100話 お買い物デート 第三部完
「ふぅ……。ようやく、あの野郎どもの視線から解放されたな」
ギルドの重厚な扉が閉まると同時に、俺は大きく息を吐き出した。
背後で遠ざかる酒場の喧騒が、扉の厚みでくぐもって消えていく。
エメラルドの石畳に踏み出すと、そこには夕刻の魔法の光に彩られた、幻想的な光景が広がっていた。
石畳が陽光を柔らかく反射し、淡い緑の輝きが足元を照らし、遠くの建物が魔法のランプで金色に染まる。
潮風が頬を撫で、市場のスパイスと花の香りが混じり合って鼻をくすぐる。
街全体が魔法の粒子で満ちていて、肌に微かな痺れを感じるほどだ。
「シビさん、そんなに急がないでくださいな。街は逃げませんわよ?」
隣でクスクスと笑うエレナが、俺の腕にそっと自分の腕を絡めてくる。
柔らかな感触と、ふわりと漂う清廉な香水の匂い……。
彼女の腕が俺の腕に触れ、温かい体温が布地越しに染み込んでくる。
金色の髪が風に揺れ、頰がほんのり赤く染まり、瞳が楽しげに俺を捉える。
胸の膨らみが俺の腕に軽く押し付けられ、鼓動が微かに伝わってくる。
正直、エレナとプライベートで出歩くのは、今の俺には刺激が強すぎてどうしていいか分からない。
腕に当たる彼女の柔らかな胸の感触に、男性としての理性が悲鳴を上げている。
胸の奥が熱くなり、息が少し浅くなる。
少女の体なのに、俺は、おっさんだから、こんな状況でドキドキするのは当然だろ……。
しかも器量よしで美人。
女性経験がほぼない俺には刺激強すぎるって。
「……っ。分かってる。だが、まずは実用的なものからだ。装備を整えないと、いつあの『ミスリルのバケモノ』なんて噂に追いつかれるか分かったもんじゃないからな」
あの噂は一体なんなんだよ。
どこをどう見たら、今の俺がバケモノに見えるんだ?
胸の奥がざわつき、首筋に冷たい汗が伝う。
「ふふ、効率主義のシビさんらしいですわ。では、あちらの『絹の吐息亭』から参りましょうか?」
エレナの声が優しく響き、彼女の腕が俺の腕を軽く引き寄せる。
金色の髪が風に舞い、頬の赤みが夕陽に照らされてより鮮やかになる。
俺たちは、夕暮れの魔法の光に包まれながら、ゆっくりと歩き始めた。
彼女に連れられて入ったのは、魔法下着の専門店だった。
店内に一歩足を踏み入れた瞬間、俺の脳内アラートが最大音量で鳴り響いた。
視界を埋め尽くすのは、繊細なレース、透けるようなシルク、そして……どう見ても面積が足りない布地の山だった。
棚に並ぶ下着は、魔法の光で淡く輝き、布地が空気のように軽く揺れている。
店内の空気が甘い香油と布の新品の匂いで満ち、俺の鼻腔をくすぐりながら、胸の奥をざわつかせる。
なんだよ魔法の下着やって、そんなの聞いたことないぞ。
「……おいエレナ。いくら『魔法障壁』が編み込まれてるからって、これは……その、犯罪的じゃないか?」
俺は、指先でつまんだ薄桃色の布地を凝視し、引きつった声を絞り出した。
布地は指に吸い付くように柔らかく、触れただけで肌が熱くなる。
こんなの恥ずかしくてはけるか。
最初だって、女性の下着の小ささに悶絶してたっていうのに、こんな恥ずかしいのはけるわけないだろ。
指先が震え、布地が微かに光を反射して俺の顔を照らす。
「何を仰っていますの。この『飛燕のレース』は、着用者の俊敏性を五パーセント向上させる優れものですわ。戦士として、この数値を見逃すのですか?それにかわいいデザインですよ」
エレナの声が穏やかで、瞳が俺をまっすぐ見つめてくる。
金色の髪が店内のランプに照らされて輝き、頰がほんのり赤く染まり、唇が軽く微笑む。
彼女の指が布地を優しく撫で、布が微かに光を放つ。
「くっ……五%を取るか、羞恥心を取るか……」
結局、俺は店員にサイズを測られるがままになった。
店員の冷たい指が俺の肩や腰に触れ、メジャーが肌を滑る感触がゾワゾワと背筋を這う。
鏡に映る自分は、銀髪を揺らし、頰を真っ赤に染めた紛れもない美少女だ。
その肩に、エレナが鏡越しに優しく手を置く。
「シビさんは、ご自分が思っている以上に可愛らしいのですから。もっと自信を持っていいのですよ?」
エレナの声が優しく響き、瞳に宿る熱っぽさが俺の胸を締め付ける。
彼女の指が肩に触れ、温かい体温が布地越しに染み込んでくる。
その瞳に映る俺の姿が、恥ずかしくて、でもどこか甘く、視線を逸らすことができない。
「……分かったよ。試着してみる」
俺は渋々頷き、店員に試着室を案内された。
試着室のカーテンが閉まると、狭い空間に布地の甘い香りが充満する。
布地を肌に当てた瞬間、魔法の粒子が微かに痺れ、俊敏性が本当に上がるような錯覚に襲われる。
でも、鏡に映る自分の姿が、あまりにも恥ずかしくて視線を逸らす。
胸の奥が熱くなり、息が乱れる。
布地が肌に吸い付く感触が、魔法の痺れと混じり、背筋をぞわぞわとさせる。
試着を終えて出てくると、エレナが俺を見て、頬をさらに赤く染めた。
「シビさん……とても、お似合いですわ」
俺は言葉に詰まり、顔を赤くして俯いた。
エレナの瞳が優しく俺を包み、胸の奥が温かくなる。
可愛いのはエレナお前の方だと言いたかったのだが、これ以上恥ずかしくなって悶絶をしたくないので黙っていた。
俺は、逃げるように店を後にした。
次に訪れたのは、高級ローブ店『星紡ぎの仕立て屋』だ。
店内は静かで、魔法の光が柔らかく差し込み、布地の香りが漂う。
店主の老魔導師が、俺の「魔法ドレスに革ジャン」というスタイルを「機能美の極致だ!」と絶賛してくれた。
老人の瞳が輝き、しわだらけの手が革ジャンを優しく撫でる。
革ジャンに『自動温度調整』と『物理衝撃吸収』の術式を上書きしてもらい。
ようやく「戦士」としての自分を取り戻した心地がする。
術式が布地に染み込む瞬間、微かな魔力の痺れが肌を走り、体が軽く熱くなる。
最後に向かったのは、魔道具・アクセサリー店『叡智の雫』。
怪しげな薬草の匂いが漂う店内で、俺はある一点に目を留めた。
棚に並ぶアクセサリーが魔法の光で淡く輝き、店内の空気が重く静かだ。
「……店主。その、銀のアンクレットを見せてくれ」
「おや、お目が高い。それは身につける者の『魔力回復と疲労回復』を微量ながら促進する一点物ですよ」
俺はそれを手に取り、エレナの前にしゃがみ込んだ。
銀の鎖が冷たく掌に収まり、微かな魔力の脈動を感じる。
驚く彼女を余所に、白法衣の裾から覗く細い足首に、銀の鎖をそっと巻き付ける。
鎖が肌に触れる瞬間、冷たい金属が温かい肌に沈み込み、微かな魔力が足首を包む。
「シビさん……? これは……」
「……日頃の感謝だ。えっとそうだ。おいつも俺を支えてくれてるんだから、これくらい当然だろ」
なんか言い方がぶっきらぼうにぶっきらぼうに行ってしまったが、エレナは一瞬だけ呆然とした後、夕焼けよりも鮮やかな笑みを浮かべた。
頬が赤く染まり、瞳が潤んで輝き、唇が優しく開く。
金色の髪が肩に掛かり、彼女の胸元が小さく上下する。
「……嬉しいですわ。わたくし、このアンクレットを一生の宝物にします」
「一生は大げさだろ。……さあ、飯だ。アヴァリスで一番美味い店、エクレアに聞いてあるんだ」
俺は照れ隠しに彼女の手を引き、歩き出す。
エレナの指が俺の手に絡み、温かい体温が掌に染み込む。
四十四歳で少女を助けて死んだ。
あのまま生きていたとしても、こんな風に誰かと手を繋いで歩く未来はなかったかもしれない。
もちろん、生前の方が良かった面もたくさんある。
常に死と隣り合わせのこの世界とは違い、日本には平和があった。
四十代で大学に合格し、得られるはずだった知的好奇心や、新たな出会い。
そこには、間違いなく素晴らしい人生が待っていたはずだ。
失ったものは大きい。
それでも、神様の気まぐれで始まったこの「二度目の人生」も、案外悪くないと思える。
繋いだ手の温もりを、今はただ、噛み締めていた。
「極上のメシの前に、俺たちには寄らねばならない場所があった。」
アヴァリス大公国が誇る、国一番の魔法鍛冶屋『黄金の槌亭』だ。
店内に足を踏み入れた瞬間、魔力を含んだ熱気が肌を叩いた。
炉の炎が赤く揺らめき、鉄と魔力の焼ける匂いが鼻腔を満たす。
そこら中の壁に、見たこともない術式が刻まれた武具が並び、奥からは規則正しい槌の音が響いてくる。
カン、カン、カン……と、金属が叩かれる音が部屋全体に振動し、胸の奥まで伝わってくる。
熱気が肌を包み、汗が背中を伝い、息が少し熱くなる。
「……何だい、お嬢ちゃん。うちは冷やかしの冒険者が来るところじゃないよ」
奥から現れたのは、煤で汚れた前掛けをしたドワーフの老人だった。
その眼光は、一目で俺の腰の獲物を見抜く。
煤だらけの顔に深いしわが刻まれ、髭が白く伸び、瞳が鋭く俺のミスリルソードを捉える。
老人の手が槌を握ったまま、ゆっくりと俺に近づく。
前掛けの布が煤で黒く汚れ、鉄の匂いが体に染みついている。
「ルーでシック子爵の紹介だ。……このミスリルソードを見て欲しい。かなりの死地を抜けてきた相棒なんだ。最高のメンテを頼みたい」
俺が紹介状とミスリルソードを差し出すと、老人の顔つきが変わった。
彼は愛おしそうに剣身を撫で、光にかざす。
剣の刃が老人の煤だらけの指に触れ、微かな魔力が光を反射して青白く輝く。
老人の指が剣の表面を優しくなぞり、瞳に職人の情熱が宿る。
「……ほう。いい剣だ。あんたの魔力特性に、よく馴染んでやがる。これほど使い込まれたミスリルは珍しい。主の癖を、剣の方が完璧に覚え込んでるな」
職人の言葉に、俺は自分の右手を無意識に握り締めた。
剣の柄が掌に冷たく残り、沢山の戦いの感触がよみがえる。
老人の言葉が胸に染み、俺の相棒がどれだけ俺と共闘してきたかを改めて実感する。
「それに相当な修羅場を潜ったな? 刃こぼれ一つねえが、魔力の通りに澱みが見えるし、剣が悲鳴を上げてるぜ。剣の過負荷で、金属の芯が熱を持ったまま固まってやがる。このままだと、近いうちにポッキリなっちまうぞ。よくもまあ。ここまで酷使したもんだ」
職人の声が低く、渋く響き、炉の炎が彼の煤だらけの顔を赤く照らす。
老人の眼光が剣を捉え、瞳に職人の情熱が宿るのが見える。
しわだらけの手が剣を愛おしそうに持ち上げ、指先が剣身を優しく撫でるたび、ミスリルの表面が微かに震え、青白い光が揺らめく。
剣の刃に刻まれた細かな傷跡が炎に反射して鈍く光り、ドワーフの手に渡った俺の相棒が、炉の炎を反射して鈍く光る。
人から聞いたり本で読んだことだ。道具の整備を怠る奴から、夢も命も零れ落ちていくんだ。
一流のスポーツ選手や一流のビジネスマンは、基本自分の道具を大事にするって聞いた。
俺の胸の奥が少し重くなり、安心して任せれると実感した。
「一日もらうがいいか?」
ドワーフの言葉に、俺はエレナと顔を見合わせた。
彼らは、最高の鍛冶師で装飾師でもある。
「楽しみですわね、シビさん。最高の状態になった剣なら、きっともっと軽やかに振れるはずですわ。少しの間休憩ですわね」
「ああ……。期待してる。楽しみだ」
鍛冶屋を出ると、アヴァリスの街はすっかり夜の帳に包まれていた。
街灯が魔法の光で輝き、石畳が淡く照らされる。
夜風が頬を撫で、遠くから街の喧騒と音楽が聞こえてくる。
俺たちは予約していたレストランへと足を向ける。
相棒を預けた腰の軽さに、どこか落ち着かない気分で夜の街を歩く。
剣の重みがなくなった腰が妙に軽く、歩くたびにバランスが取れず、微妙に体が傾く。
夜風が頰を撫で、冷たい感触が肌を刺し、胸の奥がざわつく。
街灯の魔法の光が石畳に淡く反射し、足元がキラキラと揺らめく。
そういやもう半年以上使ってたんだな。
そう物思いにふけりながら歩いていた。
隣を歩くエレナが、空いた俺の右手をそっと包み込むように握ってきた。
彼女の指が、俺の指に絡み、温かい体温が手の平に染み込んでくる。
金色の髪が夜風に軽く揺れ、瞳が優しく俺を捉える。
手のひらに伝わる柔らかな感触が、俺の胸を温かくざわつかせる。
「シビさん。剣はあの方に任せて、今夜はわたくしたちも、心と体の『メンテナンス』をしましょう?」
そうは言うがやはり無いとなる時になってしまうのが人の性だと思う。
手持ち無沙汰な右手を軽く握ったり開いたりして、苦笑いした。
この世界で生き抜くための武器を預けてしまうと、急に自分が無防備な小娘になったような気がして、どうにもそわそわする。
右手を握ると、剣の柄の感触が思い出され、手の平が虚しくなる。
「あら、シビさん。わたくしが隣にいるのですから、そんなに心細がらないでくださいな」
エレナが、いたずらっぽく小首をかしげて俺を覗き込む。
「ああ。そうだな。今夜くらいは、戦いのことは忘れるとするか」
夕闇の中、彼女の瞳が優しく揺れる。
瞳に映る街灯の光が、琥珀色に澄み、涙のように輝いていた。
唇が軽く微笑み、息遣いが少し速くなる。
理性が、また一つ、小さな悲鳴を上げた。
予約していたレストラン『蒼い月光亭』の扉を開けると、そこには魔法大国アヴァリスの夜を彩る。
極上の美食と静寂が待っていた。
扉を開けた瞬間、暖かい灯りと料理の香りが一気に押し寄せ、鼻腔を満たす。
店内は静かで、魔法の灯籠が柔らかな光を放ち、テーブルに銀の食器が並ぶ。
案内されたのは、運河を一望できるテラスの特等席だ。
運河の水面に魔法の灯籠がゆっくりと流れてる。
微かな魔力の粒子が夜風に舞って、星屑のようにキラキラと輝いている。
水面が金色に揺れ、遠くの建物が魔法の光で淡く照らされる。
キャンドルの炎に照らされた彼女の瞳は琥珀色に澄み、新調したばかりのアンクレットが、テーブルの下でチリンと小さく鳴った。
銀の鎖が足首に光り、微かな魔力が足元を包む。
彼女の笑みが優しく、俺の胸を温かく満たす。
「運ばれてきたのは、アヴァリス名物の『白銀魚のカルパッチョ』と、魔法で熟成された極上のワインだ。」
皿に並んだ白銀魚の薄切りが、月光のように淡く輝き、表面にオリーブオイルぽいのが、薄く膜を張って光を反射している。
魚の身は透き通るように白く、微かに震えるように新鮮で、柑橘の香りとハーブの清涼な匂いが立ち上る。
ワインは深いルビー色で、グラスの中でゆっくりと揺れ、熟成の芳醇な香りが鼻腔を優しく満たす。
魔法で熟成されたというそれは、グラスを傾けると、液体が重く流れ、喉を滑る感触が甘く熱い。
「……美味いな。生きてるって実感がするぜ」
一口飲み込み、その喉越しに一息つく。
ワインの熱さが喉を滑り、胃に染み込んで体を温める。
こんなに美味いものは、生前でも食べたことがない。
全体的な料理の完成度は生前の方が上かもしれないが、食材本来の味の濃さや鮮烈さなら、間違いなくこちらの方が上だろう。
魚の身が舌の上で溶け、柑橘の酸味と塩気が口の中に広がり、幸せが胸にじわりと染み込む。
ふと、自分の手を見つめる。
かつてのごつごつした男の手ではない。
白く、細く、けれど数多の剣線を刻んできた少女の手。
指先が微かに震え、銀の光が指に反射して輝く。
手の平に残る剣の感触が、遠く感じる。
「……エレナ。私は、一緒に旅ができて、本当に良かったと思ってる」
酒の勢いか、この場の雰囲気のせいか。
つい昔の話し方が出てしまう。
柄にもない言葉が、スッと口をついて出た。
声が低くなり、喉の奥が熱くなる。
「初めて会った時から、何度も死の淵で助けてくれて感謝してるんだ」
私は、テラスの向こうに広がる夜景を見つめながら、独り言のように続けた。
運河の水面に魔法の灯籠がゆっくり流れ、星屑のような光がキラキラと揺らめく。
夜風が頬を撫で、遠くから街の音楽が微かに聞こえてくる。
「まだ出会って一年経ってないのに、なんだか出会ったのが、はるか昔のような気がする。お互いの考え方の違いで、喧嘩した事もあったなぁ」
そこまで言って、俺はエレナに視線を戻した。
彼女の金色の髪が夜の光に照らされ、瞳が優しく俺を映す。
頬がほんのり赤く染まり、唇が軽く開く。
「何度も私を救ってくれた。……エレナがそばにいるだけで、私は、無条件に安心できるんだ。ありがとう」
エレナの手が止まった。
彼女は一瞬、驚いたように目を見開き、それから花が綻ぶような、慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
頬がさらに赤く染まり、瞳が潤んで輝き、まつ毛が微かに震える。
唇が優しく開き、息遣いが少し速くなる。
「シビさん……。わたくしも同じですわ。最初は危なっかしい人だと思い心配でしたが……いつの間にか、シビさんの背中を押し、共に歩んでいきたいと思うようになりましたの」
彼女がテーブル越しに、不意に私の手をそっと握ってきた。
エレナの指が私の指に絡み、温かい体温が手の平に染み込んでくる。
彼女の瞳が私を優しく包み、胸の奥が温かくなる。
柔らかな掌の感触。」
はっと我に返った。
手の平に伝わるエレナの温もりが、熱く、柔らかく、俺の指を優しく包み込む。
彼女の指が俺の指に絡み、細い指先が軽く震えながらも、しっかりと握り返してくる。
その感触が、俺の胸の奥を甘く締め付け、息が一瞬止まる。
ダメだ。やっぱりこの距離、男性としての理性が悲鳴を上げやがる。
心臓がドクドクと鳴り、耳元で血の音が響く。
エレナの香りが近くて、甘く、頭がぼんやりする。
少女の体なのに、おっさんだから、こんな密着でドキドキするのは当然だろ……。
こんな状況で理性が悲鳴を上げるのは、完全に俺の責任だ。
なに告白みたいな空気になってるんだ。
俺は、おっさんだぞ。
若い女性をたぶらかすような真似は、だめだろう。
まったく。ただでさえ役得なのによ。
これ以上おっさんが、そんな夢を見るなよ。
あくまで彼女は、同性として、仲間としての友愛を向けてくれているんだ。
俺みたいに彼女の心身を欲しがるような、下種な考えはするな。
この繋いだ手の温もりだけで、今は満足しやがれ。
俺は、激しい照れ隠しを込めて、少し冷たくなった夜風を吸い込み。
手の温もりを噛み締めるようにワインを煽った。
グラスのワインが喉を滑り、熱く甘い味が胸に広がる。
夜風が頰を冷やし、運河の水面に映る灯りがキラキラと揺れる。
エレナの指が俺の指を優しく握り、温もりが静かに染み込んでくる。
「……よし、今日はゆっくり食べて語り明かそうぜ。たまには、こういうのもいいよな」
「はい、シビさん」
アヴァリスの夜景に、二人の穏やかな笑い声が溶けていった。
第三部 未知の島・狂気編 完
「転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~」をお楽しみいただけましたか?
もし「続きが気になる」「応援したい」と感じていただけましたら、ぜひブックマーク登録と、ページ下部にある【評価する】ボタンから評価ポイントをいただけると、とても励みになります!
皆さんの応援が、次の話の執筆を進める力になりますので、どうぞよろしくお願いします!




