見当たらないからだ。窓もない。継ぎ目らしい継ぎ目も見えない。
それに、消毒液めいた匂いがする。
時計の音もせず、空気は少し乾いていた。
何度見ても病室のような雰囲気かなと思うのだが、それ以外に全く何もない部屋だった、
もしかして拉致された。いや、落ち着け。俺なんか拉致しても意味ないだろう。
人脈も金も何もない俺なんか拉致っても得なことは全くないから違うと思いたい。
俺は、世に言う――
負け組。
人生の落伍者。
犯罪者じゃないだけマシな存在。
居てもいなくても……。
やばい、自分でそう思ったら気が滅入ってきた。暗い方へ滑り落ちる前に、思考を切り替えよう。
こういう時にやるのは記憶をたどることがいいらしい。
名前は 池田 丈。年齢は44歳 男性。周囲の人からは池田さんやジョーさんって言われてるぐらいか。ここまでは大丈夫だな。
ここにいても暇だからこの部屋から出たいが、やはり見た感じ出入り口が見当たらない。
なぜここに連れてこられたか、現状を把握するために思い出せる範囲でいいから思い出してみよう。
何かきっかけがあるかもしれないし、脱出の何かが思いつくかもしれない。それに暇つぶしにもなる。
えっと、派遣で仕事をしていたが40歳ぐらいから、勉強がしたくなって大学を目指していた。ばかな夢だと俺も思う。何かが変われるきっかけが欲しかった。
そして今日は大学の合格発表があって見に行った。
無事大学には受かっていた。
掲示板の数字が自分の番号と一致した瞬間、膝が抜けて、地面が少しだけ遠くなったきがした。
人生最高の嬉しい時だった。俺の人生で初めて結果がだせた。
20歳前後の若者が喜んでる時におっさんが一人雄叫びを上げてるんだから、変な人決定だったのだろう。
だが、そんなものなんか気にならないぐらい嬉しかった。
今さらながら恥ずかしくなってきたぞ!でもそれぐらいこの場ではどうでもよかった。
あまりの嬉しさに浮かれて帰る途中で、自分で祝杯をするためにコンビニに寄ろうとした。
約3年、酒、風俗通い、ギャンブルから離れていたが、合格の時ぐらいはいいだろうと。
交差点が騒がしい。野次馬の一人として足を向けた。
人だかりが厚いので、ビルの隙間を抜けて横から覗く。
刃物を持った男が、幼い女の子に刃を振り下ろそうとしていた。女の子が短く悲鳴を上げる。
周囲には倒れた人影がいくつもある。足元には転がったバッグや散らばった荷物があった。
俺は考えるより先に飛びかかった。肩からぶつかり、刃物を持つ腕に両手で絡みつく。
そこまでで、記憶が切れている。
たしか……背中にひどい激痛が走って……。焼けた鉄を押し込まれたみたいな、熱くて冷たい痛み。
息が勝手に抜けて、視界の縁が白く弾けたんんだったっけ?
女の子がこの場から離れるまでは、掴んでいたはずだ。
走っていく小さな足元が見えたから間違ってはいない。
多分女の子は助かったのだろう……。そうであってほしい。
あれ? 腕の力が抜けないように、なぜか腕に力が入らなくなってきたから、歯を食いしばっていたはずだ。
そして最後に聞いたのは、サイレンの音と泣き声そしてスマホの写メ音が耳の奥でまだ弾けている。
やはりそこから記憶がないから気絶をしたのか?
そろそろ説明してほしいと思う
誰もいないから無理なんだけどな
そんなことを考えていたら、前方で視界がわずかに揺れた。
白い壁の輪郭が一瞬だけ崩れ、つづいて部屋がぱっと明るくなる。
反射的に目をつむる。何が起きたんだ?
光が収まり、そっと目を開けた。
光が収まり目を開けたら、そこには怪しい白い爺さんがいた。
髪も髭もそして服までも真っ白だった。
見た目はそう、サンタクロースの袋持ってない白い服装のじいさんだった。
現れた後ろを見ても、扉は見つからない?
どうやって入ってきた。いや、そんな理屈は通用しない場所なのか?
普通なら驚くところでパニクってもおかしくないのだけど、なぜか冷静でいられた。
まぁそれに、言葉が通じるのなら聞けばいい話だ。
考えるのはその後にしよう。まずは情報が欲しい。
「爺さん、ここは一体どこなんだ?」
「ほぅ、動じておらんな。じゃがわしは爺さんではない。わしは神じゃぞ!!」
やべぇ、俺もしかして精神病棟にでも入れられたのか、だから患者にわからないように隠し扉があるのか。
だがなんで俺が精神病棟にいるのかわからん。
「おい、なにが、精神病棟じゃ。わしは神じゃと言っておろうに。」
リアルで神とか言っている人、初めて見た。いや、まじで。
宗教家がたまに言ったり、スピ系の人が言ってるのは知ってるのだが、てっきり都市伝説のたぐいだと思っていた。
あぁ、でもボケ老人だったりする可能性はあるわけか。
自分の思考に心の中で突っ込みを入れた
「はぁ、もういい。おぬしは死んだんじゃ」
「は? 死んだ? 生きてるじゃねえか!」
「なら聞くか。あんなに深くナイフを刺されたら意識不明の出血多量になるわ」
「いやいやそれ困るわ、俺今日大学に決まったんだよ」
俺だって、こんな時に死にたくない。これから誰かと素敵な出会いだってあってよかったはずだ。
そのために、何年も自堕落をやめて挑戦してきたのに。
俺の人生は何だったんだろう――そうよぎった瞬間、涙が出た。
熱いのに、指先に届く前に冷めていく。
それでも、この感覚は生きていた時と変わらない。死んだのか夢なのかは分からないが、背中を深く刺されたなら、死んだと言われても納得はできるのだが後悔が少しずつ出てきた。
俺はその場に座り込み、笑おうとしても声にならず、息だけが漏れた。
「早とちりするな、本来ならおぬしは死ぬこともなく、事件は死者が出るほどではなかったのじゃよ」
「ふぅ、俺は骨折り損だったわけ?」
ん、倒れてた人はまだ息があったのか?俺は倒れてる人は全員死んだと思い、あの子供も殺されると思って、体が勝手に動いたんだけど。
俺は自分の馬鹿な行動に嫌気がした。こんな夢を見たからそんなことを思うんだろう。
実際に死んでいたら、こんな考えなんて出ないはずだしな
もしこのじじいが神ということが本当なら、復活させてくれるという落ちか、それともよく聞く“死ぬ一歩前のお花畑”でこの世にとどまるパターンの一種か。
「残念だがどれも外れじゃ。まぁおぬしは良い事をしたが、生きていれば魂を返して終わりじゃったのだが、完全に命はなくなってしまったのじゃ。
自然の摂理を変えるわけにはいかぬ。というわけで、おぬしはこの世界とは違う場所で転生をさせてやろう」
「は? 転生……まぁ遠慮する」
「なぜじゃ?」
どうやらこいつは夢だからかもしれないが、俺の思考も読んで会話してくる。
先ほどまで行きたいとか言ってるのに、こんなこと言ったらなぜという言葉も出てくるわなぁ
「歴史は繰り返す。俺が転生したとしても同じようなことが繰り返される。またあの地獄を味わえと!ろくでもなかい人生だったが、将来性がある女の子が助けられた。」
これが嘘偽りない本心だろう。
「先ほど爺さんは死人は出ないとは言ったが、あの女の子は傷がついた可能性がある。
くだらねえオヤジ一人と将来性のある女の子の傷、等価交換でいいんじゃねえのか」
「どの命でも平等じゃ。おぬしが自分をけなすのは勝手じゃが、わしが言ったことは現実になるのじゃよ。これは決まりごとじゃ。おぬしが行く世界は、中世に転生じゃ」
???? 夢で決定だ。転生とか言い出しやがった。
死んだらゲームみたいにコンティニューはないんだよ。人生にロードなんてあるわけがない。
戯言だったとしても一人の少女が助かった、それでいい。胸の奥がやっと少しだけ静かになった。
「意外とおぬしは頭が固いのぉ」
また俺の心を読みやがった。
「転生なんて馬鹿げてるし、現代人の俺が中世の世界に転生できたとしても野垂れ死にがお似合いだ。それこそ、王侯貴族とかの子供とかで人生イージーモードだったら別だけどな」
「なぜおぬしはこの世界しかないと思っている。おぬしがいた世界は、もしかしたら誰かが見ている世界なのかもしれんぞ!」
なんかスピリチュアルな世界ではそういう話がされてるらしいなぁ。くだらない理論だけどな。
「もう少し付き合ってやるよ。夢だとしてもいい余興だ。お前が神としたらそれだけ言うために来たわけじゃないんだろう。俺に何をさせたい?」
俺はもう少しだけこの爺の戯言に付き合おうって気持ちになっていた。
人だろうが、何者であろうが得がなければ何もしないだろう?
「とはいっても、ただの中世ではない。おぬしにわかりやすく言えば剣と魔法の世界でもある。かといって知識なしでも困るだろう。何か4つの能力を授けてやろう」
言うに事欠いて、ハイファンタジーの世界に転生とはきたもんだ。夢は夢だから、素直にもらっておくか。
「欲しい能力を4つくれるって?」もう一度確認しておく。俺も夢とはいえ、付き合いがいいと少し心の中で苦笑した。
「質問が少しある! それは世界で存在するもの限定か? 俺は、どんな立場で復活するのか?」
この二つは絶対に必要だった。基本ファンタジーには現代の武器は存在しないはず。それを持っていればかなりアドバンテージが高い。
ただしデメリットとして、問題が向こうからやってくる可能性がある。立場というのも必要だ。例えば貴族で復活した場合に農業特化の技術をもらっても役に立たない可能性がある。
それよりも、テーブルマナーとか交渉力とかが必要だし、戦国時代みたいなファンタジーだったら、戦闘技術があったほうがいい。
夢なのに真面目に考えてる姿はかなりシュールだと思う。自分で笑いそうになってやめた。
「1つ目の答えじゃ。もしその世界にないとしても、その世界に合う形になって渡される。2つ目の答えじゃ。立場は冒険者じゃ。おぬしにわかりやすく言えば、剣と魔法の世界での冒険者じゃな」
俺はそれを聞いて考える。やはり、便利なのは国民的人気なネコ型ロボットのポケットだよなぁ。
4次元ポケットと言いたいが、魔法があるとは言ってもだいぶ変化する可能性あるよな。それに俺は秘密道具に詳しくないのでやはり却下だ。
転生物の小説にあるテンプレみたいなものか。だが、あまり自分の懐以上のものを望んだら身の破滅になる。
そこで俺が出したのは、この2つだった。
「1つ 戦士の技術、魔法使いなどの技術、盗賊などの才能をくれ
2つ 俺に精神支配を受けない事、これだけでいい」
関わり合いたくはないが、デバフに弱いとシャレにならない。戦闘技術、魔法の知識や技術、盗賊などの技術。
実際には1つと言っておきながら3つ要求してるわけだけどな
戦士の戦闘技能に武器防具の使い方に魔術師の知恵と魔法に盗賊技能に罠とか交渉などの知恵
「戦士の知識や技術、魔法の技術と知恵、盗賊の技術と知恵。絶対精神防御ときたか、なるほどの。にこポやなでポじゃなくていいのじゃな」
自称神がにこやかに提案をしてきた。
「なんだそれは? にこポ? なでポ……タバコの種類か何かか?」禁煙パイポの種類ではないな。じじいのくせに若い世代の言葉に詳しいな。俺なんか40代なのに今時の言葉がわからねぇ」
「人をなでられたり、微笑んだら落ちるスキルじゃ」
自称神とか言うじいさんが説明をしてくれた。くだらん! それじゃ人形と変わらん。
それをいただいて何が嬉しいんだ? そりゃ俺だって人に好かれたいし、恋人とかもほしかったが、それは強制されてなるもんじゃないだろう。
実際それで惚れられても、最初はうれしいかもしれないが医師の持たない人形と変わらんだろう?
神が与えていい代物じゃないぞそれ。
俺は嫌悪感を持ちながらため息をついた。
「いらないな! 確かに、俺はもてなかったけど、強制されるのも嫌いだからいらん」
「まぁ大丈夫じゃな。それでいいのか?」
「あぁかまわん。どうせ夢だしな。夢の話にしては楽しかったと思う。
もし生きてたとしてもこれを覚えてないのは本当に残念だ」
「おぬしは頭が固いの。もうこんな時間か? お別れの時間じゃ。次の人生に幸あれ」
夢の世界なのに、眠気が……夢の中でまた寝るのか。間抜けな話だ。まぶたが自然に重くなる。
「言い忘れてた、格闘と魔法の勉強はしておくのじゃ。あくまでもわしがおぬしに渡すのは知識と素質じゃ。最低限の技術はあるかもしれないが、全てが何でもできる事ではないぞ。わしが手を貸せるのはここまでじゃからの。今度こそ幸せになり、人生を楽しむがよい」
自称神は慈愛の優しい声で俺にそう言ってきた。
白いローブの裾から、金粉みたいな粒がゆっくりと立ち上がり、床に落ちる前に消えていく。
「ああ、世話になった。面白い夢だった。それじゃあな」
俺は意識を手放す。ベッドの沈みが体の形に合い、指先から順番に力が抜けていく。
「さらばじゃ。そうそうプレゼントの一つじゃ。おぬしが生前夢見ていたのをプレゼントしてやろう。女性になりたいという願望、かなえてやるぞ」
本当に奇想天外な夢だ……そんな妄想まで言ってくれるなんてな。
もしかしたらこの夢は最後に思った俺の願望だったのかもしれない。
与えられたのは人以上の能力と、違う世界での新たな人生。
異世界で、俺の幸せを探す旅が今始まった。
『あなたの幸せは何ですか?』
「転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~」をお楽しみいただけましたか?
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