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【4部完結】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
5章 真実

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93話 冒涜的な城の中の恐怖

 そのまま進んだ先で俺達を待っていたのは、漆黒の外観からは想像もつかない、

 眩いばかりの「白」の世界だった。


 そこは、果てしなく続く白亜の回廊というべきものだろう。

 天井は見上げるほど高く、まるで雲をそのまま切り出したような乳白色の巨柱が、左右に整然と並んでいる。

 柱の表面は滑らかで、光を柔らかく反射し、淡い虹色が微かに揺らめく。


 床一面には、磨き抜かれた白紋石が敷き詰められ、俺のブーツの先やミスリルソードの青い光を、鏡のようにどこまでも深く反射していた。


 足を踏み入れるたびに、ブーツの底が石に触れるかすかな音が響き、反射した光が視界を白く染めて目を刺す。

 空気が冷たく、息を吸うたびに肺が凍りつくように痛む。


「……広すぎて、上も横も見えない……」


 呟いた声が、高い天井へと吸い込まれ、透き通った残響となって返ってくる。

 声が壁に反響し、何重にも重なって耳元で響き、俺の背筋をぞくりとさせる。


 壁には、人間には理解できない曲線で描かれた極彩色のタペストリーが、風もないのにゆらゆらと、まるで生き物のようにうごめいていた。

 黄金の瞳を持つ異形の神々が、絡み合う枝や花の中で俺たちを見つめ、視線が動き続けるような錯覚に襲われる。

 どこからともなく、冷ややかで、けれどどこか懐かしい香りが漂ってくる。


「シビさん、惑わされないでください。ここは……時が止まっている場所のように思えますわ」


 背後でエレナが白の法衣を握りしめ、警戒するように金の錫杖を構えた。

 彼女の指が法衣の布地を強く掴み、肩が小さく震える。

 瞳に不安が混じり、金色の髪が微かに揺れて松明の光に輝く。


 チリン、と鈴が鳴る。

 その現実的な音が、このあまりに美しすぎる回廊の静寂を切り裂く。

 鈴の音は澄んで高く、城の空気を震わせ、俺の耳に優しく響く。

 その音が、胸のざわつきを少しだけ和らげてくれる。


 (あゆ)みを進めるたび、柱の影から何かが覗いているような、あるいは壁の彫刻が瞬きをしたような錯覚に襲われる。

 柱の陰がゆらりと動き、彫刻の目が俺を追うように感じる。

 足音が反響し、静寂が俺の息遣いを大きくする。

 壁のタペストリーが、ゆっくりと波打つようにうごめき、黄金の瞳が俺の動きに合わせて瞬きするような気がする。


 この白は、当たり前だが清浄な白じゃない。

 あらゆる色彩を飲み込み、塗りつぶしてしまった後の、恐ろしいほどの虚無の色だ。

 光を反射するはずの白紋石が、逆に光を吸い込んで闇を濃くしているように感じる。

 運動が完全に停滞したような真っ白の世界にも見えた。

 足を踏み入れるたびに、音が吸い込まれ、反響すら起きない。

 空気が重く、息を吸うたびに肺が圧迫され、冷たい虚無が体の中まで染み込んでくる。


 俺たちは、自分たちの足音だけが不自然に響くその大回廊を、吸い寄せられるように奥へと進んでいった。

 足音が石床に当たるたび、かすかな反響が遅れて返ってくる。


 エレナのブーツの音と俺のブーツの音が、わずかにずれながら重なり、静寂を切り裂く唯一の音になる。

 金色の髪が彼女の肩で揺れ、俺の銀髪が風もないのに微かに乱れる。


 回廊の壁が無限に続くように感じ、視界の端が白くぼやけて方向感覚が狂い始める。

 白亜の回廊を抜けると、不意に視界が開けた。

 そこは城の内部であるはずなのに、見上げるほど高い吹き抜けの先には、漆黒の夜空が広がっていた。


「……うそだろ。先ほどまで雪が舞っていたのに星空だと?」


 思わず呟いた俺の声が、凍てついた空気に白く溶ける。

 息が白く凍り、肺が一瞬締め付けられるように痛む。

 そこは、星空を映す中庭とでも言うべき場所だった。

 頭上に広がるのは、満天の星々だった。

 地球とは違っても、魔術師である以上この世界の星図は頭に入れてあるけど。

 ……この星空は、俺たちが知る星座とは似ても似つかない、狂った配置の星々だった。


 紫や緑に怪しく明滅する星が、巨大な眼差しのように見下ろしていた。

 星の光が冷たく鋭く、視線のように俺たちを貫く。

 星々がゆっくり回転しているように見え、配置が少しずつ変わっていく錯覚に襲われる。

 夜空の闇が深く、星の光が逆に闇を濃く際立たせ、胸の奥に冷たい恐怖が広がる。


 中庭の床を流れるのは、水ではなく、銀の水銀のように濁った液体の金属だった。

 その表面は鏡のように滑らかで、ゆっくりと波打ちながら、金属特有の重く鈍い光を反射している。

 小川が玄武岩の縁をなぞり、チャプンと音を立てるたび、エレナの錫杖の鈴の音と重なって、平衡感覚をじりじりと削っていく。


 チャプン……チリン……チャプン……チリン……

 金属の重い水音と鈴の澄んだ音が交互に響き、耳の奥で不協和音のように絡み合う。

 その音が頭蓋に染み込み、平衡器官を狂わせ、足元がふらつくような錯覚に襲われる。


 庭園のあちこちには、透き通った水晶のような花々が、音もなく咲き誇っていた。

 花弁はガラス細工のように透明で、内側から淡い紫と緑の光が脈打つように輝いている。

 それらは風もないのにチリチリと細かく震え、星の光を吸い込んでは、地面に複雑な幾何学模様の影を落としている。


 影はゆっくりと形を変え、触手のような線が伸びたり、渦を巻いたりして、俺のブーツの周りを這うように動く。

 花の中心から、かすかな金属の匂いが漂い、鼻腔を冷たく刺す。


「シビさん、足元を見てください。これは……影ではありませんわ」


 エレナの声に息を呑む。

 銀の小川に映っているのは、俺たちの姿じゃなかった。

 そこには、見たこともない異形の翼を持つ影や、触手のような腕を持つ者たちが、まるでもともとそこに立っているかのように、ゆらゆらと揺らめいていた。


 翼の影はゆっくりと羽ばたき、触手の影は蠢いて俺の足元に伸びてくる。

 水銀の表面が波打ち、影たちが俺たちの動きに合わせて歪み、俺たちの姿を完全に置き換えている。

 小川の流れが止まっているのに、影だけが生き物のように動いている。

 それを飛び越えようとした、その時だった。

 

 俺の足元に映る影が、俺の動きを無視してピタリと止まったのだ。

 足を上げた瞬間、影は地面に張り付いたまま動かず、俺の体だけが宙に浮くような感覚に襲われる。

 影の輪郭が俺の足から離れ、独立して地面に残る。

 その瞬間、背筋を冷たい電流が走り、首筋の産毛が逆立つ。


「……えっ?」


 凍りつくような戦慄が背筋を駆け抜ける。

 背骨が一瞬凍りつき、冷たい電流が首筋から腰まで一気に走る。

 産毛が逆立ち、鳥肌が立ち、息を吸うたびに肺が凍りつくような痛みが広がっていく。


 水鏡の中に映る俺は、手に持っていたはずのミスリルソードを捨て、代わりに、無数の触手がのたうちながら伸びていた。

 触手はぬめぬめと蠢き、黒い粘液を滴らせながら、俺の腕から無数に伸びて掴もうとしている。

 隣に立つエレナの影もまた、白の法衣を引き裂かれ、異形の翼を持つ鳥のような怪物へと変貌している。

 翼は黒く濡れた羽で覆われ、鋭い嘴が俺の方を向いてゆっくり開閉し、赤い瞳が俺を貪るように見つめている。


『……ようこそ、迷い子よ』


 それは耳で聞く音ではなかった。

 脳髄(のうずい)に直接、濡れた粘土をこすりつけるような、おぞましい声が響いてくる。

 頭の奥で何かがずるずると這い回り、思考の隙間に冷たい泥が染み込んでくる。

 声は甘くねっとりとして、喉の奥で絡みつき、吐き気と一緒に欲望が込み上げてくる。


「そなたらの神々は去った。夕映えの街、夢の果てへと。残されたのは、凍てついた記憶と、我ら影法師のみ……そなたも受け入れよ。そして産め。増やせよ。」


 水銀の川から、影たちがゆっくりと這い出し始める。

 実体はない。ただの平面的な影のはずなのに、そいつらが動くたびに中庭の空気が、じりじりと熱を帯びた狂気に汚染されていく。

 影の輪郭がゆらゆらと伸び、俺の足元に絡みつき、冷たい感触が足首を締め付ける。

 影が地面から立ち上がり、俺の体に這い上がるように近づき、肌に触れるたび、ぞわぞわとした悪寒が全身を駆け巡る。


「シビさん、惑わされないでください。 わたくしはここにいますわ!」


 エレナが叫び。

 チリン、チリン、チリィィィン!!と多分金の錫杖を水面へと突き立てたのだろう。

 激しく打ち振られた鈴の音が、神聖な波動となって中庭を震わせる。

 鈴の音は澄んで高く、洞窟の空気を切り裂き、影たちを押し返すように広がる。

 水銀の表面が激しく波打ち、影たちが苦悶の形に歪んで霧散した。

 影が溶けるように消え、黒い煙が立ち上り、甘い腐敗の匂いが一瞬濃くなる。

 鈴の音が残響し、俺の耳に優しく響いて、胸のざわつきを少しだけ和らげる。


「はぁ、はぁ……っ。助かった、エレナ……」


 ヤバい凄く目に涙がたまってきているのを感じたので、強張った指でミスリルソードを握り直し、自分の影が正常に戻ったことを確認したふりをして落ち着きを戻した。


 水銀の川は依然として不吉な銀色を湛え、狂った星座たちは嘲笑うように瞬いている。

 川の表面がゆっくりと波打ち、銀の光が冷たく反射して視界を刺す。

 星々が紫と緑に怪しく明滅し、巨大な眼差しのように俺たちを見下ろし、配置が少しずつ変わっていく錯覚に襲われる。

 川の流れが止まっているのに、表面だけが生き物のようにうごめき、甘い腐敗の匂いが微かに立ち上る。


「先に進みましょう。ここに長居すれば、心まで影に塗りつぶされてしまいますわ」


 エレナの声が静かに響き、金色の髪が風に揺れる。

 彼女の瞳に不安が混じり、指先が法衣の袖を軽く握りしめる。

 俺たちは、誘惑するように揺らめく水晶の花々を振り切り、中庭の突き当たりにある重厚な門へと駆け寄った。


 オニキスの門には、冒涜的な浮き彫りが刻まれていた。

手を触れた瞬間、氷の刃のような冷気が手のひらを刺す。

 門の隙間から、低く重たい溜息のような風が漏れ出し、背筋をぞくりと寒気が走った。

 その門を潜り抜けた瞬間、空気の重さが一変する。


 城は、奥へ進むほどに「白」から「闇」へと色彩を変えていった。

 先ほどまでの白亜の輝きは消え、壁も床も、光を吸い込むような深い黒へと沈んでいく。


 空気は重く、息を吸うたびに肺がわずかに圧迫される。

 足音は吸い込まれるように消え、残るのは耳が痛くなるほどの静寂だけだった。


 幾重もの無人の大広間を抜け、何十もの階段を上る。

 俺たちは言葉を交わすこともなく、ただ足跡だけを残しながら、静寂の深淵へと沈んでいった。


 石段は冷えきり、足裏からじわりと冷気が這い上がる。

 壁に刻まれた彫刻が、俺たちの影を追いかけるように動いている……そんな錯覚さえ覚えた。


 やがて回廊の最奥に、ひときわ巨大なオニキスの二重扉が姿を現す。

 それはこれまでのどの扉よりも威圧的で、触れることさえ躊躇われるほどの凄烈な気配を放っていた。

 黒い表面は光を吸い込み、縁に刻まれた冒涜的な模様が、ゆっくりと蠢いているように見える。

 扉の隙間からは、冷たい風と甘く腐った匂いがわずかに漏れ出し、鼻の奥を刺した。

 巨大な扉はそこにあるだけで、空気そのものを押し潰すような重圧を放っていた。


「…………ここが、きっと最後だな」


 俺の声が、広大な空間に吸い込まれるように消える。

 息を吸うたびに、肺が冷たい闇に押し潰されるような圧迫感がある。

 エレナの金色の髪が、微かな風もないのに静かに揺れ、彼女の瞳が俺をまっすぐ見つめてくる。


「はい」


 声が小さく、けれど確かな決意が込められている。

 彼女の指が法衣の袖を軽く握りしめ、錫杖の鈴がチリンと小さく鳴る。

 その音が、空間の重さを少しだけ和らげる。


「絶対にここを突破するぞ」


「もちろんですわ」


 俺は扉に手をかけ、全身の力で押し開いた。

 扉の黒瑪瑙(ブラックオニキス)の表面が、手のひらに冷たく食い込み、指先が凍りつくように痛む。

 重厚な扉が、静かに、しかし世界そのものが軋むような低い音を立てて動き出した。


 ギィィ……。


 骨が擦れるような不快な響きが空間に反響し、背筋が凍りつく。

 その先には、広大な……あまりにも広大な空間が広がっていた。


 天井は見上げてもなお見えず、闇が無限に広がっているように感じる。

 壁は黒く光を吸い込み、足元でさえぼんやりとしか見えない。

 空気は重く、息を吸うたびに肺が圧迫され、冷たい闇が体の奥へと染み込んでくる。


 その最奥に何百段もの黒い階段が、天へと続いていた。

 そして、その頂点に、ようやくそれが姿を現す。


 漆黒の闇を煮詰めて造り上げたかのような、巨大な黒瑪瑙の王座。

 王座は階段の頂にどっしりと鎮座し、表面に刻まれた冒涜的な模様が、ゆっくりと蠢いているように見えた。

 黒い石肌は光を吸い込み、内側から怪しい虹色の燐光がわずかに滲み出している。


 だが、そこに座る者の姿はなかった。

 命を懸けて山脈を越え、幾重もの迷宮や災難を抜け、ようやく辿り着いたその場所は。

 拍子抜けするほど空虚で、それでいて言葉にできないほど冒涜的な不在に満ちていた。


「誰も……いないだと? 先ほどの威圧感は……どこへ消えた?」


 震える俺の声が、空っぽの巨大空間に吸い込まれていく。

 声は壁にぶつかり、何重にも反響して耳元へと戻ってきた。

 背筋が凍りつき、首筋の産毛が逆立つ。

 その直後だった。


 主を失った王座の背後で何かが動いた。

 濃く溜まった闇が、生き物のようにドロリとうごめき始めた。

 闇はゆっくりと波打ち、黒い泥のように蠢きながら形を成していく。

 空気がさらに重くなり、甘く腐った匂いが濃く立ち込め、鼻腔を刺した。


 闇の表面がぶくりと泡立つ。

 そこから、触手のようなものが伸びた。

 一本、また一本と。

 それらは床を這いながら、玉座の陰から半ば這い出すように姿を現した。

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